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薬作りと嫉妬の病
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今らから薬作りに没頭しないといけないのに、俺の頭の中は村においてきたアキナ達の事でいっぱいだった。食料は確保されているのだろうか? 獣退治は上手くいっているのか? 皆、元気で暮らしているのか? など、考えれば考えるほど心配の種は増えていく。だが、俺が村に帰りたいと言うと紅玉が「駄目」と言って行かせてくれない。きっと、王族の病がおさまったら帰らせてもらえると思って俺は頑張って薬をせっせと作っていた。王族の方々は徐々に元気になられている方が多く、死人は出なかった。それだけが救いだった。
「蒼様、夕刻になります。一度、休まれた方が良いかと」
「え?」
俺は鏡に呼ばれるまで、周りが暗くなっている事に気付かなかった。手元が明るいのは鏡が持っている提灯のおかげだった。
「もう、そんなに時間経っていたんだ。気付かなかった」
窓から外を見ると、夕日がおちていき、空が紫から水墨のように徐々に黒に変わっていった。そして、闇が支配する夜があらわれた。
「蒼様、お疲れ様です。夕食の御準備が出来ています」
「ありがとう、鏡。じゃぁ、食堂に食べに行きますか!」
俺は手元にあった薬の材料を机に置いて、布を被せて、食堂に向かおうとするが鏡に呼び止められる。
「いえ、今日はそちらではありません。紅玉様の部屋での夕食になります」
「え、なんで?」
「それは、今日で薬作りが終わったお祝いだと言っていました。王族の最後の一人の病状が落ち着き、後は作った薬で対処できると医者が判断なされたとかと聞いています」
「そうなんだ。なら、俺は村に帰れるかな?」
「蒼様、まだその様な戯言を言っていらっしゃるんですか? 蒼様は王族なんですよ!」
「俺が王族でも、そうじゃなくても、一度は住んでいた村の人たちに「ありがとう」位は言いたいじゃないか」
俺がそう言って鏡に言うが、鏡は頭を手で支えながら首を横に振って「ありえない」と言った顔で俺を見てきた。
「蒼様は王族ですよ! そんな簡単に村に帰れるわけがない! 考えてみて下さい。王族が何処でも自由に出歩いていたら皆、緊張して日常生活おくれますか?」
「うーん、確かにそうだけど」
「蒼様は神様から祝福を受ける準備もあります。忙しいのに、村に帰るなどと。あり得ませんよ。紅玉様が全力でとめると思います!」
鏡に力説されるが、やっぱり村には一度帰りたい。
畑の状態や村の人たちが心配だ。
まぁ、一番はアキナにもう一度会いたいからだけど。
なんとか、紅玉から村へと帰る許しを貰わないと。鏡に言っていても、王族が駄目だと言っている事を言っても、上司と部下いや主人と従者だからな。従者が主人に歯向かうはずがない。なんとか、村に帰れる様に説得しないと。
俺がそう考えながら鏡の後をついていくと紅玉の部屋の前にまで来ていた。
何故か男の従者しかいなかった。王族は従者も男だらけだと聞いていたが、本当だったんだな。俺は納得しながら紅玉の部屋の扉を二回ノックした。中から「どうぞ」と言う声が聞こえた。紅玉の声だ。俺は緊張しながら部屋の扉を開けた。中には紅玉だけがいた。
「お疲れ様、蒼」
「ありがとう」
紅玉が座っていた席を立って、赤い椅子を一つ引いてくれた。紅玉が座っていた席の前にあった椅子だ。俺は紅玉に「どうぞ」と言われて席に座った。
「紅玉、ありがとう」
俺は座って、後ろに立っている紅玉にお礼を言った。
紅玉は笑顔で「どういたしまして」と言う。美形が笑うと後ろに薔薇の幻視が見える。
紅玉は俺の前にある元の席に戻らずに、すぐ横にある赤い椅子に座ってしまった。
「今日までお疲れ様。蒼のおかげで皆、元気になれた。感謝している。ありがとう」
賛辞を言われて緊張していた身体から力が抜けていくが、顔が熱かった。
「いやいや、俺は俺に出来る事しかしてないし、そんな大事では」
「いや、蒼がみつからなかったら王族の何人かは危なかったと聞いている」
「そうなんだ」
「あぁ、蒼は偉業を達成したんだからもっと胸を張っていいんだよ」
「うん、そっか」
なんだかそう言って貰えて嬉しい。
「そうなんだよ。今日は美味しい料理にデザートを堪能してくれ」
そう紅玉が言って手を二回叩くと、扉から男の従者が数人入ってきて、手には豪華な迫力のある料理を持っていた。今までは薬作りに専念したいから片手間で食べられる物を料理長にリクエストしていた。だが、今日の料理は祝いの時と言っていいほど豪華な食事だった。鳥の丸焼きや魚の新鮮な刺身に黄金のスープなど、村ではお目にかかれない豪華なものだった。特に気に入ったのは酒だった。透明な酒で、葡萄酒とはまた違った味だった。米から出来る酒で王族御用達の品物らしい。とても、飲みやすく美味しい酒だった。だが、それがいけなかった。この酒は飲みやすいが酔いやすいものだったようだ。紅玉がよく勧めてくるので飲んでいたが、身体に力が入らないほど酔ってしまったようだった。椅子から立ち上がろうとしたら足がもつれて床に横に倒れそうになったが、紅玉がそれを難無く片手で抱きとめてしまう。背中には紅玉の手があり、その手が支えであった。
「蒼ってば、飲みすぎたかな?」
「俺は飲み過ぎてなぁーい! 酔っ払ってなんていない!」
「酔っ払いは皆、そう言うけどね」
何が楽しいのか紅玉はクスクスと笑い出した。俺は何がそんなに楽しくて嬉しいのか分からなかった。紅玉のもう片方の手が俺の両足の膝下に差し込まれて、横に抱き上げられた。俗に言う、お姫様抱きをされた。だが、酔っていた俺はそれを恥ずかしくもなく受け入れていた。
「何処に行くの? 部屋の扉はあっちだろう? 俺の部屋に帰らないとぅー……」
「俺の部屋に泊まっていきなよ」
「へぁ?」
紅玉の部屋に泊まる?
婚約者だから、ここまで優しくしてくれるのだろうか?
「俺さ、ずっとずっと蒼を待っていたんだ」
「俺ぇー?」
「そう、蒼しか俺は王族でも人間でも好きになれないんだよ。蒼がみつかって嬉しかった。なのに、蒼ってば村の人間の心配ばかり。俺の事は考えてくれなかった。寂しかったんだよ、周りの王族達が伴侶と仲良くやっているのに、俺だけ独りだったからさ。けど、蒼は帰ってきてくれた。もう、何処にもいかないでね」
紅玉は眩しいくらいの笑顔で俺を見てくるが、何故か泣いている様に見えた。酒を飲み過ぎて錯覚でも見ているのか?
「紅玉ぅ」
「何かな?」
「俺、村に帰りたい」
「……」
「村の人に「ありがとう」や「さよなら」を言いたい」
俺がそう言うと、紅玉は無言で俺を抱っこしているのに早歩きで寝室のドアを足で開け、白いベッドに俺を勢いよく押し倒し、紅玉の両手が俺の両手の手首を掴んでいる。
「村の人に会いたいんじゃないんだろう?」
「え?」
「アキナちゃんだっけ? その子に会いたいんだろう?」
心臓が止まるかと思った。まさか、知られていたなんて。
紅玉は俺を怖い顔で上から睨みつけている。それは、凍てつくと思うほど冷たい眼差しだった。
俺はその顔を見てから、酒が頭から抜けていくのを感じた。
それは恐怖からくるものだった。
この恐怖の原因はアキナへの嫉妬だろう。
「こ、紅玉?」
俺は慌てて紅玉の下から這い出ようとするが、紅玉が手首を掴んでいてそれは叶わなかった。紅玉は俺が逃げようとしたのを良しとしなく、より手首を強く掴んできた。
「いっ!」
「蒼には今日は初めてだから優しくしてあげようと思っていたけど、酷くしてもいいよね?」
「え?」
俺は紅玉がどんな顔をしているのか見ようと顔を上げた時に、紅玉はその瞬間を逃す事なく俺の唇を紅玉の唇でふさぎ、紅玉の温かい舌が入ってきた。俺は吃驚してなんとか、腕や足を動かして抵抗してみるが、いつの間にか足も紅玉の足で上から塞がれていた。紅玉の舌が口の中でぐちゅぐちゅと音をたてて歯をなぞったり、舌を絡ませてきたりと好き勝手してくる。息が出来ないと思ってなんとか、顔をずらして口で息をした。口の端から、どちらのものか分からない唾液がたれていく。
「げほっ!がはっ! はぁーはぁーはぁー……、殺す気かよ!」
「こんな事でそんな事言わないでよ」
紅玉は赤い舌で唇を舐めて、俺を見下ろしてくる。エロいと思った。赤い唇が甘そうに俺の目に映った。
俺は声を荒げた。このままではヤバい気しかしないからだ!
「いいから、手をどかせ。足もどかせ!」
「なんで? 今から本番するんだから、逃げ出せない様にしないといけないでしょ?」
「本番?」
やっぱり、それしか狙いはないよな。俺は短く息を吐きながら、紅玉を下から睨みつけた。
「俺とセックスしたいのかよ?」
その俺の言葉に紅玉は余裕な顔をしてこたえた。
「そうだよ。ずっと、薬作りの間は待っていてあげたんだ。けど、それも終わった。してもいいでしょ?」
マジかよ。俺が男とセックスって、考えもしてなかったんだけど!
「ちょっと、待て。俺と本当にそんな事……したいのか? 男同士なんだけど?」
「大丈夫、やり方は知っているから。周りの王族が毎日している事だからね。婚約者や伴侶を気持ちよくさせるのは、当然だし!」
嬉しそうに紅玉は王族の日常を話してくる。だが、俺には非日常だ。
男同士って何をどうするんだよ! 知らな過ぎて怖いんだが。
紅玉を不安気に見上げると、ニコリと綺麗に笑っていたが「逃がさないから」と言われてしまう。
俺は男同士で出来るなんて王族じゃないから大丈夫だと安易に思っていたが、実際にそんな時が来てしまうなんて、確か精液を受けが受け続けると子供が出来るとか。王族同士ではそうやって子をなすと知っているが。俺の腹に子供が出来るとか、行き成りセックスとか! いろいろとキャパオーバーだ!
「あの、男同士ってどうやるの?」
「へっ?」
紅玉が真顔で俺を見下ろしてくる。俺は苦笑しながら話をすすめた。
「いや、俺全然男同士のセックスの知識無くて知らないから」
「嫌じゃないの?」
紅玉から小さな微かな声でポツリと言葉発せられた。
「何が?」
「セックスとか、俺とか」
「なんでだよ?」
「なら、なんで俺の事を全然構ってくれなかったの?」
「へ?」
俺の頬に上から水の雫がポタリポタリと降ってきた。
それは、紅玉の目から流れた涙がこぼれ落ちてきたものだった。
紅玉の赤い瞳が涙で潤んでいる。綺麗だなと思った。
「やっと会えたのに、心は違う所にあるし、俺に構ってくれないし、嫌われていると思った」
俺は泣きながら話してくる紅玉の言葉に耳を傾けた。
「蒼は王族で俺の婚約者なんだよ。なんで、そんな村とか他の女の事を考えるの?」
「悪いけど、俺には記憶が無いんだよ」
俺は苦笑して、紅玉を見上げた。紅玉がそれを聞くと悔しそうな顔をする。顔は泣き顔でグシャグシャだが、顔の造形が整っているからか、それでも紅玉は美しかった。
「知っている」
「小さい頃から一緒だったって聞いているけど、俺にはそんな記憶は一つもないんだ。王族だった記憶もない。俺は村で小さな頃に、今の育ての親に拾われて育てて貰った。もう、亡くなっていないけど、俺にはあの村が全てだった。それが、突然「貴方は王族」だと言われても、納得できない。村人Aのモブが行き成り王族でしたとか、騙されていると思うだろう?」
「なら、記憶が戻ったら、俺と結婚してくれる?」
「さぁ、それは分からないけど、紅玉を嫌ってはいない。まだな。無理矢理、セックス始めていたら考えていたと思う。だって、レイプだから」
「まだ、嫌いじゃない?」
「ギリギリ嫌いじゃない」
紅玉は俺の言葉を聞いて安心したのか長いため息を吐いた後、俺の上から退いて、ベッドの上に座った。俺はベッドに横になったまま紅玉と話を続けた。
「明日から、昔遊んでいた友人や場所や懐かしいと思う物を用意する。蒼にはまずは記憶を取り戻してもらうから」
「記憶喪失なんだけど、俺自身は得に必要なく生活出来るんだけど? 必要かな?」
「けど、俺は思い出してほしい。どれだけ、俺が蒼を愛していたか」
熱い瞳で見つめてくる紅玉。俺はそれを見ないふりをした。
なんだか、恥ずかしいからだ。
紅玉の態度から本当に小さい頃から愛されていたんだと知る。
これだけ、一途に俺だけを好きになってくれるなんて。外見も中身も凡人な俺を。昔の俺は凄かったんだなと思った。どうやって、あんな男をベタ惚れにさせたのか。思い出せない過去だけど、俺と紅玉が愛し合っていた大事な時間だったのだろう。ちょっとだけ、思い出せないのが悲しく寂しかった。だって、思い出す記憶はきっと心温まるものだろうと思うから。
「明日から記憶を取り戻すために、いろいろと準備するから、頑張って思い出してね」
紅玉が俺の目をじっと見たあと、ふっと柔らかく笑った。
「一応、やるだけやるけど、記憶なんてそう簡単に戻るものなのか? 村にいた時は少し頭痛に悩まされたが、それだけだった」
「此処は村よりも思い出すためのものが揃っていると思う。だから、思い出してね」
綺麗に笑っているが、言葉はシビアだった。
思い出せないなら、思い出させてやる! そんな意気込みを紅玉から感じ取った。
「お手柔らかにお願いします」
俺は口元を引きつらせた。
「うん、また明日も宜しくね」
そう言って、紅玉はベッドに寝転んだままの俺の横に寝転んで、俺の手を優しく掴んできた。さっきまでの、無理矢理感は感じなかった。優しい温もりのある手に安心する。さっきとまるで違う人の手みたいだ。それだけ、紅玉が焦っていた事をさしているのだろう。俺が他に目移りしないように。心配で不安で怖かったのかもしれない。そう思うと、可哀そうな事をしたと思った。
「今日は此処で寝てね。何もしないから」
「分かった。そうする」
此処で寝るのを拒むと、紅玉が不安がると思って今日は紅玉のベッドで寝る事にした。これで紅玉の心配が緩和されるならお安い御用さ。
「うん、おやすみ」
紅玉の顔が近くにあり、心臓がドキドキする。
「おやすみ」
顔が熱く、きっと真っ赤になっているだろう。俺の顔を見て紅玉が優しく、俺の頭を手を握っていない手の方で撫でてくれた。
二人で布団に入って真ん中で横になり、ピッタリくっ付いて寝る事になった。紅玉はスグに寝入ってしまった。
俺もいろんな事があって、疲れていたようで、紅玉が寝たのをみると俺も夢の世界に入っていった。
手の優しい温もりで安心して眠れた。
紅玉が傍に居てくれている。
それだけで、とても優しい夢をみれた気がした。
「蒼様、夕刻になります。一度、休まれた方が良いかと」
「え?」
俺は鏡に呼ばれるまで、周りが暗くなっている事に気付かなかった。手元が明るいのは鏡が持っている提灯のおかげだった。
「もう、そんなに時間経っていたんだ。気付かなかった」
窓から外を見ると、夕日がおちていき、空が紫から水墨のように徐々に黒に変わっていった。そして、闇が支配する夜があらわれた。
「蒼様、お疲れ様です。夕食の御準備が出来ています」
「ありがとう、鏡。じゃぁ、食堂に食べに行きますか!」
俺は手元にあった薬の材料を机に置いて、布を被せて、食堂に向かおうとするが鏡に呼び止められる。
「いえ、今日はそちらではありません。紅玉様の部屋での夕食になります」
「え、なんで?」
「それは、今日で薬作りが終わったお祝いだと言っていました。王族の最後の一人の病状が落ち着き、後は作った薬で対処できると医者が判断なされたとかと聞いています」
「そうなんだ。なら、俺は村に帰れるかな?」
「蒼様、まだその様な戯言を言っていらっしゃるんですか? 蒼様は王族なんですよ!」
「俺が王族でも、そうじゃなくても、一度は住んでいた村の人たちに「ありがとう」位は言いたいじゃないか」
俺がそう言って鏡に言うが、鏡は頭を手で支えながら首を横に振って「ありえない」と言った顔で俺を見てきた。
「蒼様は王族ですよ! そんな簡単に村に帰れるわけがない! 考えてみて下さい。王族が何処でも自由に出歩いていたら皆、緊張して日常生活おくれますか?」
「うーん、確かにそうだけど」
「蒼様は神様から祝福を受ける準備もあります。忙しいのに、村に帰るなどと。あり得ませんよ。紅玉様が全力でとめると思います!」
鏡に力説されるが、やっぱり村には一度帰りたい。
畑の状態や村の人たちが心配だ。
まぁ、一番はアキナにもう一度会いたいからだけど。
なんとか、紅玉から村へと帰る許しを貰わないと。鏡に言っていても、王族が駄目だと言っている事を言っても、上司と部下いや主人と従者だからな。従者が主人に歯向かうはずがない。なんとか、村に帰れる様に説得しないと。
俺がそう考えながら鏡の後をついていくと紅玉の部屋の前にまで来ていた。
何故か男の従者しかいなかった。王族は従者も男だらけだと聞いていたが、本当だったんだな。俺は納得しながら紅玉の部屋の扉を二回ノックした。中から「どうぞ」と言う声が聞こえた。紅玉の声だ。俺は緊張しながら部屋の扉を開けた。中には紅玉だけがいた。
「お疲れ様、蒼」
「ありがとう」
紅玉が座っていた席を立って、赤い椅子を一つ引いてくれた。紅玉が座っていた席の前にあった椅子だ。俺は紅玉に「どうぞ」と言われて席に座った。
「紅玉、ありがとう」
俺は座って、後ろに立っている紅玉にお礼を言った。
紅玉は笑顔で「どういたしまして」と言う。美形が笑うと後ろに薔薇の幻視が見える。
紅玉は俺の前にある元の席に戻らずに、すぐ横にある赤い椅子に座ってしまった。
「今日までお疲れ様。蒼のおかげで皆、元気になれた。感謝している。ありがとう」
賛辞を言われて緊張していた身体から力が抜けていくが、顔が熱かった。
「いやいや、俺は俺に出来る事しかしてないし、そんな大事では」
「いや、蒼がみつからなかったら王族の何人かは危なかったと聞いている」
「そうなんだ」
「あぁ、蒼は偉業を達成したんだからもっと胸を張っていいんだよ」
「うん、そっか」
なんだかそう言って貰えて嬉しい。
「そうなんだよ。今日は美味しい料理にデザートを堪能してくれ」
そう紅玉が言って手を二回叩くと、扉から男の従者が数人入ってきて、手には豪華な迫力のある料理を持っていた。今までは薬作りに専念したいから片手間で食べられる物を料理長にリクエストしていた。だが、今日の料理は祝いの時と言っていいほど豪華な食事だった。鳥の丸焼きや魚の新鮮な刺身に黄金のスープなど、村ではお目にかかれない豪華なものだった。特に気に入ったのは酒だった。透明な酒で、葡萄酒とはまた違った味だった。米から出来る酒で王族御用達の品物らしい。とても、飲みやすく美味しい酒だった。だが、それがいけなかった。この酒は飲みやすいが酔いやすいものだったようだ。紅玉がよく勧めてくるので飲んでいたが、身体に力が入らないほど酔ってしまったようだった。椅子から立ち上がろうとしたら足がもつれて床に横に倒れそうになったが、紅玉がそれを難無く片手で抱きとめてしまう。背中には紅玉の手があり、その手が支えであった。
「蒼ってば、飲みすぎたかな?」
「俺は飲み過ぎてなぁーい! 酔っ払ってなんていない!」
「酔っ払いは皆、そう言うけどね」
何が楽しいのか紅玉はクスクスと笑い出した。俺は何がそんなに楽しくて嬉しいのか分からなかった。紅玉のもう片方の手が俺の両足の膝下に差し込まれて、横に抱き上げられた。俗に言う、お姫様抱きをされた。だが、酔っていた俺はそれを恥ずかしくもなく受け入れていた。
「何処に行くの? 部屋の扉はあっちだろう? 俺の部屋に帰らないとぅー……」
「俺の部屋に泊まっていきなよ」
「へぁ?」
紅玉の部屋に泊まる?
婚約者だから、ここまで優しくしてくれるのだろうか?
「俺さ、ずっとずっと蒼を待っていたんだ」
「俺ぇー?」
「そう、蒼しか俺は王族でも人間でも好きになれないんだよ。蒼がみつかって嬉しかった。なのに、蒼ってば村の人間の心配ばかり。俺の事は考えてくれなかった。寂しかったんだよ、周りの王族達が伴侶と仲良くやっているのに、俺だけ独りだったからさ。けど、蒼は帰ってきてくれた。もう、何処にもいかないでね」
紅玉は眩しいくらいの笑顔で俺を見てくるが、何故か泣いている様に見えた。酒を飲み過ぎて錯覚でも見ているのか?
「紅玉ぅ」
「何かな?」
「俺、村に帰りたい」
「……」
「村の人に「ありがとう」や「さよなら」を言いたい」
俺がそう言うと、紅玉は無言で俺を抱っこしているのに早歩きで寝室のドアを足で開け、白いベッドに俺を勢いよく押し倒し、紅玉の両手が俺の両手の手首を掴んでいる。
「村の人に会いたいんじゃないんだろう?」
「え?」
「アキナちゃんだっけ? その子に会いたいんだろう?」
心臓が止まるかと思った。まさか、知られていたなんて。
紅玉は俺を怖い顔で上から睨みつけている。それは、凍てつくと思うほど冷たい眼差しだった。
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それは恐怖からくるものだった。
この恐怖の原因はアキナへの嫉妬だろう。
「こ、紅玉?」
俺は慌てて紅玉の下から這い出ようとするが、紅玉が手首を掴んでいてそれは叶わなかった。紅玉は俺が逃げようとしたのを良しとしなく、より手首を強く掴んできた。
「いっ!」
「蒼には今日は初めてだから優しくしてあげようと思っていたけど、酷くしてもいいよね?」
「え?」
俺は紅玉がどんな顔をしているのか見ようと顔を上げた時に、紅玉はその瞬間を逃す事なく俺の唇を紅玉の唇でふさぎ、紅玉の温かい舌が入ってきた。俺は吃驚してなんとか、腕や足を動かして抵抗してみるが、いつの間にか足も紅玉の足で上から塞がれていた。紅玉の舌が口の中でぐちゅぐちゅと音をたてて歯をなぞったり、舌を絡ませてきたりと好き勝手してくる。息が出来ないと思ってなんとか、顔をずらして口で息をした。口の端から、どちらのものか分からない唾液がたれていく。
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「こんな事でそんな事言わないでよ」
紅玉は赤い舌で唇を舐めて、俺を見下ろしてくる。エロいと思った。赤い唇が甘そうに俺の目に映った。
俺は声を荒げた。このままではヤバい気しかしないからだ!
「いいから、手をどかせ。足もどかせ!」
「なんで? 今から本番するんだから、逃げ出せない様にしないといけないでしょ?」
「本番?」
やっぱり、それしか狙いはないよな。俺は短く息を吐きながら、紅玉を下から睨みつけた。
「俺とセックスしたいのかよ?」
その俺の言葉に紅玉は余裕な顔をしてこたえた。
「そうだよ。ずっと、薬作りの間は待っていてあげたんだ。けど、それも終わった。してもいいでしょ?」
マジかよ。俺が男とセックスって、考えもしてなかったんだけど!
「ちょっと、待て。俺と本当にそんな事……したいのか? 男同士なんだけど?」
「大丈夫、やり方は知っているから。周りの王族が毎日している事だからね。婚約者や伴侶を気持ちよくさせるのは、当然だし!」
嬉しそうに紅玉は王族の日常を話してくる。だが、俺には非日常だ。
男同士って何をどうするんだよ! 知らな過ぎて怖いんだが。
紅玉を不安気に見上げると、ニコリと綺麗に笑っていたが「逃がさないから」と言われてしまう。
俺は男同士で出来るなんて王族じゃないから大丈夫だと安易に思っていたが、実際にそんな時が来てしまうなんて、確か精液を受けが受け続けると子供が出来るとか。王族同士ではそうやって子をなすと知っているが。俺の腹に子供が出来るとか、行き成りセックスとか! いろいろとキャパオーバーだ!
「あの、男同士ってどうやるの?」
「へっ?」
紅玉が真顔で俺を見下ろしてくる。俺は苦笑しながら話をすすめた。
「いや、俺全然男同士のセックスの知識無くて知らないから」
「嫌じゃないの?」
紅玉から小さな微かな声でポツリと言葉発せられた。
「何が?」
「セックスとか、俺とか」
「なんでだよ?」
「なら、なんで俺の事を全然構ってくれなかったの?」
「へ?」
俺の頬に上から水の雫がポタリポタリと降ってきた。
それは、紅玉の目から流れた涙がこぼれ落ちてきたものだった。
紅玉の赤い瞳が涙で潤んでいる。綺麗だなと思った。
「やっと会えたのに、心は違う所にあるし、俺に構ってくれないし、嫌われていると思った」
俺は泣きながら話してくる紅玉の言葉に耳を傾けた。
「蒼は王族で俺の婚約者なんだよ。なんで、そんな村とか他の女の事を考えるの?」
「悪いけど、俺には記憶が無いんだよ」
俺は苦笑して、紅玉を見上げた。紅玉がそれを聞くと悔しそうな顔をする。顔は泣き顔でグシャグシャだが、顔の造形が整っているからか、それでも紅玉は美しかった。
「知っている」
「小さい頃から一緒だったって聞いているけど、俺にはそんな記憶は一つもないんだ。王族だった記憶もない。俺は村で小さな頃に、今の育ての親に拾われて育てて貰った。もう、亡くなっていないけど、俺にはあの村が全てだった。それが、突然「貴方は王族」だと言われても、納得できない。村人Aのモブが行き成り王族でしたとか、騙されていると思うだろう?」
「なら、記憶が戻ったら、俺と結婚してくれる?」
「さぁ、それは分からないけど、紅玉を嫌ってはいない。まだな。無理矢理、セックス始めていたら考えていたと思う。だって、レイプだから」
「まだ、嫌いじゃない?」
「ギリギリ嫌いじゃない」
紅玉は俺の言葉を聞いて安心したのか長いため息を吐いた後、俺の上から退いて、ベッドの上に座った。俺はベッドに横になったまま紅玉と話を続けた。
「明日から、昔遊んでいた友人や場所や懐かしいと思う物を用意する。蒼にはまずは記憶を取り戻してもらうから」
「記憶喪失なんだけど、俺自身は得に必要なく生活出来るんだけど? 必要かな?」
「けど、俺は思い出してほしい。どれだけ、俺が蒼を愛していたか」
熱い瞳で見つめてくる紅玉。俺はそれを見ないふりをした。
なんだか、恥ずかしいからだ。
紅玉の態度から本当に小さい頃から愛されていたんだと知る。
これだけ、一途に俺だけを好きになってくれるなんて。外見も中身も凡人な俺を。昔の俺は凄かったんだなと思った。どうやって、あんな男をベタ惚れにさせたのか。思い出せない過去だけど、俺と紅玉が愛し合っていた大事な時間だったのだろう。ちょっとだけ、思い出せないのが悲しく寂しかった。だって、思い出す記憶はきっと心温まるものだろうと思うから。
「明日から記憶を取り戻すために、いろいろと準備するから、頑張って思い出してね」
紅玉が俺の目をじっと見たあと、ふっと柔らかく笑った。
「一応、やるだけやるけど、記憶なんてそう簡単に戻るものなのか? 村にいた時は少し頭痛に悩まされたが、それだけだった」
「此処は村よりも思い出すためのものが揃っていると思う。だから、思い出してね」
綺麗に笑っているが、言葉はシビアだった。
思い出せないなら、思い出させてやる! そんな意気込みを紅玉から感じ取った。
「お手柔らかにお願いします」
俺は口元を引きつらせた。
「うん、また明日も宜しくね」
そう言って、紅玉はベッドに寝転んだままの俺の横に寝転んで、俺の手を優しく掴んできた。さっきまでの、無理矢理感は感じなかった。優しい温もりのある手に安心する。さっきとまるで違う人の手みたいだ。それだけ、紅玉が焦っていた事をさしているのだろう。俺が他に目移りしないように。心配で不安で怖かったのかもしれない。そう思うと、可哀そうな事をしたと思った。
「今日は此処で寝てね。何もしないから」
「分かった。そうする」
此処で寝るのを拒むと、紅玉が不安がると思って今日は紅玉のベッドで寝る事にした。これで紅玉の心配が緩和されるならお安い御用さ。
「うん、おやすみ」
紅玉の顔が近くにあり、心臓がドキドキする。
「おやすみ」
顔が熱く、きっと真っ赤になっているだろう。俺の顔を見て紅玉が優しく、俺の頭を手を握っていない手の方で撫でてくれた。
二人で布団に入って真ん中で横になり、ピッタリくっ付いて寝る事になった。紅玉はスグに寝入ってしまった。
俺もいろんな事があって、疲れていたようで、紅玉が寝たのをみると俺も夢の世界に入っていった。
手の優しい温もりで安心して眠れた。
紅玉が傍に居てくれている。
それだけで、とても優しい夢をみれた気がした。
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