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メイドNo.1098 佐藤 和 Ⅱ
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ラベンダーの優しい香りが鼻孔をくすぐり、僕はゆっくりと目を開けた。慣れた寝心地の布団の感触と、頭元には愛読している小説が見えた。 間違いない、ここは僕の寝室だ。しかしどうして、僕は布団に入った覚えも、家に帰ってきた覚えもなかった。
僕は夢でも見ていたのだろうか、だとしたら随分と嫌な夢を見てしまった。Last Life youthとなった事で、余命五年なのかと実感して。その帰り道に滝が殺され、僕も殺されかけたのだ。そういえばその後に誰かが…助けてくれたような気がする。いやはや、悪夢とはこれをいうのだろう。今日は成人式だ、さっさと用意をしなければ遅れてしまう。起き上がろうとした瞬間
「壬生様。目が覚めましたか?」
声が聞こえた方に目をやると、見覚えのある少女が立っていた。
「壬生様?いかがされましたか?」
落ち着いた綺麗な声なのに、僕は突如胸を握りつぶされた様な錯覚におちた。バクバクと心臓が鳴り響き、全身の血が一滴余すことなく消えた気がした。
「うっ、うぉええ」
最悪だ、少女の前で嘔吐した。抑えられるなら抑えたかった。が、吐き気をどうしても堪えきれなかった。
「壬生様!大丈夫ですか、少し待っていてください。すぐに水を用意いたします。洗面台まで歩けますか?」
暖かな手が、僕の背中を摩ってくれているのが分かった。おぼつかない足取りで洗面所に行き、口だけをゆすいでリビングのソファーに座った。
「うっ、うぅ……」
嘔吐したかと思えば、次は涙まで落ち始めた。自分の情緒が分からなくなっていたが、こうなった理由だけは嫌なほど直ぐに分かった。
夢ではなかった、それだけだ。僕がもう
Last Life youthである事も、滝が死んだ事も、少女が側で立っていたという事だけで証明されたのだ。
「落ち着かれましたか?」
僕の嘔吐物を片し、新しいシーツに取り替え終えた彼女が戻ってきた。
「ラベンダーのハーブティーを持ってきました。鎮静効果が有りますので、良ければどうぞお飲み下さい。」
目を覚ました時に香ったのはこれだったか。ふわりと香るラベンダーは流石鎮静効果があるだけ、すん と嗅いだだけで心無しかほっとした。
コクンと一口飲むと、丁度良い温かさが五臓六腑に染み渡り、情緒不安定な僕に再度 涙をもたらした。
「お味は如何でしょう。」
「……あぁ、とても美味しいです。有難う御座います。」
そう言うと、彼女は頬を少し赤らめ斜め下を向きながら
「それなら…良かったです。」
と言った。
その時、玄関のドアがガチャリと開いた音がした。僕には友達はいるが、連絡無しに家を訪れる人はいないので少しばかり体が強ばった。
その様子に気づいてか、少女が
「ご心配なく。上司の椎名ですから。」
と言ったので、情けなくて次は僕の方が顔を赤らめた。
「たっだいま~。外寒くてリツ死ぬかと思ったぁ~。ほよ?ゆーやん起きてたんだぁ。」
椎名……この子の事で間違いないだろうが、上司だったのか。いやそれより、ゆーやん?僕の名前だよな。うーん、彼女はあれだ。きっとその日会った人とでもカラオケに行けるタイプだ、等とくだらないことを考えていると
「壬生様。体調が万全では無いことは承知なのですが、お話をしてもよろしいでしょうか。」
と少女が聞いてきた。いや、少女と呼ぶのも失礼だろうか。名前は確か…佐藤 和 さんだった気がする。
「あ。全然大丈夫です…何ですか?えっと佐藤さん……?であってますよね?」
「はい。メイドNo.1098佐藤 和です。壬生様、私は貴方様のメイドで御座います故、敬語を使われては…。どうぞ崩してお話下さい。」
そうだったのか。少しばかり気が引けるが、彼女は仕事な訳だから、僕が変に敬語を使って彼女にペナルティでも下ったらそれそれで困る。
そんな事にも気づかないとは相変わらず、成人男性としては情けない。
「そ、そう?じゃあ、お言葉に甘えようかな。何と呼んでもいいかな?」
「『お前』でも『メイド』でも名前でも、お好きにお呼びください」
いや、流石に『お前』はないだろう。そんな風に呼ぶ奴もいるのだろうか。素直に名前で呼べば良いのだが、ヘタレな僕にはそれさえも照れる事だった。
「ゆーやん、そんな悩まないでいいじゃない?リツみたいに、なごりんって呼んでもいいんだよ??」
くりっとした目でそういわれると、男としての"何か"がくすぶられた気がした。
「えっとぉ、じゃあ和ちゃん…って呼んでもいいかな?」
「和……ちゃん…。」
「あああ!!いや!嫌ならいいんだよ!?止めるから!!」
全力でそう答え、「佐藤さっ…」と呼び直そうとする前に 「いえ。えっと、そう…呼んでください。嬉しいです……」
と、耳まで赤めて言うものだから、何故か僕まで嬉しくなった。
「ちょっと、ねぇ!?何このラブコメみたいな雰囲気!リツの事忘れてない??こんな美少女をほっぽくなんて、ゆーやんたら見る目ないんだから!」
ぷいっ!と横を向いて頬を膨らます椎名さん。うぐっ、可愛い……。
「……ふぅ。まぁ遊びはここまでにして、なごりん、他に大事な事があるでしょう。」
「はい。申し訳ございません。」
二人がに姿勢を正して僕の方に向いた。
「壬生様、心を痛めてしまうかも致しませんが、どうか最後までお付き合いを。お気をたしかに持ってくださいませ。」
「え…………?」
長いようで短い物語が、今やっと動き出した。
僕は夢でも見ていたのだろうか、だとしたら随分と嫌な夢を見てしまった。Last Life youthとなった事で、余命五年なのかと実感して。その帰り道に滝が殺され、僕も殺されかけたのだ。そういえばその後に誰かが…助けてくれたような気がする。いやはや、悪夢とはこれをいうのだろう。今日は成人式だ、さっさと用意をしなければ遅れてしまう。起き上がろうとした瞬間
「壬生様。目が覚めましたか?」
声が聞こえた方に目をやると、見覚えのある少女が立っていた。
「壬生様?いかがされましたか?」
落ち着いた綺麗な声なのに、僕は突如胸を握りつぶされた様な錯覚におちた。バクバクと心臓が鳴り響き、全身の血が一滴余すことなく消えた気がした。
「うっ、うぉええ」
最悪だ、少女の前で嘔吐した。抑えられるなら抑えたかった。が、吐き気をどうしても堪えきれなかった。
「壬生様!大丈夫ですか、少し待っていてください。すぐに水を用意いたします。洗面台まで歩けますか?」
暖かな手が、僕の背中を摩ってくれているのが分かった。おぼつかない足取りで洗面所に行き、口だけをゆすいでリビングのソファーに座った。
「うっ、うぅ……」
嘔吐したかと思えば、次は涙まで落ち始めた。自分の情緒が分からなくなっていたが、こうなった理由だけは嫌なほど直ぐに分かった。
夢ではなかった、それだけだ。僕がもう
Last Life youthである事も、滝が死んだ事も、少女が側で立っていたという事だけで証明されたのだ。
「落ち着かれましたか?」
僕の嘔吐物を片し、新しいシーツに取り替え終えた彼女が戻ってきた。
「ラベンダーのハーブティーを持ってきました。鎮静効果が有りますので、良ければどうぞお飲み下さい。」
目を覚ました時に香ったのはこれだったか。ふわりと香るラベンダーは流石鎮静効果があるだけ、すん と嗅いだだけで心無しかほっとした。
コクンと一口飲むと、丁度良い温かさが五臓六腑に染み渡り、情緒不安定な僕に再度 涙をもたらした。
「お味は如何でしょう。」
「……あぁ、とても美味しいです。有難う御座います。」
そう言うと、彼女は頬を少し赤らめ斜め下を向きながら
「それなら…良かったです。」
と言った。
その時、玄関のドアがガチャリと開いた音がした。僕には友達はいるが、連絡無しに家を訪れる人はいないので少しばかり体が強ばった。
その様子に気づいてか、少女が
「ご心配なく。上司の椎名ですから。」
と言ったので、情けなくて次は僕の方が顔を赤らめた。
「たっだいま~。外寒くてリツ死ぬかと思ったぁ~。ほよ?ゆーやん起きてたんだぁ。」
椎名……この子の事で間違いないだろうが、上司だったのか。いやそれより、ゆーやん?僕の名前だよな。うーん、彼女はあれだ。きっとその日会った人とでもカラオケに行けるタイプだ、等とくだらないことを考えていると
「壬生様。体調が万全では無いことは承知なのですが、お話をしてもよろしいでしょうか。」
と少女が聞いてきた。いや、少女と呼ぶのも失礼だろうか。名前は確か…佐藤 和 さんだった気がする。
「あ。全然大丈夫です…何ですか?えっと佐藤さん……?であってますよね?」
「はい。メイドNo.1098佐藤 和です。壬生様、私は貴方様のメイドで御座います故、敬語を使われては…。どうぞ崩してお話下さい。」
そうだったのか。少しばかり気が引けるが、彼女は仕事な訳だから、僕が変に敬語を使って彼女にペナルティでも下ったらそれそれで困る。
そんな事にも気づかないとは相変わらず、成人男性としては情けない。
「そ、そう?じゃあ、お言葉に甘えようかな。何と呼んでもいいかな?」
「『お前』でも『メイド』でも名前でも、お好きにお呼びください」
いや、流石に『お前』はないだろう。そんな風に呼ぶ奴もいるのだろうか。素直に名前で呼べば良いのだが、ヘタレな僕にはそれさえも照れる事だった。
「ゆーやん、そんな悩まないでいいじゃない?リツみたいに、なごりんって呼んでもいいんだよ??」
くりっとした目でそういわれると、男としての"何か"がくすぶられた気がした。
「えっとぉ、じゃあ和ちゃん…って呼んでもいいかな?」
「和……ちゃん…。」
「あああ!!いや!嫌ならいいんだよ!?止めるから!!」
全力でそう答え、「佐藤さっ…」と呼び直そうとする前に 「いえ。えっと、そう…呼んでください。嬉しいです……」
と、耳まで赤めて言うものだから、何故か僕まで嬉しくなった。
「ちょっと、ねぇ!?何このラブコメみたいな雰囲気!リツの事忘れてない??こんな美少女をほっぽくなんて、ゆーやんたら見る目ないんだから!」
ぷいっ!と横を向いて頬を膨らます椎名さん。うぐっ、可愛い……。
「……ふぅ。まぁ遊びはここまでにして、なごりん、他に大事な事があるでしょう。」
「はい。申し訳ございません。」
二人がに姿勢を正して僕の方に向いた。
「壬生様、心を痛めてしまうかも致しませんが、どうか最後までお付き合いを。お気をたしかに持ってくださいませ。」
「え…………?」
長いようで短い物語が、今やっと動き出した。
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