追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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ライの秘書官2

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「なんだろう……?」
 城で用事を済ませた私は、仕事のために商会の門を潜ったのだけれども、建物の前が騒がしい事に気づく。
 足を踏み出して近づいていけば、馬車が止まっていた。
 絢爛豪華な装飾が施されている馬車の紋章を見て私は驚いてしまう。
 それはファルマの王族――ライが乗っている馬車だったから。


 人々の集まりにゴアさんがいたので、私は声をかけた。



「ゴアさん、ライ……ファルマの王様が来ているんですか?」
「ティアナ様、ちょうど良かったです。ティアナ様にお会いするためにいらっしゃったそうですよ。今、応接室で待っていて貰っています」
「本当ですか!? ありがとうございます」
 久しぶりにライと会えるのが嬉しくて、私はゴアさんにお礼を言うと駆け出して建物の中へ。
 ふかふかの毛足の長い絨毯を踏みしめ、応接室へと向かうけれども、いつもよりも距離が遠く感じてしまう。


 応接室と掘られた銀のプレートがかけられた扉をノックして入れば、ソファセットに座って紅茶を飲んでいるライの姿が。



「ライ! 体は大丈夫? 手紙で忙しいって……あ」
 ライしかいないと思って気さくに話しかければ、ライの隣に青年が座っているのに気づく。
 エメラルドグリーンの髪を右肩で束ねて流し、メガネ越しに筆で描いたような涼しい目元が窺える。
 年齢は二十台後半から三十台前半だろうか。
 身に纏っている服から、彼が身分の高い人物であることを理解できた。


 ――やってしまった。ライだけだと思って、いつも通りに接してしまったわ。


 顔に出ていたのか、ライが苦笑いを浮かべた。



「いいよ、彼はティアのことも知っているから。紹介するよ。俺の秘書官のエルド」
「初めまして、ティアナ様。お噂はライナス様より伺っています。お仕事中の突然の訪問申し訳ありません。ライナス様がここ数日多忙だったため、元気を分けていただきたく参りました」
「エタセルは自然豊かですから、癒されますもんね!」
 ファルマは都会って感じだけど、エタセルは自然。
 美味しい空気を吸って疲れをとるには、ちょうど良いだろう。


「もしかして、新聞に掲載されていた件でこっちに? ファルマも協力しているって書いてあったよ。珍しい動物に噛まれたって証言があったけど、もしかして西大陸から密猟された動物が原因?」
「よくわかったな。そうだ。西大陸古来の動物による接触感染。三ヶ月で密猟者のものと思われる破損した馬車が数か所から見つかった。近くになにも入っていないゲージがあったりしていているから、もしかして逃げ出したのかもしれないな」
「さすがにラシットではないよね?」
「ラシットは確認されていない。ただ、いろいろな動物が逃げ出していると思う。症状はダニを媒介にしたものから、直接引っかかれ感染したものまで多種多様だ。とにかく早く動物を保護しなければならない。詳しい専門医を派遣する予定だ」
「ファルマって医療大国だからお医者さんも多いもんね。ライもお医者さんだし」
「エルドも医者だ。エルドの家は代々病院を経営しているんだよ。なぜか秘書官やっているけど」
「え」
 私がエルドさんを見れば、にこにことしている。


 医療大国だから住民はなんらかの医療に関する資格を持っているって聞いていたけど、まさか秘書官様もなのか。



「ライ、今日はうちに泊っていく? メディともつもる話があるだろうし」
「一泊なら泊っても良いって許可貰っているから、泊らせて欲しい」
「勿論」
「……ねぇ、ティア。ちょっと話が変わるけど、大事なことを聞きたいんだ。レイガルド様があれからティアの家に来ているの?」
「時々かな」
「頻度は?」
「「頻度」」
 私とエルドさんの台詞が綺麗に重なった。


「仲が良いのか?」
「それ、さっき似たようなことをお城でコルタに聞かれたよ。ライと仲が良いのかって」
 なんでみんな仲の良さを気にするのだろうか。


「コルタって、騎士団長だったよな」
「うん」
「どうなっているんだ、一体。遠距離だから全く状況がわからない。ティアさ、本気でファルマへの移住考えてよ。俺の隣空いているから」
「部屋?」
「確かに部屋という物理的空間も空いているけどさ」
「ティアナ様。ライナス様の隣の部屋は見晴らしが良いですよ。王都が一望出来ます。如何ですか? ぜひ、ファルマへ来て下さると我々は嬉しいです。ティアナ様なら貴族達も大歓迎ですし。もし、来て頂けるならば、ティアナ様が大好きなリムス王国の菓子を毎日ご用意致します」
 エルドさんがすごく私の移住を進めてくれるんだけれども、秘書官じゃなくてちょっとセールスマンっぽかった。










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