アリアさんの幽閉教室

柚月しずく

文字の大きさ
10 / 19
迷い人3人目 呪いの人形

3-1

しおりを挟む





 一年二組の教室。
 朝のホームルーム前、ある話で盛り上がっているみたい。
 そんな中、わたし立花陽菜(たちばなひな)は、顔をひきつらせていた。


「呪いの人形って、定番だけど1番怖いよね!陽菜は呪いの人形に出会ったことある?」

 そう聞いてくるのは、一番仲が良い友達の葉月ちゃん。

「あ、あるわけないよ……」

 わたしは弱々しく返す。だって呪いの人形とか、怖い話が大の苦手なんだもん。
 葉月ちゃんが机の上にひろげた学校新聞。

 オカルトコーナーに、怪しげが写真が見えた。思わずぱっと目を逸らす。

「学校新聞のオカルトコーナー『呪いの人形』についてだってさぁー!こわーい!」

 怖いと言いながらも、どこか楽しそう。
 葉月ちゃんは、色素の薄い茶髪のショートボブがよく似合う女の子。

 そして、ホラー話が大好きなんだって。
 毎週発行される学校新聞の、オカルトコーナーをいつも楽しみにしているみたい。

「もう、わたしが怖い話苦手って知ってるくせに……」
「でも、人形って魂がやどるっていうよね!」

 わたしの話なんて聞いてないみたい。そう言って、葉月ちゃんは目を輝かせる。
 これは話題を変えないと、話が止まらなくなるパターンだ!

「葉月ちゃん、怖い話はやめようよ……。ねっ!休日はどこに出かけたの?」

 ホラー話が好きな葉月ちゃんは、一度話し出すと止まらなくなる。

 わたしは怖い話が苦手なので、無理やり話題を変えてみた。

「陽菜は怖がりだもんねー」
「そうだぞ。陽菜は誰よりも怖がりなんだからやめてやれよ!」

 わたしの心の声を代わりに言ってくれたのは、その場にいたもう一人の友達。

 短髪で日焼けをした男の子、志音くん。
 ありがとう。という気持ちを込めて、うんうんと相槌をうつ。

「陽菜は休みの日、どこかでかけた?」
「わたしはね、お父さんと隣町の川で釣りしてきたよ」
「えー。珍しい! おじさんに釣りに誘われてもいつも断ってたじゃん」

 志音くんは驚いたように目を丸くした。彼の言う通りでお父さんは釣りが大好き。わたしもなにかと誘われていたけど。釣りに興味がなかったのでいつも断っていたんだ。

「本当は乗り気じゃなかったんだけど、たまにはいいかなって」
「へえ。楽しかった?」
「うん。なんかわたしよりお父さんの方が楽しそうにしてたけどね」

 休日はどこに遊びに行ったとか、何して過ごしたとか。そんなことを話す休み明けの月曜日。いつもの光景。いつも通りの一日がはじまるはずだったのだけれど……。

「はあ、」

 自然とため息がこぼれた。なんだか朝起きてからずっと体が重いような気がするんだよね……。

 寝違えちゃったのかな。って思ってたけど。
 なんだか変な感じ。昨日の釣りで動いたからかな。だとすると、筋肉痛ってやつかな?
 ストレッチするように肩をぐるりと回した。

「ん? 陽菜どうかした?」

 志音くんは心配そうな顔で覗き込む。

「なんか、肩が痛いんだよね。特になにもしてないのに、変なの…」
「釣りで大きく振りかぶったんじゃねーの?」

 そう言って、志音くんは釣りをするときのポーズをとってみせた。

「……そうかも」

 志音くんの言うとおりかもしれない。釣り竿を川に投げたとき、腕と肩を使ったもん。
 そうだよ。きっとそのせいだ。問題が解決して、心のつかえがとれたような気がする。
 痛みをほぐそうと、また腕をぐるぐると動かしてみる。すると、少しだけ肩の痛さが軽くなったような気がした。

「なーんだ。ストレッチとかすれば治るかも!」

 軽くなったことが嬉しくて、深く考えることをやめていた。

 知らなかったんだ。この体の重みの本当の原因を――。



 学校の授業が終わるころには、どっと疲れていた。体が全体的に、重いような気もする。
 いつもより重い体を引きづって家に帰った。
 お父さんは今日帰りが遅いって言ってたし。
 まだお母さんも帰ってきていないようで、家の中には誰もいなかった。すると、懐かしいものを発見する。

「あれ、なつかしいー。ましゅちゃんだ」

 リビングテーブルに座っていた女の子の人形。それは小さい頃によく遊んでいた人形だった。

 世間でよくいわれているお世話人形で、くるっとした大きい目。少し笑っているような口元。
 柔らかくウエーブがかったセミロングの髪。

 その愛らしさから大人気で、シリーズ化されている人気のおもちゃだった。

「子供の頃、ましゅちゃんとおままごとしたなあ」


 マシュマロみたいに、ふわふわ柔らかいほっぺをしてるので「ましゅちゃん」と名前をつけたんだっけ。

 ましゅちゃんを抱きかかえると、昔の記憶が頭に思い浮かぶ。
 引っ込み思案な性格だったわたしは、幼稚園で友達ができなかったんだ。そんなわたしにお母さんが買ってくれたのが、ましゅちゃんだった。


「あの時の友達は、ましゅちゃんだけだったなあ」

 小学生になってもうまく友達を作れなかったわたしは、放課後家に帰るとすぐにましゅちゃんにお話をしていた。


『今日学校でこんなことがあったんだよ』
『先生に注意されちゃった』

 まるで友達に話すように、わたしは毎日ましゅちゃんに話かけていた。

「ただいまー」

 ましゅちゃんと過ごした日々を懐かしんでいると、お母さんが仕事から帰ってきた。

「あら。その人形、懐かしいわね」

 どうやらお母さんも覚えていたようで、すぐに気づく。

「うん。懐かしいよね。お母さんありがとう。出してくれたんでしょ?」
「え? お母さんじゃないわよ?」

 不思議そうな顔をして首をかしげた。
 え…!てっきりお母さんがましゅちゃんをここに置いたと思っていた。

 いったいどうなってるの!?
 だって、絶対におかしいんだ。わたしが大きくなるにつれて、ましゅちゃんと過ごす時間は減っていた。そして小学校高学年になるころには、押し入れの中にしまっていたから。

 お父さんは仕事でいなかったし。わたしでも、お母さんでもなければ、いったい誰がましゅちゃんをここにおいたんだろう。
 ましゅちゃんが、ここにいる理由を探すと、どきりと胸がざわついた。

 ゆっくり振りかえって、ましゅちゃんを見つめる。

 リビングテーブルの上に座るましゅちゃん。
 じっと動かずそこにいるだけ。
 動かないましゅちゃんを見て、なんだかほっとする。

 ま、まさかね…。ましゅちゃんが自分で出てこれるわけないもん。
 人形なんだから。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

その怪談、お姉ちゃんにまかせて

藤香いつき
児童書・童話
小学5年生の月森イチカは、怖がりな妹・ニコのために、学校でウワサされる怪談を解いてきた。 「その怪談、お姉ちゃんにまかせて」 そのせいで、いつのまにか『霊感少女』なんて呼ばれている。 そんな彼女の前に現れたのは、学校一の人気者——会長・氷室冬也。 「霊感少女イチカくん。学校の七不思議を、きみの力で解いてほしい」 怪談を信じないイチカは断るけれど……? イチカと冬也の小学生バディが挑む、謎とホラーに満ちた七不思議ミステリー!

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

グリモワールなメモワール、それはめくるめくメメントモリ

和本明子
児童書・童話
あの夏、ぼくたちは“本”の中にいた。 夏休みのある日。図書館で宿題をしていた「チハル」と「レン」は、『なんでも願いが叶う本』を探している少女「マリン」と出会う。 空想めいた話しに興味を抱いた二人は本探しを手伝うことに。 三人は図書館の立入禁止の先にある地下室で、光を放つ不思議な一冊の本を見つける。 手に取ろうとした瞬間、なんとその本の中に吸いこまれてしまう。 気がつくとそこは、幼い頃に読んだことがある児童文学作品の世界だった。 現実世界に戻る手がかりもないまま、チハルたちは作中の主人公のように物語を進める――ページをめくるように、様々な『物語の世界』をめぐることになる。 やがて、ある『未完の物語の世界』に辿り着き、そこでマリンが叶えたかった願いとは―― 大切なものは物語の中で、ずっと待っていた。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。  大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance! (also @ なろう)

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

処理中です...