何でも屋

ポテトバサー

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第一章:廃工場の謎

集合場所は八番亭

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 喫茶店「大宇宙」で未知との遭遇を終えた修と知哉は、知哉の実家、中華料理屋の「八番亭」にやってきていた。これから共に仕事をすることになる教授と大先生というあだ名の幼馴染が来るのを待っていたのだった。

男「何でも屋ねぇ、なんか楽しそうだなぁ」

 厨房で作業をしながら、知哉の父、寺内まさるが呟いた。

修「そうですか?」

 修はカウンター席に座っており、知哉はすぐ後ろのテーブル席に座っていた。

勝「そうだよ。だって、いろんな依頼が来るかもしれねぇんだろ?」

修「まぁ、そうですね」

勝「ウチなんか来る電話も来る客も、ラーメンだのチャーハンだの中華料理の注文ばっかりなんだよ」

知哉「当たり前だろ! 中華料理屋なんだから!」

勝「……おたく誰?」

知哉「息子だよ! 寺内勝さんとこの次男坊!」

勝「ですってお客さん」

修「いや、ちょっと、存じ上げない……」

知哉「いつ練習してんだホント…… 毎回毎回さぁ」

修「なんだよ、練習に参加したかったんなら言ってくれりゃ‥」

知哉「そうじゃねぇよ!」

 三人がバカ話をしていると、店の引き戸がカラカラと音を立てた。

勝「はい、いらっしゃ…… おっ、教授さん、いらっしゃい」

 教授があだ名のこの男、本名は大塚わたる。これがまぁ、お金持ちのお坊ちゃんで、大塚グループ社長の長男。母親も会社を経営している。しかしながら甘やかされたことはなく、感覚も庶民的。そして勉強嫌い。ただ、優秀な両親に秀才な姉という家族の手前、努力して一流大学に入学、首席で卒業した。だが勉強が大嫌い。

渡「どうも、おじさん。ちょっとご無沙汰しちゃいまして……」

 ちなみに背丈は修とほぼ同じで、少し痩せている。

勝「いいんだよ、んな事。ほい、座って座って」

渡「ありがとうございます」

 渡は修の横の席に腰かけた。もちろん一席空けて。

渡「よぉ、バカ二人」

 笑顔で言う渡に、笑って受ける修と知哉。

修「おい、知哉は別として、おじさんに失礼だろ!」

渡「それもそうか……」

勝「おいおい、俺に言ってたのかよ!?」

 わざとらしい声を出す勝に、三人は笑い出す。

渡「いやー、それにしても、もう夏って感じになってきたね」

知哉「だな。あとはセミが鳴くのを待つだけだよ」

修「ホントだな」

勝「なにを年よりじみたこと言ってんだよ? まだ二十代だろ?」

修「おじさん。野郎は二十歳こえたらジジイなんですよ」

渡「ずーっとそれ言ってるよね?」

修「まあな」

渡「何が『まあな』なんだか。ていうか、大先生はまだ?」

 渡がそう聞いたとき、店の引き戸が再び音を立てた。

勝「はい、いらっ‥ こりゃどうも大先生」

 大先生の本名は水木しげる。察しはつくだろうが有名な妖怪漫画家から両親が付けたもので、本人も無類の妖怪好きである。背丈は修・渡と知哉の間くらい。そして眼鏡をかけている。少し痩せていて、そして自由な男である。

重「こんにちは、おじさん」

 重は眼鏡を位置を直すと、天然パーマの長髪をフォサフォサと動かしながら、修と渡の間の席に腰かけた。

重「お邪魔しまーす」

修「何でわざわざ間に座るんだよ!」

重「あら、私のこと嫌いなの?」

知哉「大先生は好きだよなぁ、そのギャグつーか、ネタっつーか……」

重「なんだ、バカもいたのか」

 そのセリフに修と渡は吹き出し、勝は笑い出す。だが言われた知哉が一番笑っていた。

知哉「うるせぇよ!」

勝「すみません大先生、俺のしつけがなってないもんで……」

重「いえ、お父様のせいではございませんよ。ご長男は小学校の教諭をなさっているのですから」

勝「いやぁ、どうも、二回目は失敗しちゃったみたいで……」

知哉「うるせぇって! だから、いつ練習してんだよ!」

重「練習に参加したいなら‥」

知哉「それはさっき修が言ったよ!」

重「あら、修君と私、気が合うのね?」

修「気が合うも何も、幼稚園の時からくされ縁で一緒なんだ、似てもくるんだよ! イヤでもな!」

重「あ、それじゃその事について、腰を据えて話し合おうか」

修「結論を言ってんのになんで話し合わなきゃならねぇんだよ!」

重「そんなことより、物件を見に行くんでしょ?」

修「………………」

渡「そうだよ修、早く行こうよ」

修「……ったく、じゃあ行くか。それじゃおじさん、夕飯食べにまた来ますんで」

勝「おう、じゃあ気をつけてな」

修「はい、行ってきます」

渡「行ってきます」

重「お邪魔しました」

知哉「それじゃお父様、しばらくしましたら戻りますので」

勝「いい、いい、お前は帰ってくんな」

知哉「なんだってんだ!」

 四人は八番亭を後にして、何でも屋開業候補の物件へと歩き出した。
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