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第一夜『星巡りの夜』
其之十四:受取人の行方①
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「「お」の二番を確認。正常に稼働しているようです。………妙ですね」
「ほ~んと、おっかしいねェ?どーやってここまで戻ってきたのかなァ~?まァ探す手間が省けたけどォ」
着物の裾を靡かせて、まるで天人が舞い降りるかのように、二人の人影はふわりと瓦礫の山から飛び降りてきた。
距離が近くなったことで闇の中でも二人の姿が少しだけ見えてきた。どうやら若い男女のようだ。女性は髪も甲冑も真っ白で袴姿に刀を差し、男性は長い外套姿で腰の左右におそらく銃のようなものを下げている。
───間違いない。この二人も、ドールだ。
「…捜索の網にも掛からずに西の非常線に突然現れたという事は、『完全隠形』を使用してここまで来たという事。つまり何者かの手によって「お」の二番のスリープが解除され、設定通り通常モードに移行したという事です。塗雲さん、どうやら七分三厘の事態です。明らかに第三者が関与しています」
「いやァ?これは全く想定外だよォ。ただの第三者じゃない、八割九分で新規に寓主が登録されてるねェ~」
「あり得ませぬ。「お」の二番の『新血契』は特に成立条件が厳しく、外部での新規登録はほぼ不可能です。偶発的に儀式が行われたとしても、寓主候補として予め登録されたIDでなければエラーとなりましょう」
「でもここに戻って来たって事はァ、第二寓主の指示により行動制限が解除されたって事でしょォ?」
「とすれば厄介ですね。仮にその第二寓主が我々と異なる勢力の者である場合、「お」の二番が我々の指示に従わない恐れがあります」
(………ええっと…)
突然現れたよく分からない人たちが、よく分からない専門用語で、よく分からない話をしている。どうやら『「お」の二番』というのは綺也さまの事であるらしい、ということは辛うじて分かったけれど。
───これ、あたし関係ないよね?別に聞いてなくてもいいよね…?
困惑しきりなあたしの横で、綺也さまが口を開いた。
「…まさかそなた達が出てこようとはな」
「ええ。現在わたくし達が『氷棺作戦』を遂行中です。既に準備は整いました。…この意味が分かりますね」
「……………」
分かりますね、と言われても勿論あたしには分からないわけだけど、綺也さまは分かっているらしい。まずは一つ一つ順を追って理解していこうと、敢えて空気を読まずに尋ねてみることにした。
「綺也さま…えーと、あちらもドールよね?お知り合い?」
「…『塗雲 煌兵衛』と『降星 彗光』。サムライドール…俺と同じモノだ」
「てことは、お仲間?」
「………さて」
綺也さまはドールには珍しく不明瞭な返事をした。左目の光が細かく点滅しているので、綺也さまもまだ相手の出方を見極めようとしているところなのかもしれない。少なくとも明確に味方というわけではなさそうだ。事実、この緊迫した空気はただ事じゃない。
「…太一さまはどこだ」
少しのにらみ合いの後、綺也さまが再び口を開いた。
「…スリープ状態から目覚めてから、ずっとお捜ししている。しかし反応が見当たらぬ。まさかそなた達は、太一さまを」
「落ち着きなよ~ォ。天岐多様はちゃんと生きておられるさァ。…まァ、残念ながら無事とは言い難いけどねェ」
───(天岐多様が、生きている!?)
では火災から逃れることが出来たのだろうか。しかし重傷を負った、そういうことだろうか。
何とか事態を理解しようと、3人の会話を聞き取ることに集中することにした。
「天岐多様の持っておられる寓主徽章は、日没前に機能停止したことを確認しました。…あの中では無理もないでしょう」
「…そうか。では答えろ。太一さまはどこにおられる。俺はそなた達にそれを聞くためにここへ来た」
「え。そうなの!?」
天岐多様に会うという目的は変わらないにしろ、仲介人を挟むとは初耳だ。予想外の事実に呆気にとられるあたしを置いてけぼりにして、どんどん話は進んでいく。
「天岐多様は昨夜の氷棺作戦において、『あれ』とともにわたくし達が保護しました。つまり、「お」の二番。あなたに出来ることはもう無いという事です」
「……………」
「わたくし達は現在、二つのお役目を授かっています。一つは氷棺作戦の遂行、もう一つは「お」の二番、あなたの回収です。速やかに『人形箱』に戻り、此度の失態を真主へ自訴なさい」
「拒否する。太一さまはどこだ」
綺也さまはきっぱりと断った。
「グランドマスター」…また新しい専門用語が出てきた。マスターというからには主君なのだろうけど、綺也さまのご主人様は天岐多様の筈だ。でも綺也さまが拒んでるということは、グランドマスターというのは天岐多様の事ではないらしい。
「…きりがありませんね」
「会ってどうするって言うのさァ?いいから大人しく人形箱に戻りなよォ。どうせ天岐多様はもォ…」
「…太一さまを、『あれ』からお救いする」
…どうも話がややこし過ぎて全く理解が追い付かない。取り合えずぼんやりと分かってきたことをまとめると…。
まず、天岐多様は生きている。でも『あれ』なるもののせいで、とても危険な状態にある。
綺也さまは天岐多様を捜しているが、居場所が分からない。
どうやらこの二人が天岐多様を保護しており、綺也さまはその居場所を聞くためにこの場所に戻りたかった。
でも二人には教える気はなく、大人しく『グランドマスター』のいる『人形箱』という場所に帰れという。
綺也さまとこの二人の関係性は、同じ『サムライドール』であるという事以外分からない。
…まとめても、『あれ』だの『氷棺』だのマスターなんちゃらだの、分からないことだらけだ。
でも一つだけ分かっていることは──綺也さまはただ、大好きな天岐多様のところに帰りたいのだ。
「「お」の二番。それはつまり…」
しかし白い女剣士が次に発した言葉は、その唯一の確信にヒビを入れるものだった。
「あなたはもしや──天岐多様を斬るつもりなのですか?」
「ほ~んと、おっかしいねェ?どーやってここまで戻ってきたのかなァ~?まァ探す手間が省けたけどォ」
着物の裾を靡かせて、まるで天人が舞い降りるかのように、二人の人影はふわりと瓦礫の山から飛び降りてきた。
距離が近くなったことで闇の中でも二人の姿が少しだけ見えてきた。どうやら若い男女のようだ。女性は髪も甲冑も真っ白で袴姿に刀を差し、男性は長い外套姿で腰の左右におそらく銃のようなものを下げている。
───間違いない。この二人も、ドールだ。
「…捜索の網にも掛からずに西の非常線に突然現れたという事は、『完全隠形』を使用してここまで来たという事。つまり何者かの手によって「お」の二番のスリープが解除され、設定通り通常モードに移行したという事です。塗雲さん、どうやら七分三厘の事態です。明らかに第三者が関与しています」
「いやァ?これは全く想定外だよォ。ただの第三者じゃない、八割九分で新規に寓主が登録されてるねェ~」
「あり得ませぬ。「お」の二番の『新血契』は特に成立条件が厳しく、外部での新規登録はほぼ不可能です。偶発的に儀式が行われたとしても、寓主候補として予め登録されたIDでなければエラーとなりましょう」
「でもここに戻って来たって事はァ、第二寓主の指示により行動制限が解除されたって事でしょォ?」
「とすれば厄介ですね。仮にその第二寓主が我々と異なる勢力の者である場合、「お」の二番が我々の指示に従わない恐れがあります」
(………ええっと…)
突然現れたよく分からない人たちが、よく分からない専門用語で、よく分からない話をしている。どうやら『「お」の二番』というのは綺也さまの事であるらしい、ということは辛うじて分かったけれど。
───これ、あたし関係ないよね?別に聞いてなくてもいいよね…?
困惑しきりなあたしの横で、綺也さまが口を開いた。
「…まさかそなた達が出てこようとはな」
「ええ。現在わたくし達が『氷棺作戦』を遂行中です。既に準備は整いました。…この意味が分かりますね」
「……………」
分かりますね、と言われても勿論あたしには分からないわけだけど、綺也さまは分かっているらしい。まずは一つ一つ順を追って理解していこうと、敢えて空気を読まずに尋ねてみることにした。
「綺也さま…えーと、あちらもドールよね?お知り合い?」
「…『塗雲 煌兵衛』と『降星 彗光』。サムライドール…俺と同じモノだ」
「てことは、お仲間?」
「………さて」
綺也さまはドールには珍しく不明瞭な返事をした。左目の光が細かく点滅しているので、綺也さまもまだ相手の出方を見極めようとしているところなのかもしれない。少なくとも明確に味方というわけではなさそうだ。事実、この緊迫した空気はただ事じゃない。
「…太一さまはどこだ」
少しのにらみ合いの後、綺也さまが再び口を開いた。
「…スリープ状態から目覚めてから、ずっとお捜ししている。しかし反応が見当たらぬ。まさかそなた達は、太一さまを」
「落ち着きなよ~ォ。天岐多様はちゃんと生きておられるさァ。…まァ、残念ながら無事とは言い難いけどねェ」
───(天岐多様が、生きている!?)
では火災から逃れることが出来たのだろうか。しかし重傷を負った、そういうことだろうか。
何とか事態を理解しようと、3人の会話を聞き取ることに集中することにした。
「天岐多様の持っておられる寓主徽章は、日没前に機能停止したことを確認しました。…あの中では無理もないでしょう」
「…そうか。では答えろ。太一さまはどこにおられる。俺はそなた達にそれを聞くためにここへ来た」
「え。そうなの!?」
天岐多様に会うという目的は変わらないにしろ、仲介人を挟むとは初耳だ。予想外の事実に呆気にとられるあたしを置いてけぼりにして、どんどん話は進んでいく。
「天岐多様は昨夜の氷棺作戦において、『あれ』とともにわたくし達が保護しました。つまり、「お」の二番。あなたに出来ることはもう無いという事です」
「……………」
「わたくし達は現在、二つのお役目を授かっています。一つは氷棺作戦の遂行、もう一つは「お」の二番、あなたの回収です。速やかに『人形箱』に戻り、此度の失態を真主へ自訴なさい」
「拒否する。太一さまはどこだ」
綺也さまはきっぱりと断った。
「グランドマスター」…また新しい専門用語が出てきた。マスターというからには主君なのだろうけど、綺也さまのご主人様は天岐多様の筈だ。でも綺也さまが拒んでるということは、グランドマスターというのは天岐多様の事ではないらしい。
「…きりがありませんね」
「会ってどうするって言うのさァ?いいから大人しく人形箱に戻りなよォ。どうせ天岐多様はもォ…」
「…太一さまを、『あれ』からお救いする」
…どうも話がややこし過ぎて全く理解が追い付かない。取り合えずぼんやりと分かってきたことをまとめると…。
まず、天岐多様は生きている。でも『あれ』なるもののせいで、とても危険な状態にある。
綺也さまは天岐多様を捜しているが、居場所が分からない。
どうやらこの二人が天岐多様を保護しており、綺也さまはその居場所を聞くためにこの場所に戻りたかった。
でも二人には教える気はなく、大人しく『グランドマスター』のいる『人形箱』という場所に帰れという。
綺也さまとこの二人の関係性は、同じ『サムライドール』であるという事以外分からない。
…まとめても、『あれ』だの『氷棺』だのマスターなんちゃらだの、分からないことだらけだ。
でも一つだけ分かっていることは──綺也さまはただ、大好きな天岐多様のところに帰りたいのだ。
「「お」の二番。それはつまり…」
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