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三章 降臨

人々は彼をこう名付けた‥‥‥

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———少し時が遡り、場面は魔族帝国首都内。魔獣の侵攻を食い止めている城壁側はレオンの配下達によって着々と殲滅されていった。突然の黒ずくめの乱入により兵士達は戸惑いを見せたが、次元の違う戦闘を繰り出す者達に場を支配され、ただ漠然と見る事しかできない兵士達

そんな兵士達の頭には疑問が浮かんでいた

———なぜ助太刀をしてくれるのか、ここまで圧倒的な力を持っているならばなぜ正体を隠し戦っているのか。圧倒的な力を持つ者達がなぜ表に姿を現さないのか? 

しかし兵士達に知る由も無い

彼らが誰のために何の目的の為に戦っているのか———

そしてその時が訪れる———


「———おい、大丈夫か?!」

「———ああ、なんとかな‥‥なんだったんださっきの光は?」

「———しらねーよ。だが、あの光の前に物凄い獣の唸り声が聞こえたな。その後に一瞬光ってから今に至り視界が戻ったが‥‥‥‥‥おいっ!なあ、あれはなんだ‥‥?!」


一人の兵士が空目掛けて指さす方向。空は黒く一点の光も通さない

それでも一際大きく、目立つ存在が空を羽ばたく

伝説の魔獣にして、世界に知れている生物

誰もが英雄譚に憧れ、最後に目指すべき頂の象徴

全てを己がものにできる力を秘め、世界を混沌に陥れる力をも持つ存在


「———龍‥‥だと‥‥」


◊◊◊


———また場面は変わり人族国首都チリエージョ。レオンの登場により魔獣を一匹残らず殲滅に成功したアザレア達前戦組。キメラの被害により多くの仲間をゾンビに変えられ命を奪われた

魔獣と同胞の死肉が地面に張り付き、今や城壁の一部は腐敗臭が漂い続けている。魔獣がこれ以上侵攻しないと分かるとすぐさま復旧に向かう兵士達

鼻が曲がる程の悪臭でも彼らは何処か安心した表情をしていた

そして現在アザレア達は、前戦から引き怪我の治療の為、医療拠点に身を置いていた‥‥‥


「———イタァイッ!!もう無理!ほんとごめんなさい!もう許してっ」

「アザレアったら少しは我慢しなさい。あのベラだって我慢しているのよ」

「ううぅ、だってもう全身が痛いんだもん!魔力も使い過ぎたし!」


———あーもう体が重くて痛くて疲れた。今日はいろんな事が起きたし一体どうなってんのよ!国の城壁に魔獣が押し寄せてくるし、キメラまでも現れるなんて‥‥それに沢山の仲間を助けられなかった‥‥ゾンビに変えられてしまった

元仲間を斬ることになってしまった‥‥‥仲間を斬るたびに共に行動した記憶が駆け巡ってしまう。ただただ無我夢中だった‥‥‥

未だに鮮明に焼き付いてしまっている。彼らの感覚が私の両腕にしっかりと‥‥

心の苦痛と物理的苦痛が表情に出てしまう。心の苦痛を紛らわす為に敢えて声を大きく痛いふりをしていたけど、

もう疲れちゃった‥‥‥

そんな私を見兼ねてか隣で治療を受けているディア隊長が優しく話しかけてくれた

「———お前は良く頑張ったさ。その若さで最前戦を戦い抜いたのだ。同胞を救うことが叶わなかったが、それが戦場と言うものだ。死んでいった同胞の分も生きろ。そして私たちはこうして生きているのだ。後ろを振り向くな前を見れば沢山の命を救ったのだ。それもアザレア、お前達がいたおかげだ。私も含め大勢が感謝している」

「ディア隊長‥‥ありがとう御座います‥‥」

私を思ってのディア隊長の言葉に少し救われた。それでも悲しみが消えるわけでは無い
しかし、この悲しみも乗り越えてこそ先へと進めるという事。今はまだ悲しみに浸ろう。そして乗り越えて死んでいった同胞の分も生き抜こう。決して彼らを忘れない‥‥‥


「———ディア隊長!!早く外を、外を見てください!!」

「ど、どうしたというのだ?!」

猛ダッシュで走ってきたワルドスが息を切らしながら外へ出るようにと私達の部屋に伝えにきた。その表情はイケメンワルドスからかけ離れていて酷く震えているように見えた‥‥‥

非常事態と悟ったディア隊長はベッドから腰を持ち上げるとすぐにワルドスと一緒に部屋を出て行った。当然私とカメリア、ベラもディア隊長の後ろをピッタリとくっつき部屋を出て外へと急いで向かった

前戦から離れた拠点の外に出ると負傷者や医療者が慌ただしい様子で魔族帝国の上空を眺めていた

「一体どうしたのワルドス?貴方らしくないわ!説明しなさい!」

「ま、待てよ!そう詰め寄るな!お前達は中にいたから気付かなかったろうが。ついさっきとてつもない光が空を覆ったんだよ!あれは絶対にやばい!」

‥‥‥光?一体どういうこと?あれ、私何かを忘れているような‥‥なんだっけ‥‥キメラと戦っている時に何かを言われたのに‥‥‥思い出せない‥‥

「———まさか“厄災の魔獣”なのか!何ということだ‥‥あの報告は嘘ではなかったのだな‥‥魔族帝国には王や護衛の方々がいるというのに‥‥私は呑気に治療を受けているなど‥‥」


———ああ、思い出した。厄災の魔獣‥‥あの伝説の忌まわしき存在が生きて居たなんて‥‥未だに信じられない。世界を破壊した魔獣が魔族帝国にいるなんて‥‥でもきっと大丈夫よね。選ばれし者セレツィオナート方々がきっと倒してくれる。あの方々は世界最強なんだもの

きっときっと厄災の魔獣を倒してくれる——————


————グオオオォォォオオ!!


「「「———!!!」」」


———瞬間、世界に衝撃が走った
水面は波を生み、木々は怯え、大地が震撼する

厄災の魔獣の絶叫が世界中の生物に戦慄を届けた

女子供は泣き喚き崩れ落ち、男は身を縮こませ怯える

それは年齢を問わず、屈強な冒険者、鍛え抜かれた精神を誇る軍人達ですら恐怖する。無論アザレア達も同じであり、若く優秀な人材ほど心に支障をきたす

「な‥‥なに‥‥今の‥‥」

「あ‥‥アザレア‥‥」

「うぅぅ‥‥‥」


———やばいやばいやばいやばいっ!体がいうことを聞かないっ何今の?! 

今にでも膝が崩れ落ちる‥‥これは恐怖なんてものじゃないっ! 
私たちは標的にされた‥‥?魔族帝国からどれだけの距離があると持っているの!?圧倒的存在感、凄まじい威圧と殺気‥‥‥これが厄災の魔獣だっていうの?!馬鹿な私でも理解できる。あり得ないっ次元が違いすぎる‥‥勝てる訳がない‥‥!

しかし、こんな状況でも怯まない人‥‥‥隣のディア隊長を見ると堂々と立ち、魔族帝国の上空を睨んでいた‥‥‥

どうして堂々とできるの‥‥どうして強い目をしているの‥‥不思議に思ったけど当然の事ね。王やエミリアさん達が不在の中、国を任せられたディア隊長

猛者の中の猛者には効かないということ‥‥

私は至極痛感した。上には上がいるのだと‥‥‥彼女が次代のSSランクなのだと‥‥

そしてカメリアやベラを見ても私と同じ状況だった。立っているのがやっとで足が震えてしまう。酷い人は泣き叫び頭を抱えいるけど、それもしょうがない

この状況ではそれが当然なのだから‥‥
ワルドスを見ていても私たちよりは耐えていたけど、余裕の表情が微塵もなかった


「これが厄災の魔獣!?あり得ない、次元が違いすぎる!こんなのにどうやって勝てというの————!!!」

そしてワルドスが言っていた例の光が魔族帝国の上空で再び輝き出した

黒く覆われた空に一点の光が灯る

私でも理解できた。あの魔法は世界をもう一度破滅させるのに充分過ぎるほどの威力を持つ‥‥‥魔族帝国なんてひとたまりもない‥‥消滅してしまう。
それに先程まで感じていた選ばれし者セレツィオナート方々の魔力も感じない。信じられない‥‥あの方々が敗北するなんて‥‥私たちにどうしろというの‥‥‥?


「あれが魔法‥‥あの光が世界を破滅へと‥‥もうおしまいなの?ただ呆然と見ているだけなんて私っ————」

諦めかけていたその時、ある魔力の波動を感じとる‥‥‥その魔力は数刻前に間近で感じたもの‥‥‥

「———何!?この魔力は!?厄災の魔獣とは違う‥‥もう一つの魔力?ディア隊長!これって‥‥」

「ああ、感じている。これはあの時と‥‥そして数刻前と同じ‥‥まさかいるというのか?!あそこに?!」


やっぱりディア隊長も気付いてくれていた。この魔力の波動を‥‥
カメリア、ベラ、ワルドス達にも目で合図を送ると全員、首を縦に振ってくれた
みんなも気付いていたみたい。この魔力はキメラ戦で間近で感じたのと同じ

そして例の報告では各国で私たちと同じく、魔獣の侵攻を受けている最中、謎の集団が現れ殲滅したという事‥‥‥一体何者なの?各国の軍でも抑えきれない魔獣を殲滅する集団

あの“ネロ”と言っていた人物

とても荒々しく濃密‥‥‥でもどこか優しく包み込んでくれて繊細な魔力‥‥‥仮面をつけた謎の人物

今になってなぜ現れたの‥‥?
なぜ今まで表舞台に現れなかったの‥‥?
そんな人達がいるなら注目されていたはず。分からない‥‥

そんな彼があそこで戦っている。しかも一人で‥‥勝てるはずがない‥‥なのにどうして挑んでいるの? 
間近で戦っている彼なら勝てないと理解できるはずなのに‥‥あの選ばれし者セレツィオナート方々でも倒せないのに———


———なぜ助けてくれるの? 
———なぜそこまで強いの? 
———なぜ仮面をしているの? 
———貴方の目的は?狙いは何なの? 


考えても考えても分からない‥‥彼らは一体“何”と戦っているの? 


———一体貴方は誰なの?


———でも‥‥どうして‥‥どうしてあの“人”を思い出してしまうの‥‥‥
自分でも分からないのにどうして、懐かしく思ってしまうの‥‥なぜ頭に彼の顔が浮かんでしまうの‥‥‥なぜ期待してしまうの‥‥そんなことあり得ないのに

———彼は今、どこで何をしているの‥‥?




———そして時は刹那に訪れた

一点の光が輝き、上空から大地に向かって一直線に降り注いだ

誰もが終わりを悟った‥‥

光に呑まれ、収束した時には何も残らず。ただ灰の世界が一辺に広がる

誰もがそう思っていた


しかし、そうはならなかった

空から大地に降り注ぐ光、そして大地から空へと駆ける禍々しい黒い魔法

世界中の生物が息を忘れ、水の流れは止まり、風はやみ、大地の鼓動が止まった

その禍々しい黒い魔法は光と衝突する

しかし一瞬で決まった

一点の光さえも逃さずに闇が光を全て呑み込み、空高く天目掛けて突き進んだ

大地から空へと駆ける黒い魔法は全てを魅了し尽くし、全ての人類の瞳に刻み込んだ

黒い空もろとも斬り裂き、黒く覆われた空に剣筋の光が大地を照らす


———誰かが言った。至高の魔法とは派手にこそ意味がある
———誰かが言った。最高の魔法とは威力にこそ意味がある
———誰かが言った。究極の魔法とは破壊にこそ意味がある


しかし、そんな口文句は全て白紙に戻される

頂の魔法とはそれら全てを兼ね備えると誰かが言った

また、そんなものは神にしかできぬと誰かが言った

誰もが諦め、己を高め、研究に没頭した。いつか頂を得るためにと‥‥

そしてその頂が現れぬこと数千年‥‥選ばれし者セレツィオナート可視化できる魔力ヴィズアリタを生み、それでも届かなかったが、突如として世界に降臨する

決して忘れることの出来ぬ忌まわしき敵との最中、それは現れる

一振りで世界を震撼させ、大地を、海を、空をも己が身で変えうる力

誰もがそれを観て声を漏らした頂の魔法 



———黒い斬撃———



「———あり得ない‥‥何も感じない‥‥何も表せない‥‥全て無に等しい魔法‥‥あれが私たちの求める‥‥頂?———レオン‥‥貴方も何処かで‥‥」

ただ立ち尽くすことしか出来ない。誰もがそうだった。頂を前に私たちは無力。
そして私たちは知った

頂を持つ者が今の世界にいる事を


———後にこれは全世界に報道され、魔法研究のスタート地点がようやく訪れたことの印。この戦いを期に世界は5,000年ぶりに動き出す

そして世界中を巻き込んだ組織。表舞台に現れなかった存在が現れ、世界は混乱する

また、この戦いはたった一人で成したという事実を世界は許さなかった‥‥‥
均衡が崩れるのを恐れ、その者は世界から追われる身となる

しかし、忘れてはならない

彼が世界を救ったのだと言うことを。世界が拒んでも“ある人々”の心には刻まれている

そんな人々が畏怖と敬意を込めて、ある組織をある人物をこう名付けた




          
          ————虚無の統括者————


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