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回想1~僕と美術と馬マスク~
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帰り道、飲み会での先輩の言葉をきっかけに、色々思い出してしまった。
記憶に蓋をしようとしてみても、思考を止めようとしてみても、嫌な記憶はじわじわと滲み出てくる。
いつも思い出すのは、京子さんに出会う前からだ。
どうせ思い出すなら、京子さんと付き合い始めてからのことを思い出したいのだが。
~五年前~
高校入学早々、まだ入学式を含めて2日しか登校してないのに、4日も休んだ。
きっともう、クラスではある程度友達が固定されているだろう。あいつのせいで、ぼっちデビューだ。
教室に着くなり、先生から休みの期間の連絡事項を伝えられた。
体験入部の期間は既に終わっており、明日には本入部の申し込みも済ませなくてはいけないらしい。
随分せっかちな話のように感じる。
一度も体験せずに、三年間所属する部活を決めなくてはならない。
だが幸いなことに、入りたい部活、いや正しくは、入れる部活も決まっている。
決断に悩む必要は無さそうだ。
五限まで、名前すら知らない先生に繰り返し「ようやく来たか」みたいなニュアンスのことを言われて、本人達に悪気が一切無いのは分かっているが、いい加減聞き飽きた。
帰りの会が終わると、机の中に入っていたプリント類から、部活動活動場所一覧と校内の地図だけ取り出して、あとは全てカバンに突っ込んだ。
4階を目指して、階段を上っていく。
今日一日を振り返れば、心配していた程授業は進んでいなかったし、隣の席の奴から休んでる間の情報は手に入った。
そいつの連絡先を教えて貰ったことも、なかなか大きな成果だ。
我ながら今日は頑張った。
もうひと踏ん張りして、部活に関する心配事も解決しておきたい。
4階に着いて、「美術室」というプレートを探す。
ああ、ここか。
誰か一人、顧問か先輩か居て、まだ入部に空きがあるかとか、活動内容とか聞ければラッキーだな、くらいの気持ちで訪れた。
「失礼します。」
入ってみると予想に反して、結構人がいた。
活動日だったのか?
教室の後ろの方に六人がなにかを囲むように座り、スケッチしている。
円の中央から
「どうぞ。先生なら隣の準備室にいるぞ。」
と声が聞こえた。
中心にモデルがいるのか。
「すみません。入部希望なんですが---」
僕の位置からは見えない声の主に向かって答えながら、そちらへ向う。
ん?近づくにつれ、中心に妙なものが見えてくる。
端的にいえば、馬だった。
簡単にいえば、馬マスクを被った女子高生だった。
中心のモデルは馬マスクを被り、床に座って色気があるのかないのかよく分からないポージングをしている。
ドン引きだ。
だが、絵を描く以外に得意なことも特にない。
ここで退くという選択肢もない。
驚きを隠せないまま尋ねる。
「あの、えっと、昨日まで休んでいて、体験入部出来なかったんですが、まだ部員に空きってありますか?」
「ああ、あるぞ。
1年生はまだ、2人しかいない。
男手があると色々便利だし、大歓迎だ。」
中心の馬マスクが応える。
「ありがとうございます。」
ひとまず心配が解消され、新たに僕を悩ましている疑問を解決したくなる。
「すみません。
まず、一つ質問してもいいですか?」
「ああ。いいぞ。」
「なんで、馬マスク被ってるんですか?」
記憶に蓋をしようとしてみても、思考を止めようとしてみても、嫌な記憶はじわじわと滲み出てくる。
いつも思い出すのは、京子さんに出会う前からだ。
どうせ思い出すなら、京子さんと付き合い始めてからのことを思い出したいのだが。
~五年前~
高校入学早々、まだ入学式を含めて2日しか登校してないのに、4日も休んだ。
きっともう、クラスではある程度友達が固定されているだろう。あいつのせいで、ぼっちデビューだ。
教室に着くなり、先生から休みの期間の連絡事項を伝えられた。
体験入部の期間は既に終わっており、明日には本入部の申し込みも済ませなくてはいけないらしい。
随分せっかちな話のように感じる。
一度も体験せずに、三年間所属する部活を決めなくてはならない。
だが幸いなことに、入りたい部活、いや正しくは、入れる部活も決まっている。
決断に悩む必要は無さそうだ。
五限まで、名前すら知らない先生に繰り返し「ようやく来たか」みたいなニュアンスのことを言われて、本人達に悪気が一切無いのは分かっているが、いい加減聞き飽きた。
帰りの会が終わると、机の中に入っていたプリント類から、部活動活動場所一覧と校内の地図だけ取り出して、あとは全てカバンに突っ込んだ。
4階を目指して、階段を上っていく。
今日一日を振り返れば、心配していた程授業は進んでいなかったし、隣の席の奴から休んでる間の情報は手に入った。
そいつの連絡先を教えて貰ったことも、なかなか大きな成果だ。
我ながら今日は頑張った。
もうひと踏ん張りして、部活に関する心配事も解決しておきたい。
4階に着いて、「美術室」というプレートを探す。
ああ、ここか。
誰か一人、顧問か先輩か居て、まだ入部に空きがあるかとか、活動内容とか聞ければラッキーだな、くらいの気持ちで訪れた。
「失礼します。」
入ってみると予想に反して、結構人がいた。
活動日だったのか?
教室の後ろの方に六人がなにかを囲むように座り、スケッチしている。
円の中央から
「どうぞ。先生なら隣の準備室にいるぞ。」
と声が聞こえた。
中心にモデルがいるのか。
「すみません。入部希望なんですが---」
僕の位置からは見えない声の主に向かって答えながら、そちらへ向う。
ん?近づくにつれ、中心に妙なものが見えてくる。
端的にいえば、馬だった。
簡単にいえば、馬マスクを被った女子高生だった。
中心のモデルは馬マスクを被り、床に座って色気があるのかないのかよく分からないポージングをしている。
ドン引きだ。
だが、絵を描く以外に得意なことも特にない。
ここで退くという選択肢もない。
驚きを隠せないまま尋ねる。
「あの、えっと、昨日まで休んでいて、体験入部出来なかったんですが、まだ部員に空きってありますか?」
「ああ、あるぞ。
1年生はまだ、2人しかいない。
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中心の馬マスクが応える。
「ありがとうございます。」
ひとまず心配が解消され、新たに僕を悩ましている疑問を解決したくなる。
「すみません。
まず、一つ質問してもいいですか?」
「ああ。いいぞ。」
「なんで、馬マスク被ってるんですか?」
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