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第一章:廃工場の謎
理由その1
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渡「それで?」
歩き出してすぐ、渡が口を開いた。
渡「場所はどこなの?」
修「あれだよ、大通りの和菓子屋あんだろ? そこの道を入っていったところ」
渡「あぁ、あそこの道? 近くていいねぇ」
修「だろ? さっき知哉とも話してたんだけど、なっ?」
知哉「おう」
重「ねぇ、ちょっといい?」
修「ん、どうした?」
重「いやね、和菓子で思い出したんだけどさぁ」
話す重の表情はどこか嬉しそうだった。
重「妖怪の形をした和菓子を作ってる店を発見してね」
修「妖怪?」
重「そうそう」
渡「でも大先生、そういうの嫌いじゃなかったっけ?」
知哉「俺はあくまで妖怪が好きなんであって、とか言ってたじゃん?」
重「いや、最初はさぁ、そう思ったんだけどね。これがすごいクオリィティなんだよ」
知哉「リアルってこと? まぁ、妖怪にリアルも何もねぇんだろうけど」
重「まぁ、そうだけど、すごいんだよ。あとで画像を見せるけど、尻目とか……」
修「尻目!? なんで尻目だよ?!」
修は重との中を「幼稚園の時からのくされ縁」と言っていた。つまり、嫌でも幼馴染が好きな妖怪の知識が身についてしまう。
渡「なんとなく予想はつくんだけど、どんな妖怪なの?」
重「えーっとねぇ、こう…… お尻の真ん中に大きな目が一つある妖怪」
渡「謎だねそれは。修の言うとおりだよ。なんで尻目を選んだかなぁ……」
重「だけど、すごいんだよ? 味はもちろんだけど、良い作りなんだから。そのお尻の目なんか活き活きしてたもん」
修「ケツの目なんか活き活きさせなくていいんだよ!」
重「そうかねぇ? 目はケツほどにものを言うって‥」
修「口だろ! ケツは喋ってもプーとかくらいなんだよ!」
知哉「でもあれだな、和菓子って雅やかなもんしか作らないと思ってたけどよ、そういうのも作るんだな」
重「その妖怪和菓子を作ったところは老舗なんだよ。まぁ妖怪和菓子を考案して作った次男は店から追い出されちゃったけどね」
知哉「ダメじゃねぇかよ! 妖怪はやっぱダメなんだって」
修「いや、尻目がダメなんだろ!」
重「飛躍しすぎたのかねぇ……」
他愛もない話をしているうちに、四人は和菓子屋の近くまでやってきていた。
修「おっ、あそこ、あそこ。あそこを右だよ」
渡「あぁ、最近『風流』の水まんじゅう食べてないなぁ」
修「風流?」
渡「あの店の名前だよ。知らないの?」
修「知ってたら名前出して説明してるよ」
渡「それもそうか」
知哉「つーか、水まんじゅう有名なの?」
渡「別に有名ってわけじゃないんだけど、家にくるお客さんがよく持ってきてくれてたんだよ。これからの季節なんか、冷やした水まんじゅうとか水ようかんなんか最高でしょ?」
修「あぁ…… いいねぇ、それ」
修は贈答品のカタログに出てくるような、涼やかな和菓子のページを思い浮かべた。
知哉「おい、修! どこ行くんだよ!?」
修「あっ?」
知哉「ぼけっと歩いてんじゃねぇよ。ここを右に曲がんだろ?」
修「あぁ、そうだった、悪りぃ悪りぃ」
一同は風流の手前の道を曲がり、先に進んだ。
修「ほら、あそこだよ。ちょろっと見えるだろ? グレーとブルーが混ざったような色してる倉庫みたいな建物。その手前にあんだよ」
重「へぇー」
目的の建物が見えると、四人の足取りはいくぶん早くなった。
渡「いやぁ、早く開業しちゃいたいなぁ」
知哉「ん、どうした?」
渡「いま俺さぁ、姉貴にこき使われてんだよ。『アンタ今は暇なんだから、私の会社で手伝いなさいよ』って言われててさ」
修「あぁ、そうなの?」
渡「うん。で、ほら、姉貴からしてみたら弟だけど、他の社員の人からしてみたらさ、なんかこう、微妙な立ち位置にいるじゃん?」
知哉「まぁ、そうだろうな」
渡「なーんか、お互い変に気を使っちゃって、変に疲れるんだよね。だから早く開業したいんだよ」
修「ま、心配すんなよ。ビシッと今回の所で決まるからよ」
渡「本当? ていうか、修は一回見に来てんの?」
修「当たり前だろ? 伯父さんと一緒に見に行ったよ」
知哉「伯父さん?」
修「前に言ったろ!? 伯父さんは不動産屋なんだって!」
知哉「あぁ、そうだった、そうだった」
修「俺と伯父さんとで探し回って、ようやく思い出したオススメ物件なんだぞ?」
知哉「思い出した?」
修「あ? 俺いま『思い出した』って言った?」
知哉「言った」
修「間違えた間違えた、見つけ出したオススメ物件なんだよ!」
重「期待できるんだね?」
修「あったりまえだろ!? 伯父さんはその道のプロな……」
渡「どこ行くんだよバカ三人!」
渡以外の三人は、話に夢中のあまり、オススメ物件を通りすぎていた。
渡「ここだろ! グレーとブルーが混ざったような建物って!」
修「あぁ、そうだった、悪りぃ悪りぃ」
知哉「つられて歩いちまった」
渡「で?」
修「ん? あ、あぁ、この倉庫みたいなのと、左の事務所みたいなのが一押し物件ってわけだ」
重「おぉ! 二つセットかぁ!」
修「前は小さな部品を作ってた町工場だったんだってよ。だから倉庫の中もそれなりに広いし、事務所らしい作りになってんだよ。しかも、事務所は六畳ぐらいの広さの二階があってよ、仮眠室とかに使えるぜ?」
知哉「うってつけじゃん。しかも、倉庫の外壁を見る限りは老朽化してなさそうだしな。ま、塗装し直さないと見た目は悪いかもしんねぇけど」
修「良い感じだろ?」
重「うん、かなり良いねぇ! ねっ、知ちゃん?」
知哉「おう」
重と知哉には印象が良かったらしく、二人のテンションは上がっていた。が、渡の方は黙ったままだった。当然、修はそのことに気づいていたが、あえて触れなかった。だが、渡もずっと黙っているわけではない。
渡「…………いくら?」
修「ん? なに?」
渡「ここ、いくらで借りられるの?」
修「ま、それは追々。うーし、じゃあ中を案内‥」
渡「待て待て! はぐらかしたな?」
修「いいえ、別にはぐらかしたわけではないですよ?」
渡「何をかしこまってんだよ! いいから値段を言いなさいよ」
修「値段? そりゃ、あれだよ、三万だよ……」
渡「三万? 四人で一か月十二万? 十二万!?」
重「あぁ、良いね! それなら四人で十分に払える額だし、最初は何かと掛かるからね」
重はこういう問題には疎いらしい。
渡「いや、安すぎるんだよ大先生! 事務所に倉庫ついてんだよ!?」
知哉「確かに、十二万はおかしいくらい安すぎるな。修、なんかしらのいわくが付いてんだろ?」
修「そりゃ、まぁ、もろもろ……」
渡「もろもろ!? おい待てよ! 何個いわくがあるんだよ!?」
修「そりゃ、まぁ、二つ三つじゃ済まないですよね……」
渡「うんうん、わかったわかった、まずその喋り方をやめろ! さっきから腹が立つんだよ!」
重「またお得意のあれでしょ? 煙に巻こうとか、言いくるめようとしてんじゃないの?」
修「別にそういう訳じゃねぇよ。言われた通り、いわくは何個かあるよ。ただ、どれも頑張れば解決できるいわくなんだよ」
渡「本当に?」
渡は全く信用していない口調だったが、修は好機とみて動きに出た。
修「例えばだ……」
修は倉庫左の事務所の前に立つと、ポケットをまさぐって数本のカギがついた束を取り出した。
修「知哉、いまシャッターのカギを開けるから、上げるの手伝ってくれよ」
知哉「おう、わかった」
修がシャッターのカギを開けると、知哉はしっかりとシャッターを上げきった。
修「サンキュー。んで、一つ目のいわくは……」
渡「ゴメン、いわくってもう言わないで。ゲシュタルト崩壊みたいになってきたから。理由とか問題にしてくれる?」
修「理由か問題? あーっと、一つ目の理由は、入り口の引き戸の窓越しに見れば分かる。だから、見てみ?」
知哉はシャッターを上げた時からすでに見ており、言葉を失っていた。
重「どれ、理由その1を見ようじゃないの。ほら、教授さん」
渡「……うん」
二人は引き戸の窓から中を覗いてみた。
重「うわぁ………」
渡「うわぁ………」
二人は声をそろえ、眉間にシワを寄せた。
渡「汚いし、散らかって……」
渡は何か違和感を覚えたのか、そこで言葉を切ってしまった。
知哉「その事務机っての? 砂ボコリみたいなのが……」
重「うわ、ホントだ! あれはすごいねぇ。あ、ちょっと床のとこ見てよ」
知哉「ん? あっ、何だあれ、ガラクタとゴミの間に道みたいにスペースが…」
修「それは俺と伯父さん二人で見に来た時に、奥に行けないからどかしたんだよ」
知哉「あぁ、そうなの?」
三人が話している間も、渡は違和感を覚えた辺りで鼻をひくつかせた。
重「うわー」
知哉「さっきから、『うわ』しか言ってねぇぞ大先生」
重「だって見てよ、あそこのカレンダー。左側の壁についてるやつ」
修「いやぁ、シゲ、よく気付いたなぁ」
重「あんだけ切なきゃ気づくよ!」
知哉「切ない?」
知哉がカレンダーに目をやると、確かに切なかった。何年も前の日付で役目を終えていたカレンダーには、赤いマジックで薄っすらと三月の末日に丸が付けられていた。
知哉「…………春が来ない年もあるんだな」
重「やめなさいよ!」
修「あと一日で、すべてウソに出来たのにな……」
重「やめなって言ってるでしょ! 笑えないんだよ!」
修「別に笑わそうとして言ったわけじゃねぇよ」
重「まったく…… それで? これが理由その1なのね?」
修「まぁそういこと。片づけりゃいいって言っても、一筋縄じゃいかないだろ?」
知哉「壁紙も床のフローリングも張り直さなきゃダメそうだしな」
重「カレンダーの処理にも困るよ? ぞんざいに扱ったら、カレンダーに眠る念が出てきそうだよ」
修「ね、念ねぇ……」
修は嫌なところを突かれて、少しだけ動揺してしまった。
知哉「つーかさぁ、教授さんはさっきから何をやってんの?」
渡「………え? いや、なんか臭うんだよね」
知哉「それはどっちの意味で言ってんの?」
渡「純粋に臭いって意味で」
知哉「あぁ。でも、なんも臭わないよな大先生」
重「うん、臭わないけど……」
知哉「あれだろ? 野良猫がそこらで用を足しちゃったんじゃねぇの?」
渡「そうだとは思うんだけど…… あ、ゴメンゴメン、いいよ修」
修「それじゃ、いま引き戸の鍵開けっから……」
修はカギを開けると、引き戸から距離を置いた。渡はそのことに不信感を抱いたが、他の二人は何も、いや、なーんにも感じずにいた。
修「はい、どうぞ」
重「はい、どうも」
修に促されるまま、重は引き戸を開けた。そしてすぐ、目に見えない何かに襲われた。
重「ハアッ!?」
渡「んぐっ!」
知哉「オエッ!」
鼻を抑えた三人は、目にもとまらぬスピードで引き戸から離れた。
知哉「くっさ! なんだよ、おい!!」
重「あの、あの三文字の臭いが…… オエッ……」
渡「やっはり、さっひのにほいは、まひがいひゃなきゃった」
鼻をつまんだまま話す渡は、マヌケな声のまま自分の鼻が正しかったことを主張した。
知哉「なんつー臭いなんだよ! しかも、ちょっと酸っぱい感じも…」
重「やめなさいよ! 余計に気持ち悪くなるでしょ!」
知哉「だって本当のことだろ!」
渡「おおひいこへで、さけふな! へいうか、おたむ!」
鼻をつまみっぱなしの渡は、怒っているのかどうかもわからない声のまま、修のほうへ振り返った。
渡「………………」
修の姿を見た渡は、思わず鼻から手を離した。
渡「この野郎!」
突然クリアになった渡の声に、重と知哉も修の方へと振り返った。
知哉「おい、なんだよそれ!」
修「あ?」
すっとぼけた声を出す修。
重「なに一人だけマスク着けてんだよ!」
修「だって中が臭いの知ってるもん」
重「そういうことを言ってんじゃないんだよ!」
修「そりゃ俺だって最初にマスクを渡そうかと思ったけど、俺だけしか臭いを体験してねぇのは癪じゃねぇか」
渡「まったくもう、いいから早くマスクをよこしなさいよ!」
重「ほら早く!」
修「わかったよ、ほれ」
修がポケットから個別包装されたマスクを取り出すと、三人は瞬く間に奪い取った。
渡「信じられないね。修といい、この臭いといい」
知哉「で、この臭いは何なんだよ!?」
修「理由その2だよ」
知哉「そうじゃなくてだよ」
修「あぁ、原因? 原因がさぁ…」
修は渋い表情で腕を組んだ。
渡「なに、分かってないの?」
修「いや、思い出すだけで…… まぁ、いいや、話すけどよ」
修はそう言って引き戸に近づくと、中にある事務机の一つを指さした。
修「あの机の引き出しさぁ、一番下はちょっと大きくなってんじゃん」
渡「うん」
修「その中にレジ袋が入っててさ、んでまぁ、持ち上げてみたら謎の液体が下の方に溜まっててさ」
渡「液体? 液体だけが入ってたの?」
修「……まぁ、早い話がだ、レジ袋の中にキャベツが一玉入ってて、それが放置されて腐って、悪臭を放つ謎の液体が、って話だよ」
その話に、渡と知哉は眉をひそめ、重に至っては嗚咽を漏らしていた。
知哉「なんだよそれ気持ちわりぃな… そんなんなるのかよキャベツって?」
修「中見たらキャベツだったぜ?」
渡「よく中を見たね」
渡は左右に細かく首を振った。
修「だって確認しねぇとさぁ… つーか大変だったんだぞ! 俺と伯父さんでホームセンター行って、マスクだゴム手袋だ買って、キャベツを処理するのは」
修は思い出してしまったおぞましい光景を、頭の中で必死にかき消した。
修「……だからもう、その臭いが事務所内に染み付いちゃってるわけなんだよ」
重「じゃ、じゃあ……」
吐き気が落ち着いてきた重がゆっくりと声を出した。
重「散らかって汚いのと、臭いが安い理由なの?」
修「あと……」
知哉「おい、まだあんのかよ!」
修「あるよ。さっき言った二階の部屋、雨漏りすんだよ」
知哉「臭いの後に雨漏り聞かされちゃうと、大した問題に思えねぇわ」
修「理由はそんなもんかな」
渡「じゃあ理由は三つなんだね?」
修「おう、三つだけだよ、事務所は」
修の『事務所は』という発言に、三人は顔を見合わせた。そして一度だけ頷いたかと思うと、修に襲い掛かった。
修「うおっ!」
重が素早く修のマスクを取り上げると、知哉と渡が修を事務所の中へ押しやった。隙を突かれた修は、事務所の中央付近まで入り込んでしまった。
修「うっ、パアイッスメンッ!」
謎の叫び声を上げた修は、事務所から飛び出ると、口だけで息をしながら倉庫の前まで逃げていった。
歩き出してすぐ、渡が口を開いた。
渡「場所はどこなの?」
修「あれだよ、大通りの和菓子屋あんだろ? そこの道を入っていったところ」
渡「あぁ、あそこの道? 近くていいねぇ」
修「だろ? さっき知哉とも話してたんだけど、なっ?」
知哉「おう」
重「ねぇ、ちょっといい?」
修「ん、どうした?」
重「いやね、和菓子で思い出したんだけどさぁ」
話す重の表情はどこか嬉しそうだった。
重「妖怪の形をした和菓子を作ってる店を発見してね」
修「妖怪?」
重「そうそう」
渡「でも大先生、そういうの嫌いじゃなかったっけ?」
知哉「俺はあくまで妖怪が好きなんであって、とか言ってたじゃん?」
重「いや、最初はさぁ、そう思ったんだけどね。これがすごいクオリィティなんだよ」
知哉「リアルってこと? まぁ、妖怪にリアルも何もねぇんだろうけど」
重「まぁ、そうだけど、すごいんだよ。あとで画像を見せるけど、尻目とか……」
修「尻目!? なんで尻目だよ?!」
修は重との中を「幼稚園の時からのくされ縁」と言っていた。つまり、嫌でも幼馴染が好きな妖怪の知識が身についてしまう。
渡「なんとなく予想はつくんだけど、どんな妖怪なの?」
重「えーっとねぇ、こう…… お尻の真ん中に大きな目が一つある妖怪」
渡「謎だねそれは。修の言うとおりだよ。なんで尻目を選んだかなぁ……」
重「だけど、すごいんだよ? 味はもちろんだけど、良い作りなんだから。そのお尻の目なんか活き活きしてたもん」
修「ケツの目なんか活き活きさせなくていいんだよ!」
重「そうかねぇ? 目はケツほどにものを言うって‥」
修「口だろ! ケツは喋ってもプーとかくらいなんだよ!」
知哉「でもあれだな、和菓子って雅やかなもんしか作らないと思ってたけどよ、そういうのも作るんだな」
重「その妖怪和菓子を作ったところは老舗なんだよ。まぁ妖怪和菓子を考案して作った次男は店から追い出されちゃったけどね」
知哉「ダメじゃねぇかよ! 妖怪はやっぱダメなんだって」
修「いや、尻目がダメなんだろ!」
重「飛躍しすぎたのかねぇ……」
他愛もない話をしているうちに、四人は和菓子屋の近くまでやってきていた。
修「おっ、あそこ、あそこ。あそこを右だよ」
渡「あぁ、最近『風流』の水まんじゅう食べてないなぁ」
修「風流?」
渡「あの店の名前だよ。知らないの?」
修「知ってたら名前出して説明してるよ」
渡「それもそうか」
知哉「つーか、水まんじゅう有名なの?」
渡「別に有名ってわけじゃないんだけど、家にくるお客さんがよく持ってきてくれてたんだよ。これからの季節なんか、冷やした水まんじゅうとか水ようかんなんか最高でしょ?」
修「あぁ…… いいねぇ、それ」
修は贈答品のカタログに出てくるような、涼やかな和菓子のページを思い浮かべた。
知哉「おい、修! どこ行くんだよ!?」
修「あっ?」
知哉「ぼけっと歩いてんじゃねぇよ。ここを右に曲がんだろ?」
修「あぁ、そうだった、悪りぃ悪りぃ」
一同は風流の手前の道を曲がり、先に進んだ。
修「ほら、あそこだよ。ちょろっと見えるだろ? グレーとブルーが混ざったような色してる倉庫みたいな建物。その手前にあんだよ」
重「へぇー」
目的の建物が見えると、四人の足取りはいくぶん早くなった。
渡「いやぁ、早く開業しちゃいたいなぁ」
知哉「ん、どうした?」
渡「いま俺さぁ、姉貴にこき使われてんだよ。『アンタ今は暇なんだから、私の会社で手伝いなさいよ』って言われててさ」
修「あぁ、そうなの?」
渡「うん。で、ほら、姉貴からしてみたら弟だけど、他の社員の人からしてみたらさ、なんかこう、微妙な立ち位置にいるじゃん?」
知哉「まぁ、そうだろうな」
渡「なーんか、お互い変に気を使っちゃって、変に疲れるんだよね。だから早く開業したいんだよ」
修「ま、心配すんなよ。ビシッと今回の所で決まるからよ」
渡「本当? ていうか、修は一回見に来てんの?」
修「当たり前だろ? 伯父さんと一緒に見に行ったよ」
知哉「伯父さん?」
修「前に言ったろ!? 伯父さんは不動産屋なんだって!」
知哉「あぁ、そうだった、そうだった」
修「俺と伯父さんとで探し回って、ようやく思い出したオススメ物件なんだぞ?」
知哉「思い出した?」
修「あ? 俺いま『思い出した』って言った?」
知哉「言った」
修「間違えた間違えた、見つけ出したオススメ物件なんだよ!」
重「期待できるんだね?」
修「あったりまえだろ!? 伯父さんはその道のプロな……」
渡「どこ行くんだよバカ三人!」
渡以外の三人は、話に夢中のあまり、オススメ物件を通りすぎていた。
渡「ここだろ! グレーとブルーが混ざったような建物って!」
修「あぁ、そうだった、悪りぃ悪りぃ」
知哉「つられて歩いちまった」
渡「で?」
修「ん? あ、あぁ、この倉庫みたいなのと、左の事務所みたいなのが一押し物件ってわけだ」
重「おぉ! 二つセットかぁ!」
修「前は小さな部品を作ってた町工場だったんだってよ。だから倉庫の中もそれなりに広いし、事務所らしい作りになってんだよ。しかも、事務所は六畳ぐらいの広さの二階があってよ、仮眠室とかに使えるぜ?」
知哉「うってつけじゃん。しかも、倉庫の外壁を見る限りは老朽化してなさそうだしな。ま、塗装し直さないと見た目は悪いかもしんねぇけど」
修「良い感じだろ?」
重「うん、かなり良いねぇ! ねっ、知ちゃん?」
知哉「おう」
重と知哉には印象が良かったらしく、二人のテンションは上がっていた。が、渡の方は黙ったままだった。当然、修はそのことに気づいていたが、あえて触れなかった。だが、渡もずっと黙っているわけではない。
渡「…………いくら?」
修「ん? なに?」
渡「ここ、いくらで借りられるの?」
修「ま、それは追々。うーし、じゃあ中を案内‥」
渡「待て待て! はぐらかしたな?」
修「いいえ、別にはぐらかしたわけではないですよ?」
渡「何をかしこまってんだよ! いいから値段を言いなさいよ」
修「値段? そりゃ、あれだよ、三万だよ……」
渡「三万? 四人で一か月十二万? 十二万!?」
重「あぁ、良いね! それなら四人で十分に払える額だし、最初は何かと掛かるからね」
重はこういう問題には疎いらしい。
渡「いや、安すぎるんだよ大先生! 事務所に倉庫ついてんだよ!?」
知哉「確かに、十二万はおかしいくらい安すぎるな。修、なんかしらのいわくが付いてんだろ?」
修「そりゃ、まぁ、もろもろ……」
渡「もろもろ!? おい待てよ! 何個いわくがあるんだよ!?」
修「そりゃ、まぁ、二つ三つじゃ済まないですよね……」
渡「うんうん、わかったわかった、まずその喋り方をやめろ! さっきから腹が立つんだよ!」
重「またお得意のあれでしょ? 煙に巻こうとか、言いくるめようとしてんじゃないの?」
修「別にそういう訳じゃねぇよ。言われた通り、いわくは何個かあるよ。ただ、どれも頑張れば解決できるいわくなんだよ」
渡「本当に?」
渡は全く信用していない口調だったが、修は好機とみて動きに出た。
修「例えばだ……」
修は倉庫左の事務所の前に立つと、ポケットをまさぐって数本のカギがついた束を取り出した。
修「知哉、いまシャッターのカギを開けるから、上げるの手伝ってくれよ」
知哉「おう、わかった」
修がシャッターのカギを開けると、知哉はしっかりとシャッターを上げきった。
修「サンキュー。んで、一つ目のいわくは……」
渡「ゴメン、いわくってもう言わないで。ゲシュタルト崩壊みたいになってきたから。理由とか問題にしてくれる?」
修「理由か問題? あーっと、一つ目の理由は、入り口の引き戸の窓越しに見れば分かる。だから、見てみ?」
知哉はシャッターを上げた時からすでに見ており、言葉を失っていた。
重「どれ、理由その1を見ようじゃないの。ほら、教授さん」
渡「……うん」
二人は引き戸の窓から中を覗いてみた。
重「うわぁ………」
渡「うわぁ………」
二人は声をそろえ、眉間にシワを寄せた。
渡「汚いし、散らかって……」
渡は何か違和感を覚えたのか、そこで言葉を切ってしまった。
知哉「その事務机っての? 砂ボコリみたいなのが……」
重「うわ、ホントだ! あれはすごいねぇ。あ、ちょっと床のとこ見てよ」
知哉「ん? あっ、何だあれ、ガラクタとゴミの間に道みたいにスペースが…」
修「それは俺と伯父さん二人で見に来た時に、奥に行けないからどかしたんだよ」
知哉「あぁ、そうなの?」
三人が話している間も、渡は違和感を覚えた辺りで鼻をひくつかせた。
重「うわー」
知哉「さっきから、『うわ』しか言ってねぇぞ大先生」
重「だって見てよ、あそこのカレンダー。左側の壁についてるやつ」
修「いやぁ、シゲ、よく気付いたなぁ」
重「あんだけ切なきゃ気づくよ!」
知哉「切ない?」
知哉がカレンダーに目をやると、確かに切なかった。何年も前の日付で役目を終えていたカレンダーには、赤いマジックで薄っすらと三月の末日に丸が付けられていた。
知哉「…………春が来ない年もあるんだな」
重「やめなさいよ!」
修「あと一日で、すべてウソに出来たのにな……」
重「やめなって言ってるでしょ! 笑えないんだよ!」
修「別に笑わそうとして言ったわけじゃねぇよ」
重「まったく…… それで? これが理由その1なのね?」
修「まぁそういこと。片づけりゃいいって言っても、一筋縄じゃいかないだろ?」
知哉「壁紙も床のフローリングも張り直さなきゃダメそうだしな」
重「カレンダーの処理にも困るよ? ぞんざいに扱ったら、カレンダーに眠る念が出てきそうだよ」
修「ね、念ねぇ……」
修は嫌なところを突かれて、少しだけ動揺してしまった。
知哉「つーかさぁ、教授さんはさっきから何をやってんの?」
渡「………え? いや、なんか臭うんだよね」
知哉「それはどっちの意味で言ってんの?」
渡「純粋に臭いって意味で」
知哉「あぁ。でも、なんも臭わないよな大先生」
重「うん、臭わないけど……」
知哉「あれだろ? 野良猫がそこらで用を足しちゃったんじゃねぇの?」
渡「そうだとは思うんだけど…… あ、ゴメンゴメン、いいよ修」
修「それじゃ、いま引き戸の鍵開けっから……」
修はカギを開けると、引き戸から距離を置いた。渡はそのことに不信感を抱いたが、他の二人は何も、いや、なーんにも感じずにいた。
修「はい、どうぞ」
重「はい、どうも」
修に促されるまま、重は引き戸を開けた。そしてすぐ、目に見えない何かに襲われた。
重「ハアッ!?」
渡「んぐっ!」
知哉「オエッ!」
鼻を抑えた三人は、目にもとまらぬスピードで引き戸から離れた。
知哉「くっさ! なんだよ、おい!!」
重「あの、あの三文字の臭いが…… オエッ……」
渡「やっはり、さっひのにほいは、まひがいひゃなきゃった」
鼻をつまんだまま話す渡は、マヌケな声のまま自分の鼻が正しかったことを主張した。
知哉「なんつー臭いなんだよ! しかも、ちょっと酸っぱい感じも…」
重「やめなさいよ! 余計に気持ち悪くなるでしょ!」
知哉「だって本当のことだろ!」
渡「おおひいこへで、さけふな! へいうか、おたむ!」
鼻をつまみっぱなしの渡は、怒っているのかどうかもわからない声のまま、修のほうへ振り返った。
渡「………………」
修の姿を見た渡は、思わず鼻から手を離した。
渡「この野郎!」
突然クリアになった渡の声に、重と知哉も修の方へと振り返った。
知哉「おい、なんだよそれ!」
修「あ?」
すっとぼけた声を出す修。
重「なに一人だけマスク着けてんだよ!」
修「だって中が臭いの知ってるもん」
重「そういうことを言ってんじゃないんだよ!」
修「そりゃ俺だって最初にマスクを渡そうかと思ったけど、俺だけしか臭いを体験してねぇのは癪じゃねぇか」
渡「まったくもう、いいから早くマスクをよこしなさいよ!」
重「ほら早く!」
修「わかったよ、ほれ」
修がポケットから個別包装されたマスクを取り出すと、三人は瞬く間に奪い取った。
渡「信じられないね。修といい、この臭いといい」
知哉「で、この臭いは何なんだよ!?」
修「理由その2だよ」
知哉「そうじゃなくてだよ」
修「あぁ、原因? 原因がさぁ…」
修は渋い表情で腕を組んだ。
渡「なに、分かってないの?」
修「いや、思い出すだけで…… まぁ、いいや、話すけどよ」
修はそう言って引き戸に近づくと、中にある事務机の一つを指さした。
修「あの机の引き出しさぁ、一番下はちょっと大きくなってんじゃん」
渡「うん」
修「その中にレジ袋が入っててさ、んでまぁ、持ち上げてみたら謎の液体が下の方に溜まっててさ」
渡「液体? 液体だけが入ってたの?」
修「……まぁ、早い話がだ、レジ袋の中にキャベツが一玉入ってて、それが放置されて腐って、悪臭を放つ謎の液体が、って話だよ」
その話に、渡と知哉は眉をひそめ、重に至っては嗚咽を漏らしていた。
知哉「なんだよそれ気持ちわりぃな… そんなんなるのかよキャベツって?」
修「中見たらキャベツだったぜ?」
渡「よく中を見たね」
渡は左右に細かく首を振った。
修「だって確認しねぇとさぁ… つーか大変だったんだぞ! 俺と伯父さんでホームセンター行って、マスクだゴム手袋だ買って、キャベツを処理するのは」
修は思い出してしまったおぞましい光景を、頭の中で必死にかき消した。
修「……だからもう、その臭いが事務所内に染み付いちゃってるわけなんだよ」
重「じゃ、じゃあ……」
吐き気が落ち着いてきた重がゆっくりと声を出した。
重「散らかって汚いのと、臭いが安い理由なの?」
修「あと……」
知哉「おい、まだあんのかよ!」
修「あるよ。さっき言った二階の部屋、雨漏りすんだよ」
知哉「臭いの後に雨漏り聞かされちゃうと、大した問題に思えねぇわ」
修「理由はそんなもんかな」
渡「じゃあ理由は三つなんだね?」
修「おう、三つだけだよ、事務所は」
修の『事務所は』という発言に、三人は顔を見合わせた。そして一度だけ頷いたかと思うと、修に襲い掛かった。
修「うおっ!」
重が素早く修のマスクを取り上げると、知哉と渡が修を事務所の中へ押しやった。隙を突かれた修は、事務所の中央付近まで入り込んでしまった。
修「うっ、パアイッスメンッ!」
謎の叫び声を上げた修は、事務所から飛び出ると、口だけで息をしながら倉庫の前まで逃げていった。
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青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
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青春
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