僕と彼女と彼女の嫁と

市川 恵

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回想6 ~僕と彼女と電話~

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 学校休んで、何日くらい経っただろうか。
授業進んじゃっただろうな。
部活の作品、間に合わないかもな。
 京子さんは、妙に察しがいいから、きっと心配するだろうな。
 そう思って、携帯を手に取った。
メールをゆっくりと打ち込んでいく。
「今日、空いている時間ありますか?
もし空いていれば、話したいことがあるので、電話させて下さい。」

 学校行けないから、作品展のこととか京子さんに頼まなくては、事情を話しておかなくては、そう思った。
でもよく考えたら事情を、話す必要なんてないのに。
むしろ話したところで、京子さんを困惑させてしまうだけだろうに。
 本当は、誰か信頼出来る人に話して、少しでも楽になりたかった。

 夕方、学校が終わったくらいの時間に京子さんから返信が来た。
「7時頃なら空いているが、どうだろうか?
良ければ、7時丁度にこちらから電話をかける。」

 時間が決まると、自然と緊張した。
 何を話せば良いのだろう。
どこまで話しても良いのだろう。
京子さんが僕を見る目は、変わってしまうだろうか。
 怖かった。

 あっという間に、7時になった。
メールに書かれていた通り、丁度7時に携帯が鳴った。
「もしもし...。こんばんわ。」
声が震えないよう、携帯を強く握りしめながら、慎重に口を開く。
「啓太君か?
どうした?
ゆっくりでいいから、話したいことだけでいいから、話してくれ。」
 
京子さんの声は、穏やかだった。

 もう声の震えを隠すことは出来ず、たどたどしく、僕は話しだした。
 休み始めてからの事情をすべて話し終えて、怯えながら京子さんの次の言葉を待った。

「啓太君、君に怪我はないんだね?
お母さんにも?」

 予想していなかった返答に、驚いた。
気まずそうに慰められるかと思っていた。
「え、はい。
父が暴れたとき、その場に居なかったので、怪我はありませんでした。」

「君の状況を思えば、こんなことを言う私がおかしいのだろうけど...無事で良かった。」
京子さんの声は、安堵で震えていた。

「京子さん、聞いてくれてありがとうございます。
すみません、こんなこと話して---」
「謝らないでくれ。
なあ啓太君、余裕が出来てからでいいから、一度会おう。
渡しておきたい物がある。」

 それから部活のことや周りへの対応、京子さんは冷静に僕の話を聞き、一緒に考えてくれた。

 数週間経ってから、経済的理由や時折休んでいたために足りなくなった出席数を理由に、休学することを決めた。

 学校と家庭にどちらも中途半端にして焦るよりは、良い選択だと思った。
 学校に赴き、休学に関する手続きをしたり、荷物を取りに行ったりせねばならなかった。
 休日だったが、京子さんと学校で待ち合わせることにした。

 母さんに手続きを任せて、会議室を出る。
 出来れば、クラスメイトに会いたくなくて、人通りの少ない廊下を選びながら、部室へ向かった。
 久し振りに入った美術室は、以前と変わらない油絵の具の匂いがした。
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