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ステップ1 拠点を造ろう
002 荒野に建つ家
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「これで……こうして……こうかな?」
死の大地と呼ばれる不毛な大島。その中心に存在するインフェルヌ山脈の足元で、乾いた大地に落書きをする男がいた。離れた場所では三匹の獣が手に入ったばかりの新鮮な肉を食べながら男の奇行を眺めている。
「もぐもぐ、父、まだかな~」
「カメカメ……」
「クマッグマッ」
荷車や背嚢などの荷物を固めた場所で遅めの昼食を取っている三匹の獣が美味しくいただいているのは、先ほど哀れにも返り討ちにされたストーンベアーの生肉である。血抜きも十分にされていないので口の周りがホラー風味になっているが、そこはまあ獣なので気にしても仕方が無いだろう。気にしてもいいのは三匹の獣の内の一匹である大熊キンタが普通にストーンベアーの肉を食っている事だ。
なお、肉の味を覚えた熊は危険極まりないと言うが。既に本当に熊なのかどうかも怪しい格闘する大熊のキンタには当てはまらないと思われる。
「うう~ん……まあ、こんなものかな?」
《ばーるのようなもの》で固い地面に傷を刻んでいた男は中腰が続いた事で痛み始めた腰を伸ばし、結構な大きさとなった地面の絵を、簡素な図面を眺める。
遮る物の少ない荒野にインフェルヌ山脈から下りてくる山風が吹き、男が着ているフードロープの裾を大きくはためかせた。そこから覗くのは薄い衣服に包まれた中肉中背のガッシリとした体だ。何だかんだと言ってもここ数年間旅を続けるうちに自然と鍛えられた肉体だった。本人は旅を始める前の小太りの体から脱却できたと自画自賛している。
「シマー。後は頼むわー」
「……カッメェ」
遠望で図面に不備がないか確かめ終えた男が、お食事タイムが終わって血濡れの口を洗っていた三匹の獣たちに振り返り声をかけた。呼ばれた大亀のシマが口から吐き出していた水を止めると、「やれやれ、仕事が多いぜ」とでも言ってる風に億劫な鳴き声を上げた。
父ーと男に向けて満面の笑顔を浮かべる小さな少女モモを甲羅の上に乗せたまま、大亀シマはドスドスと鈍重な見た目に反した速さで男の元に向かう。
「初めはゆっくりとな。とりあえず1番だけ行ってくれ」
「カメ」
男は自分たち一行の中で一番仕事量の多い大亀シマの甲羅を慰撫するように優しく撫で、図面に引いた数字の1を指さした。その先を追った大亀シマの人と同様の白目と黒目が存在する眼球が琥珀色の輝きを帯び、丸く開かれていた大亀シマの目が細く引き締められる。
「カメ!」
間の抜けた、しかし力の籠った鳴き声が上がり、地面が微かに振動し始める。それは徐々に、静かに強まって行き、誰も触れていない地面が不自然に隆起する。
それは男が引いた図面に従う様に盛り上がっていく。中心に1番と描かれた四角い線の内側の地面がモコモコと小山を造り、見上げる高さまで盛り上がった所で徐々にその形を変えていった。
丸く盛り上がっていた小山に角が出来て行き、長方形を形作る。次に平らになった横面にポコポコと四角い穴がいくつか空いて行くと、長方形の中身が空洞になっているのをかいま見せた。
「よし、取りあえずそこまで!」
「カメェ~」
最後にひときわ大きな穴が長方形の山に空き、長方形を構成する土の色が深く色づいた所で男が制止の声を上げた。それに大亀のシマが琥珀色の光を帯びていた目から力を抜くと、徐々に光は引いて行き何時もの眠たげな丸い目に戻った。
「よし、ありがとうな、シマ」
「カメ」
男が感謝を伝えるために大亀シマの甲羅を撫でる。大亀シマは気持ち良さそうに目を細めると、「気にするなよ」とでも言う風に落ち着いた鳴き声を出した。出来た亀である。
さて、先ほどの一連の出来事は実に不可思議極まる光景であったが、男が昔住んでいた場所とは違って此処では決して見られない光景では無かった。
もちろん男の様に無能力な《常人》に再現できる現象ではないが、《超人》もしく《超獣》と呼ばれる《超越種》たちには造作もない事だった。
まるで武を極めた人間の様に動き戦う大熊キンタ。
口から水を出し、視線だけで土を隆起させる大亀シマ。
そして外見は人間の子供とそう変わらないが、その大きさは赤ん坊よりも少し大きいていどの小さな女の子モモ。
そう、この三匹の獣こそが獣と言う種の枠を超えた《超獣》であった。
「んじゃ中に入るか。モモはこっちきな」
「あい、父ー」
呼ばれて男の胸に飛び込む小さな女の子モモ。大きくなり始めた赤ん坊ほどしかない体は男の腕の中にスッポリと収まり、しかし赤ん坊とは言えないほどにスラリと伸びた細い腕で男の体に確りとしがみ付き、お尻の上から伸びた細い尻尾を男の腕にクルリと絡めさせた。
「モモは甘えん坊だなー」
「あい!」
放さないとばかりにしがみ付くモモの態度に苦笑を浮かべる男。その顔を胸の中から見上げるモモは満面の笑みで肯定した。モモは寂しがり屋で甘えん坊な女の子なのである。
▼
「おーおー、いつもながら良い仕事をしますなー、シマさんや」
「カメェー」
横幅のある大亀のシマが難なく入る事の出来る大きな穴から長方形の小山の中に入った男が、シマの亀とは思えない緻密な仕事に称賛を送った。
男が図面を引き、シマが《超能力》で造ったこれは、誰がどう見ても家と表現する建築物だった。
入り口の大きな穴は玄関口だ。そこから一歩中に入れば4メートルほどの高さに天井があり、見渡す事の出来る広い室内は一室のみの構成だが、一同の中で一番背の高い大熊のキンタでも閉塞感を感じない悠々とした空間になっていた。
しかしただ広いだけでは無く、男が図面を引いたとおりに幾つかの段差が出来ている。奥の壁際には長細い大きな一段が二つと他の場所にも小さな段がいくつか、他には入り口横に地面の下へと続く階段があり、その全てが一匹の亀が昼飯後の腹ごなし程度の調子で造った物だとは誰も想像がつくまい。
「さて、地下室はどうかな。悪いけどシマは獣が入って来ないように留守番しててくれ」
「カメ」
流石に地面の下に続く階段の横幅は大亀のシマが入れる程には大きくなかった。それは男の設計ミスでは無く、その奥が食料庫として使う予定の地下室だからだ。大型の獣が外部から侵入し、溜め込んだ食料を食べつくされたなど全くシャレにならないのである。
「モモ、悪いけど灯り出してくれるか」
「あい、父。うう~でてこいあかるいの~」
男が胸に抱いたモモに暗い地下に下りるのに灯りが欲しいとお願いすると、口をもにゃもにゃと動かしたモモが右手の指をプイプイと動かして前につきだした。するとその先に小さな白い光が現れ、モモの前にふよふよと浮かびだした。
「それじゃあちょっと行ってくる。キンタは……もう行ったか。気の利く男だねえ」
後で外の荷物を地下室に収納するのに近くまで移動させる必要があったのだが、大熊のキンタは男が言うまでもなく自主的に取りに行ったようだ。普通の獣には出来ない、力も知能も優れた超獣だからこそ出来る気遣いである。
ほんと俺が一番役に立たねえよなあ……と、今更ながらに気を落とす男だったが、自分の胸に確りとつかまっているモモの温かい体温に癒され気を持ち直した。
「父、したいこ」
「おう、行くか。モモさんや」
「あいー」
自分を何時も元気づけてくれるモモを抱き直した男は、目の前に浮かんで移動する光の玉を頼みに暗い地下室へと下りて行った。
荒野で生きるため、やる事する事は多い。とは言え此処は国でも街でもなく、ましてや誰の物でもない不毛の大地である。誰に強制される訳でもない自由気ままな生活なので今日できる事を明日してもいいのである。
「てきとーに生きたって良いじゃない? 人間だもの~」
「?」
男は実に堕落した考えを恥ずかしげもなく口にすると、言葉の意味を計りかねたモモの頭を顎でカクカクとゆすってなごんだ。
今日はあとアレだけ造って寝よ。と、そう決めて。
▼
凄まじい勢いで大量の水が流れ落ち、周囲の地面と大気を震わせる。高所から落ちた事で飛び散った飛沫が霧状の滴となって辺りに漂い、男と三匹の超獣の体を湿らせた。
「もう同じことを何回言ってるのか解らないけど、もんの凄いよなあ~!」
「うるさ~い! きもちわる~い!」
「クマァ……」
「カメェ~」
大気を震わせるほどの大音量だ。近くに居ても小さな声ではかき消されてしまうので大声でやり取りをする男たち。
彼が目にしているのは数十mもの高さから落ちてくる水の束。滝である。しかしただの滝ではない。小規模だが今現在も噴火を続ける活火山であるインフェルヌ山脈の地熱によって温められた、不可思議な事の多いこの世界でもそうそう見ない高温水の滝であった。
これは先ほどの探索でストーンベアーを退けた後の男たちが見つけたものであり、人並みの生活と言う物にこだわりのある男が造ろうとしているとある施設に必要な物だった。
とは言え流石にそれは一朝一夕には出来ないので、今回はただ単に温水を汲みに来ただけだ。
「あっついなあ! 確かにべたべたして気持ち悪い。さっさと温水汲んで帰ろうか」
「あい~」
「クマッ」
「カメェ~」
飛沫が靄となって漂っているので凄まじい湿気である、しかもそれが温水である事からその場はスチームサウナのような状態だった。一番体の小さなモモが感じる不快感は他よりも強く、大熊のキンタは自慢の毛皮がジットリとするのがとてつもなく嫌に感じていた。
その場で比較的ましなのはサウナと言う物を知っている男と、亀と言う種からして水の類が好きなシマの一人と一匹である。
「あっつ?! あっつ!?」
「がんばれ父~」
「カメェ~」
「クマ、クマ、クマ」
当然の話だが体の大きさが赤ん坊ほどしかないモモと、四足歩行の亀であるシマは水汲みが出来ない。なので男と大熊のキンタが一人と一匹で荷台に乗せた樽に温水を汲んでは入れているのだが、50度はあろうかと言う温水に四苦八苦している男は仕事がいっこうにはかどらない。ほとんどキンタ一匹で5つある樽の内3つが満杯になっている。
……ちなみに男が入れた温水は樽一つ分にも満たない。見る者が見れば「無能が」と唾を吐きそうになるていたらくである。そんな無能男を励ますモモは天使の如き純粋さだ。
「うう……い、何時かきっと俺にも出来る時が来るんだ……」
幸いにもその場に「来ないよ?」と的確な駄目出しを入れる人間は居なかった……。
死の大地と呼ばれる不毛な大島。その中心に存在するインフェルヌ山脈の足元で、乾いた大地に落書きをする男がいた。離れた場所では三匹の獣が手に入ったばかりの新鮮な肉を食べながら男の奇行を眺めている。
「もぐもぐ、父、まだかな~」
「カメカメ……」
「クマッグマッ」
荷車や背嚢などの荷物を固めた場所で遅めの昼食を取っている三匹の獣が美味しくいただいているのは、先ほど哀れにも返り討ちにされたストーンベアーの生肉である。血抜きも十分にされていないので口の周りがホラー風味になっているが、そこはまあ獣なので気にしても仕方が無いだろう。気にしてもいいのは三匹の獣の内の一匹である大熊キンタが普通にストーンベアーの肉を食っている事だ。
なお、肉の味を覚えた熊は危険極まりないと言うが。既に本当に熊なのかどうかも怪しい格闘する大熊のキンタには当てはまらないと思われる。
「うう~ん……まあ、こんなものかな?」
《ばーるのようなもの》で固い地面に傷を刻んでいた男は中腰が続いた事で痛み始めた腰を伸ばし、結構な大きさとなった地面の絵を、簡素な図面を眺める。
遮る物の少ない荒野にインフェルヌ山脈から下りてくる山風が吹き、男が着ているフードロープの裾を大きくはためかせた。そこから覗くのは薄い衣服に包まれた中肉中背のガッシリとした体だ。何だかんだと言ってもここ数年間旅を続けるうちに自然と鍛えられた肉体だった。本人は旅を始める前の小太りの体から脱却できたと自画自賛している。
「シマー。後は頼むわー」
「……カッメェ」
遠望で図面に不備がないか確かめ終えた男が、お食事タイムが終わって血濡れの口を洗っていた三匹の獣たちに振り返り声をかけた。呼ばれた大亀のシマが口から吐き出していた水を止めると、「やれやれ、仕事が多いぜ」とでも言ってる風に億劫な鳴き声を上げた。
父ーと男に向けて満面の笑顔を浮かべる小さな少女モモを甲羅の上に乗せたまま、大亀シマはドスドスと鈍重な見た目に反した速さで男の元に向かう。
「初めはゆっくりとな。とりあえず1番だけ行ってくれ」
「カメ」
男は自分たち一行の中で一番仕事量の多い大亀シマの甲羅を慰撫するように優しく撫で、図面に引いた数字の1を指さした。その先を追った大亀シマの人と同様の白目と黒目が存在する眼球が琥珀色の輝きを帯び、丸く開かれていた大亀シマの目が細く引き締められる。
「カメ!」
間の抜けた、しかし力の籠った鳴き声が上がり、地面が微かに振動し始める。それは徐々に、静かに強まって行き、誰も触れていない地面が不自然に隆起する。
それは男が引いた図面に従う様に盛り上がっていく。中心に1番と描かれた四角い線の内側の地面がモコモコと小山を造り、見上げる高さまで盛り上がった所で徐々にその形を変えていった。
丸く盛り上がっていた小山に角が出来て行き、長方形を形作る。次に平らになった横面にポコポコと四角い穴がいくつか空いて行くと、長方形の中身が空洞になっているのをかいま見せた。
「よし、取りあえずそこまで!」
「カメェ~」
最後にひときわ大きな穴が長方形の山に空き、長方形を構成する土の色が深く色づいた所で男が制止の声を上げた。それに大亀のシマが琥珀色の光を帯びていた目から力を抜くと、徐々に光は引いて行き何時もの眠たげな丸い目に戻った。
「よし、ありがとうな、シマ」
「カメ」
男が感謝を伝えるために大亀シマの甲羅を撫でる。大亀シマは気持ち良さそうに目を細めると、「気にするなよ」とでも言う風に落ち着いた鳴き声を出した。出来た亀である。
さて、先ほどの一連の出来事は実に不可思議極まる光景であったが、男が昔住んでいた場所とは違って此処では決して見られない光景では無かった。
もちろん男の様に無能力な《常人》に再現できる現象ではないが、《超人》もしく《超獣》と呼ばれる《超越種》たちには造作もない事だった。
まるで武を極めた人間の様に動き戦う大熊キンタ。
口から水を出し、視線だけで土を隆起させる大亀シマ。
そして外見は人間の子供とそう変わらないが、その大きさは赤ん坊よりも少し大きいていどの小さな女の子モモ。
そう、この三匹の獣こそが獣と言う種の枠を超えた《超獣》であった。
「んじゃ中に入るか。モモはこっちきな」
「あい、父ー」
呼ばれて男の胸に飛び込む小さな女の子モモ。大きくなり始めた赤ん坊ほどしかない体は男の腕の中にスッポリと収まり、しかし赤ん坊とは言えないほどにスラリと伸びた細い腕で男の体に確りとしがみ付き、お尻の上から伸びた細い尻尾を男の腕にクルリと絡めさせた。
「モモは甘えん坊だなー」
「あい!」
放さないとばかりにしがみ付くモモの態度に苦笑を浮かべる男。その顔を胸の中から見上げるモモは満面の笑みで肯定した。モモは寂しがり屋で甘えん坊な女の子なのである。
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「おーおー、いつもながら良い仕事をしますなー、シマさんや」
「カメェー」
横幅のある大亀のシマが難なく入る事の出来る大きな穴から長方形の小山の中に入った男が、シマの亀とは思えない緻密な仕事に称賛を送った。
男が図面を引き、シマが《超能力》で造ったこれは、誰がどう見ても家と表現する建築物だった。
入り口の大きな穴は玄関口だ。そこから一歩中に入れば4メートルほどの高さに天井があり、見渡す事の出来る広い室内は一室のみの構成だが、一同の中で一番背の高い大熊のキンタでも閉塞感を感じない悠々とした空間になっていた。
しかしただ広いだけでは無く、男が図面を引いたとおりに幾つかの段差が出来ている。奥の壁際には長細い大きな一段が二つと他の場所にも小さな段がいくつか、他には入り口横に地面の下へと続く階段があり、その全てが一匹の亀が昼飯後の腹ごなし程度の調子で造った物だとは誰も想像がつくまい。
「さて、地下室はどうかな。悪いけどシマは獣が入って来ないように留守番しててくれ」
「カメ」
流石に地面の下に続く階段の横幅は大亀のシマが入れる程には大きくなかった。それは男の設計ミスでは無く、その奥が食料庫として使う予定の地下室だからだ。大型の獣が外部から侵入し、溜め込んだ食料を食べつくされたなど全くシャレにならないのである。
「モモ、悪いけど灯り出してくれるか」
「あい、父。うう~でてこいあかるいの~」
男が胸に抱いたモモに暗い地下に下りるのに灯りが欲しいとお願いすると、口をもにゃもにゃと動かしたモモが右手の指をプイプイと動かして前につきだした。するとその先に小さな白い光が現れ、モモの前にふよふよと浮かびだした。
「それじゃあちょっと行ってくる。キンタは……もう行ったか。気の利く男だねえ」
後で外の荷物を地下室に収納するのに近くまで移動させる必要があったのだが、大熊のキンタは男が言うまでもなく自主的に取りに行ったようだ。普通の獣には出来ない、力も知能も優れた超獣だからこそ出来る気遣いである。
ほんと俺が一番役に立たねえよなあ……と、今更ながらに気を落とす男だったが、自分の胸に確りとつかまっているモモの温かい体温に癒され気を持ち直した。
「父、したいこ」
「おう、行くか。モモさんや」
「あいー」
自分を何時も元気づけてくれるモモを抱き直した男は、目の前に浮かんで移動する光の玉を頼みに暗い地下室へと下りて行った。
荒野で生きるため、やる事する事は多い。とは言え此処は国でも街でもなく、ましてや誰の物でもない不毛の大地である。誰に強制される訳でもない自由気ままな生活なので今日できる事を明日してもいいのである。
「てきとーに生きたって良いじゃない? 人間だもの~」
「?」
男は実に堕落した考えを恥ずかしげもなく口にすると、言葉の意味を計りかねたモモの頭を顎でカクカクとゆすってなごんだ。
今日はあとアレだけ造って寝よ。と、そう決めて。
▼
凄まじい勢いで大量の水が流れ落ち、周囲の地面と大気を震わせる。高所から落ちた事で飛び散った飛沫が霧状の滴となって辺りに漂い、男と三匹の超獣の体を湿らせた。
「もう同じことを何回言ってるのか解らないけど、もんの凄いよなあ~!」
「うるさ~い! きもちわる~い!」
「クマァ……」
「カメェ~」
大気を震わせるほどの大音量だ。近くに居ても小さな声ではかき消されてしまうので大声でやり取りをする男たち。
彼が目にしているのは数十mもの高さから落ちてくる水の束。滝である。しかしただの滝ではない。小規模だが今現在も噴火を続ける活火山であるインフェルヌ山脈の地熱によって温められた、不可思議な事の多いこの世界でもそうそう見ない高温水の滝であった。
これは先ほどの探索でストーンベアーを退けた後の男たちが見つけたものであり、人並みの生活と言う物にこだわりのある男が造ろうとしているとある施設に必要な物だった。
とは言え流石にそれは一朝一夕には出来ないので、今回はただ単に温水を汲みに来ただけだ。
「あっついなあ! 確かにべたべたして気持ち悪い。さっさと温水汲んで帰ろうか」
「あい~」
「クマッ」
「カメェ~」
飛沫が靄となって漂っているので凄まじい湿気である、しかもそれが温水である事からその場はスチームサウナのような状態だった。一番体の小さなモモが感じる不快感は他よりも強く、大熊のキンタは自慢の毛皮がジットリとするのがとてつもなく嫌に感じていた。
その場で比較的ましなのはサウナと言う物を知っている男と、亀と言う種からして水の類が好きなシマの一人と一匹である。
「あっつ?! あっつ!?」
「がんばれ父~」
「カメェ~」
「クマ、クマ、クマ」
当然の話だが体の大きさが赤ん坊ほどしかないモモと、四足歩行の亀であるシマは水汲みが出来ない。なので男と大熊のキンタが一人と一匹で荷台に乗せた樽に温水を汲んでは入れているのだが、50度はあろうかと言う温水に四苦八苦している男は仕事がいっこうにはかどらない。ほとんどキンタ一匹で5つある樽の内3つが満杯になっている。
……ちなみに男が入れた温水は樽一つ分にも満たない。見る者が見れば「無能が」と唾を吐きそうになるていたらくである。そんな無能男を励ますモモは天使の如き純粋さだ。
「うう……い、何時かきっと俺にも出来る時が来るんだ……」
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