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王族の奥方探し
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声が聞こえる。
お前は何処にいるのかと言う、声が聞こえる。
俺は耳がいい。だから普通の人が聞こえない様な事でも聞こえたりする。
だが、今は夢の中。その声は何処から聞こえるものなのか分からない。
貴方は何処から俺を探しているのですか?
目を開けると、太陽の光が見えた。
もう、朝の様だ。今日も顔を洗って畑の作物の世話をしないといけない。
そう思って、庭に出ると近所の男性がそこに立っていた。
「シフさん、どうしたんですか?」
「実はとうとう俺達の番が来たんだよ!」
「俺達の番とは?」
俺は突然の喜びの顔に驚いた。ここまで喜んでいるシフは初めて見る。
「イズ君はしらないと思ったから今日は朝から待っていたんだよ。この国の王族の事は知っているよね?」
「はい、とても出来た方だと聞きます。頭もよく運動神経もよく外見も美しいとか」
「そう、そうなんだよ」
だから、なんだと言うのだろうか?
俺が疑問に思っている事をやっとシフさんは教えてくれた。
「その王族の奥方探しの順番がこの村にも来たんだよ!」
「……え?」
王族は男としか結婚しないという、なんとも恐ろしい考えをお持ちな美男子ばかりだと聞く。周りの世話係も男、料理人も友人も愛する人も男なのだ。何故、女性ではないのかと言うと、何故か女性には興味を持てないとしか俺は知らない。この世には女性と男性が居るのに男性同士でしか恋をしないのは勿体ないと思うのは俺だけだろうか?
きっと、女性を見たら目が覚めると思うが。王族は美形ばかりなので美しいものは見慣れているだろう。女性の癒しを知らないのは勿体としか思わない。しかし、王族は男の中で自分と似た匂いの者を生涯の伴侶にすると聞く。お香などのつけている匂いではなく、本人から出てきている匂い、体臭で相手を選ぶらしい。だから、いくらいい匂いのお香を用意しても、駄目らしい。
【お前は何処にいる?】
毎日、毎日、見ていた夢はこの王族の奥方探しを予兆していたのかもしれない。
まぁ、俺が選ばれる事はないだろうと思っている。
「結婚していない独身男性だけが呼ばれる、大きなテントが今は準備されている。そこに一人一人入って、王族の匂いに詳しい匂士(においし)が俺達の匂いを嗅ぐんだ。匂士は王族の好きな好ましい匂いを知っているからな」
「そうなんですか。まぁ、行くだけ無駄だと思いますが」
「そうか? まぁ、それでも出ないと王命だから無下に出来ないし、夕方位にまた呼びに来るから、それまで準備しておいてくれ」
「分かりました」
「うん、じゃあな!」
シフさんは身寄りのない俺に今でも親切にしてくれる優しい人だ。俺はこの村に住む子のいない夫婦に育てられた。山に捨てられていた俺を育ててくれた。二人とも優しくて出来た両親だった。だが、俺と髪の色が違いそれを聞くと俺と血縁関係はないと言われた。そのあとだった。二人が土砂崩れで亡くなったのは。それからも、二人の住んでいた村に俺は住んでいた。今さら自分が何処の誰かなんて関係ないと思っていた。だから、この町で静かに過ごせればいいと思っていたんだ。
さて、今日の野菜は何が育っているかな?
「イビョン様、テントの準備が出来ました!」
「分かりました、ではこの町の男性に来てもらってください」
イビョンがそう部下に声をかけると、テントの中に入って風通しの良さを確認して椅子に座った。今回の役目はとても重要だと思っている。王族の方々の結婚率の低さをなんとかするためのものだ。王族の方々は鼻がよく、自分の好きな匂いのものを傍に置く。だが、その匂いが好きだと言う人間を調べてみると、王族の人間と血縁関係にあるのだと知る。そう、今回の役目はまだ見知らぬ王族を探し出す事だ。この村にいるとも思えないが、一応探してみる方がいいだろう。何処で何が起きているのかなど分からないのだから。この村の独身男性は15人と聞く。匂いを嗅ぐだけなので、すぐに終わってこの村を出ていかないといけないな。一人一人の個人情報を見てみる。一人だけ、出生の分かっていない男がいた。その男は子供のいない両親に育てられて、その両親に先立たれているという情報だった。一番最後に順番が来るようになっている。夕刻位だろうか、その男の匂いを嗅ぐのは。今は昼を過ぎた所だ。どのような者だろうか?
「今日も豊作だな、ありがとうございます!」
イズは広い畑で仕事をしていた。そして空に向かって喜びをあらわしていた。
今日も豊作で嬉しい事だ。村の人たちにまた野菜を差し入れ出来る。皆の畑は動物に荒らされて酷い事になっていたが、俺の畑だけは無事だった。これも、きっと俺の夜の願いが神様に伝わっているからだな。そう、今夜も獣たちに荒らされませんようにって! あぁ、ありがとうございます! 今日も、皆に腹いっぱい食べて貰えますね。俺は鼻歌を歌いながら野菜を採っていた。形は悪いが味は美味しいと近くのお婆ちゃんに褒められた。他にも、たくさんの野菜に目を輝かせて見てくる子供たち。育ち盛りな子が多い。たくさんとってやってたくさん食わせてやるぞ!
「イズ、顔が泥だけだよ」
「アキナ、どうしたんだよ?」
「わ、私も野菜の様子を見に来たのよ! 駄目だった?」
そう言って、アキナは野菜に優しい眼差しを向けてくる。
アキナは村一番の美人で気立てが良く優しい子だ。家が近所なのでよく、俺の野菜の収穫に付き合ってくれるいい子なのだ。
「いや、今日はちょっと途中で抜けないといけないから助かるよ」
「あぁ、あの王族の奥方探し?」
「奥方って……そういう関係になるのか? なんか、緊張してくるな」
「そんなに緊張しなくても選ばれないって、大丈夫だって!」
俺は野菜を手にとってプチプチととっていく。アキナも汗をかきながらとっていく。
「今日も豊作ね。他の家の畑は駄目だったわ」
「そうか、なら俺が頑張って育ててこの町の皆を腹いっぱいにしてやるよ!」
「頼もしいわね……ねぇ、イズ?」
「なんだ?」
アキナがこちらをチラリと見て髪を見せてくる。
「このリボンは似合っている?」
アキナの髪には青色のリボンがつけてあった。俺はそれを見てニコリと笑う。
「あぁ、似合っているよ」
「ほ、本当!」
【ほ、本当か! 俺にこの青色は似合うか?】
えっ……? 男の子の声?
頭がグラリと傾くほどガンガンして痛い。
「……っ!」
「大丈夫? イズ、また頭痛?」
「だ、だいじょう……ぶ、いつもの頭痛だよ」
なんとか倒れる前に足を一歩出して倒れるのを防いだ。
「男の子の声が聞こえて痛くなる頭痛って一体? イズの過去の忘れる前の記憶かな? 思い出そうとして痛いんじゃ?」
「過去の自分なんて俺はいらない。この村に俺は、住んでいきたいから」
「けど、本当のお父さんやお母さんが探していると思う」
「いいんだよ、俺の母さんと父さんは亡くなったあの二人だ。忘れた過去の事なんて、思い出さないんだから、どうって事ないんだよ。さぁ、手を動かそうぜ」
「あ、うん。無理しないで」
「ありがとうな、アキナ」
俺は苦笑して、野菜に視線を向けてプチプチと収穫していく。
そして、夕刻になりそうなのでアキナとは別れて、川で水浴びをして服を綺麗なものに変えて、シフさんが呼びに来るのを待っていた。
扉をコンコンと叩く音がする。俺は立ち上がり、家の扉を開けた。
「さぁ、俺達の番が来たぞ」
「あぁ、シフさん。この恰好でいいかな?」
俺は服を見て貰った。シフさんは見てから頷いた。
「いつもよりもいい服だし、大丈夫だよ」
「ありがとう」
俺は安心して服を見た。
家の扉を閉めて、村の中央にシフさんと向かっていった。
「今日も、野菜のおすそ分けありがとうな。村の皆の分なんて育てていて凄いな」
「無駄に広い畑のおかげだよ」
「そうか。しかし、なんでお前の畑だけは無事なんだろうな?」
「そうですね、なんででしょう?」
その疑問を俺は笑顔でかわした。自分にしか出来ない方法なので町の人には内緒にしているのだ。
村の中央に向かって歩いていると、大きなテントが見えた。周りには兵隊が立っている。
これは大掛かりな事だなと、俺は緊張してきた。匂士という特殊な訓練をした人間が俺達の匂いを嗅ぐだけ。なんとも、変な取り調べだ。まぁ、王族の好みの匂いを知っているのはその人達だけで、王族がわざわざ来たら町がパニックになるからいいけど。
一歩、一歩、テントに近付くとテントの入り口の前に立っている兵士に声をかけられる。
「まずは、シフ。お前から中で待っている匂士のイビョン様に匂いを嗅いで貰え」
「はい、じゃっ、またなイズ」
「はい、シフさん」
テントの中に入っていくシフさん。
俺はドキドキと緊張しながら順番を待った。
「次の者を呼べ」
テントの中から声がした。兵士は「イズ。さっき聞いた通りだ。中に入れ」と言われた。
「はい」
俺はそう返事をしてテントの中に入った。
テントの中央に男が一人座っている。その両隣にはこの国で有名な戦士が、いや従者が二人立っていた。王族の身の周りの事や王族の望む事を叶えるという、戦えば最強の従者。名を「櫻」というらしい。この漢字の名を使えるのはこの世の中で王族と王族に許された者のみという有難い文字らしい。櫻たちは唯一、王族が漢字を使う事を許した民族だ。櫻の樹と同じ色のピンク色の服を着ている。
「イズと言ったか、近くに来て匂いをかがせて……っ!」
椅子に座っていた男が突然、俺の顔を見たら顔色を変えて立ちあがり、早歩きで近付いて来る。
「嘘だ、死んだと思っていたのに……生きていた? いや、匂いだ!」
男は俺の首もとで鼻をならす。
すーっうと息の音がする。
男が匂いを嗅ぐと、俺の前にひれ伏した。そして、そっと頭をあげて言葉を発した。
「よくぞ、生きておられて、このイビョン、嬉しく思います。「蒼(そう)様」」
蒼? 聞きなれない言葉のイントネーションで言われて顔が強張る。
「イビョン様、真にこの方が行方不明になっていた王族の子か?」
「はい、匂いが「紅玉(こうぎょく)様」と似た匂いなのが確かです!」
「なんと、なんと!」
そう言って、櫻の方々まで俺に跪いてきた。
「よくぞ、生きていて下さいました! 蒼様!」
「すぐに、国王に文を出さねば! 早馬で届けろ!」
「あの、あの、俺は」
なんだ、なんなんだ? この騒ぎは? 蒼様って誰だ?
「蒼様、どうぞお座り下さい」
そう言って、イビョン様は俺に椅子を用意して座らそうとするが俺はその手を振り払う。
「あの、人違いではないですか? 俺はイズですが?」
「いえ、この私が間違える筈がありません。貴方からは、婚約者だった紅玉様と似た匂いがします。貴方は確か山から助け出されたと、その時から過去の記憶がないと」
なんでそんな事まで知っているのか?
「はい、そうですが……いやいや、俺が王族のはずがないですよ。だって、外見が凡人なんだから、俺よりもカッコいい美形な男なら他にいくらでもいます」
「たまにあるんですよ。一般人に子を成してしまう王族の方が。その子供は外見は普通ですが、王族と力が違うんです。王族は匂いだけに特化して産まれますが、王族と一般人から出来た子は神からの祝福で五感の内の嗅覚以外のどれかがとても優れています。どうやら、貴方は野生の獣が近づくと追い払って畑を守っている様ですね?」
「それが、なんだっていうんだ?」
まさか、俺が耳がいいのも知っている?
「獣は音にも匂いにも敏感だ。貴方はどうやら、耳が良いみたいだ。蒼様も耳がとてもいい方だった。だが、幼い頃に他の国の者に攫われて見つからなかった。年は幾つですか?」
「知らない、俺は産まれた日も知らない」
俺が王族のわけがない。だって、だって、俺は。
「見た感じでは、紅玉様と一緒の年に見える。貴方はその耳で畑に近付く獣から畑を守っていたんですね。蒼様もよく薬草に興味を持たれていた」
「俺は、違う。そんな事……」
やめてくれ、俺はイズだ! 蒼様なんてそんな訳ない!
「私の間違いでなければ、貴方様は紅玉様の婚約者の蒼様ですよ。今は過去を記憶喪失でなくされていますが、紅玉様の婚約者なのですよ」
「おいおい、冗談だよな?」
俺が王族だって? 王族に婚約者とか、嘘だろ?
「さぁ、王都に戻りましょう。蒼様」
「俺は行かない! だって、俺の村は、暮らしているのは此処なんだから!」
過去になんて俺は興味がない! もし、俺が王族でも、俺はこの町が好きだ。離れたくない! もし、離れてしまったら此処の町の人たちの食いぶちが無くなってしまう。そんな事はさせない!
「俺はこの村から出る気はない!」
「そうですか……、それは申し訳ありません。先に謝っておきます」
「えっ……?」
ふわりと甘い匂いが鼻をかすめた。その匂いを嗅いでいると瞼が重くなっていく。
「次に目を覚ましたら、王都です。蒼様、おやすみなさい」
「お、まえ……」
蒼様は特製の睡眠作用のある小瓶に入った液体の匂いで深い眠りに入られた。すぐに小瓶に蓋をして蒼様の身体を抱きとめた。
「あんなにお小さかったのに、こんな大きくなられて、イビョンは嬉しいです」
「イビョン様、直ぐにでも此処を離れる準備は出来ています。馬車にお乗りください」
そう言って、櫻の民の一人の水明(すいめい)が馬車まで案内してくれた。
「ありがとう、水明さん。まさか、蒼様がみつかるなんて、紅玉様の喜ぶ顔が浮かびます」
「そうですね、ですが記憶喪失とは。おいたわしい」
「王族の方々と暮らしていけば、きっと記憶もお戻りになるでしょうね」
「そうでしょうね。そうだと嬉しい限りです」
水明さんも嬉しそうに蒼様を見つめている。
馬車に乗ると、私の膝に蒼様の頭をおいて寝かし、私の前に水明さんが座って馬車は動き出す。ガラガラとゆっくりと王都に今から向かえば、二日で着くでしょう。
「国王様に早馬は出されましたか?」
「はい、既に」
「水明さん、護衛宜しくお願いします」
「命に代えましても、必ず蒼様を無事に国王と王族方の元に」
馬車はゆっくりと王都に向かっていったのだった。
お前は何処にいるのかと言う、声が聞こえる。
俺は耳がいい。だから普通の人が聞こえない様な事でも聞こえたりする。
だが、今は夢の中。その声は何処から聞こえるものなのか分からない。
貴方は何処から俺を探しているのですか?
目を開けると、太陽の光が見えた。
もう、朝の様だ。今日も顔を洗って畑の作物の世話をしないといけない。
そう思って、庭に出ると近所の男性がそこに立っていた。
「シフさん、どうしたんですか?」
「実はとうとう俺達の番が来たんだよ!」
「俺達の番とは?」
俺は突然の喜びの顔に驚いた。ここまで喜んでいるシフは初めて見る。
「イズ君はしらないと思ったから今日は朝から待っていたんだよ。この国の王族の事は知っているよね?」
「はい、とても出来た方だと聞きます。頭もよく運動神経もよく外見も美しいとか」
「そう、そうなんだよ」
だから、なんだと言うのだろうか?
俺が疑問に思っている事をやっとシフさんは教えてくれた。
「その王族の奥方探しの順番がこの村にも来たんだよ!」
「……え?」
王族は男としか結婚しないという、なんとも恐ろしい考えをお持ちな美男子ばかりだと聞く。周りの世話係も男、料理人も友人も愛する人も男なのだ。何故、女性ではないのかと言うと、何故か女性には興味を持てないとしか俺は知らない。この世には女性と男性が居るのに男性同士でしか恋をしないのは勿体ないと思うのは俺だけだろうか?
きっと、女性を見たら目が覚めると思うが。王族は美形ばかりなので美しいものは見慣れているだろう。女性の癒しを知らないのは勿体としか思わない。しかし、王族は男の中で自分と似た匂いの者を生涯の伴侶にすると聞く。お香などのつけている匂いではなく、本人から出てきている匂い、体臭で相手を選ぶらしい。だから、いくらいい匂いのお香を用意しても、駄目らしい。
【お前は何処にいる?】
毎日、毎日、見ていた夢はこの王族の奥方探しを予兆していたのかもしれない。
まぁ、俺が選ばれる事はないだろうと思っている。
「結婚していない独身男性だけが呼ばれる、大きなテントが今は準備されている。そこに一人一人入って、王族の匂いに詳しい匂士(においし)が俺達の匂いを嗅ぐんだ。匂士は王族の好きな好ましい匂いを知っているからな」
「そうなんですか。まぁ、行くだけ無駄だと思いますが」
「そうか? まぁ、それでも出ないと王命だから無下に出来ないし、夕方位にまた呼びに来るから、それまで準備しておいてくれ」
「分かりました」
「うん、じゃあな!」
シフさんは身寄りのない俺に今でも親切にしてくれる優しい人だ。俺はこの村に住む子のいない夫婦に育てられた。山に捨てられていた俺を育ててくれた。二人とも優しくて出来た両親だった。だが、俺と髪の色が違いそれを聞くと俺と血縁関係はないと言われた。そのあとだった。二人が土砂崩れで亡くなったのは。それからも、二人の住んでいた村に俺は住んでいた。今さら自分が何処の誰かなんて関係ないと思っていた。だから、この町で静かに過ごせればいいと思っていたんだ。
さて、今日の野菜は何が育っているかな?
「イビョン様、テントの準備が出来ました!」
「分かりました、ではこの町の男性に来てもらってください」
イビョンがそう部下に声をかけると、テントの中に入って風通しの良さを確認して椅子に座った。今回の役目はとても重要だと思っている。王族の方々の結婚率の低さをなんとかするためのものだ。王族の方々は鼻がよく、自分の好きな匂いのものを傍に置く。だが、その匂いが好きだと言う人間を調べてみると、王族の人間と血縁関係にあるのだと知る。そう、今回の役目はまだ見知らぬ王族を探し出す事だ。この村にいるとも思えないが、一応探してみる方がいいだろう。何処で何が起きているのかなど分からないのだから。この村の独身男性は15人と聞く。匂いを嗅ぐだけなので、すぐに終わってこの村を出ていかないといけないな。一人一人の個人情報を見てみる。一人だけ、出生の分かっていない男がいた。その男は子供のいない両親に育てられて、その両親に先立たれているという情報だった。一番最後に順番が来るようになっている。夕刻位だろうか、その男の匂いを嗅ぐのは。今は昼を過ぎた所だ。どのような者だろうか?
「今日も豊作だな、ありがとうございます!」
イズは広い畑で仕事をしていた。そして空に向かって喜びをあらわしていた。
今日も豊作で嬉しい事だ。村の人たちにまた野菜を差し入れ出来る。皆の畑は動物に荒らされて酷い事になっていたが、俺の畑だけは無事だった。これも、きっと俺の夜の願いが神様に伝わっているからだな。そう、今夜も獣たちに荒らされませんようにって! あぁ、ありがとうございます! 今日も、皆に腹いっぱい食べて貰えますね。俺は鼻歌を歌いながら野菜を採っていた。形は悪いが味は美味しいと近くのお婆ちゃんに褒められた。他にも、たくさんの野菜に目を輝かせて見てくる子供たち。育ち盛りな子が多い。たくさんとってやってたくさん食わせてやるぞ!
「イズ、顔が泥だけだよ」
「アキナ、どうしたんだよ?」
「わ、私も野菜の様子を見に来たのよ! 駄目だった?」
そう言って、アキナは野菜に優しい眼差しを向けてくる。
アキナは村一番の美人で気立てが良く優しい子だ。家が近所なのでよく、俺の野菜の収穫に付き合ってくれるいい子なのだ。
「いや、今日はちょっと途中で抜けないといけないから助かるよ」
「あぁ、あの王族の奥方探し?」
「奥方って……そういう関係になるのか? なんか、緊張してくるな」
「そんなに緊張しなくても選ばれないって、大丈夫だって!」
俺は野菜を手にとってプチプチととっていく。アキナも汗をかきながらとっていく。
「今日も豊作ね。他の家の畑は駄目だったわ」
「そうか、なら俺が頑張って育ててこの町の皆を腹いっぱいにしてやるよ!」
「頼もしいわね……ねぇ、イズ?」
「なんだ?」
アキナがこちらをチラリと見て髪を見せてくる。
「このリボンは似合っている?」
アキナの髪には青色のリボンがつけてあった。俺はそれを見てニコリと笑う。
「あぁ、似合っているよ」
「ほ、本当!」
【ほ、本当か! 俺にこの青色は似合うか?】
えっ……? 男の子の声?
頭がグラリと傾くほどガンガンして痛い。
「……っ!」
「大丈夫? イズ、また頭痛?」
「だ、だいじょう……ぶ、いつもの頭痛だよ」
なんとか倒れる前に足を一歩出して倒れるのを防いだ。
「男の子の声が聞こえて痛くなる頭痛って一体? イズの過去の忘れる前の記憶かな? 思い出そうとして痛いんじゃ?」
「過去の自分なんて俺はいらない。この村に俺は、住んでいきたいから」
「けど、本当のお父さんやお母さんが探していると思う」
「いいんだよ、俺の母さんと父さんは亡くなったあの二人だ。忘れた過去の事なんて、思い出さないんだから、どうって事ないんだよ。さぁ、手を動かそうぜ」
「あ、うん。無理しないで」
「ありがとうな、アキナ」
俺は苦笑して、野菜に視線を向けてプチプチと収穫していく。
そして、夕刻になりそうなのでアキナとは別れて、川で水浴びをして服を綺麗なものに変えて、シフさんが呼びに来るのを待っていた。
扉をコンコンと叩く音がする。俺は立ち上がり、家の扉を開けた。
「さぁ、俺達の番が来たぞ」
「あぁ、シフさん。この恰好でいいかな?」
俺は服を見て貰った。シフさんは見てから頷いた。
「いつもよりもいい服だし、大丈夫だよ」
「ありがとう」
俺は安心して服を見た。
家の扉を閉めて、村の中央にシフさんと向かっていった。
「今日も、野菜のおすそ分けありがとうな。村の皆の分なんて育てていて凄いな」
「無駄に広い畑のおかげだよ」
「そうか。しかし、なんでお前の畑だけは無事なんだろうな?」
「そうですね、なんででしょう?」
その疑問を俺は笑顔でかわした。自分にしか出来ない方法なので町の人には内緒にしているのだ。
村の中央に向かって歩いていると、大きなテントが見えた。周りには兵隊が立っている。
これは大掛かりな事だなと、俺は緊張してきた。匂士という特殊な訓練をした人間が俺達の匂いを嗅ぐだけ。なんとも、変な取り調べだ。まぁ、王族の好みの匂いを知っているのはその人達だけで、王族がわざわざ来たら町がパニックになるからいいけど。
一歩、一歩、テントに近付くとテントの入り口の前に立っている兵士に声をかけられる。
「まずは、シフ。お前から中で待っている匂士のイビョン様に匂いを嗅いで貰え」
「はい、じゃっ、またなイズ」
「はい、シフさん」
テントの中に入っていくシフさん。
俺はドキドキと緊張しながら順番を待った。
「次の者を呼べ」
テントの中から声がした。兵士は「イズ。さっき聞いた通りだ。中に入れ」と言われた。
「はい」
俺はそう返事をしてテントの中に入った。
テントの中央に男が一人座っている。その両隣にはこの国で有名な戦士が、いや従者が二人立っていた。王族の身の周りの事や王族の望む事を叶えるという、戦えば最強の従者。名を「櫻」というらしい。この漢字の名を使えるのはこの世の中で王族と王族に許された者のみという有難い文字らしい。櫻たちは唯一、王族が漢字を使う事を許した民族だ。櫻の樹と同じ色のピンク色の服を着ている。
「イズと言ったか、近くに来て匂いをかがせて……っ!」
椅子に座っていた男が突然、俺の顔を見たら顔色を変えて立ちあがり、早歩きで近付いて来る。
「嘘だ、死んだと思っていたのに……生きていた? いや、匂いだ!」
男は俺の首もとで鼻をならす。
すーっうと息の音がする。
男が匂いを嗅ぐと、俺の前にひれ伏した。そして、そっと頭をあげて言葉を発した。
「よくぞ、生きておられて、このイビョン、嬉しく思います。「蒼(そう)様」」
蒼? 聞きなれない言葉のイントネーションで言われて顔が強張る。
「イビョン様、真にこの方が行方不明になっていた王族の子か?」
「はい、匂いが「紅玉(こうぎょく)様」と似た匂いなのが確かです!」
「なんと、なんと!」
そう言って、櫻の方々まで俺に跪いてきた。
「よくぞ、生きていて下さいました! 蒼様!」
「すぐに、国王に文を出さねば! 早馬で届けろ!」
「あの、あの、俺は」
なんだ、なんなんだ? この騒ぎは? 蒼様って誰だ?
「蒼様、どうぞお座り下さい」
そう言って、イビョン様は俺に椅子を用意して座らそうとするが俺はその手を振り払う。
「あの、人違いではないですか? 俺はイズですが?」
「いえ、この私が間違える筈がありません。貴方からは、婚約者だった紅玉様と似た匂いがします。貴方は確か山から助け出されたと、その時から過去の記憶がないと」
なんでそんな事まで知っているのか?
「はい、そうですが……いやいや、俺が王族のはずがないですよ。だって、外見が凡人なんだから、俺よりもカッコいい美形な男なら他にいくらでもいます」
「たまにあるんですよ。一般人に子を成してしまう王族の方が。その子供は外見は普通ですが、王族と力が違うんです。王族は匂いだけに特化して産まれますが、王族と一般人から出来た子は神からの祝福で五感の内の嗅覚以外のどれかがとても優れています。どうやら、貴方は野生の獣が近づくと追い払って畑を守っている様ですね?」
「それが、なんだっていうんだ?」
まさか、俺が耳がいいのも知っている?
「獣は音にも匂いにも敏感だ。貴方はどうやら、耳が良いみたいだ。蒼様も耳がとてもいい方だった。だが、幼い頃に他の国の者に攫われて見つからなかった。年は幾つですか?」
「知らない、俺は産まれた日も知らない」
俺が王族のわけがない。だって、だって、俺は。
「見た感じでは、紅玉様と一緒の年に見える。貴方はその耳で畑に近付く獣から畑を守っていたんですね。蒼様もよく薬草に興味を持たれていた」
「俺は、違う。そんな事……」
やめてくれ、俺はイズだ! 蒼様なんてそんな訳ない!
「私の間違いでなければ、貴方様は紅玉様の婚約者の蒼様ですよ。今は過去を記憶喪失でなくされていますが、紅玉様の婚約者なのですよ」
「おいおい、冗談だよな?」
俺が王族だって? 王族に婚約者とか、嘘だろ?
「さぁ、王都に戻りましょう。蒼様」
「俺は行かない! だって、俺の村は、暮らしているのは此処なんだから!」
過去になんて俺は興味がない! もし、俺が王族でも、俺はこの町が好きだ。離れたくない! もし、離れてしまったら此処の町の人たちの食いぶちが無くなってしまう。そんな事はさせない!
「俺はこの村から出る気はない!」
「そうですか……、それは申し訳ありません。先に謝っておきます」
「えっ……?」
ふわりと甘い匂いが鼻をかすめた。その匂いを嗅いでいると瞼が重くなっていく。
「次に目を覚ましたら、王都です。蒼様、おやすみなさい」
「お、まえ……」
蒼様は特製の睡眠作用のある小瓶に入った液体の匂いで深い眠りに入られた。すぐに小瓶に蓋をして蒼様の身体を抱きとめた。
「あんなにお小さかったのに、こんな大きくなられて、イビョンは嬉しいです」
「イビョン様、直ぐにでも此処を離れる準備は出来ています。馬車にお乗りください」
そう言って、櫻の民の一人の水明(すいめい)が馬車まで案内してくれた。
「ありがとう、水明さん。まさか、蒼様がみつかるなんて、紅玉様の喜ぶ顔が浮かびます」
「そうですね、ですが記憶喪失とは。おいたわしい」
「王族の方々と暮らしていけば、きっと記憶もお戻りになるでしょうね」
「そうでしょうね。そうだと嬉しい限りです」
水明さんも嬉しそうに蒼様を見つめている。
馬車に乗ると、私の膝に蒼様の頭をおいて寝かし、私の前に水明さんが座って馬車は動き出す。ガラガラとゆっくりと王都に今から向かえば、二日で着くでしょう。
「国王様に早馬は出されましたか?」
「はい、既に」
「水明さん、護衛宜しくお願いします」
「命に代えましても、必ず蒼様を無事に国王と王族方の元に」
馬車はゆっくりと王都に向かっていったのだった。
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前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
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