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嘘と真実
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暗闇の中で誰かが呼んでいた。何を言っているのか分からないけど、傍に居てほしいという事は理解が何故か出来た。夢だからだろうか、俺を呼んでいる声の主の顔がぼやけていて誰かは分からなかった。ただただ、寂しいという感情に囚われている様だった。俺は、そんな気持ちに囚われてほしくなかった。笑ってほしい。そう思ったのだ。声の主に手を伸ばすとふっと辺りは明るくなっていく。あぁ、夢から醒めるのだと分かった。
「あー、あの声の人は誰なんだろう?」
夢の中で出会った声の主が気になってしかたなかった。
だが、夢なので探し様がない。
俺はベッドから起きあがった。そして、この部屋に置いてあるクローゼットから服を選んで着替えた。時間を見ると朝食までまだ時間がある。さて何をしようかと思っていたら、部屋を二回ノックする音が響く。
「どうぞ」
俺が一言声をかけると、今まで女官が朝に顔を洗う桶を持ってきてくれたが、何故か身なりが良い男性が桶を持って入ってきた。
「蒼様、おはようございます」
「あぁ、おはよう。あの、いつもの女官さんは?」
何かあったのかと思い俺は疑問に思っている事を聞いた。
それを聞いて、男性が説明をしてくれた。
「あの女官は蒼様の正式なお世話担当が決まるまでの繋ぎで働いて頂きました。今日から私、櫻の民である「鏡(きょう)」が担当させて頂きます。宜しくお願い致します」
鏡は綺麗な礼を俺に向けた後に、もっていた桶を机の上に置いた。
「今日は肌に良い、つるつるになる薬草を配合したお湯で顔を洗って頂きます」
顔を洗うお湯には毎日違った薬草や液体の薬などを配合している。どうやら美を意識してほしいらしい。正直、俺は外見が平凡だ。今更、美意識を持てと言われても困ってしまう。だが、周りが美しすぎて美意識は無いよりはあった方がいいとも思った。
「あのさ、今まで世話をしてくれた女官さんにお礼を言いたいんですけど、会えないかな?」
俺がそう顔を洗ってタオルで顔を拭きながら言うと、鏡は笑顔でいた顔の表情を困惑したものに変えた。
「それは、その女官が気に入ったので傍に置きたいと?」
「いや、純粋に助かったらお礼を言いたいんだけど」
「いいのですよ。我らは王族の方々の生活をお手伝いするためにいますので、わざわざ蒼様が労いの言葉をかけなくてもいいのです。王族は王族であるだけで我らは幸せで嬉しいのですから」
「いや、でも……、人としてさー……ありがとうって言いたかった」
「……本当に女官に恋はしていませんね?」
「え? もってないけど……えっと何でそんな事を聞くの?」
鏡は苦笑して俺を見てきた。
「それは、紅玉様が好きな方である蒼様が女を好きになったら、その女の方は紅玉様に殺されてしまいますからね。紅玉様は良く勘違いされやすいのですが、蒼様への溺愛ぶりは凄いですから」
「あのさ、緑華から聞いたんだけど。紅玉は俺の頭脳をかって婚約者にしたんだよな? 本当に恋愛的に俺を好きで、婚約者にしてないよな?」
俺は心からの疑問を鏡に聞いた。鏡はため息を吐いた。これは、そうなのか、違うのか分からない反応だな。俺はじっと鏡の言葉を待った。鏡はゆっくりと話し出す。
「私は櫻の幹部候補ですので、紅玉様にも尽くしていた時期がありますが、王族にも他の方々も紅玉様を勘違いされている。紅玉様は、人に縛られるのが嫌い方です。例え、婚約者を作れと王に直々に言われても自分の自由な時間を割いてまで作るのは嫌がる方でした。ですが、ある日突然、剣の修練に魔法や帝王学の勉学などに励むようになりました。紅玉様にその時の家庭教師が聞いたのです。「何かありましたか?」と、紅玉様はこう言ったそうです。「幸せにしたい者が出来た」と、その者を娶るために紅玉様は必死に勉学し修練し、自分を高みに上げました。その幸せにしたい者が蒼様、なのですよ。王族同士で結婚は出来ますが、相手を選ぶのはお互いの了承あっての事です。紅玉様は蒼様の素晴らしさに気づくと、他の者に盗られないように早く手中におさめたくて脅して婚約者にしました。蒼様は覚えてはいないのですがね。紅玉様は本当の自分が惚れている理由を知られたくなくて嘘を周りに風潮しました。そうしたら、結婚できる上に、蒼様の素敵な一面を知るライバルも現れなくて、一石二鳥という事らしいです。頭がいいから婚約者にしたというのは嘘の方の理由です」
「けど、俺ってば、偉そうで特に何もいいところなかったんじゃ?」
鏡はふふっと小さく笑って、温かいお茶を用意して机の上から桶をどかしてお茶の入ったカップを置いた。一口飲むと美味しく、喉が潤う。
「はい、蒼様も勘違いされやすい方でした。裏で努力する、努力家だと知っている方は数名程度ですからね」
「努力家か」
「はい、そしてツンデレだったので心配している事を素直に話せなくて、勘違いされる一方でしたが、友や婚約者に恵まれて幸せだったと思います」
「……脅されていたのに、幸せって……ぶっ飛んでる」
「紅玉様は蒼様が攫われた日からずっと周りにから、もう死んでいるから他の方と結婚しなさいと言われ続けていました。ですが、紅玉様は首を縦に振らなかった」
「そんなに、蒼が好きだったのか?」
「えぇ、蒼様が見つかったと連絡を貰い他国に出向いたり、王都まで来て会ったりしましたが、全て別人で紅玉様と結婚したい貴族や王族の馬鹿な考えからでした。整形して昔の蒼様に似ている様にした人もいましたが、紅玉様はその全員を魔法の炎で地獄に送りました。蒼様を語るなど、紅玉様の逆鱗に触れる様な事だったのに。気付かないなんて他国の王族は頭が哀れでした。紅玉様はずっと、蒼様が帰ってこられるのを待っていたんですよ」
「そう、なんだ……」
俺は頬を赤めながらその話を聞いていた。
紅玉は本当に蒼を、俺の記憶が無くなる前の俺を好きだったんだな。けど、俺にはそんな記憶は一つもない。
紅玉は俺が見つかって嬉しかったのだろうな。キスしてきたし。
けど、俺には記憶なかった。
寂しくて悲しくなかったのだろうか?
俺は記憶がない別人なのだから。
「蒼様、今日からまた薬作り、頑張ってください」
「あぁ、でも俺には魔法の力が無かったのに良く薬が効いたな?」
「蒼様からは微力ながら魔法が使える様なので、その所為かと」
「俺、祝福受けてないんだけど?」
魔法など村でも使った事がないのに、魔法が使えるとは。
「それは、王族の方々と微力な魔法でも相性が良かったからですよ」
「そっか、なら朝食食べようかな」
「はい、御用致します。席に座ってお待ちください」
やっぱり、魔法が微力でも効くのは誰に聞いても一緒か。俺が王族か。
扉をノックする音が響いた。
「どうぞ」
俺はそれに返事をする。
扉が開き入ってくる人物は、髪は黒く、左目は黄金色、右目は赤色のオッドアイの美丈夫の青年が部屋に入ってきた。
「紅蓮(ぐれん)様! おはようございます!」
鏡が客人の名前を呼んで、挨拶した。紅蓮と言われた人は俺に速足で近づいてきて、俺が座っている椅子と前の置かれている机の前まで来て両手を机に強く叩きつけた。
「なんで、帰って来た!」
「えっと、どういう意味ですか?」
「紅玉の婚約者、もう少しで他の者になったというのに」
「そうなんですね、なんか……すみません」
美形の圧に俺は負けた。だって、美形の怒った顔が怖すぎる! 夢に出そうだ!
「まぁ、お前がどうしてもと言うなら、俺の可愛い弟の紅玉の婚約者のままでもいい!」
「あ、ありがとうございます」
あぁ、これツンデレだ。昔の俺か! 素直に「おかえり」が言えないんだな。
「神様からまだ祝福を受けていないので、そちらの儀式もしたいが、まだ床にふせっている王族もいるから薬が必要だ。もう暫く、薬作りに専念してくれ」
「あ、はい、分かりました」
「ありがとう、恩にきる」
紅蓮はそう言って、眩しい笑顔を向けてきた。
何故だろう、心臓が強くドクン! っと音をたててくる。
俺は、心臓に手を当ててドクドクと煩いのを呆然と感じていた。心臓の音が鳴りやまないのだ。どんな美形に会っても何も感じなかったのに、この人。紅蓮にはこの心臓のなりよう。
俺は一体どうしてしまったのか?
コンコンと開いている扉からノックの音がした。そちらに視線を向ける。
「おはよう、蒼」
「紅玉、おはよう」
扉の横には朝から麗しい美形の紅玉が立っていた。髪に寝ぐせもなく、服をも高級な服を着こなしている。俺が着ると似合わないのだが。
「蒼と朝食を一緒にとろうと思ってね。兄さんは何をしに来たの?」
「あぁ、近くを通ったからよったから挨拶だけだよ、紅ちゃん! 今日も綺麗で大好き!」
「はいはい、さっさと部屋から出て」
「はいはい、それじゃ、蒼も、またね」
「あ、はい!」
俺は紅蓮が廊下に出て向こうに行くまで、じっとみつめていた。
ガタッと俺の前の席に座る紅玉は、俺をじっと見てくる。まるで、責めている様な目で。
「なんか、機嫌悪い?」
「いーや、蒼は……紅蓮の事気に入ったみたいだね」
「あぁ、なんでだろう。スカっとした人で、なんか一緒にいて楽だった」
「ふーん」
「何?」
紅玉は面白くないと言った顔でこちらを見てくる。
「蒼は俺の婚約者だって覚えておいてね。気分が変わったから、俺部屋に戻る」
「あ、うん。なんか、ごめんね?」
「意味が分かっていない謝罪は聞きたくない」
「あ、はい」
紅玉が何故、怒っていたのか分からないまま、俺は朝食を一人で食べたのだった。
「紅玉様」
「なんだ、翡翠」
俺の櫻の民の担当である一人の翡翠が俺を心配そうに見てくる。俺はイライラしている己に気づいている。あの言葉が頭から離れない。
「記憶が無くしてもまた恋をするだろう」
「紅玉様?」
俺は強く壁を叩いた、一メートル以上の大きな円状ひび割れが壁に出来上がった。
あぁ、イライラする。
「まだ、記憶ある時の蒼に言われた、兄への想いだ」
「そ、それは……」
「ほとんどの王族は気づいていなかったが、蒼は兄に恋慕していた」
「はい……」
「まさか、言葉の通りになるなんてな。恐れ入る。そして、本当に記憶喪失でも兄だけは反応したのを見ると、心の奥がジリジリと痛い、焦げているようだ。俺は誰にも蒼を渡したくない、邪魔をするなら神すらも殺すだろう。こんなに一人の人を好きになるなんて事きっともう無いだろう、手放したくない、傍にいてほしい、俺だけを見てほしい」
「紅玉様の御心はきっと蒼様に届きます」
「あははっ、そうだといいがな。この壁、直しておいてくれ」
「はい、承知しました!」
蒼には好きな女も、気になっている男もいる。
あぁ、邪魔だ。邪魔邪魔邪魔。
蒼は俺だけの者にしたい。
例え、本人が望んでいなくても。
俺は蒼を愛しているから。
邪魔する奴は消えてしまえ。
「あー、あの声の人は誰なんだろう?」
夢の中で出会った声の主が気になってしかたなかった。
だが、夢なので探し様がない。
俺はベッドから起きあがった。そして、この部屋に置いてあるクローゼットから服を選んで着替えた。時間を見ると朝食までまだ時間がある。さて何をしようかと思っていたら、部屋を二回ノックする音が響く。
「どうぞ」
俺が一言声をかけると、今まで女官が朝に顔を洗う桶を持ってきてくれたが、何故か身なりが良い男性が桶を持って入ってきた。
「蒼様、おはようございます」
「あぁ、おはよう。あの、いつもの女官さんは?」
何かあったのかと思い俺は疑問に思っている事を聞いた。
それを聞いて、男性が説明をしてくれた。
「あの女官は蒼様の正式なお世話担当が決まるまでの繋ぎで働いて頂きました。今日から私、櫻の民である「鏡(きょう)」が担当させて頂きます。宜しくお願い致します」
鏡は綺麗な礼を俺に向けた後に、もっていた桶を机の上に置いた。
「今日は肌に良い、つるつるになる薬草を配合したお湯で顔を洗って頂きます」
顔を洗うお湯には毎日違った薬草や液体の薬などを配合している。どうやら美を意識してほしいらしい。正直、俺は外見が平凡だ。今更、美意識を持てと言われても困ってしまう。だが、周りが美しすぎて美意識は無いよりはあった方がいいとも思った。
「あのさ、今まで世話をしてくれた女官さんにお礼を言いたいんですけど、会えないかな?」
俺がそう顔を洗ってタオルで顔を拭きながら言うと、鏡は笑顔でいた顔の表情を困惑したものに変えた。
「それは、その女官が気に入ったので傍に置きたいと?」
「いや、純粋に助かったらお礼を言いたいんだけど」
「いいのですよ。我らは王族の方々の生活をお手伝いするためにいますので、わざわざ蒼様が労いの言葉をかけなくてもいいのです。王族は王族であるだけで我らは幸せで嬉しいのですから」
「いや、でも……、人としてさー……ありがとうって言いたかった」
「……本当に女官に恋はしていませんね?」
「え? もってないけど……えっと何でそんな事を聞くの?」
鏡は苦笑して俺を見てきた。
「それは、紅玉様が好きな方である蒼様が女を好きになったら、その女の方は紅玉様に殺されてしまいますからね。紅玉様は良く勘違いされやすいのですが、蒼様への溺愛ぶりは凄いですから」
「あのさ、緑華から聞いたんだけど。紅玉は俺の頭脳をかって婚約者にしたんだよな? 本当に恋愛的に俺を好きで、婚約者にしてないよな?」
俺は心からの疑問を鏡に聞いた。鏡はため息を吐いた。これは、そうなのか、違うのか分からない反応だな。俺はじっと鏡の言葉を待った。鏡はゆっくりと話し出す。
「私は櫻の幹部候補ですので、紅玉様にも尽くしていた時期がありますが、王族にも他の方々も紅玉様を勘違いされている。紅玉様は、人に縛られるのが嫌い方です。例え、婚約者を作れと王に直々に言われても自分の自由な時間を割いてまで作るのは嫌がる方でした。ですが、ある日突然、剣の修練に魔法や帝王学の勉学などに励むようになりました。紅玉様にその時の家庭教師が聞いたのです。「何かありましたか?」と、紅玉様はこう言ったそうです。「幸せにしたい者が出来た」と、その者を娶るために紅玉様は必死に勉学し修練し、自分を高みに上げました。その幸せにしたい者が蒼様、なのですよ。王族同士で結婚は出来ますが、相手を選ぶのはお互いの了承あっての事です。紅玉様は蒼様の素晴らしさに気づくと、他の者に盗られないように早く手中におさめたくて脅して婚約者にしました。蒼様は覚えてはいないのですがね。紅玉様は本当の自分が惚れている理由を知られたくなくて嘘を周りに風潮しました。そうしたら、結婚できる上に、蒼様の素敵な一面を知るライバルも現れなくて、一石二鳥という事らしいです。頭がいいから婚約者にしたというのは嘘の方の理由です」
「けど、俺ってば、偉そうで特に何もいいところなかったんじゃ?」
鏡はふふっと小さく笑って、温かいお茶を用意して机の上から桶をどかしてお茶の入ったカップを置いた。一口飲むと美味しく、喉が潤う。
「はい、蒼様も勘違いされやすい方でした。裏で努力する、努力家だと知っている方は数名程度ですからね」
「努力家か」
「はい、そしてツンデレだったので心配している事を素直に話せなくて、勘違いされる一方でしたが、友や婚約者に恵まれて幸せだったと思います」
「……脅されていたのに、幸せって……ぶっ飛んでる」
「紅玉様は蒼様が攫われた日からずっと周りにから、もう死んでいるから他の方と結婚しなさいと言われ続けていました。ですが、紅玉様は首を縦に振らなかった」
「そんなに、蒼が好きだったのか?」
「えぇ、蒼様が見つかったと連絡を貰い他国に出向いたり、王都まで来て会ったりしましたが、全て別人で紅玉様と結婚したい貴族や王族の馬鹿な考えからでした。整形して昔の蒼様に似ている様にした人もいましたが、紅玉様はその全員を魔法の炎で地獄に送りました。蒼様を語るなど、紅玉様の逆鱗に触れる様な事だったのに。気付かないなんて他国の王族は頭が哀れでした。紅玉様はずっと、蒼様が帰ってこられるのを待っていたんですよ」
「そう、なんだ……」
俺は頬を赤めながらその話を聞いていた。
紅玉は本当に蒼を、俺の記憶が無くなる前の俺を好きだったんだな。けど、俺にはそんな記憶は一つもない。
紅玉は俺が見つかって嬉しかったのだろうな。キスしてきたし。
けど、俺には記憶なかった。
寂しくて悲しくなかったのだろうか?
俺は記憶がない別人なのだから。
「蒼様、今日からまた薬作り、頑張ってください」
「あぁ、でも俺には魔法の力が無かったのに良く薬が効いたな?」
「蒼様からは微力ながら魔法が使える様なので、その所為かと」
「俺、祝福受けてないんだけど?」
魔法など村でも使った事がないのに、魔法が使えるとは。
「それは、王族の方々と微力な魔法でも相性が良かったからですよ」
「そっか、なら朝食食べようかな」
「はい、御用致します。席に座ってお待ちください」
やっぱり、魔法が微力でも効くのは誰に聞いても一緒か。俺が王族か。
扉をノックする音が響いた。
「どうぞ」
俺はそれに返事をする。
扉が開き入ってくる人物は、髪は黒く、左目は黄金色、右目は赤色のオッドアイの美丈夫の青年が部屋に入ってきた。
「紅蓮(ぐれん)様! おはようございます!」
鏡が客人の名前を呼んで、挨拶した。紅蓮と言われた人は俺に速足で近づいてきて、俺が座っている椅子と前の置かれている机の前まで来て両手を机に強く叩きつけた。
「なんで、帰って来た!」
「えっと、どういう意味ですか?」
「紅玉の婚約者、もう少しで他の者になったというのに」
「そうなんですね、なんか……すみません」
美形の圧に俺は負けた。だって、美形の怒った顔が怖すぎる! 夢に出そうだ!
「まぁ、お前がどうしてもと言うなら、俺の可愛い弟の紅玉の婚約者のままでもいい!」
「あ、ありがとうございます」
あぁ、これツンデレだ。昔の俺か! 素直に「おかえり」が言えないんだな。
「神様からまだ祝福を受けていないので、そちらの儀式もしたいが、まだ床にふせっている王族もいるから薬が必要だ。もう暫く、薬作りに専念してくれ」
「あ、はい、分かりました」
「ありがとう、恩にきる」
紅蓮はそう言って、眩しい笑顔を向けてきた。
何故だろう、心臓が強くドクン! っと音をたててくる。
俺は、心臓に手を当ててドクドクと煩いのを呆然と感じていた。心臓の音が鳴りやまないのだ。どんな美形に会っても何も感じなかったのに、この人。紅蓮にはこの心臓のなりよう。
俺は一体どうしてしまったのか?
コンコンと開いている扉からノックの音がした。そちらに視線を向ける。
「おはよう、蒼」
「紅玉、おはよう」
扉の横には朝から麗しい美形の紅玉が立っていた。髪に寝ぐせもなく、服をも高級な服を着こなしている。俺が着ると似合わないのだが。
「蒼と朝食を一緒にとろうと思ってね。兄さんは何をしに来たの?」
「あぁ、近くを通ったからよったから挨拶だけだよ、紅ちゃん! 今日も綺麗で大好き!」
「はいはい、さっさと部屋から出て」
「はいはい、それじゃ、蒼も、またね」
「あ、はい!」
俺は紅蓮が廊下に出て向こうに行くまで、じっとみつめていた。
ガタッと俺の前の席に座る紅玉は、俺をじっと見てくる。まるで、責めている様な目で。
「なんか、機嫌悪い?」
「いーや、蒼は……紅蓮の事気に入ったみたいだね」
「あぁ、なんでだろう。スカっとした人で、なんか一緒にいて楽だった」
「ふーん」
「何?」
紅玉は面白くないと言った顔でこちらを見てくる。
「蒼は俺の婚約者だって覚えておいてね。気分が変わったから、俺部屋に戻る」
「あ、うん。なんか、ごめんね?」
「意味が分かっていない謝罪は聞きたくない」
「あ、はい」
紅玉が何故、怒っていたのか分からないまま、俺は朝食を一人で食べたのだった。
「紅玉様」
「なんだ、翡翠」
俺の櫻の民の担当である一人の翡翠が俺を心配そうに見てくる。俺はイライラしている己に気づいている。あの言葉が頭から離れない。
「記憶が無くしてもまた恋をするだろう」
「紅玉様?」
俺は強く壁を叩いた、一メートル以上の大きな円状ひび割れが壁に出来上がった。
あぁ、イライラする。
「まだ、記憶ある時の蒼に言われた、兄への想いだ」
「そ、それは……」
「ほとんどの王族は気づいていなかったが、蒼は兄に恋慕していた」
「はい……」
「まさか、言葉の通りになるなんてな。恐れ入る。そして、本当に記憶喪失でも兄だけは反応したのを見ると、心の奥がジリジリと痛い、焦げているようだ。俺は誰にも蒼を渡したくない、邪魔をするなら神すらも殺すだろう。こんなに一人の人を好きになるなんて事きっともう無いだろう、手放したくない、傍にいてほしい、俺だけを見てほしい」
「紅玉様の御心はきっと蒼様に届きます」
「あははっ、そうだといいがな。この壁、直しておいてくれ」
「はい、承知しました!」
蒼には好きな女も、気になっている男もいる。
あぁ、邪魔だ。邪魔邪魔邪魔。
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