王族の花嫁

いずみ

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紅玉の思い出・後編

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 蒼が他国の王族の男に連れ去られてから、櫻の民が他国の王族が連れてきていた従者にあの男が行きそうな場所を聞いているが、この国は広く大きく、従者の男にも他国の王族の男が何処に行ったかは分からないと言うが、行きそうな場所を教えるなら刑を軽くなるかもしれないと甘い言葉に従者の男は手当たり次第に、他国の王族の男が行きそうな場所を言っていく。それを櫻の民がメモしていく。刑が軽くなっても、きっと処される刑は決まっているのだが、まだ従者の男には話してほしい事が沢山あったのでそれは黙っていた。
「我が君が一番行きそうな場所は、我が国の民が居るであろう場所です。今の我が国の現状は良くありません。物価は高騰し物の値段だけが上がり、払う賃金が安いのです。その環境に適応できずに国外逃亡する国の民が多くいます。そんな民でも、我が国の王族が助けを求めたら助けてくれると思っているからです。めでたいですよね、王族って。自分達は税金で豪華に遊んで暮らしているのに、いざって時は国の民だから助けろって。血税をしぼるだけしぼって苦しめたのに。元を辿れば、王族が民の事を考えなかったから、おきた事なのに」
 従者の男はそう話していた。分かっているのだろう、この国の王族を攫うという事がどんな刑よりも重い罰がかせられる事になる事を。だから、男は焦っている。だから、自分が助かるために情報を俺達に流している。そんな情報を吐いた位で助けてなんてやらない。まさか、本当に助かる、見逃して貰えると思っているのか? めでたい頭をしている。逃げている他国の王族の男と同じ位にな。櫻の民が聞いた場所に向かう準備を進めている。
 他国の王族の男が逃げ出せたのは蒼を人質にとられて櫻の民が手出しできなくなっていたからだ。櫻の民にとって王族は命そのもの。それを脅されては手出しできない。
 逃げ出している他国の王族の男を見つけるために、国境にその男を指名手配した。そして、他国の王族が居た王国の国王にも手紙を送った。
【そちらの国にはそれ相応の罰を受けてもらう。だが、その前にこの男(指名手配者)が帰ってきたら我が国に渡す様に】という内容の手紙だった。まぁ、脅しであった。
 あの蒼が俺の身代わりになった時の事を思い出す。
 俺は馬鹿か! 蒼が俺との上着を意味もなく交換しようなどと言ったりなんてしないのに、俺は何も考えずに渡してしまった。廊下は蝋燭の灯りがついていたが暗く、顔の識別が出来ないので服で攫う子供をターゲットに絞ることくらい分かっても良かった。それなのに、俺の考えなしの行動が蒼を危険にさらしてしまった。
 他国の王族である男は異常に俺に執着していたらしい。俺を愛人にして魔法の力で国を繁栄にもっていきたかったらしいと、従者がまた話していた。そんな、話はどうでもいいと思った。もっともっともっと、蒼達が行きそうな場所を見つかる場所を吐け! と思った。だが、従者の男は恐ろしい事を言葉に出したのだ。
「あの連れ去れた男の子は我が主の怒りにふれて、殺されているかもしれません。いや、主の性格からして、殺しているのは確実かと。だって、美しい子ならまだ生かしていたかもしれませんが、あんな凡人の子だと、生かしている意味がないので」
 俺はその言葉に冷や水をかぶさられた様な感覚を覚えた。手足が凍てついてくる。
 蒼が殺されているかもしれない。いや、殺されている可能性の方が高いだと?
 俺は鳥居の神様にも両親や王様に、蒼を守っていくと約束して婚約者になったはずだった。だが、現実はどうだ? 守られてばかりだ。最後の言葉だって、蒼は俺に謝罪を言ってから連れ去られた。蒼は俺を守って死ぬ気だったのだ。
 あぁ、なんでなんだ。いつも、俺は気づくのが遅すぎるのだ。
 蒼の聡明さに、今は悔しさしか溢れない。
 蒼は俺が人攫いに狙われらているとすぐに察知して、俺を助けるために行動にうつし、自分が死んでもいいと思ったのかもしれない。俺なんかのために。蒼が死ぬ。
 あっていい事ではない。そんな事、おこってはいけない!
 蒼と俺は一生一緒いて蒼を幸せにすると自分自身に誓ったのだから!
 従者の男の情報をもとに、櫻の民は必死に国中を探し回った。だが、蒼の情報は得られる事はなく、その連れ去れた日から数日後に、他国の王族の男を国境でみつけ、櫻の民たちが蒼を何処に連れて行ったか聞いている。
「あんな凡人の男の子が王族なんて、恥でしょう? 死んで良かったのでは?」
 などとほざいていたらしい。だが、そんな事を言えるのも最初だけ。時間が経つにつれて自分の身が危うい事を感じ取ったのか、他国の王族の男はペラペラと話始めた。
「俺の国の民がいた村に置いてきた! ここからなら、二日で着く村だ!」
 櫻の民は急いで馬を用意して、その村に向かわせた。その村で蒼がみつかると思っていたが、だが蒼らしき子供などいなかった。
 俺はその報告に絶望した。
 この他国の王族の男は蒼を殺したが、殺したと言ったら自分が処刑されると思って、時間稼ぎのために嘘を言っているのではと思った。そう考えたら、憎らしい。蒼が殺されているのか、殺されていないのか、俺達では判別が出来ない。櫻の民を数十人、その村に向かわせたが、やはり蒼は見つからなかった。
「そんな事はない! 生きている、あの男の子を助けてくれと頼まれたから!」
 他国の王族の男はそう泣き叫んだ! もう顔が汚く歪むぐらいに泣いていた。
あぁ、そう言えば処刑を免れると思っているのか、愚か者! 俺から蒼を攫ったばかりか、殺して、命乞いで生きているなんて嘘を吐くなんて! 万死に値する!
 他国の王族の男からも従者からも聞ける情報は全て吐き出させたと櫻の民から連絡が王様に入った。それと共に、この二人の男を処刑に処した。そして、この男達の国である隣国を潰した。国民の命は助ける代わりに、王族には全員亡くなってもらった。そして、その隣国の国を我らの新しい国に吸収して、また広く大きな国に変貌した。
 蒼が攫われて生きているかもしれないと思っているのは、蒼の死体が出てこなかったからだ。俺は小さな望みだけを日々の糧にして、勉学に武芸に武術などの練習などに励んだ。蒼が帰って来た時に、俺と婚約者になった事を喜んでもらうためだ。だが、現実は無慈悲だった。日に日に美形になっていると言われる俺の婚約者がみつかったなどと、他国から情報を得て向かう事が数回あった。だが、どれも偽物の蒼を準備していたものだった。外見だけは蒼に見えるだろうが、動作や匂いが蒼ではなかった。今頃、一緒に生きていたらこんな成長をしているだろうと思われる外見をした蒼の偽物が憎らしかった。これでは、まるで蒼はもうこの世にいないようだと言われている様だった。蒼の偽物を用意したのは、俺達の国の力が欲しくて恩を売ろうとしたかったらしい。どの偽物も、用意した王族も、俺は刑に処して殺した。偽物を作って蒼を愚弄したのだ、当たり前だ。俺は日々、蒼に会えないのではと思ってくるようになった。他の王族達が蒼以外の婚約者を作らないかと話を持ち掛けてきたからだ。大人の王族の大半はもう、蒼が生きている事に希望をみてはいないからだ。蒼がいなくなって、5年が経った。偽情報や噂話程度しか、もう耳に入ってこなくなった。だが俺は10年待とうと思っていた。だって、蒼は俺のために11年は俺と他の王族の橋渡しをしてくれていた。ならば、俺も頑張ろうと思ったのだ。例え、冷たい屍になって帰ってきても、俺は蒼を愛しているだろう。今も傍にはいないけれど、心の奥から溢れてくる愛おしい気持ちは消えない。それよりも増していると思った。
 神様から祝福を6年目に受けた。魔法の力が増したがそれだけだった。蒼に会いたい。会いたいのに会えない。寂しさが募った。
 毎日、毎日、勉学に剣の練習に弓の稽古などをこなしていると、気がつけば8年はあっという間だった。俺はいつの間にか、王様から将来の王様にならないかと言われた。俺はそんな気分ではなかったが、もし蒼が居たら進めてくる案件だと思い、今は一番王様の座に近い王族にして下さいと願い出た。
 10年目になると他の国の王族が持ってきた病気に床を伏せる王族が多くなった。どの薬も効かなく、王族はこの病気に悩まされた。他国の王族を呼んでよかったためしがない。
そして、今年からは結婚率がおちている王族のために、一般人に混じっているかもしれない王族の血を引く者を探す「王族の奥方探し」が始まった。独身の男だけを、イビョンや他の匂士が国中を旅して歩き渡り、王族に近い匂いか好む匂いがする人物を探している。なかなか、良い報告はあがらなかった。聞く報告は「この村も町にもいませんでした」という寂しいものだった。王族の血を引くものなど、きっともういない。もし居たら、蒼の様に半分血が混じっている者だろう。だが、そんな人物が都合よくあらわれるとは思わなかった。10年という月日は俺には苦痛でしかなかった。蒼との思い出が過去になっていくし、薄れていくからだ。もう、王族の半数は蒼の顔も覚えていないだろう。俺の両親ですら、新しい婚約者を作ってもバチは当たらないといってくるし、蒼の両親もそうした方が紅玉のためだと言ってきた。俺は蒼以外いらないのに! なんで、誰も蒼が生きていると信じないのだろうか? いや、俺ももう半分諦めているのかもしれない。だって、蒼の笑顔がもう浮かばないのだから。そう思っていた時だった、王宮の外が騒がしくなったのは。俺は何事かと思って廊下から賑わっている方に向かって歩いた。櫻の民が早馬で王様の居る部屋に急いで向かっているのが分かった。他の櫻の民が動揺しているのが分かった。俺は櫻の民達に声をかけた。
「どうしたんだ? 何事だ?」
「紅玉様! その、本当かはまだ分かりませんが、ある情報が入りました!」
 櫻の民達は俺を見ると膝まづいて俺を見てきた。
「ほう、どんな内容だ?」
「はっ! 蒼様がみつかったという情報です!」
「……え? もう一度、申してくれ?」
「はい! 蒼様がみつかりました!」
 櫻の民達が泣きながら俺に報告してきた。
「偽物では?」
 俺はそれを危惧していた。また、俺達を騙そうとする誰かに差し金か?
「いえ、それが……前に処刑した男が言っていた村の山奥に住んでいた男が一人いまして、その男の外見と匂いが蒼様だと匂士のイビョン様が間違いないと太鼓判を押されました!」
「そんな事があるのか?」
 俺は心臓がドクンドクンと波打つのを感じた。これは期待だった。
「はっ! 申し訳ありません。まさか、あの山の奥に人が住んでいようとは、捜索の不手際で申し訳ありませんでした!」
「いや、流石に村だと言われていたのに山奥に住んでいたら分からないだろう。それで、蒼は元気なのか?」
「申し訳ありません、それは報告している櫻の民の者しかしらなく」
「分かった、俺も王に会いに行く」
「はっ!」
 俺は廊下を速足で歩いて、王様がいる部屋に向かった。
 戸を叩くと「入ってよい」と王様から声がかかり、俺は部屋の中に入っていった。
「おぉ、紅玉か」
「はっ! 失礼します」
「櫻の民よ、報告を続けよ」
「はい! 蒼様がみつかりましたが、どうやら記憶喪失になっている様だと報告があがっています。あの村の奥にある森の中で、あの滅ぼした国の民が住んでいて、そちらで蒼様は生活していたようです」
「そうか、そうか、蒼は生きていたのか。喜ばしいが、記憶喪失か」
 王は哀しそうな顔をしていた。櫻の民も同じ顔をしていたが、報告を続ける。
「今は18歳になって、その村で16歳に大人になる儀をしたと報告を受けています。そして、その蒼様と住んでいた人間、滅ぼした国の民、蒼様には育ての親になるのでしょう、その二人は蒼様に血の繋がりにない事を話すと、山の土砂崩れにあって亡くなっています。ですので、今は山奥では一人で蒼様は生活されている様です。報告は以上になります」
「分かった、下がっていい」
 櫻の民は王様に頭を下げてから、部屋から出て行った。
 王様は俺をじっとみてくる。
「紅玉だけだったな、蒼が生きていると思っていたのは」
「そうですね、ですが流石に10年までしか待てないと思っていました」
「だが、その10年目で蒼が現われた。其方たちは何か強い絆でもあるのだろうか? 其方が産まれた時間と、蒼が産まれた時間。三年は差があるが、一緒だったな」
「はい、誕生日が一緒で産まれた日時もピッタリだと聞いています」
「生まれながらにして、運命を共にするためなのかもな」
「王様」
「なんだ? 紅玉」
 俺は王様に頭を下げて、言葉を続けた。
「どうか、蒼が戻ってきたら、蒼を俺の婚約者にしてください!」
 俺がそう申し出ると、王様は笑っていた。
「くくっ、蒼の婚約者は紅玉以外に適した人間はいないと私は思っている。だが、私の言葉でより強固に出来るなら言おう。紅玉よ、蒼の婚約者に任命する!」
「はっ! ありがとうございます!」
「蒼を宜しく頼むぞ」
「もちろんです!」


 早馬が王宮に来てから二日後に、蒼が王宮に入って薬を作ってくれると話題になっていた。俺はその薬のおかげで元気になってきたので、夜に外に出て笛を憂さ晴らしに吹いていた。蒼が傍にいるが、病気なので安静にと櫻の民達に会うのを邪魔されているからだ。蒼も薬作りに必死になっているから、会う暇がないが。解せない。
前にある草むらの小道から、ガサガサと音がして何かの生き物がいるようだった。
 ウサギでも迷い込んだのだろうか? 最初はそうだと思っていた。
 だが、違っていた。
 黒い髪に茶色の瞳に懐かしい顔をした人間が、俺の好む匂いをさせて小道から現れた。
「蒼」
 俺は自然と笛から口を放して、ポロリと言葉をそうこぼしていた。
 俺は笛を腰の布に差し込み、一歩一歩と蒼に近付いた。
 俺はきっと泣きそうな顔をしているだろう。愛おしくて仕方ないのだから。
「嬉しい、また蒼と会えるなんて」
 蒼はビックリした顔をして「あの……?」と言って戸惑っていた。
 冷たい風が吹き荒れていたが、今はそんな寒さを感じない位に幸せだった。
 少しすると、王宮内から俺を呼び櫻の民達の声が聞こえてきた。
「何処におられるのですか! ベッドで寝てください!」
「まだ、安静にしていてください!」
 俺を探している声だった。
「誰か、探しているのかな?」
 蒼は声のする方に顔を向けていた。俺はそれが寂しくて声をかけた。
「蒼と二人っきりだったのに、勿体ないな」
 俺がそう言うと、蒼はこちらに向き直して俺を見てきた。
 蒼にみつめられて嬉しい気持ちになる。
「あの、貴方は一体?」
「そうか、蒼と会うのはこれが初めてになるのか」
 蒼は、今は記憶喪失だったか。なら、仕方ない。
 俺や他の王族達の記憶がないのは寂しいが、蒼にとっては覚えていたくない記憶があったのかもしれない。死ぬかもしれなかったのだ。記憶を失っても仕方ない。
「俺は紅玉。お前の婚約者だよ。蒼、愛している」
 そう言うと、俺は蒼の唇に柔らかな唇を押し当てて、それから従者たちの呼んでいる方に向かって走って行ってしまった。後ろを見ていると呆然としている蒼がいた。
 
 これが、俺と蒼の二度目の出会いだった。
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