虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜

サメ狐

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学園都市編 青年期 一章 学園

模擬試合とレオンの実力

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———現在、俺たちAクラスは2学年専用練習場に来ている。ここまでの道のりとしては1学年校舎を出て奥に行くと2学年校舎があり、その付近に専用練習場が3棟建てられている。そのうちの一つに来たと言うわけだ。
勿論コルッセオ闘技場と同じ造りをしている。真ん中に四角い闘技台があり、その周りを囲むようにして上へと続く観客席が埋め尽くす。

観客席から2学年の模擬試合を見学していたが、どうやら今日の見学は俺たち新入生Aクラスだけのようだ。アザレア達がいるSクラスがくると思っていたのだが外れたな。

それはそれとして、この観客席から下を見下ろせば上級生の数人が闘技台で激しく打ち合っていた。


「———上級魔法 水槍《アクアバルタ》!」

魔族の長身な男が人族の女性に上級魔法を放った。水で覆われ、水で形創られた鋭い槍が相手の女性目掛けて勢いよく押し寄せる。殺傷能力は十分にあると理解できる程の魔法。

肌に伝わる濃密な魔力。魔族の男性の目は完全に本気そのものだ


「おいおいおい!上級魔法だと?!」

「さすが上級生のSクラスは次元が違う!」


魔族の男性が放った上級魔法に驚きを示すAクラスの諸君。上級魔法とはそれ程にまで凄い魔法なのだろうか‥‥イマイチ理解できないな。俺が勉強不足なのは重々承知だが、これでは初級魔法も良いとこだろう。あれくらいの魔法は月下香《トゥべローザ》構成員でも放てるレベルだぞ?まあ限られた奴らだけだが‥‥ヴァルネラの指導の賜物だな——」

「あ、当たっちまうぞっ!!」

「避けろ——!!」

Aクラスの生徒達が未だ避けようとしない女性に向かって叫んだ。そんなAクラスの声は風に掻き消され、迫り来る水の槍をただ見つめ続ける女性。腰に据えている剣の柄を握るだけでその場を一歩も動かず待ち構えていた。

「———キャアァァ!!」

Aクラスの女子の悲鳴が練習場に響き渡る。そしてその後に響き渡るであろう爆発音を俺たちは待つ。そして女子の悲鳴が響く一瞬の中、誰にも聴こえる筈のない声が微かに俺の耳に届いた。その“声が結末を大きく変えることになるとは誰もが思わなかっただろう———

そう、彼女が呟いた声とは、


「———解放 魑魅姫———」


———刹那、彼女に猛進していた水の槍が二つに裂かれ、そのままの勢いで彼女の横を通過し壁に激突した。思わぬ展開とあらぬ方向からの爆発音、この一部始終を見ていた新入生Aクラスに衝撃が走った。たった数秒の間に目の前で繰り広げられた上級魔法を斬ったと言う事実。多過ぎる情報量を理解するには現在の新入生には厳しく。そして自分たちと上級生との圧倒的な実力差と壁を垣間見せられた瞬間だった。


◊◊◊


「さっきの模擬試合凄かったね!一瞬の出来事だったのに1時間分の衝撃だったわ!」

「ほんとにねー、上級魔法を扱える人も凄いけど、その魔法を斬っちゃうなんて信じられないし次元が違かったわ!」

先程行われた上級生の模擬試合の内容を楽しげに話す女子達。やはり注目すべきは魔法を斬った上級生の彼女だろう。彼女の技を垣間見てファンになってしまった女子達は彼女をお姉様と呼んでいた。
男子達を見れば上級生の彼女との実力の差に怯んでいる。たった1年と2年と言う立場でここまで差が開いていたとは思わなかったのだろう。

またそんな俺も少し驚いていた。何に驚いたのかと言うと彼女が魔法を斬った事にではない。

その後‥‥彼女の握っている剣に纏わりつく莫大な魔力に驚いた。ピリピリと全身を刺激する程の魔力を持っている人族の彼女。一般人がこれ程の魔力を持って生まれたのなら天才であるが、一体‥‥ 


「ファシーノ、彼女は一体何者だ?」


俺は隣に座るファシーノに質問した。するとファシーノは俺が人に対して評価する質問が珍しいのか少し驚いた表情を作った。

「貴方が他人の質問なんて珍しいわね。でも私も同じ気持ちよ、彼女は普通ではないわ‥‥もしかしたら‥‥」

その後に言いかけそうになるがある人物に遮られてしまった。その人物とは新入生の表情を面白く伺っていたウルティア先生だった。そんな破天荒な先生は彼女について説明を始めた


「皆さんも驚いた事でしょう?彼の上級魔法と彼女の力量に。そして皆さんが注目する魔法を斬る行為は限られた者にしか成し遂げられません。血が滲む努力と魔法への渇望、剣との絶対的関係が織りなす御技です。そんな彼女ですが僅か2年生にして学園序列2位の生徒会副会長を務める人物ですよ?」


「「「は‥‥‥‥ええええぇぇぇっっっっ———!!!」」」


まさに信じがたい事実を聞いてしまったAクラス全員。口を大きく開け、目が飛び出る程に驚愕する光景は側から見て実に面白い。学園最強の集団である生徒会、そのNo2がまさか2年生であり、女性である事は驚くのも無理はない。
女子にとっては憧れの存在が目の前にいるのだからな。みんなが同じ表情になり、先生に詰め寄り質問攻めをしている。

そんな詰め寄る生徒達の質問をすり抜け、微笑しながら先生は次々に衝撃的な話題を話し続ける

「それに彼女はですね‥‥本名がヴァレンチーナ=ネーヴェ=チリエージョ、人族国の王族です!」


「「「‥‥‥‥え‥‥‥‥お、おおお王族ぅぅぅうう!!!!」」」


またも先生の口から衝撃的な真実が語られた生徒達。今度は驚きすぎて先生から距離を取って震えている。

「そ、そりゃあたまげた‥‥」

「心臓が飛び出るかと思ったぜ‥‥」

王族と聞いて驚くのは人族国の生徒達だけではなく全種族の生徒までもが驚く。種族間の価値観が異なる世界で王族という位と絶対的な権力は全種族共通認識なのだと思い知らされる。生徒達を見ればあのレオナルド君も驚いていた。

「ふふふ、それでは皆さん?今日はオリエンテーションなので実際にあの場で試合をしてみたいと思いませんか?二人選出しますが自ら赴きたいと思う生徒は挙手してくださいね?彼女の御前で試合をするなんて滅多にない良い機会ですよ」

というウルティア先生。確かに王族の前で試合など滅多に無い光景だ。もしかすると声をかけてくれるかもしれないと言う淡い期待があるが‥‥一体誰が挙手すると言うのだろうか‥‥みんなの表情を窺うと「絶対に嫌だ」と言う拒絶反応が見える。普通の考えで常識が備わっている者ならば当然の反応であり、もしこの場で挙手をする者が現れようものならそいつは異常である。

誰もが沈黙する中、一人真っ直ぐに挙手する人物が現れた。

そいつは先生にこういった


「私ダッチ家長男、レオナルド=ダッチが参ります!我が国、王族の御前にて期待以上の結果をお見せしましょう‥‥。そして私の相手はそこに座る黒髪のレオンと言う“庶民”が相手してくれるそうです」

「まあ!ではお願いしますねお二人とも!私たちはこの場で二人の武勇を見ています」


まるで花が咲いたかのような笑顔をする先生。とても良い先生なのだと分かるが‥‥なんだろうな、どこか抜けているような‥‥こんなに美人で綺麗なのに。

それも先生の魅力の一つなのだろう。

しかし、頭のおかしい異常者はいないと思っていたのだが、現実はそうもいかなかったらしい。このレオナルド下卑た笑みを浮かべてこっち見てくる。逃げるなよと言っているようだが暇なので買われた喧嘩を買ってやろうか。

「あらあら、またやり過ぎてはダメよ?」

立ちあがろうとする俺の横でファシーノに忠告をされてしまった。面白いおもちゃが見つかったかのように微笑を浮かべるファシーノ。こっちは面倒事に巻き込まれたと言うのに楽しそうじゃないか‥‥

「はぁ‥‥行ってくるよ」


◊◊◊


「これで2度目だな庶民っ——今回は王族の御前だ、インチキな手は通用しないぞ?最初から全力でお前を一瞬で倒してくれるっ——」

闘技台に降り立ったら思えばこいつ‥‥口調が先程と別人だな。爽やかイケメンがどこ行ったのやら。こっちがこいつの本性なのだろう、貴族とは怖いものだ。一度敗北しているというのに気絶したから無かった事にでもするのだろうか‥‥

「「レオナルド様―!」」

「「頑張ってくださいー!」」

貴族の取り巻きが煩くてしょうがない。このAクラスにまでこのような小さき者がいるとは‥‥本当に実力で分けられたのか怪しいところだ。まあ、そんな奴らは無視しよう。

というかそのような者達に構っている余裕はない。なんせ“彼女の鋭い眼光が俺の背中に突き刺さっているからな。金色の髪を伸ばし、青い瞳を輝かせるヴァレンチーナ王女の御前ではどうやって繰り広げようか迷っている。

はっきり言ってレオナルドとは良い勝負どころか圧勝。足元以下の存在だが、彼女の瞳に映る俺をどう認識するかが問題だ。この闘技台に上がった瞬間から彼女は俺の異質さに気づいている。まさか月下香《トゥべローザ》の主なんて事までは気づかれていないが、確実に“普通”ではないと見抜かれていることは確かだ。あとは、この腰に据えている刀をどうするかだな‥‥


両者の準備が整ったところで魔族の上級生の男性が立ち合い、開始の合図をする

「———初めっ!」


◊◊◊


「行くぜっ‥‥紅凛喰《アラマント》!全力だ!!」

合図とともにまたも先手を打ったのはレオナルドの方だった。そして入学試験の時と同じく“解放”という魔法を発動させる。その解放という魔法が気になる。
ヴァレンチーナ王女も使用していたが見たところ剣や刀を具現化し、魔法や魔力に変えるといったところだろうか? 

うん、普通にかっこいいじゃんそれ、俺も早く使いたいな


『ん‥‥レオちゃん‥‥久しぶりね!————ってあ、あいつは!ななな、なんでまたあいつと‥‥?!』

レオナルドの愛刀から具現化された彼女こと紅凛喰《アラマント》は俺を見るなり怯えている。人の顔を見て怯えるなんて少し傷付くのだがな。

「いいか、紅凛喰《アラマント》今は王族の御前だ。この前みたいな失態はもう許されない。代々ダッチ家に伝わるお前の全力をあいつにお見舞いしてやるぞ——いいか!」

『もう!しょうがないわね!どうにでもなっちゃいましょう!!』

するとレオナルドの刀がみるみる赤く染り、血のように真っ赤に染まった。
その刀をレオナルドは天高くに掲げてある魔法の名を言う

「これが王家に伝わる“最上級魔法”だ!お前などチリひとつ残らない!」


———鳴り響けっ血炎の流星群———


するとレオナルドの遥か上空から真っ赤な“何かが落ちてくる。それは無数にあり何十何百と増え続ける。遥か上空から落ちてくる物は地上に近づいてくるにつれてその全貌が明らかになる

「血と炎の隕石か‥‥これは少しやばいな」

何百と落ちてくる真っ赤な隕石。これらを食らえばタダでは済まない事は明らか。更に言えばこの練習場と観客席は無事では無いだろう。観客席に視線を一瞬ずらせばAクラスの生徒達が慌てふためいている様子から普通に危機だな。

そんな生徒達の動転を先生が抑制しているが、何やら先生は魔法を唱え始める。
練習場と闘技台を分け空から見ればドーナツ状に魔障壁を展開していた。

さすがは先生だ、この状況でも冷静に対応している。しかも魔障壁の強度や濃密さも完璧ときた。ならばこちらもそれ相応の答えを示さなくてはいけない。
王女が見ている手前、体が渋るがそうも言っていられないだろう。ファシーノも見ている事だしな———


その隕石全て斬り落としてやろう


「ハハハハハハハハ!!!!どうするつもりだ!?この無数に落ちてくる隕石をどう受け止めると言うのだ?!庶民の分際で刃向かったのが運の尽きだ!死ね———!!!」

俺は腰に据えている木の棒切れの柄を握る。忍刀であるこの棒切れからは刀身が現れ、真っ赤に燃える隕石の光を帯びる。赤く帯びた鋒を上空に向け、俺は宣言する。

「———チリに還れ」

そう宣言した俺は上空の何もない虚空に刀で斬りつけ始めた

「ハハハハハ!!!!何をやっている何も無いとこに斬りつけて! 遂におかしくなったか!ハハハハハ‥‥‥—————は、は、は?なっなん‥‥だと!?」

何度も何度も上空に向かって斬りつけた意味を知ったレオナルド。
しかし気づいた頃には遅く。無数の隕石が次々に斬り伏せられチリに還っていく

「おいおい‥‥嘘だろ‥‥」

「あのレオンとかいう奴‥‥一体何をしたんだよ‥‥」

生徒達の間で動揺と困惑が駆け巡るが今は気にしていられそうにない。
何故次々に落ちてくる隕石がチリになるのか? 

その正体は単純‥‥そう無限の斬撃を上空に向かって飛ばしたからである。何度も虚空に向かって斬りつけた斬撃は遥か上空を駆け回り隕石を次々にチリとなるまで斬りつける。
魔法と剣術の複合技とも言うべき斬撃。この俺の最大の魔法である虚無《イヌラ》の超縮小版の斬撃を生み出すのに大変だった。

「なんでだよ‥‥なんでなんだよ!俺の‥‥一家に伝わる最上級魔法を!お前の何処にそんな魔力が‥‥力があるって言うんだよ!!庶民じゃ無いのかよ!一体‥‥一体お前は誰なんだっ?!」

レオナルドの悲痛な叫びは最後の隕石をチリにしたと同時に会場中に響き渡ったのだった
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