追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

文字の大きさ
41 / 134
連載

もしかしてメディの気になる人って…?1

しおりを挟む
 商会に出社する前に、私はメディと共に神殿裏へ訪れていた。
 私達を照らしてくれている太陽によって湖面はキラキラと輝き、その上を鳥が優雅に泳いでいる。
 セス様はいつものように穢れなき神官服を纏い私達を待っていてくれ、瞳が合うと朝に相応しい笑顔を浮かべてくれた。


「おはようございます。ティアナさんから伺いました。貴方がメディ様ですね」
 セス様の瞳に捉えられたメディは、ビクッと肩を大きく動かすと固まってしまう。


「初めまして。よろしくお願いします。セス様」
「そんなにガチガチに緊張しないで下さい。たいしたことはお教えできませんので。それに、僕は先生ではなくただの元神官ですよ」
「アルツナ薬学辞典は、書字板しか残されていない貴重な資料です。書字板は第三の生命の章と、第十五の冥界の章の二章しか発見されておりません。それを教えて頂けるなんて光栄なことです」
「不思議なものですよね。薬草学に携わっていた者ならば誰でも知っているアルツナが今の時代では誰もが知らないものになっているなんて。どうして僕が存在しているのかわかりませんでしたが、もしかしたら過去の薬草学を紡ぐためなのかもしれませんね」
 クスクスとセス様は喉で笑う。


「セス様、私はそろそろ仕事に……メディをよろしくお願いします。何かあれば商会か城へ連絡をして下さい」
「はい。きちんとお預かりいたしますね」
 神官様が頷いたのを見届けると、私はメディへと顔を向ける。
 彼女はフードを深々と被り、手には鞄を持参していた。
 中身は教えて貰ったものを記載するための筆記用具、それからお弁当に飲み物が入っていて準備は完璧だ。


「メディ、本当に一人で大丈夫?」
「はい。ティアはお仕事に行って下さい。ティアしか出来ないことが沢山ありますから。気を付けていってらっしゃい」
 メディは穏やかに微笑むと、私に対して小さく手を振った。


「わかった。じゃあ、帰りに迎えに来るね!」
 私は二人に見送られながら、湖に背を向け町へと通じる出入り口へと向かった。





 +

 +

 +




 寄り道せず商会へと真っ直ぐ向かい、倉庫に顔を出してハーブの採取状況や業務連絡をして自分の執務室へ。
 執務机は書類の他に各国からのパーティーお誘い手紙の山が出来ている。


 荷物を窓際にあるサイドテーブルへと置き、私は机へと向かうと椅子に座り引き出しを開けバレッタを取り出す。
 ライに貰った薔薇が彫られたバレッタはかなり愛用中で、髪が邪魔にならないように束ねるだけではなく、なんとなく気合い入れの意味も込められていた。


 ――よし! やるか。


 私は書類を手にすると、ペンを持ち仕事に取りかかった。
 どれくらい時間が経過しただろうか? 部屋をノックする音が聞こえ、私はハッと書類から顔を上げる。


「どうぞー」
 私が声をかければ左手の扉が開かれ、ゴアさんがひょっこりと顔を出す。


「ティアナ様。今、少しお時間いいですか? 実は西大陸から急な来客が……」
「大丈夫ですよ。お客様は応接室ですか?」
「はい」
「わかりました。今、向かいますね」
 私はペンを置くと立ち上がった。


 ――西大陸の仕事はある程度纏まったんだけど、何か急用でもあったのかな。


 


しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。