虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐

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三章 降臨

現れた人物は‥‥‥

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———アザレアは突撃していく戦士達に叫び、キメラから避けるように促した

しかし、その声は戦士達の雄叫びに掻き消され一部の者にしか届かない。アザレアの叫びに気づいたワルドス達とディア・ロンバルにSランクの一部はアザレアの叫びが異常であると察しキメラとの射線から避けるが‥‥‥

その刹那、獅子の頭部が大きく口を開き、禍々しい魔力を集約させていく———

「———あれは‥‥なんだ?」

アザレアの声に反応を示さなかった一人の戦士がキメラの異変にようやく気がつくと、他の戦士達も足を止め異変に気づき‥‥‥

「「「———は?」」」 

しかし、時既に遅くキメラが集約させた魔力は戦士達に射線を合わせていた


————グオォォオオ!!!


森や国全土を震撼させる程の極大な咆哮を上げ、腐敗のブレスが放たれた

禍々しい光が戦士達を飲み込み、ブレスの光が次第に消えていくとそこには戦士達の元の姿はなく、戦士達の皮膚が腐り臭気を漂わせるゾンビと化していた‥‥

「同胞達‥‥‥!よくもこのような姿にっ」

「な、なんて事っ!?ブレスの通過した射線が腐敗しているっ」

「これは‥‥やばいな。あのブレスに擦りでもしたら俺たちもゾンビになるっ」

アザレア達6人とディア・ロンバル、S~Bランク数十名、冒険者数人だけを残し最前線の戦士達はゾンビと化し、生き残った者達に襲いかかり出す

———元は歴戦の戦士だったゾンビ達。そんなゾンビが数百体もいるこの戦場はあまりにも一方的だった


「———っく!すまぬ‥‥‥っ」

仲間で同胞だった元軍人を斬り伏せていくディア・ロンバル。その剣筋には迷いが生じ、いくらゾンビだからといっても生前の面影を残す元人間をそう安易と斬れずにいた

それはアザレア達も同じく、元上司や教官がゾンビとなった事で剣を握る手は動かず躊躇っていた。しかし、背後には治療班や怪我人、訓練生が控えている状況。キメラに、ゾンビを食い止めなければ国や国民が腐敗しゾンビと変わってしまう‥‥‥

そんなアザレアたちの思考を読んでいるかのようにゾンビ達は一斉に襲いかかる

「———っ!一斉に来るなんて卑怯じゃない!」

数百体のゾンビ達に苦戦するアザレア達は遂には周囲を囲まれてしまった。
互いに背中を預けるアザレア達と軍人達は覚悟を決め、剣を握り魔法を唱える

「風魔法《ヴェント》!」 「水魔法《アクア》!」 「土魔法《スオーロ》!」

風魔法でゾンビ達を後退させ、水魔法で水を圧縮し高速の弾を撃ち込み、土魔法で足の自由を奪う。共に連携しゾンビを倒していくアザレア達だが、それでも襲いかかるゾンビに対して倒す数が比例せず、徐々に感覚を詰めてくるゾンビ達

必死に抵抗を試みる中、例のキメラだけがまた動かずにじっと佇んでいた

「まさか‥‥!もう一度放つつもりか?!」

ゾンビを薙ぎ倒しながらキメラを横目で垣間見ていたディア・ランバルは先程の
光景を思い浮かべていた———


(———もう一度あのブレスが来るならばもう避けられない。いや、避けては後ろにいる医療班や怪我人、訓練生にまで到達し、全滅する。避けられないではなく、避けてはならないっ此処でキメラのブレスをなんとしても防がなくては!)


そう考えたディア・ロンバルはアザレア達にキメラの行動を伝える。そしてその予想と危機は唐突に訪れることとなる。

「「「———っ!」」」

全員が感じる異質な魔力。その魔力はキメラが先ほど見せたブレスと同じだった


「———魔障壁を展開しろ!!!」

ディア・ロンバルは声が枯れるほどに叫び、アザレア達と軍人達の耳に伝える
その必死な叫びは命令ではなく本能の叫びだと察した全員。ゾンビを無視しキメラがいる方向に魔障壁を全力で展開させる。

キメラもまた魔力を溜めて行き、遂に時が訪れる————


————グオォォォオ!!!


禍々しい光と悪臭を漂わせながら迫り来るブレス。仲間であるはずのゾンビ達を全て巻き込みながらアザレア達が展開した魔障壁に衝突する‥‥‥

「くっ‥‥‥耐えろ——!!」

「なっなんて凄まじい威力なのっ!」

「魔力が持たない‥‥‥!」


————ピキッ


魔障壁からガラスが割れるような音が響き、徐々に確実に亀裂が入りはじめる

ピキッ ピキッ と音が大きく鳴り亀裂が魔障壁全体にまで及んでいた

そして戦士達の心も次第に魔障壁と同じく砕けていく‥‥‥

「我々は此処までなのか‥‥国を、民を守れず敗北するとはっ」

「クソが‥‥‥こんなとこで死ぬなんてっ笑えるぜ‥‥‥」

「最後は華々しく死んでやるか‥‥‥」

戦士達の魔力は底をつき、残るはアザレア達とSランクの軍人のみ。しかし、アザレア達の魔力も次第に底をつきかけていた。それでもなんとか必死に食らいつくアザレア達だったが魔障壁はもう粉砕する一歩手前だった‥‥‥

「もう‥‥魔力が底をついたわ‥‥」

「俺ももう何もでねえぜ‥‥くそ」

「もう‥‥だめっ」


—————パリィィィイン‥‥‥!!


遂には魔力の底をついたアザレア達。そして魔障壁が完全に砕け割れ、キメラのブレスがアザレア達の目の前まで迫る

全員膝を地面に突き、抗うことを諦め、死を覚悟する。ディア・ロンバルは上層部が不在の中、国と民を守れなかった事を死の間際まで悔やみ、アザレア以外の5人は己の力の無さを悔やむ

そしてアザレアはブレスが迫り、死の間際でもレオンの顔を心の中で思い浮かべていた———


(———ごめんね、レオン。もう貴方に会えそうにないわ‥‥最後にあなたの顔を見たかった‥‥‥ごめんねっ)


そして最後にアザレアは空虚の空に向けて叫んだ。その言葉はアザレアの最後の悲痛な想いを秘めていた‥‥‥


「助けて‥‥‥レオン‥‥‥」


最後のアザレアの叫びはブレスにより掻き消され、アザレア達全員をブレスの光が呑み込んだ———


◊◊◊


———しかし、光に飲まれても尚、意識があるアザレア達は不思議に思い瞑っていた目を開ける

光により視界が霞むが次第に元の視力を取り戻す。そして視力が完全に戻ったアザレア達は目の前にいる謎の人物に目を疑った———


「———だ‥‥れ‥‥?」

アザレアは恐怖で震える唇を必死に動かし目の前に佇む人物に声をかける
そして次々に戦士や軍人達は目を開けていき、死んでいるはずの自分自身に驚いていた

「な、なぜ‥‥生きている?」

「た、助かった‥‥?」

「いいや、違う。こいつは‥‥‥助けてくれた?」

「‥‥‥あのブレスをどうやって防いだと?」


そんな軍人達の目の前に立つ人物は黒いローブを身に纏い、顔に仮面を付けている。そしてキメラを見るだけでアザレア達に見向きもしなかった

またもう一人仮面を付ける人物が隣に立ち、アザレア達に魔法をかける。その魔法は体の傷や精神を緩和する魔法‥‥‥

「か、体の傷が癒えていく?!」

「ああ、体力も回復する」

「なぜ、私たちを助けてくれたの?」

体の傷や体力が戻り引き攣っていた表情が和らぐアザレア達
アザレア達の傷が癒えたのを確認してからキメラと向き合う“女性”はキメラと睨みを効かせているもう一人の人物に声をかけた‥‥‥


「———もう、急に『飛ぶぞ』なんて言うから驚いちゃったわ。来てみれば酷い有り様ね」

「ああ、だがこの国だけで起こっているわけではない。他の国でも似たような事件が起こっている。それぞれ配置に着かせたがうまくやっている事を信じよう」

「ええ、そうね。私たちも此処を片付けたらすぐにあそこに向かいましょう」

「すぐに終わらせるさ」

そう言うと“彼”は一人‥‥‥キメラのいる方向へと歩みを進めた

「ひ、一人で行っては死ぬぞ!?命の恩人を此処で見殺しにはできない!」

そこにディア・ロンバルが止めに入るが男性は無視を決め込み、キメラとの距離を縮めていく‥‥‥


—————ドスッ


「命の恩人を安易と死なせるわけには‥‥‥」

「司令、あれをっ」

ディア・ロンバルが下を向き悔いている中、隣でみていたアザレアはキメラの方に指を向け、声を掛けると‥‥‥


「「「———っな!なんだと!?」」」


———全員が驚愕し目にした光景

それはキメラの頭をまるで粘土のように一瞬で斬り伏せる全身が沸き立つ光景だった。国の軍‥‥半数を持ってしても討伐することのできないSSランク魔獣をたった一人で、まるで手慣れているかのように討伐する異常な人物を目に焼き付ける軍人達。その人物はあまりにも常軌を逸脱していると理解する全員はただ事が収まるのを見守っていることしかできなかった

そしてその人物がなぜ目の前に現れ、助けてくれたのかを不思議に思いアザレアは再度、声を掛ける‥‥‥

「なぜ、貴方は私たちを助けてくれたの。そしてあの魔獣を一瞬で斬り伏せる貴方たちは一体何者‥‥‥」

その問いに答えたのはもう一人の麗しい声を持つ女性だった

「そうね、たまたまかしら?それに私たちが何者かですって?ふふ、教えてあげるわ。私たちは‥‥‥月下香《トゥべローザ》よ」
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