追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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商会にて神官様とばったり 1

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 レイとわかれた後、私はお兄様とお父様にお手紙を渡して商会へと向かった。
 途中で顔なじみの人々と遭遇して挨拶がてらにしゃべったりしつつ、商会の事務室へと到着。
 扉には銀のプレートが掲げられ、事務室と文字が刻まれている。


 商会はエタセル国内のハーブ生産者の中核となる施設のため、事務や経理などのデスクワークに従事している者達の数も多い。
 部屋は広々としていて、事務机をくっつけてみんな仕事をしていた。


 ちなみに私は交渉など多岐に渡る仕事しているので、個人の執務室が館内に用意されておりそこで仕事をしている。


 事務室へと通じる扉の取っ手を引けば、見慣れた風景が広がった。けれども、室内にて見慣れぬ者を見て固まってしまう。
 だって、そこには絶対に見ないだろうという人がいたのだから。


 ――なんで神官様がお茶くみをしてんのっ!?


 神官様が銀のトレイに湯気立つカップを数個乗せ、職員と談笑しながら配っていたのだ。
 神官服さえ着ていなければ、違和感なく商会の人間として溶け込んでいるだろう。



「おかえりなさい、ティアナ様。ファルマにスカウトに向かっていたそうですね。お疲れです」
 神官様はにっこりと微笑みながら私を労ってくれた。


「神官様もお疲れさまです。あの、申し訳ありません。神官様にお茶くみをしていただいて……」
「いいえ、お気になさらずに。僕もエタセルのために何か力を貸したかったんです。ただ、僕の知識が古くて役に立ちそうにないなぁと。なんせ時代が変わり過ぎてしまって。かなり文化も生活も進歩しましたね」
 神官様は見た目はお兄様と変らないようなので、二十代半くらいだろう。
 だが、台詞がご年配の方がしゃべっているような感じがしている。
 私の祖父母が話していても違和感が全く無い。


「『神殿脇から近づけない』ので、もしかしたら『簡単に外には出られない』のかな? と勝手に思い込んでいたのですが、森を遠回りすれば出られたので良かったです。町の様子も変わっていてびっくりしましたよ。家がいっぱいありますね。昔はこんなに無かったです」
「神官様、失礼ですがおいくつですか?」
「僕ですか? 二十五歳です。よく年齢よりも幼く見られていました」
「年相応にみえますよ」
 ただ、発言と外見にズレが生じているだけで。


 ――本当に不思議な神官様だなぁ。出会いからそうだったけど。


「ティアナ様、申し訳ありません。ティアナ様に事情はお伺いしていたのですが……」
 デスクワークの人達を統括してくれているフィーノさんが立ち上がった。
 フィーノさんは白髪の髪を撫でつけている男性だ。


「フィーノさんは悪くないですよ。僕がお茶くみをやらせて欲しいとお願いしたんです。みなさん、お忙しそうだったので。僕はすごく暇で手はあいていますし」
「いやぁ~、神官様のブレンドしてくれたハーブティーがこれまた美味しいんですよ」
「そうなんです! 絶妙な酸味と甘みのバランスなんですよね」
「そうそう。しかも、色々とバリエーションがあって飽きないんです。毎日淹れてくれるお茶が楽しみで仕方がないんですよ。しかも、掃除や雑用なども毎日手伝ってくれて」
 フィーノさんをはじめとして職員たちは、口々に神官様を褒めまくっている。


 どうやら、短い時間内でみんなと仲良くなり馴染んでしまっているようだ。
 毎日来て下さってお茶くみだけではなく、雑用も手伝ってくれていたなんて知らなかったので驚いてしまう。


 タダ働きは流石に駄目だろうと、私は唇を開く。



「助けて頂いたのに、お手伝いまでして下さってありがとうございます。賃金はちゃんとお支払いいたしますね」
 私は神官様にお礼を伝えれば、彼は首を左右に振った。


「いいえ、構いませんよ。一人でいると暇で昔のことを考えてしまうので」
「ですが……」
「本当に気にしないで下さい。僕にとってお金は持っていても仕方がないものないんです。衣食住はタダですし」
「いえ、労働の対価は支払わなければなりません」
「どうしましょう。本当に持っていてもしようがないんですよね。あっ!」
 神官様は、ぱぁっと顔を輝かせると口を動かす。






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