僕と彼女と彼女の嫁と

市川 恵

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日常3 ~彼女と僕の2年前~

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 京子さんが大学に入ったばかりの頃だった。
僕らはまだ、同居してなくて、僕は京子さんに大学認定試験の為の勉強を教わっていた。

~二年前~
 その日の京子さんは少し不機嫌だった。
「啓太...聞いてくれるか?」

 この様子だと、別に推しキャラが作中で死んだというわけでも無いみたいだ。

「今日な、大学の先生が、自己犠牲がいかに尊いことかだの、人のためにだの、語り出してな。元々好かん先生だったが、イライラしてな。」
「でも京子さん、第3夫人のなんだっけ?あの人とか『自己犠牲とか尊すぎか!』って前言ってなかったっけ?」
「2次元はいいんだ。美しいから。それにそうせざるを得ない状況だから。
だけどね、現実で『人のため』って言われるのあんまり好きじゃないんだ。」

 京子さんは、好き嫌いがはっきりしてるものの、基本的に優しい人だ。
 彼女が『人のため』という言葉を嫌うのは、僕にとって意外なことだった。

「『人のため』っていうのはさ、良くも悪くも自分が行動する理由を、他人に求めてるだろ?
『人のため』に行動する人の中には、引き際を見極めるのが下手で、自分にまで害が及んだときには、助けなきゃ良かった、って見捨てたり、後悔したり、相手のせいにする人もいる。
最後まで責任持って、人のために尽くすのは、難しい事だと思うんだ。」

  理論は何となく分かる。
 じゃあ京子さんは、なんで僕に手を差し伸べてくれたのだろう。

「人を助けたい理由は、助けたいと思う『自分のため』だろ。
それをわざわざ美談にする為に、『人のため』とか言うから、責任感が足りなくなるんだ。
救われる方にとっても、正直重いさ。」

 恐らく嫌な目にあった事があるのだろう。
 苦々しく京子さんは言った。
「京子さんが、一年前僕の相談に乗ってくれたのも、『京子さんのため』ですか?」

「ああ、そうだよ。当時はまだ君のこと異性として好きになっていなかったが、それでも君には元気でいて欲しかった。
だから、当時のことも、今こうして勉強を教えていることも、申し訳ないとか思う必要はない。
私がやりたくてやってることだ。」

 今日の京子さんの機嫌の悪さは、大学の先生だけが原因では無かったようだ。
 僕が、京子さんの大事なキャンパスライフを邪魔してるのではないかと、最近悩んでいた事もお見通しだったようだ。

「京子さん、ありがとう。
バイト代出たからお昼奢らせてください。
奢りたい気分なんです。」
「ああ、ではお言葉に甘えよう。
オムライスがいいな。」
 京子さんが、ふわりと笑った。
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