37 / 52
第六章:太ることに飽きました
珍客ラッシュ
しおりを挟む
修「はぁーあ、鬱陶しい天気が続くよな」
知哉「そりゃこの時季はしょうがないだろ、関東も梅雨に入ったんだしよ」
どんより空の下、二人は外で済ませてきた昼食の帰り道だった。。
知哉「うーし、ちょうど休憩時間も終わりだな」
修「おう、それじゃ仕事すっか……」
ただいまと口にしながら、二人は表の引き戸から事務所に入っていった。
椎名「おかえり。二人が帰ってきたとなると、昼休憩は終わりかな?」
重「そうですね」
渡「ふぅ、気合い入れて頑張るか……」
言った渡は修の表情に気が付き、あきれた声で聞いた。
渡「バカにも悩み事あるの?」
その言葉に思わず吹き出してしまった修は、笑いながらも何とか言い返した。
修「うるせぇな! バカにだって悩みくらいあるわ!」
渡「だから、何を悩むことがあるんだって聞いてんの」
修「いや最近よ、どうもこう、恋愛がらみの依頼が多くてさぁ」
渡「しょうがないでしょ」
修「そりゃわかってっけどさ、ただでさえスッキリしねぇ天気が続いてんのによ、ああいう依頼ばっかじゃ張り合いがねぇし、気が乗らないんだよなぁ」
知哉「あー、それは修の言う通り。なーんか調子でねぇよな、あれじゃ。もっとこう…… なぁ?」
修「そうそう、もっとバカっぽい依頼がいいんだよ」
黙っていた重は、湯呑に残っていたお茶の最後の一口を飲み干し立ち上がった。
重「依頼がないよりマシでしょ? 仕事があるうちが華なんだから」
湯呑を片付けに控室に向かう重。
修「まあな。でもたまには欲しいだろ? そういうの」
重「まあね」
重が言ったその時、事務所の入り口のほうから男女の声がした。
男「まぁーたんが言ってよぉ」
まぁ「もう、男の子でしょ? そうたん言ってよぉー」
そう「まぁたんに頼まれたら…… もう、カワユイなぁ、まぁたんは」
まぁ「そうたんもカワユイィー」
そう「そうかなぁ、照れちゃうなぁ。あっ! それじゃ、今からカッコよく言ってみるよ!」
まぁ「カッコ良いそうたんも見たいぃ! 早く早くぅ!」
そう「よーし……」
まぁ「ガンバ、ガンバ!」
そうたんは大きく息を吸い、大きな声を出した。
そう「すみま‥」
修「うるせぇ!」
いつの間にか二人に近づいていた修がグッと詰め寄る。
修「うるせぇってんだよ! 店先でバカ見せつけやがって! 『カワユイなぁ』じゃーねぇんだよ! 依頼があるならどっかよそに‥」
重「ホレ、どいた!」
いつの間にか近づいていた重が修を尻で突き飛ばす。
重「はいどうも、お二人を担当させていただく水木です。どうぞこちらへ」
重はカップルをソファーに案内した。突き飛ばされた修は不満そうな表情で自分のイスへと戻った。
修「ったく、噂をすればあれだよ」
渡「あれだよじゃないよ、お客さんに『うるせぇ』じゃないでしょ?」
修「悪かったよ。けどよ、何なんだろうな、ああいうのは」
渡「何って、バカップルでしょうよ」
修「いや教授さんもそう思ってるならさぁ……」
渡「けどお客さんだからねぇ」
修「おう、なんだ? 客なら何してもいいのか? 裸になって店先でウ○コしていいのか!?」
渡「いいわけないだろ! それにしてないだろ! ったく、訳わかんないね修は」
修「フンッ! どうせ俺はイケメンですよ!」
渡「バカかお前は!」
重「ちょっと! 二人ともうるさいよ!」
バカップルのために書類を取りに来ていた重は二人を注意すると、天然パーマの頭をファサファサさせながら戻っていった。
重「お待たせいたしました。それで、どういった依頼でしょうか?」
そう「愛の巣です」
重「愛の巣?」
そう「二人の、僕とまあたんの愛の巣を探して欲しいんです」
重「愛の巣ですか…… それは、あれですか? お二人の‥」
まあ「お二人じゃなく、そうたんまあたんって言ってもらえませんかぁ? ねぇ、そうたん?」
そう「そうだね、そっちのほうが『カワユイ』もんね?」
重「……そうたんまあたんの愛の巣というのは、住居という認識でいいんですか?」
まあ「いえ…… あっ、今の『いえ』は住むところの家とかじゃなくて‥」
重「大丈夫ですよ、わかってますから……」
まあ「その、家とかっていう感じじゃなくて……」
そう「そうたんまあたんの『愛を育む巣』なんですよねぇ」
まあ「でも誰も理解してくれなくてぇ」
そう「不動産屋さんもダメ、旅行会社さんもダメ、大工さんもダメ」
重「旅行会社?」
そう「そうです。愛の巣を見つけるために、色々な場所に詳しい人に聞けばと思ったんですけどねぇ。大工さんのほうは……」
重「見つからないなら作っちゃえ?」
そう「そうですぅ! いやー、何でも屋さんは話がわかるなぁ」
まあ「まあたんの言った通りでしょ?」
そう「まあたんはやっぱり僕の女神さまなんだね?」
まあ「じゃあ、そうたんは迷える羊さんねぇ?」
そう「うん、僕は迷える羊さん。メェーメェー」
まあ「やー! カワユイー!」
重「……羊さんに女神さん、話を進めていいですか?」
そう「あ、すみません」
まあ「あ、すみません」
重はイラッとする気持ちをうまく打ち消していた。新手の妖怪だと思い、羊と女神に対応していた。
渡「修、大先生を見習いなよ?」
修「いや、わかるよ? あぁして対応していくのも大切なことぐらい。だけどな、バカにバカって言ってやらねぇと、どうしようもないタイプのバカはつけ上がっていくんだぞ?」
知哉「バーカ」
修「うん? なに?」
知哉「ちゃんと言ってやらないとつけ上がるんだろ? だから親友のためを思って言ってやってんだ。 バーカ」
修は黙ったまま知哉のことを見ていたが、呆れた顔で息を吐くと椎名のほうに顔を向けた。
修「ね、椎名さん。つけ上がるとああいう風になっちゃうんですよ、バカは」
知哉「なんだバカ!」
修「やるかバカ!」
椎名「まぁまぁ、二人ともバカってことで落ち着こうよ」
知哉「…………」
修「…………」
睨むでもなく椎名を見つめ続けるバカ二人。
椎名「……ほ、ほら、お客さんが来るかもしれないんだから、入り口のほうを見てようよ、ね?」
促されたバカ二人は仕方なく入口へと顔を向けた。すると、左側からうつむいた女性が歩いてきた。また同時に、右側からもうつむいた男性が歩いてきた。どちらも二十代後半という感じだった。
男「……………」
女「……………」
二人は互いの存在に気が付かないまま、何でも屋に入ろうとしてぶつかってしまった。
女「キャッ!」
男「わっ!」
男「すみません! 考え事をしていて……」
女「私のほうこそごめんなさい! ボーっと歩いていて……」
二人は謝った後に互いの顔を見た。そして見るなり大声を上げた。
男「ああああああ!」
女「ああああああ!」
大声を出す二人を、事務所の中からバカ二人が冷ややかに見つめる。
男「館山楓! なんでここにいるんだ!」
楓「それはこっちのセリフよ! 鴨川湊!」
湊「どうだっていいだろ!」
湊はそう言うなり事務所に入ろうとする。しかし、楓が外へ強引に引っ張り出す。
楓「待ちなさいよ! 私が先に来たんだから、私が先に入るの!」
楓が入ろうとするが、今度は湊が阻止する。
湊「ちょっと待てよ館山楓! 俺が先だ!」
楓「はぁ!? 後から来たくせに何よ鴨川湊!」
湊「後からはそっちだ!」
二人は入り口で押し合いを始めたかと思うと、ほぼ同時で中に入り、一番近くにいた渡のもとに駆け寄り声をそろえた。
楓「親の決めた結婚をやめさせてほしいんです!」
湊「親の決めた結婚をやめさせてほしいんです!」
一連の騒動、そして依頼内容に静まり返る事務所内。修は呆れかえった口調で知哉に言った。
修「ゆとりだよ」
知哉「あ?」
修「いや、ゆとり。ゆとりだろあんなもん! なんだよアレ? だから言ってんの俺はずっと前から。国と親のゆとりの産物だぞ、あれは」
知哉「まぁ確かにな。だっておかしいもの、なんでフルネームで呼び合ってんの? それに『僕が先だ! 私が先よ! えーい! こにょー!』だぞ? 普通の定義なんて知らないし、クソくらえだけど、普通じゃねぇな」
修「それに今どき親が決めた結婚ってよ…… そういう風習・習慣を大事にしてる所だったらともかくよ」
知哉「弁護士かなんかに頼めばいいじゃんなぁ」
修「たぶんあれだろ、世間体を気にしてんだろ?」
知哉「世間体?」
修「だって見ろよ? あの格好だ、二人とも箱入り息子娘だぞ? いくら守秘義務だなんだあったって、動きがあれば人目につくんだろ」
知哉「にしても、ドラマの見すぎだな」
修「本当そう。『君、俺に恋してるでしょ!』とか『まったく、モテる女はつらいのだぁ!』とか平気で使ってるぜ、普段」
知哉「だな」
二人がグチグチしゃべっている間に、渡は依頼者二人を空いているソファーに案内していた。
渡「少々お待ちを」
渡は二人をソファーに残すと、修と知哉の横にある棚に書類を取りに近づいた。
渡「まったく、うるさいよ! 仕事にならないでしょ!」
知哉「なんだよ、茂原ちゃんと東金君の味方すんのかよ?」
修「バカ! もっと南だ! 勝浦君といすみちゃんだろ?」
渡「鴨川さんと館山さんだ! もういいから、静かにしてなさいよ!」
棚の戸をピシャッとしめると、渡は依頼者のもとへ戻っていった。
椎名「まぁまぁ二人とも、少し落ち着きなよ。そのうち良い依頼人さんも来るから。ねっ?」
修「はーい」
知哉「はーい」
二人をなだめていた椎名は、入り口にまたしても男女がいることに気が付いた。
椎名「何か御用でしょうか?」
言われた男女は会釈をしてから中に入ってきた。感じのよさそうな二人は椎名に近づくと、再び会釈をした。
椎名「いらっしゃいませ」
椎名は深々と頭を下げた。
男「こんにちは…… あの、こちらで大道芸をやっていただけると聞いてきたんですが……」
椎名「あっ、私が担当しています!」
男「そうでしたか! あの実は、僕たちの息子の誕生日パーティーを盛り上げてもらおうと思いまして……」
椎名「お任せください。格安のお値段で最高の芸をお見せします」
それを聞いた夫婦は嬉しそうに顔を見合わせた。
椎名「では、奥に会議室があるので、そこで詳しいお話を……」
夫「はい、お願いします」
椎名が書類を取りに行こうと振り返ると、目の前に満面の笑みを浮かべた修と知哉が書類を手にして立っていた。
椎名「うわっ! びっくりした!」
修「いやー、誕生日パーティーですかぁ」
知哉「ご子息のご友人も招いて?」
夫「え、ええ。主役は息子ですけど、息子の大切な友達にも楽しんでもらえればと思いまして」
知哉「うんうん、もうそういうことでしたらタダでも構わないんですがねぇ。ねぇ久石さん?」
修「えぇ本当に。今ですね、どうでもいいような依頼が二つ入りましてね? そこから依頼料ふんだくってやりますから」
修は渡のほうに向かって声を上げた。
修「おい教授、じゃなくて、あの大塚さん? 担当のお客様の依頼料のことですが、前払いで七・八百万くらい支払ってもらいなさい」
館山「七・八百万!?」
鴨川「七・八百万!?」
渡「いえ、違います! 何でもありませんから! そ、それでご子息の……」
慌てて話を変える渡。
修「いやー、申し訳ありません、見掛け倒しのお客様だったみたいで」
面倒が増えると思った椎名は知哉から書類を素早く取ると、大慌てで夫婦を会議室に案内した。理想の依頼人がいなくなってしまった修と知哉は、しょんぼりとしながら女神さまと羊さんを挟むようにソファーのひじ掛け部分に座った。
知哉「あーあ、せっかくの良い依頼人さんだったのによぉー、なぁ、そうたん?」
そう「えっ? あぁ、確かに……」
修「でもあの依頼内容じゃ椎名さんにしか出来ないからなぁ、ねぇ、まあたん?」
まあ「そ、そうなんですか?」
担当の重は眉間にシワを寄せて眼鏡の位置をなおす。
重「依頼人に絡まないでもらえる? 俺もそうたんもまあたんも迷惑だから」
修「人聞きの悪い事を言うんじゃないよ大先生。絡んでなんかないだろ?」
知哉「そうだよ、ちょっと寂しいだけだよ」
それを聞いたバカップルは何やら相談を始めた。
まあ「ねぇ、そうたん。寂しいんだって!」
そう「きっと愛してくれる人がいないんだよぉ……」
まあ「可哀そうー」
修と知哉は懸命に我慢していた。
まあ「それじゃ少しだけ分けてあげる?」
そう「優しいなぁ、まあたんは」
まあ「それじゃー」
そう「うん!」
二人が立ち上がりモソモソと動き始めたまさにその時だった。
修「俺たちに愛を分けてみろ? ひっぱたいてやるからな?」
知哉は笑うのを我慢しながら、修の頭をひっぱたいた。修もたたかれるとわかっていて言ったので、知哉同様、笑うのを我慢しながら頭をたたきやすい角度にしていた。
知哉「何を言ってんだよ!」
修「何がだ! ひっぱた‥ ひっぱたくって言ってんだよ! 何が愛を分けるだ怪しい団体みたいなこと言いやがって!」
バカップルはズバッと本音を言われたため、座った後も笑いを我慢しきれずにうつむいて肩を揺らしていた。
修「そりゃーよ? お二人さんはお客様だよ。俺たちが懸命に依頼をこなして満足してもらえたら代金をお支払いお遊ばせるんだよ。だけど、ひっぱたくって言ってんだよ! ただそうたんよぉ、俺は女性に手を上げる趣味はねぇから、そうたん二発な?」
重「いいから! 二人とも戻りなさいよ! 話が先に進まないでしょ!」
知哉「わかってるよ。ほら、戻るぞオサタン」
修「誰がオサタンだ!」
知哉は先に立ち上がると自分の机に向かっていった。
修「それじゃ、そうたんにまあたん、うちの水木君と協力して愛の巣を見つけて下さいよ?」
そう「はーい!」
まあ「はーい!」
修「ったく、大丈夫かよ?」
修が渋い顔で立ち上がり、歩き出したその時だった。事務所の入り口のほうに何か暑苦しい気配を修は感じた。
修「あぁ?」
気になった修が目をやると、そこには太った男が立っており、タオルで汗を拭きながら立っていた。男は修と目が合うと嬉しそうに近づいてきた。
男「修ちゃん久しぶり。いやぁ、何年ぶりになるかなぁ」
ほんの少しだけ見覚えのあるその顔に、修は数年をさかのぼった。しかし思い出せない。
男「十何年ぶりかな?」
今度は十数年をさかのぼる修。すると彼はいた。若かりし頃の彼が思い出の中、同じような笑顔を見せて。
修「あっ!」
笑顔で男の顔を指さす修。男のほうも思い出せてもらえたと笑顔でうなずく。しかし、修の表情は一変、鬼の形相になった。
修「細川! この野郎ブクブク太りやがって!」
声を荒げながら詰め寄る修に細川は後ずさり。そのまま迫力に押されて事務所の外まで後ずさりしていく細川は、向かいの壁にぶつかってようやく止まった。
修「コラァ!」
細川「は、はい!」
追い詰めた修は問い詰める。
修「クラス全員で協力して、一年もかけて痩せたのに、これはどういう事なんだよ!」
細川「それはその‥」
修「確かにお前も頑張ったけど、俺の苦労はどうなる! 毎日のようにお前のために時間を犠牲にした俺の苦労は!」
細川「それはその‥」
修「俺たちがデブだ何だってイジメたか!?」
細川「イジメてない…… むしろ仲良しだった」
修「笑いモンにしたか!?」
細川「してない…… むしろ楽しい時間を共有してた」
修「そうだろ! 細川がどうしても、どーうしても痩せたいっていうから協力してやったんじゃねぇか! それを裏切りやがって!」
細川「ど、どうも、すいやせん……」
汗をぬぐいながらヘラヘラと謝る細川。まったく笑ってない修。
修「キーーーッ!」
バカばかりやる男子にキレた女子のような声を上げた修は、目にもとまらぬ速さのサイドキックを繰り出そうとしたが、奇声を聞きつけた重・渡・知哉に羽交い絞めにされた。
修「おい、放せ! やらせろ! 恨みを晴らさせろ!」
重「やめなさいっての!」
知哉「鬱陶しい天気の日に暴れんなよ。七面倒くせぇ!」
放せとわめく修を知哉と重が事務所の中に引きずっていく。その声は会議室にも聞こえていた。
椎名「ん?」
夫「なんの……」
椎名「猫です!」
察しがついた椎名はウソをついた。
椎名「猫なんですよ! 最近どうも野良ちゃんが増えたみたいで……」
夫「あ、そうなんですか」
椎名に野良猫と処理された修は、事務イスに座らされていた。細川は渡に連れられて、修の向かいに座らされていた。
渡「落ち着いて話し合ってよ修? わかった?」
修「……わかったよ」
渡「知ちゃん、頼んだよ?」
知哉「おう、わかったわかった」
渡と重が依頼人のもとへ戻ると、修は言いつけ通りに落ち着いて話し始めた。
修「はぁ…… それで? 依頼があって来たんだろ?」
細川「うん」
知哉「わりぃ、ちょっとタンマ」
修「ん? どうした?」
知哉「お知り合い?」
修「お知り合いって、細川だよ」
名前を聞いて目が点になった知哉は、まじまじと細川の顔を見つめる。
知哉「本当に細川君?」
細川「うん、久しぶりだね」
修「なんだ、気づいてなかったのか?」
知哉「いや、だって……」
知哉は細川の横のイスに座ると、両手で細川の頬をムニュムニュと動かし始めた。
知哉「久しぶりじゃないよ細川君。どうしちゃったの、こんなに太っちゃって」
細川「実は依頼っていうのは、そのことなんだよね……」
知哉「そのこと? 痩せたいってこと?」
細川「うん」
知哉は細川から手を放すと修のほうを向いた。
知哉「だって」
修「あ?」
知哉「痩せたいんだって」
修「痩せたいの?」
細川「うん、痩せたい」
細川は少し寂しげに汗を拭いた。
修「……いま麦茶を入れてきてやっから」
細川「ありがとう」
修は立ち上がると控室に入っていった。
知哉「あのさ細川君、痩せるために何かしてるの?」
細川「そうだねぇ……」
控室から戻ってきた修はお盆から机へとコップを移す。
修「ホラよ、麦茶」
細川「いただきます」
修「ほれ」
知哉「おう、サンキュー」
修はイスに座ると麦茶を一口飲んだ。
細川「いろんなのを試したんだけど……」
修「いろんなの? どんなのだよ?」
細川「うーんと、低カロリー食品にダイエット食品」
修「他には?」
細川「痩せるっていうサプリメント、食べたものを記録していくダイエット。プチ断食に、夜だけ好きなものを食べるダイエット。もちろん朝バージョンと昼バージョンも試し済みね。それから……」
修「……………」
細川「バナナダイエットにリンゴダイエット、野菜ジュースダイエット… あっ、黒酢ダイエットもやったし、そうだった! お昼寝ダイエッ‥」
修は黙ったまま細川の顔の寸前に自分の顔を近づけた。
修「動けコラ!」
細川は声と迫力に驚きひっくり返り、なぜか知哉も驚きひっくり返った。。
修「聞いてんのかよオイ! 動けってんだよ! 『そうだったぁ、お昼寝ダイエットォー』うるせぇバカ! 動けってんだよ! 動かねぇで痩せるかこの野郎!」
二人はノソッと起き上がるとイスに座りなおした。
修「いいか細川? 今のお前を例えるなら、表面張力ができちまうくらい水をたくさん入れたデカイ鍋なんだ」
細川「な、なべ?」
修「そう鍋だ。寸胴鍋だ。んで、そのたくさんの水が脂肪だ。その鍋を下から熱して水を蒸発させるのがダイエット。そいでもってその火力が運動なんだ。薪だガスだは筋肉だ」
細川「う、うん」
修「雀の涙、猫の額、そんくらいしかない筋肉で、一切運動しないってことはだ、鍋の下にロウソク一本立てて、水を蒸発させようとしてるのと同じことなんだぞ?」
細川「な、なるほど……」
修「何がなるほどだ、ええ? そんなんで痩せると思ってんのか?」
細川「痩せません……」
修「まったくよぉ、前にも同じ説明したと思うけどなぁ」
呆れたようすで修は腕を組んだ。
修「………それで? 本当に痩せたいのか?」
細川「痩せたい」
修「心の底から?」
細川「心の底から」
修「なんで痩せたいんだ?」
細川「なんで?」
修「おう、理由は何なんだよ?」
細川「モ、健康のために…」
修「モ、健康のためにぃ、じゃねぇよバカ! モテたいから痩せたいのか? ……二番目にしろ、それは」
細川「二番目って何?」
修「モテたいのは構わない。けどよ、一番目の理由は健康のためにしろよ。太りすぎても痩せすぎても体に良くないんだから。標準体型が一番なんだよ。後はそこから鍛えるなり絞るなりすればいい」
細川「そうだね……」
修「そういや、さっき言い忘れてたけど、痩せるのには時間がかかる。いくら火力をあげても水を蒸発させるのには時間がかかる。そうだろ?」
細川「確かに」
修「どうだ? 時間がかかっても、多少キツくてもできるか?」
細川「うん、できるよ! やってみる!」
修「いーや、できませんっ!」
細川「どうしてよ!?」
修「気持ちがよ、覚悟が足らねぇんだよ」
修はイスから立つと、机に両手をついた。
修「言っちゃ悪いが、お前は意志が弱い。気合いとか根性が足らない。そりゃ気合いと根性だけじゃ痩せはしない。けどな、ダイエットを続けることの土台には必要なんだよ。さしずめ礎だ」
細川「それじゃどうしたらいいの?」
修「依頼は一時保留。これから三日間でその根性を叩き直す。三日後に鉄のように固い意志を身に着けられたら依頼を受けてやる」
細川「本当に!?」
修「どうだ、地獄を見ることになるが、やるか?」
細川「……やる、やるよ俺!」
細川の目が変わったことを確認した修は話を続けた。
修「よし! そうと決まれば早速やるぞ!」
細川「えっ! ちょっと、今日からなの!?」
修「あったりまえだろ! そういうとこがなってないんだよ細川は!」
修はイスをしまうと、出かける準備を始めた。
知哉「よう、何してんだよ?」
修「ん? 細川の家に行くんだよ。どうせ食いもんばっかで、家でもできるトレーニングをやる場所もないに決まってんだ」
細川「本当に行くの!?」
修「あたりまえだって言ってるだろ! ちょっと待ってろ、倉庫から仕分け用の袋を持ってくるから。ゴミ屋敷掃除は仕事で慣れてっからなぁ」
小走りで倉庫に向かう修。
知哉「ま、頑張るしかないな細川君。修のことだから無理はさせないと思うけど」
細川「うん、こうなったらとことんやってみるよ」
知哉「おう」
修「おーし、準備できたぞ。それじゃ行く…… おう知哉、お客さん来てるぞ」
修に言われた知哉が入り口に目をやると、一人の女性が仁王立ちをしていた。
スーツ姿の女性は三十代前半くらいに見え、黒く長い髪をなびかせて、白い肌に赤の口紅、するどい眼差しは『ここは私に見合う店なのか』と品定めをしているかのようだった。
知哉「あ、どうも、いらっしゃいませ!」
すでに女性の気迫に怖気づいていた知哉は、恐々と近づく。
女性「……………」
近づいてきた知哉を頭のてっぺんから足の先まで観察すると、急に顔を近づけた。
知哉「うっ……」
知哉の目をじっと見つめた女性は、数回うなずくと顔を放した。
女性「いいでしょう。ここは何でも屋さんであってるかしら?」
知哉「はい、そうです……」
女性「それじゃ依頼の内容を言うわ。私の理想の結婚相手を見つけてほしいの。白馬に乗った王子様っていうやつ」
知哉「白馬に乗った王子様…… ですか?」
女性「そう。これ私の名刺。連絡先はここに書いてあるから」
知哉は渡された名刺に目をやる。
知哉「えーっと、笹塚麻美様」
麻美「そう、笹塚麻美」
知哉「えっ!? 専務!?」
麻美「そう、専務。仕事が忙しいから今日はこれで失礼するわ。また私のほうから連絡するけど、あなたお名前は?」
知哉「あの、寺内知哉と言います」
知哉は自分の名刺を手渡した。
麻美「どうも。寺内さんね? わかったわ。それじゃまた」
麻美はハイヒールをカツカツ鳴らして外へ出ると、待たせてあった車に乗り込んだ。そのとき初めて車の存在に気付いた知哉は、慌てて近づく。
知哉「あの……」
麻美はその声に車のウィンドウを下げた。
麻美「あら、見送り?」
知哉「はい、お気をつけて」
麻美「ありがとう」
その言葉を合図に車は走り出す。知哉は車が見えなくなるまで頭を下げ続けると、深いため息をつきながら事務所に戻っていく。
細川「修ちゃん。綺麗な人だったけど、怖そうだったね……」
修「だな。相当気がつえーぞ、あれは。それにしても細川はタイミングが良かったよ」
細川「どうして?」
修「お前が来てくれなきゃ、順番的に俺があの人の担当になるところだったからだよ」
細川「あぁ、そういうことか」
知哉「うぅ……」
うめき声を出しトボトボ歩いてきた知哉は修を恨めしそうに見つめ続けた。
修「な、なんだよ?」
知哉「白馬の王子様」
修「それが?」
知哉「見つけられるのかなぁ…… 俺……」
修「………………………よし、いくぞ細川」
細川「うん」
足早に立ち去る修と細川。残された知哉は、重とバカップル二人のほうを見つめ続けるも、三人は目を合わせようとしない。
知哉「ねぇ……」
今度は渡とドラマカップルのほうを見るも同じ反応。
知哉「へ…… へへっ…… だーはっはっは! 白馬の王子様なんか何人でも見つけてやるよ! 俺の実力ってのを見せてやるぜ! ここは何でも屋だ、何でもかかって来いってんだよ!」
知哉はその日、眠ることができなかった。
知哉「そりゃこの時季はしょうがないだろ、関東も梅雨に入ったんだしよ」
どんより空の下、二人は外で済ませてきた昼食の帰り道だった。。
知哉「うーし、ちょうど休憩時間も終わりだな」
修「おう、それじゃ仕事すっか……」
ただいまと口にしながら、二人は表の引き戸から事務所に入っていった。
椎名「おかえり。二人が帰ってきたとなると、昼休憩は終わりかな?」
重「そうですね」
渡「ふぅ、気合い入れて頑張るか……」
言った渡は修の表情に気が付き、あきれた声で聞いた。
渡「バカにも悩み事あるの?」
その言葉に思わず吹き出してしまった修は、笑いながらも何とか言い返した。
修「うるせぇな! バカにだって悩みくらいあるわ!」
渡「だから、何を悩むことがあるんだって聞いてんの」
修「いや最近よ、どうもこう、恋愛がらみの依頼が多くてさぁ」
渡「しょうがないでしょ」
修「そりゃわかってっけどさ、ただでさえスッキリしねぇ天気が続いてんのによ、ああいう依頼ばっかじゃ張り合いがねぇし、気が乗らないんだよなぁ」
知哉「あー、それは修の言う通り。なーんか調子でねぇよな、あれじゃ。もっとこう…… なぁ?」
修「そうそう、もっとバカっぽい依頼がいいんだよ」
黙っていた重は、湯呑に残っていたお茶の最後の一口を飲み干し立ち上がった。
重「依頼がないよりマシでしょ? 仕事があるうちが華なんだから」
湯呑を片付けに控室に向かう重。
修「まあな。でもたまには欲しいだろ? そういうの」
重「まあね」
重が言ったその時、事務所の入り口のほうから男女の声がした。
男「まぁーたんが言ってよぉ」
まぁ「もう、男の子でしょ? そうたん言ってよぉー」
そう「まぁたんに頼まれたら…… もう、カワユイなぁ、まぁたんは」
まぁ「そうたんもカワユイィー」
そう「そうかなぁ、照れちゃうなぁ。あっ! それじゃ、今からカッコよく言ってみるよ!」
まぁ「カッコ良いそうたんも見たいぃ! 早く早くぅ!」
そう「よーし……」
まぁ「ガンバ、ガンバ!」
そうたんは大きく息を吸い、大きな声を出した。
そう「すみま‥」
修「うるせぇ!」
いつの間にか二人に近づいていた修がグッと詰め寄る。
修「うるせぇってんだよ! 店先でバカ見せつけやがって! 『カワユイなぁ』じゃーねぇんだよ! 依頼があるならどっかよそに‥」
重「ホレ、どいた!」
いつの間にか近づいていた重が修を尻で突き飛ばす。
重「はいどうも、お二人を担当させていただく水木です。どうぞこちらへ」
重はカップルをソファーに案内した。突き飛ばされた修は不満そうな表情で自分のイスへと戻った。
修「ったく、噂をすればあれだよ」
渡「あれだよじゃないよ、お客さんに『うるせぇ』じゃないでしょ?」
修「悪かったよ。けどよ、何なんだろうな、ああいうのは」
渡「何って、バカップルでしょうよ」
修「いや教授さんもそう思ってるならさぁ……」
渡「けどお客さんだからねぇ」
修「おう、なんだ? 客なら何してもいいのか? 裸になって店先でウ○コしていいのか!?」
渡「いいわけないだろ! それにしてないだろ! ったく、訳わかんないね修は」
修「フンッ! どうせ俺はイケメンですよ!」
渡「バカかお前は!」
重「ちょっと! 二人ともうるさいよ!」
バカップルのために書類を取りに来ていた重は二人を注意すると、天然パーマの頭をファサファサさせながら戻っていった。
重「お待たせいたしました。それで、どういった依頼でしょうか?」
そう「愛の巣です」
重「愛の巣?」
そう「二人の、僕とまあたんの愛の巣を探して欲しいんです」
重「愛の巣ですか…… それは、あれですか? お二人の‥」
まあ「お二人じゃなく、そうたんまあたんって言ってもらえませんかぁ? ねぇ、そうたん?」
そう「そうだね、そっちのほうが『カワユイ』もんね?」
重「……そうたんまあたんの愛の巣というのは、住居という認識でいいんですか?」
まあ「いえ…… あっ、今の『いえ』は住むところの家とかじゃなくて‥」
重「大丈夫ですよ、わかってますから……」
まあ「その、家とかっていう感じじゃなくて……」
そう「そうたんまあたんの『愛を育む巣』なんですよねぇ」
まあ「でも誰も理解してくれなくてぇ」
そう「不動産屋さんもダメ、旅行会社さんもダメ、大工さんもダメ」
重「旅行会社?」
そう「そうです。愛の巣を見つけるために、色々な場所に詳しい人に聞けばと思ったんですけどねぇ。大工さんのほうは……」
重「見つからないなら作っちゃえ?」
そう「そうですぅ! いやー、何でも屋さんは話がわかるなぁ」
まあ「まあたんの言った通りでしょ?」
そう「まあたんはやっぱり僕の女神さまなんだね?」
まあ「じゃあ、そうたんは迷える羊さんねぇ?」
そう「うん、僕は迷える羊さん。メェーメェー」
まあ「やー! カワユイー!」
重「……羊さんに女神さん、話を進めていいですか?」
そう「あ、すみません」
まあ「あ、すみません」
重はイラッとする気持ちをうまく打ち消していた。新手の妖怪だと思い、羊と女神に対応していた。
渡「修、大先生を見習いなよ?」
修「いや、わかるよ? あぁして対応していくのも大切なことぐらい。だけどな、バカにバカって言ってやらねぇと、どうしようもないタイプのバカはつけ上がっていくんだぞ?」
知哉「バーカ」
修「うん? なに?」
知哉「ちゃんと言ってやらないとつけ上がるんだろ? だから親友のためを思って言ってやってんだ。 バーカ」
修は黙ったまま知哉のことを見ていたが、呆れた顔で息を吐くと椎名のほうに顔を向けた。
修「ね、椎名さん。つけ上がるとああいう風になっちゃうんですよ、バカは」
知哉「なんだバカ!」
修「やるかバカ!」
椎名「まぁまぁ、二人ともバカってことで落ち着こうよ」
知哉「…………」
修「…………」
睨むでもなく椎名を見つめ続けるバカ二人。
椎名「……ほ、ほら、お客さんが来るかもしれないんだから、入り口のほうを見てようよ、ね?」
促されたバカ二人は仕方なく入口へと顔を向けた。すると、左側からうつむいた女性が歩いてきた。また同時に、右側からもうつむいた男性が歩いてきた。どちらも二十代後半という感じだった。
男「……………」
女「……………」
二人は互いの存在に気が付かないまま、何でも屋に入ろうとしてぶつかってしまった。
女「キャッ!」
男「わっ!」
男「すみません! 考え事をしていて……」
女「私のほうこそごめんなさい! ボーっと歩いていて……」
二人は謝った後に互いの顔を見た。そして見るなり大声を上げた。
男「ああああああ!」
女「ああああああ!」
大声を出す二人を、事務所の中からバカ二人が冷ややかに見つめる。
男「館山楓! なんでここにいるんだ!」
楓「それはこっちのセリフよ! 鴨川湊!」
湊「どうだっていいだろ!」
湊はそう言うなり事務所に入ろうとする。しかし、楓が外へ強引に引っ張り出す。
楓「待ちなさいよ! 私が先に来たんだから、私が先に入るの!」
楓が入ろうとするが、今度は湊が阻止する。
湊「ちょっと待てよ館山楓! 俺が先だ!」
楓「はぁ!? 後から来たくせに何よ鴨川湊!」
湊「後からはそっちだ!」
二人は入り口で押し合いを始めたかと思うと、ほぼ同時で中に入り、一番近くにいた渡のもとに駆け寄り声をそろえた。
楓「親の決めた結婚をやめさせてほしいんです!」
湊「親の決めた結婚をやめさせてほしいんです!」
一連の騒動、そして依頼内容に静まり返る事務所内。修は呆れかえった口調で知哉に言った。
修「ゆとりだよ」
知哉「あ?」
修「いや、ゆとり。ゆとりだろあんなもん! なんだよアレ? だから言ってんの俺はずっと前から。国と親のゆとりの産物だぞ、あれは」
知哉「まぁ確かにな。だっておかしいもの、なんでフルネームで呼び合ってんの? それに『僕が先だ! 私が先よ! えーい! こにょー!』だぞ? 普通の定義なんて知らないし、クソくらえだけど、普通じゃねぇな」
修「それに今どき親が決めた結婚ってよ…… そういう風習・習慣を大事にしてる所だったらともかくよ」
知哉「弁護士かなんかに頼めばいいじゃんなぁ」
修「たぶんあれだろ、世間体を気にしてんだろ?」
知哉「世間体?」
修「だって見ろよ? あの格好だ、二人とも箱入り息子娘だぞ? いくら守秘義務だなんだあったって、動きがあれば人目につくんだろ」
知哉「にしても、ドラマの見すぎだな」
修「本当そう。『君、俺に恋してるでしょ!』とか『まったく、モテる女はつらいのだぁ!』とか平気で使ってるぜ、普段」
知哉「だな」
二人がグチグチしゃべっている間に、渡は依頼者二人を空いているソファーに案内していた。
渡「少々お待ちを」
渡は二人をソファーに残すと、修と知哉の横にある棚に書類を取りに近づいた。
渡「まったく、うるさいよ! 仕事にならないでしょ!」
知哉「なんだよ、茂原ちゃんと東金君の味方すんのかよ?」
修「バカ! もっと南だ! 勝浦君といすみちゃんだろ?」
渡「鴨川さんと館山さんだ! もういいから、静かにしてなさいよ!」
棚の戸をピシャッとしめると、渡は依頼者のもとへ戻っていった。
椎名「まぁまぁ二人とも、少し落ち着きなよ。そのうち良い依頼人さんも来るから。ねっ?」
修「はーい」
知哉「はーい」
二人をなだめていた椎名は、入り口にまたしても男女がいることに気が付いた。
椎名「何か御用でしょうか?」
言われた男女は会釈をしてから中に入ってきた。感じのよさそうな二人は椎名に近づくと、再び会釈をした。
椎名「いらっしゃいませ」
椎名は深々と頭を下げた。
男「こんにちは…… あの、こちらで大道芸をやっていただけると聞いてきたんですが……」
椎名「あっ、私が担当しています!」
男「そうでしたか! あの実は、僕たちの息子の誕生日パーティーを盛り上げてもらおうと思いまして……」
椎名「お任せください。格安のお値段で最高の芸をお見せします」
それを聞いた夫婦は嬉しそうに顔を見合わせた。
椎名「では、奥に会議室があるので、そこで詳しいお話を……」
夫「はい、お願いします」
椎名が書類を取りに行こうと振り返ると、目の前に満面の笑みを浮かべた修と知哉が書類を手にして立っていた。
椎名「うわっ! びっくりした!」
修「いやー、誕生日パーティーですかぁ」
知哉「ご子息のご友人も招いて?」
夫「え、ええ。主役は息子ですけど、息子の大切な友達にも楽しんでもらえればと思いまして」
知哉「うんうん、もうそういうことでしたらタダでも構わないんですがねぇ。ねぇ久石さん?」
修「えぇ本当に。今ですね、どうでもいいような依頼が二つ入りましてね? そこから依頼料ふんだくってやりますから」
修は渡のほうに向かって声を上げた。
修「おい教授、じゃなくて、あの大塚さん? 担当のお客様の依頼料のことですが、前払いで七・八百万くらい支払ってもらいなさい」
館山「七・八百万!?」
鴨川「七・八百万!?」
渡「いえ、違います! 何でもありませんから! そ、それでご子息の……」
慌てて話を変える渡。
修「いやー、申し訳ありません、見掛け倒しのお客様だったみたいで」
面倒が増えると思った椎名は知哉から書類を素早く取ると、大慌てで夫婦を会議室に案内した。理想の依頼人がいなくなってしまった修と知哉は、しょんぼりとしながら女神さまと羊さんを挟むようにソファーのひじ掛け部分に座った。
知哉「あーあ、せっかくの良い依頼人さんだったのによぉー、なぁ、そうたん?」
そう「えっ? あぁ、確かに……」
修「でもあの依頼内容じゃ椎名さんにしか出来ないからなぁ、ねぇ、まあたん?」
まあ「そ、そうなんですか?」
担当の重は眉間にシワを寄せて眼鏡の位置をなおす。
重「依頼人に絡まないでもらえる? 俺もそうたんもまあたんも迷惑だから」
修「人聞きの悪い事を言うんじゃないよ大先生。絡んでなんかないだろ?」
知哉「そうだよ、ちょっと寂しいだけだよ」
それを聞いたバカップルは何やら相談を始めた。
まあ「ねぇ、そうたん。寂しいんだって!」
そう「きっと愛してくれる人がいないんだよぉ……」
まあ「可哀そうー」
修と知哉は懸命に我慢していた。
まあ「それじゃ少しだけ分けてあげる?」
そう「優しいなぁ、まあたんは」
まあ「それじゃー」
そう「うん!」
二人が立ち上がりモソモソと動き始めたまさにその時だった。
修「俺たちに愛を分けてみろ? ひっぱたいてやるからな?」
知哉は笑うのを我慢しながら、修の頭をひっぱたいた。修もたたかれるとわかっていて言ったので、知哉同様、笑うのを我慢しながら頭をたたきやすい角度にしていた。
知哉「何を言ってんだよ!」
修「何がだ! ひっぱた‥ ひっぱたくって言ってんだよ! 何が愛を分けるだ怪しい団体みたいなこと言いやがって!」
バカップルはズバッと本音を言われたため、座った後も笑いを我慢しきれずにうつむいて肩を揺らしていた。
修「そりゃーよ? お二人さんはお客様だよ。俺たちが懸命に依頼をこなして満足してもらえたら代金をお支払いお遊ばせるんだよ。だけど、ひっぱたくって言ってんだよ! ただそうたんよぉ、俺は女性に手を上げる趣味はねぇから、そうたん二発な?」
重「いいから! 二人とも戻りなさいよ! 話が先に進まないでしょ!」
知哉「わかってるよ。ほら、戻るぞオサタン」
修「誰がオサタンだ!」
知哉は先に立ち上がると自分の机に向かっていった。
修「それじゃ、そうたんにまあたん、うちの水木君と協力して愛の巣を見つけて下さいよ?」
そう「はーい!」
まあ「はーい!」
修「ったく、大丈夫かよ?」
修が渋い顔で立ち上がり、歩き出したその時だった。事務所の入り口のほうに何か暑苦しい気配を修は感じた。
修「あぁ?」
気になった修が目をやると、そこには太った男が立っており、タオルで汗を拭きながら立っていた。男は修と目が合うと嬉しそうに近づいてきた。
男「修ちゃん久しぶり。いやぁ、何年ぶりになるかなぁ」
ほんの少しだけ見覚えのあるその顔に、修は数年をさかのぼった。しかし思い出せない。
男「十何年ぶりかな?」
今度は十数年をさかのぼる修。すると彼はいた。若かりし頃の彼が思い出の中、同じような笑顔を見せて。
修「あっ!」
笑顔で男の顔を指さす修。男のほうも思い出せてもらえたと笑顔でうなずく。しかし、修の表情は一変、鬼の形相になった。
修「細川! この野郎ブクブク太りやがって!」
声を荒げながら詰め寄る修に細川は後ずさり。そのまま迫力に押されて事務所の外まで後ずさりしていく細川は、向かいの壁にぶつかってようやく止まった。
修「コラァ!」
細川「は、はい!」
追い詰めた修は問い詰める。
修「クラス全員で協力して、一年もかけて痩せたのに、これはどういう事なんだよ!」
細川「それはその‥」
修「確かにお前も頑張ったけど、俺の苦労はどうなる! 毎日のようにお前のために時間を犠牲にした俺の苦労は!」
細川「それはその‥」
修「俺たちがデブだ何だってイジメたか!?」
細川「イジメてない…… むしろ仲良しだった」
修「笑いモンにしたか!?」
細川「してない…… むしろ楽しい時間を共有してた」
修「そうだろ! 細川がどうしても、どーうしても痩せたいっていうから協力してやったんじゃねぇか! それを裏切りやがって!」
細川「ど、どうも、すいやせん……」
汗をぬぐいながらヘラヘラと謝る細川。まったく笑ってない修。
修「キーーーッ!」
バカばかりやる男子にキレた女子のような声を上げた修は、目にもとまらぬ速さのサイドキックを繰り出そうとしたが、奇声を聞きつけた重・渡・知哉に羽交い絞めにされた。
修「おい、放せ! やらせろ! 恨みを晴らさせろ!」
重「やめなさいっての!」
知哉「鬱陶しい天気の日に暴れんなよ。七面倒くせぇ!」
放せとわめく修を知哉と重が事務所の中に引きずっていく。その声は会議室にも聞こえていた。
椎名「ん?」
夫「なんの……」
椎名「猫です!」
察しがついた椎名はウソをついた。
椎名「猫なんですよ! 最近どうも野良ちゃんが増えたみたいで……」
夫「あ、そうなんですか」
椎名に野良猫と処理された修は、事務イスに座らされていた。細川は渡に連れられて、修の向かいに座らされていた。
渡「落ち着いて話し合ってよ修? わかった?」
修「……わかったよ」
渡「知ちゃん、頼んだよ?」
知哉「おう、わかったわかった」
渡と重が依頼人のもとへ戻ると、修は言いつけ通りに落ち着いて話し始めた。
修「はぁ…… それで? 依頼があって来たんだろ?」
細川「うん」
知哉「わりぃ、ちょっとタンマ」
修「ん? どうした?」
知哉「お知り合い?」
修「お知り合いって、細川だよ」
名前を聞いて目が点になった知哉は、まじまじと細川の顔を見つめる。
知哉「本当に細川君?」
細川「うん、久しぶりだね」
修「なんだ、気づいてなかったのか?」
知哉「いや、だって……」
知哉は細川の横のイスに座ると、両手で細川の頬をムニュムニュと動かし始めた。
知哉「久しぶりじゃないよ細川君。どうしちゃったの、こんなに太っちゃって」
細川「実は依頼っていうのは、そのことなんだよね……」
知哉「そのこと? 痩せたいってこと?」
細川「うん」
知哉は細川から手を放すと修のほうを向いた。
知哉「だって」
修「あ?」
知哉「痩せたいんだって」
修「痩せたいの?」
細川「うん、痩せたい」
細川は少し寂しげに汗を拭いた。
修「……いま麦茶を入れてきてやっから」
細川「ありがとう」
修は立ち上がると控室に入っていった。
知哉「あのさ細川君、痩せるために何かしてるの?」
細川「そうだねぇ……」
控室から戻ってきた修はお盆から机へとコップを移す。
修「ホラよ、麦茶」
細川「いただきます」
修「ほれ」
知哉「おう、サンキュー」
修はイスに座ると麦茶を一口飲んだ。
細川「いろんなのを試したんだけど……」
修「いろんなの? どんなのだよ?」
細川「うーんと、低カロリー食品にダイエット食品」
修「他には?」
細川「痩せるっていうサプリメント、食べたものを記録していくダイエット。プチ断食に、夜だけ好きなものを食べるダイエット。もちろん朝バージョンと昼バージョンも試し済みね。それから……」
修「……………」
細川「バナナダイエットにリンゴダイエット、野菜ジュースダイエット… あっ、黒酢ダイエットもやったし、そうだった! お昼寝ダイエッ‥」
修は黙ったまま細川の顔の寸前に自分の顔を近づけた。
修「動けコラ!」
細川は声と迫力に驚きひっくり返り、なぜか知哉も驚きひっくり返った。。
修「聞いてんのかよオイ! 動けってんだよ! 『そうだったぁ、お昼寝ダイエットォー』うるせぇバカ! 動けってんだよ! 動かねぇで痩せるかこの野郎!」
二人はノソッと起き上がるとイスに座りなおした。
修「いいか細川? 今のお前を例えるなら、表面張力ができちまうくらい水をたくさん入れたデカイ鍋なんだ」
細川「な、なべ?」
修「そう鍋だ。寸胴鍋だ。んで、そのたくさんの水が脂肪だ。その鍋を下から熱して水を蒸発させるのがダイエット。そいでもってその火力が運動なんだ。薪だガスだは筋肉だ」
細川「う、うん」
修「雀の涙、猫の額、そんくらいしかない筋肉で、一切運動しないってことはだ、鍋の下にロウソク一本立てて、水を蒸発させようとしてるのと同じことなんだぞ?」
細川「な、なるほど……」
修「何がなるほどだ、ええ? そんなんで痩せると思ってんのか?」
細川「痩せません……」
修「まったくよぉ、前にも同じ説明したと思うけどなぁ」
呆れたようすで修は腕を組んだ。
修「………それで? 本当に痩せたいのか?」
細川「痩せたい」
修「心の底から?」
細川「心の底から」
修「なんで痩せたいんだ?」
細川「なんで?」
修「おう、理由は何なんだよ?」
細川「モ、健康のために…」
修「モ、健康のためにぃ、じゃねぇよバカ! モテたいから痩せたいのか? ……二番目にしろ、それは」
細川「二番目って何?」
修「モテたいのは構わない。けどよ、一番目の理由は健康のためにしろよ。太りすぎても痩せすぎても体に良くないんだから。標準体型が一番なんだよ。後はそこから鍛えるなり絞るなりすればいい」
細川「そうだね……」
修「そういや、さっき言い忘れてたけど、痩せるのには時間がかかる。いくら火力をあげても水を蒸発させるのには時間がかかる。そうだろ?」
細川「確かに」
修「どうだ? 時間がかかっても、多少キツくてもできるか?」
細川「うん、できるよ! やってみる!」
修「いーや、できませんっ!」
細川「どうしてよ!?」
修「気持ちがよ、覚悟が足らねぇんだよ」
修はイスから立つと、机に両手をついた。
修「言っちゃ悪いが、お前は意志が弱い。気合いとか根性が足らない。そりゃ気合いと根性だけじゃ痩せはしない。けどな、ダイエットを続けることの土台には必要なんだよ。さしずめ礎だ」
細川「それじゃどうしたらいいの?」
修「依頼は一時保留。これから三日間でその根性を叩き直す。三日後に鉄のように固い意志を身に着けられたら依頼を受けてやる」
細川「本当に!?」
修「どうだ、地獄を見ることになるが、やるか?」
細川「……やる、やるよ俺!」
細川の目が変わったことを確認した修は話を続けた。
修「よし! そうと決まれば早速やるぞ!」
細川「えっ! ちょっと、今日からなの!?」
修「あったりまえだろ! そういうとこがなってないんだよ細川は!」
修はイスをしまうと、出かける準備を始めた。
知哉「よう、何してんだよ?」
修「ん? 細川の家に行くんだよ。どうせ食いもんばっかで、家でもできるトレーニングをやる場所もないに決まってんだ」
細川「本当に行くの!?」
修「あたりまえだって言ってるだろ! ちょっと待ってろ、倉庫から仕分け用の袋を持ってくるから。ゴミ屋敷掃除は仕事で慣れてっからなぁ」
小走りで倉庫に向かう修。
知哉「ま、頑張るしかないな細川君。修のことだから無理はさせないと思うけど」
細川「うん、こうなったらとことんやってみるよ」
知哉「おう」
修「おーし、準備できたぞ。それじゃ行く…… おう知哉、お客さん来てるぞ」
修に言われた知哉が入り口に目をやると、一人の女性が仁王立ちをしていた。
スーツ姿の女性は三十代前半くらいに見え、黒く長い髪をなびかせて、白い肌に赤の口紅、するどい眼差しは『ここは私に見合う店なのか』と品定めをしているかのようだった。
知哉「あ、どうも、いらっしゃいませ!」
すでに女性の気迫に怖気づいていた知哉は、恐々と近づく。
女性「……………」
近づいてきた知哉を頭のてっぺんから足の先まで観察すると、急に顔を近づけた。
知哉「うっ……」
知哉の目をじっと見つめた女性は、数回うなずくと顔を放した。
女性「いいでしょう。ここは何でも屋さんであってるかしら?」
知哉「はい、そうです……」
女性「それじゃ依頼の内容を言うわ。私の理想の結婚相手を見つけてほしいの。白馬に乗った王子様っていうやつ」
知哉「白馬に乗った王子様…… ですか?」
女性「そう。これ私の名刺。連絡先はここに書いてあるから」
知哉は渡された名刺に目をやる。
知哉「えーっと、笹塚麻美様」
麻美「そう、笹塚麻美」
知哉「えっ!? 専務!?」
麻美「そう、専務。仕事が忙しいから今日はこれで失礼するわ。また私のほうから連絡するけど、あなたお名前は?」
知哉「あの、寺内知哉と言います」
知哉は自分の名刺を手渡した。
麻美「どうも。寺内さんね? わかったわ。それじゃまた」
麻美はハイヒールをカツカツ鳴らして外へ出ると、待たせてあった車に乗り込んだ。そのとき初めて車の存在に気付いた知哉は、慌てて近づく。
知哉「あの……」
麻美はその声に車のウィンドウを下げた。
麻美「あら、見送り?」
知哉「はい、お気をつけて」
麻美「ありがとう」
その言葉を合図に車は走り出す。知哉は車が見えなくなるまで頭を下げ続けると、深いため息をつきながら事務所に戻っていく。
細川「修ちゃん。綺麗な人だったけど、怖そうだったね……」
修「だな。相当気がつえーぞ、あれは。それにしても細川はタイミングが良かったよ」
細川「どうして?」
修「お前が来てくれなきゃ、順番的に俺があの人の担当になるところだったからだよ」
細川「あぁ、そういうことか」
知哉「うぅ……」
うめき声を出しトボトボ歩いてきた知哉は修を恨めしそうに見つめ続けた。
修「な、なんだよ?」
知哉「白馬の王子様」
修「それが?」
知哉「見つけられるのかなぁ…… 俺……」
修「………………………よし、いくぞ細川」
細川「うん」
足早に立ち去る修と細川。残された知哉は、重とバカップル二人のほうを見つめ続けるも、三人は目を合わせようとしない。
知哉「ねぇ……」
今度は渡とドラマカップルのほうを見るも同じ反応。
知哉「へ…… へへっ…… だーはっはっは! 白馬の王子様なんか何人でも見つけてやるよ! 俺の実力ってのを見せてやるぜ! ここは何でも屋だ、何でもかかって来いってんだよ!」
知哉はその日、眠ることができなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる