追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

文字の大きさ
71 / 134
連載

不意なキスの波紋1(ティア視点)

しおりを挟む
「レイ……?」
 声がした方に立っていたのはレイガルド様だった。
 私と同様に正装から軽装に着替えているようで、装飾もあまりないシンプルで上質な衣服に身を包んでいる。
 彼は私を見ると辺りを見回す。


「ティア。まさか一人じゃないだろうな」
「一人ですよ」
「危ないだろ。女の子がこんなところに一人で。しかも、夜だぞ」
「照明も一応ありますし、ファルマ城中ですから大丈夫かなぁと」
 私はあちらこちらに浮かんでいる光へと視線を向ければ、ふよふよと浮いている球体が蝋燭の灯火のような明るさで照らしてくれている。


 ここは大国のファルマ。

 しかも、今日はパーティーだから他国から様々な要人が訪れるため、騎士達がいつも以上に警備もしっかりとしているから安心。


「ちょっと星を見に来ただけなのですぐに戻ります。それよりもレイ。明日の早朝に出立しなければならないのでは? お兄様もレイと一緒に戻るので、明日は早く起きなければならないとおっしゃっていましたが」
 普段眠るにはまだ早いけど、早朝出国ならば寝ていた方が良い時間だ。
 全く眠らないで馬車に乗れば三半規管が弱くなり酔いが回るのが早いだろうし、今日はパーティーがあったから疲労感もあるはず。


「重々承知なんだが、なかなか眠れなくて……」
 レイが苦笑いを浮かべながら噴水の縁に座った後、私にも座るように促したため隣へと腰を落とす。


「ファルマは大国だからなのか、何もかもが豪華で落ち着かなくてさ」
「あー、わかります。壊してしまったり、傷つけたらどうしようって思いますよね。家具一つとっても高級品ですから」
「傭兵やっていたから、野営やっていたし基本的にどこでも眠れると思っていたから予想外だったよ。だから、少し自然に触れて落ち着いてから寝ようと思って星を見に来たんだ」
 レイガルド様はゆっくりと顔を空へと向け、表情と纏っている雰囲気を和らげる。
 エタセルは自然豊かな所だから、きっと似たような自然的な環境を求めたのだろう。


 暫く二人でなにも話さず星を眺めていれば、ぽつりとレイガルド様が呟く。


「ティア。前に元婚約者の件を忘れて欲しいと言った事があると思うが、ティアの心にはまだ元婚約者の存在があるのか?」
「あまりにも斬新な招待状の渡し方をされましたし、婚約破棄が衝撃的すぎたので忘れることはできないですね。復讐するために色々地道にやって来ましたし。結婚式までには幸せになって見返してやります」
「たとえ復讐だとしても君の心に誰かがいるのが耐えられない。君を誰にも取られたくない。元婚約者だけではないよ。ライナス様にもだ」
 突然飛び出してきたライの名を聞き、彼の部屋がある棟へと顔を向けたが、窓には分厚いカーテンで覆われている。


 ライは今なにをしているのだろうか。


 ――エスカ様達の前で頬にキスされたんだよね。


 騒動でうやむやになってしまったし、お兄様とメディの反応が大きくてリアクション出来なかったけど人前で。
 思い出して頬が熱くなっているので両手で押さえて冷やしていると、レイに手首を掴まれてしまう。


「もしかして、ライナス様から頬に口づけを落とされたのを思い出したの?」
 苦しげな表情を浮かべているレイに尋ねられ、私はあの時レイにも見られていたのかと思った。
 レイが端正な顔を私へとゆっくり近づけていけば、私の頬に柔らかいものが掠めてしまう。


「え」
 最初何が起きたのかわからず頭が真っ白になりかけたが、なんとか状況を察しレイの方へと顔を向ける。
 鏡を見てないけど、きっと私の目は限界まで見開かれているだろう。


 レイは真剣な眼差しで私を見つめていた。


「ティア、君に伝えたいことがある。俺は君のことが好きなんだ」
 状況を理解出来ていたとはいえ、実際言葉として伝えられると現実だと実感する。
 告白されたことに対して、感情の前に頭に浮かんだのはメディの顔だった。
 彼女はレイのことが好きで、レイのために強くなりたいからとパーティーにも参加している。


 そして、私は彼女のことを友人として好きだ。


 レイのことも今まで政務に携わったことがないのに、様々な人達の手を借りてエタセルや民のために毎日執務を行なっているから尊敬している。。


「誰にも負けたくない。特に君が一番頼っているライナス様には。ティア、エタセルの王妃になってくれないか?」





しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。