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二章 不死と永遠の花

レオナルド=ダッチ

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「———クソっ!!なぜ、なぜこの俺が‥‥三大貴族であるこの俺がっ!庶民などに‥‥クソっ!」


———ある一人の若い男が部屋中の物を無造作に投げ、辺りを散らかしながら苛立っていた。
場面は学園地区、一年生寮のとある一室。その部屋は一般的な造りよりも豪華なデザインが施されており、寮の一室とは思えない程だった

「———ふー‥‥くそ‥‥っ」

そして男は部屋中を散らかした後、ベッドに腰を下ろし徐に自身の愛刀を取り出した。片腕で愛刀を鞘から抜き出した男は刀に向かって話しかけ始める


「おい、紅凛喰《アラマント》‥‥‥起きているんだろう」

『———ええ、起きているわよ。どうしたの“レオちゃん”?』

レオちゃんこと、この男はそうレオナルド=ダッチである。人族の三大貴族であり、公爵家の長男。入学試験とオリエンテーションにてレオンに二度も試合を挑み、そして全敗した男である

そんなレオナルドはオリエンテーションの後に医療室に運ばれ気を失っていた。

そして目を覚ました頃には全てが終わった後であり、ベッドに横たわりながらレオナルドは記憶を遡り、試合でレオンが見せた芸当を思い返していた。クラス全員の前で、また王族の前で完膚なきまでの敗北と醜態を晒したレオナルドは悔しさと屈辱感で体を震わせていた。記憶を遡れば遡るほどに頭を抱えたレオナルドは医療室を飛び出した。

そして現在に至るのである


◊◊◊


———俺はレオンという奴が分からない

なぜ庶民の、それも魔力値1000の雑魚が俺の最上級魔法を意図も簡単に越すなどあり得ない

俺と紅凛喰の攻撃だぞ‥‥“解放”した俺の最大の攻撃を‥‥
あの“英雄達”に並ぶ魔法のはずが‥‥幼少より魔法の指導と剣技を磨いてきた俺が‥‥‥‥



———遡るは少し昔の記憶‥‥そうあれは“英雄達”がまだ英雄と呼ばれていない頃の事。俺は貴族であることを誇り、貴族こそが上に立つ者であり、導く者であると思い軍に入隊した。俺よりも一回りも大きい男共と試合にて勝利し続け、名を響き渡らせていた時

“彼女”は突如俺の前に現れた‥‥‥

圧倒的な魔法と絶大な魔力、屈強な男共を一振りで薙ぎ倒す彼女を見て俺は全身が震えた。俺の中の女の価値が一変し、俺はその女に勝負を挑み込んだ‥‥‥が勝負は刹那に終わりを告げた。

対峙した瞬間に理解できた‥‥何処までも遥か高みへと壁が立ち塞がっている事に‥‥全てにおいて格が違う。彼女と俺とでは見ている世界が違っていた‥‥


「———おい‥‥名前は何という女っ!」


攻撃を受けていないにも関わらず酷く汗をかき衰退している俺は背を向けて歩く彼女に名前を問いかける。すると彼女は金色の髪を靡かせながらこちらに振り向いて答えた


「———“アザレア”!」


彼女の名前を聞いたこの瞬間に俺は全身に雷が走った。貴族でもない彼女がどうしてそこまで強くなれたのか、俺と何処が違うのかと自問自答を繰り返した。時が過ぎれば過ぎるほどに彼女と俺は差が開き続けていった。そして彼女は英雄と呼ばれるまで遥か高みへと行ってしまった。

悔しかった、貴族である俺が庶民の‥‥それも女に負かされたままとは情けない
しかし、屈辱よりも何処か誇らしげな感情が湧きあがった‥‥

『———ああ、そうか‥‥俺はあの庶民の女を‥‥』

それからだ、貴族でもない庶民を嘲笑い罵ってきたのは‥‥庶民の女に負けてプライドが壊された俺に残ったのは三大貴族という箔だけだった。権力も地位も金も全てを持っている俺が二度と庶民などに負けない為に目に付く庶民を引き摺り下ろしてきた。

そして俺は貴族達の模範となる男に成長していった‥‥
だが、内心分かっていた。こんな事を続けてもあの女には到底届かないと‥‥
それでも俺は心地よい地位を優先し私利私欲を突き通し暴走していった



———そして俺は遂に足を掬われる事となる。レオンというたった一人の男に‥‥‥あいつの女も奪えず、醜態を晒して俺は全員の前で負けた。

今思えばこれで良かったのかもしれない‥‥あの“女”に醜態を晒す前に俺の暴走を止めてくれた‥‥レオンという庶民は好まないが俺を止めてくれた事に感謝しなくては‥‥

あの“女”‥‥英雄と呼ばれる1人にして俺が唯一認めた庶民


“アザレア”に合わせる顔がない‥‥


そのアザレアは特待生Sクラス、強いて俺はAクラスで醜態を晒した三大貴族か‥‥滑稽だな

「———あいつは、レオンは一体何者だ?紅凛喰《アラマント》俺に何か隠しているだろ?」


———ギクっ

『な、何も隠していないわよ‥‥』

口を閉じ、明後日の方向を向く俺の愛刀。だが紅凛喰《アラマント》が肩をビクンと震わせたのを俺は見逃さなかった。

「‥‥‥何年お前と一緒にいると思っている?俺に言えない程の事なのか?」

『そうではないけれど‥‥ん~仕方ないわね‥‥いい?これは誰にも言ってはダメよ?』

すると紅凛喰《アラマント》は深く深呼吸し、俺に念を推してから続きを語り出した。俺は彼女の口から語られる内容をただじっと聞いていた‥‥


『———私のような何百年何千年と生きている刀剣だけが知っている事よ。話は5000年前の神話の時代にまで遡るわ。詳しくは話せないけど神話の時代を戦い抜いた五本の刀剣が存在したの。5000年の年月が経とうとその存在感は周囲を圧倒し尽くし、所有者の魔力と生命を奪い続け、覇道へと導くと言われてきた。破壊と殺戮が付き纏い、付けられたその名も『覇王五剣』‥‥‥刀、魔剣、聖剣の内、刀は一本のみ。残り4枠は魔剣と聖剣で2枠ずつ。世界を恐怖に、絶望と破壊をもたらす為に生まれた史上最強の五剣よっ!』

「———覇王‥‥五剣‥‥?」

俺はキョトンとした表情で紅凛喰《アラマント》から語られた内容に疑問をもった。覇王五剣という名を俺は今初めて耳にした言葉だからだ。紅凛喰《アラマント》は何百年と生きている最強の刀の一本である。そんな彼女でも恐れ慄き、さらに天上の存在がいるなんて噂すらも聞いた事がなかった。

彼女が最強格なのだと思い込んでいた

だが、あの紅凛喰《アラマント》が話すだけで怯えている様は真実を語っているのだと流石の俺でも分かる

しかし、その覇王五剣‥‥‥世界を破壊し絶望と恐怖をもたらすその剣とレオンが一体何の関係があるというんだ?いや、そのまさかな‥‥‥

考えろ‥‥‥あの時、紅凛喰《アラマント》は試合の最中酷く怯えていた。最強の刀の一本とも言われる彼女が怯えるんてダッチ家の歴史上存在しない

そして今の話から導かれる答えは一つしかない‥‥

漂う緊張感が部屋を包み込み、無音の中で唾を呑み込んで俺は口を開く


「———まさか‥‥紅凛喰《アラマント》、お前が怯えていた理由はその覇王五剣の一本はレオンが持っているあの棒切れという訳なのか?だったら何故あいつは最強の刀を所有している‥‥‥庶民が手に入る代物ではないはずだ」

『棒切れ‥‥そうね。誰もがそう見下し、そして死んでいったわ。棒切れに見えるあの鞘はエルフ大国に聳え立つ世界樹の木。圧倒的な存在感と刀から漏れ出す不気味な気を隠すための代物。なぜ、あのレオンという子があの刀を所有しているのか意味がわからないわ‥‥‥だって覇王五剣は5000年前に封印されたはず‥‥でも、確かにあの存在感は覇王五剣で間違いない。誰かがその封印を解いたのが妥当‥‥けれど何処に封印されているか私ですら知らないのにどうやって‥‥?』

彼女は口を抑えながら深く考え込んでいる。5000年の封印が解かれたと言っているが、とても冷静でいる紅凛喰《アラマント》。彼女を最初に解放へと導いた俺の先祖は偉大だ。彼女があってこそのダッチ家と言っても過言ではない。財産であり、代々受け継がれてきた友でもある。

そんな彼女が初めて見せる恐怖の表情。

レオン、覇王五剣は一体どんな関わりがあるというんだ‥‥

『———所有者の魔力を常に奪い、生命を奪っていくあの刀をただの子供が手元に置いているなんて信じられない‥‥‥彼は一体何者なの?本当にただの学園の生徒?何か目的があって来たのかしら‥‥だとしたら何をするつもりなの?』

彼女にここまで言わせるレオン。
俺を二度も負かした庶民‥‥覇王五剣を所有している男‥‥

本当にあいつは庶民なのか?いや、貴族でも庶民でもどっちでもいい。
覇王五剣と呼ばれる一本を所有している時点であいつは普通じゃない
人の皮を被った化け物なのか‥‥それとも本当にただの‥‥


あまりにも得体がしれない‥‥あいつは一体何者なんだ? 

俺と紅凛喰《アラマント》の最上級魔法を斬り伏せたあいつは一体誰なんだっ
まるでこれまで蓄えてきた常識が一切通用しない逸脱者だ‥‥

そう考えると急に身体が硬直し出した。汗が全身に広がり、鼓動が早くなる

「———紅凛喰《アラマント》、俺はとんでもない奴を敵に回してしまったようだ。今になって震えがきた‥‥それに不気味なことにレオンからは魔力が殆ど感じられない。多少感じられるがその感じられる魔力もわざと少量の魔力を漏らしているような感じなんだ‥‥‥」

『———私も感じたわ。違和感のある魔力なのを覚えている。なんかこう‥‥言い表すのは難しいけれど、ないものを無理矢理出している感じに近いわ。でも、そうなると彼の魔力は本来感じられる事ができないという事になるわ。魔力を感じられない種族なんて聞いたことも見たこともないけれど‥‥やはりその子は何かありそうね。とても大きな‥‥‥』

「ああ、それに覇王五剣に気づいているのは俺たちだけとは限らない。お前のような最強の名に持つ刀剣達も何かしら気づいているはずだ。二日間の休暇終わり明けは剣術の授業があるからな‥‥レオンがその刀を持ってくるかわからないが、もう一度コンタクトを取るか。これまでの非礼と謝罪を込めての‥‥」

「ふふふ、レオちゃん変わったわね。三大貴族様は庶民に頭は下げないはずじゃなかった?」

人の心を抉るような笑みで悪態をついてくる紅凛喰《アラマント》
しかし、彼女の言う通りだ。俺はここからもう一度変わる。
今度は認められるように‥‥“彼女に認められる男になる為に俺は今までの自分を捨てよう

そして‥‥いつか“アザレア”の隣を歩ける男に‥‥
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