追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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不意なキスの波紋2(ちょっと遡る事数分前のリスト視点)

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 ――やっぱり眠れないなぁ。


 パーティーも無事終わり、僕は明日に備えてすぐに休むことにした。
 早朝の出発が早いため、眠るべきだろうと判断して。


 シルクのパジャマに着替えベッドに潜り込んだのだが、まったく夢の世界に行く気配がない。
 きっとパーティーでティアとエスカ様の戦いを見たせいで神経が興奮しているのかも。
 まさか、扇子が本当に防具になるなんて思いもしなかったし、ティアがドレスを戦闘服と言っていた理由もわかった。


「アールの添い寝があれば即夢の中に行けそう」
 あのもふもふとした可愛い執事の猫君が添い寝してくれるなら、きっと今すぐリラックスして深い眠りにつける。
 僕のことを覚えてくれているかな? と思いながらパーティーで声をかければ、ちゃんと覚えてくれていた上に元気に挨拶をしてくれて感激。
 ファルマまで長旅だったが、疲れが吹き飛んだ。


「……散歩でもしよう」
 アールとの添い寝は叶わないけど、散歩でもすれば神経も落ち着くだろう。


 星でも見に行こうかな?
 
 ティアと僕が幼い頃、両親に連れられ別荘で天体観察をよくしていたのを思い出し、顔が自然と緩んでいく。
 暗がりを怖がるティアが僕にしがみ付いて可愛かった。
 今は自ら突き進んで「お兄様、私がお守り致しますね!」と戦ってくれそう。



「ティアを星を見に誘おうかな」
 僕はベッドから起き上がると、上着を取り羽織って廊下へと向かった。
 すると、扉を開けた僕と鉢合わせをするような形でメディとコルタの姿が。


「リストお兄様」
 僕を見るとふわりと微笑んだ。


 僕がもう一人の妹と呼んでも過言ではないメディは、豹変する前のティアに似ている気がする。
 庇護欲誘われて守ってあげたくなるような雰囲気だ。
 彼女は、夜着にカーディガンを羽織り、コルタは騎士服のままだ。


 メディはエスカ様と色々あって感情が不安定になりパーティーを途中退席したが、今は落ち着いたようだ。
 顔色も雰囲気もいつも通りに戻っているのを確認し、僕はほっと安堵。


 ――レイガルド様のお蔭かな。


「リストお兄様。ティアを知りませんか? 私、助けて貰ったのにお礼を伝えられなくて」
「部屋にいないのかい?」
「それがノックしても反応がないんだよ。あいつ、まだこの時間なら起きているはずなんだけど」
 確かにいつもならば、絶対に起きている時間帯だ。


「少し廊下で待っていたのですが、まさかエスカ様達に……と、心配になったんです」
 不安げに瞳を揺らしながら震える声を上げているメディを、コルタが腕を伸ばして肩を優しく叩く。


「エスカ様はグロム様が修道院へ連れて行ったから安心して。きっとふらっと散歩でもしているのかも。それかライの部屋にでも行っているとか。ティア、こっちでも仕事していただろ? 神殿裏の開発をライに相談するって前に言っていたから」
 兄としては僕を頼って欲しいが、ライを頼る気持ちも十分理解出来る。
 僕もライのことを信頼しているし頼っているから。


「ティアの事は気にしないで今日はもう休んだ方が良いよ」
「ですが……」
 メディが口ごもった時だった。


「みなさん、どうなさったのですか?」
 凛とした女性の鈴の音が脳裏に過ぎる声が僕達を包む。
 弾かれたように振り返れば、手に書類を持ったルナ様の姿があった。
 彼女は今すぐ眠れる格好をしている僕やメディと違い、清楚なワンピース姿で髪も編み込み纏めあげている。

 ルナ様は僕越しにいるコルタとメディ様に気づくと、瞳を大きく揺らしはじめてしまう。

 ――どうしたんだろうか?

 彼女の様子がおかしい気がする。


「ルナ様、ティアを見ませんでしたか?」
「申し訳ありません。私は存じ上げませんわ」
 ルナ様はメディの問いに対して、首を左右に振った。


「ルナ。お前はどうしてここに?」
「私、パーティーでフーリデ様から製薬研究所の見学を誘われましたの。後学のためにも拝見したいのでお兄様にご相談をしに。ですが、お兄様の姿が部屋にはなくて……」
 ティア、まさかレイガルド様といるの!? と叫びたかったが、平常心を装って無理矢理笑顔を張り付ける。
 心臓は早鐘のように鳴り響いているが、平静を装いながら唇を動かす。


「ティア達のことは僕が探しておくよ。今日は色々あって疲れただろう。メディは部屋で休んで。僕が送るから」
 僕はメディを部屋に戻るように説得すると、彼女の背を軽く押して進むように促した。
 すると、視界の端に窓ガラスが飛び込んでくる。
 外は庭園が広がり淡い蝋燭の光のようなものが所々に浮かんでいるのだが、とても幻想的な光景だ。
 雰囲気が好みだったため、あとで見に行ってみようかな? と意識を強く向けて眺めれば、噴水に二つの影があった事に気付く。


「え」
 影はティアとレイガルド様だった。
 噴水の縁に座って何かを話しているようだ。


「リストお兄様?」
 突然足を止めてしまった僕を訝しげに僕を見つめているメディ。
 どうしよう。メディに見つかってしまう。
 キリキリと真綿で胃を締め付けられているような感覚に陥り、僕は胃を押さえてしまった。





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