僕と彼女と彼女の嫁と

市川 恵

文字の大きさ
9 / 14

回想1~僕と美術と馬マスク~

しおりを挟む
 帰り道、飲み会での先輩の言葉をきっかけに、色々思い出してしまった。
記憶に蓋をしようとしてみても、思考を止めようとしてみても、嫌な記憶はじわじわと滲み出てくる。
 いつも思い出すのは、京子さんに出会う前からだ。
どうせ思い出すなら、京子さんと付き合い始めてからのことを思い出したいのだが。

~五年前~
 高校入学早々、まだ入学式を含めて2日しか登校してないのに、4日も休んだ。
きっともう、クラスではある程度友達が固定されているだろう。あいつのせいで、ぼっちデビューだ。
 教室に着くなり、先生から休みの期間の連絡事項を伝えられた。
 
 体験入部の期間は既に終わっており、明日には本入部の申し込みも済ませなくてはいけないらしい。
随分せっかちな話のように感じる。
一度も体験せずに、三年間所属する部活を決めなくてはならない。
 だが幸いなことに、入りたい・・・・部活、いや正しくは、入れる・・・部活も決まっている。
 決断に悩む必要は無さそうだ。

 五限まで、名前すら知らない先生に繰り返し「ようやく来たか」みたいなニュアンスのことを言われて、本人達に悪気が一切無いのは分かっているが、いい加減聞き飽きた。

 帰りの会が終わると、机の中に入っていたプリント類から、部活動活動場所一覧と校内の地図だけ取り出して、あとは全てカバンに突っ込んだ。
 
 4階を目指して、階段を上っていく。
 今日一日を振り返れば、心配していた程授業は進んでいなかったし、隣の席の奴から休んでる間の情報は手に入った。
そいつの連絡先を教えて貰ったことも、なかなか大きな成果だ。
 我ながら今日は頑張った。
もうひと踏ん張りして、部活に関する心配事も解決しておきたい。

 4階に着いて、「美術室」というプレートを探す。
ああ、ここか。
誰か一人、顧問か先輩か居て、まだ入部に空きがあるかとか、活動内容とか聞ければラッキーだな、くらいの気持ちで訪れた。

「失礼します。」
 入ってみると予想に反して、結構人がいた。
活動日だったのか?
教室の後ろの方に六人がなにかを囲むように座り、スケッチしている。
円の中央から
「どうぞ。先生なら隣の準備室にいるぞ。」
と声が聞こえた。
 中心にモデルがいるのか。

「すみません。入部希望なんですが---」
僕の位置からは見えない声の主に向かって答えながら、そちらへ向う。

 ん?近づくにつれ、中心に妙なものが見えてくる。
 端的にいえば、馬だった。
簡単にいえば、馬マスクを被った女子高生だった。
 中心のモデルは馬マスクを被り、床に座って色気があるのかないのかよく分からないポージングをしている。
 ドン引きだ。
 だが、絵を描く以外に得意なことも特にない。
ここで退くという選択肢もない。

驚きを隠せないまま尋ねる。
「あの、えっと、昨日まで休んでいて、体験入部出来なかったんですが、まだ部員に空きってありますか?」

「ああ、あるぞ。
1年生はまだ、2人しかいない。
 男手があると色々便利だし、大歓迎だ。」
 中心の馬マスクが応える。
「ありがとうございます。」
 
ひとまず心配が解消され、新たに僕を悩ましている疑問を解決したくなる。
「すみません。
まず、一つ質問してもいいですか?」
「ああ。いいぞ。」


「なんで、馬マスク被ってるんですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...