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第2章~(水星宙編)「対立する二つの種族」アーロスティ街

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「宙様、何処へお行きになられるのですか?」

「学校の図書館に行きます。それが、どうかしましたか?」

「ゲームの参加の有無かどうかは、無効とさせて頂きます。あなた様には、こちらの次元へと行って頂きます。」

ドンッ

痛ててっ。ここは、何処だろうか。それにしても、随分と騒がしいな。

「そんで、奴はいたのか。」

「逃しちまいました。」

「馬鹿者!ったく、どいつもこいつも遣えやしない。バンルター、お前顔広いよな。追撃者(ハンター)探して来い!」

「あいっ。」

人相の悪い女と男達が、酒場(バー)で煙草を吹かしながら密談をしていた。よく見ると、腕にどくろと鷲の入れ墨が彫られていた。俗にいう、ならず者。!?どうして、危険な場所に連れて来たんだ。シリテス、頼む。助けて。

「んっ、何故ここに子供(がき)がいるのだ。ウィモロンド、つまみだせ。」

「あいっ。」

一番強面で、がたいのいい男が睨みながらひょいと持ち上げ僕を外へ放り出した。

「子供(がき)に聞かれちまったじゃないか!」

あの子供(がき)、外部に漏らすんじゃないだろうな。まさかな…。でも、漏らさない保証がどこにあるってんだ。そうだ、加入させちまえばいい。

「ウィモロンド、さっきの子供(がき)ここに連れて来い!」

「あいっ。」

「てめえ、来い。 ジャドメナ様がお呼びだ。」

ジャドメナ?赤髪で紫のメッシュが入った女か。どうして、僕を呼んだのだろうか。見るからに、細いし臆病だし。

「あの…、僕を…呼んだ理由は…。」

「情報漏洩を阻止するためさ。あんた、さっきから盗み聞きしてただろ。責任とってもらうために、組織(ギルド)に入ってもらうよ。まあ、見るからにひ弱そうだがねぇ。うちはね、派撃渦組織なのさ。相容れない都市スワトノエズを襲撃する為に、あたしの父ルサナッドが立ち上げた。だが、父は死んじまった…。スワトノエズに襲撃されて…。許せねぇ、父の敵(かたき)をとって無念を晴らしてやんのさ。」

「ジャドメナ様、こんな奴入れていいんすか?」

「仕方ねぇだろ。こいつが悪いんだから。」

聞きたくて聞いた訳ではないと、言いたいところだが彼らは殺戮者だ。何千何万という人の命を奪った。言ったら、何をされるか分からない。ここは、堪えなければ…。

「あんたの名は?」

「水星宙です…。」

「今から、あんたの名はギラシュレード。よろしくな、ギラシュレード。明日は、あんたの歓迎会をやってやる。楽しみにしておけよ。」

ギラシュレード…。不釣り合いな名前だ。

「ギラシュレード、あんた銃に興味あるか?」

生まれてから一度も見たことがないし、使ったこともない。銃とは、無縁の世界だ。

「あんたが銃を持ったら…って想像すると、持てなさそうだし変なところに弾丸を撃ちそうだな。でも、一人前にしてやるよ!覚悟しとけ!」

一人前か…。到底なれないと思うが…。

「ギラシュレード。あたしらの武器庫と、寝床を案内してやるよ。野郎共、来い!」

「あいっ。」

ドドンッ

「全員、動くな!」

保安官達は、こちらに近付き銃を向けた。ジャドメナ達も、保安官に銃を向けた。

「何故、ここにいると分かった。」

「酒場(バー)でお尋ね者を見たという情報が入ってね。銃を大人しく下ろしたらどうだ。」

「銃を下ろしたら鼠じゃないか。生憎だが、あたしらは誇り高き鷲なんだよ!」

「致し方ない。撃て!」

ドドドドドドドドッ

ガガガガガガガガッ

銃撃戦が始まってしまった。このままでは、酒場(バー)が…。

「止めなさいよ、みっともない。」

「女王陛下、ご無礼をお許し下さい。」

女王?5歳にしか見えないが。凄い。

「シャディートちゃんに免じて、今日は見逃せよ!」

「女王陛下に向かって、失礼だぞ!立場をわきまえろ!」

「いいわ、シャディートちゃんでも。女王様って、呼ばれるの堅苦しくて嫌なのよね。ジャドメナちゃん、鼠に追われるの嫌でしょう?あなた方にとっては、都合のいい餌かもしれない。でも、私のペットなの。もう、悪いことはしないでね。そこの男、私の城に来てくださる。では、ごきげんよう。」

さぞかし、高貴なお城に住んでいることだろう。高級な壺や皿が立て掛けられて…床や壁は大理石で…その下に赤い絨毯が引かれていて…


「女王様に色々と言われてしやいましたね。」

「いいんだよ、所詮生意気な娘だ。相手にするほどの奴じゃない。忠告されても、止めねぇよ!」

ギラシュレードを城に招き入れるとは、どんな神経してんのやら。さては、物にしようと企んでるな。連れ戻しに行くとするか。


「先程は、すまなかったな。保安官なのに、君まで撃つところだった。申し訳ない。」

「大丈夫ですよ、助かりました。僕、正直怖くて…。あの組織に勝手に加入させられてしまって、断ることができなくて困っていましたから。ギラシュレードって名前まで、付けられてしまいましたし…。」

「ソレッダ、何の罪もない一般市民を撃とうだなんて保安官失格よ。」

「はい…、女王陛下…。」

辺りを見ると、都会の都市で溢れている。だが、馬車はどんどん通り過ぎていく。通り過ぎた先には、荒野の大地が広がっていた。まさか、ここに城が建っているとでもいうのだろうか。

「着きましたわ。ここが、私の城です。」

確かに城だ。でも何故、荒野の大地に城を建てたのか。

「さあ、中に入って。」

中に入ると大きなシャンデリアが正面にあり、階段と幾つもの扉があった。何とも豪勢な。裕福な家庭に育った訳ではないので、目にするもの全てが華やかに見えた。

「1階の右側の扉は、私の部屋で…左側は、ソレッダ達の部屋…。奥は、ゲスト部屋…そのまた右側は、トイレで…そのまた左側もトイレ…。そのまた奥もトイレ…。1階は、扉の数が少ないけれど2階はすごく多いのよ。」

「女王陛下、案内は宜しいかと…。」

「そうね…、2階の真ん中の扉に書斎があるの。そこで、お茶をしてお話しましょう。ソレッダ、お茶とお菓子の用意を。」

「かしこまりました。」

ソレッダは、保安官だけではなく執事の仕事もしている。街や都市の警備と、女王の世話もしていてまさに二足のわらじを履く。

「ソレッダはね、保安官としても執事としても優秀なの。でも、最近は腕が落ちているわ。あの事件をきっかけに、彼は殺すことを厭(いと)わなくなった。だから、先程あなたを撃とうとしたのはそのせいよ。私は、保安官を止めるように命じた。でも、人手がいないし人々は彼を信頼しきっている。栄光というものは、案外虚しいものよ。次第に、朽ちていく。そこで、あなたにお願いがあるの。保安官になってくれないかしら。」

お尋ね者や、悪人を取り締まることは勿論のこと対立している組織と戦う。僕が、保安官に向いているような男でないことはシャディートも勘付いていることだろう。だが、シャディートはあえてその話には触れないで言った。

「……。」

「いきなり言われても、困惑してしまうわよね。気にしないでいいわよ。」

私としたことが…。ソレッダの代わりなんて、いないことくらい分かる。措置を取らなければならない。だから、ソレッダを…。でも、ソレッダを解任してしまったら、街の治安や、秩序が悪くなってしまう…。苦渋の選択だけど、やむを得ない。

「女王陛下、ルーザリンティーとアーロスティー産のアロスベリーとメワーヌメロンをふんだんに使用したケーキになっております。」

「ありがとう。二人きりでお話したいから、外して下さる。」

「承知致しました。」

シャディート女王陛下、私ももう若くはありません。すっかり年寄りになってしまいました。まるで、孫と爺のような関係ですね。私は、いつ逝ってもおかしくはありません。何せ、生まれつき病弱な人間なのですから。あなた様にお仕えできたこと、大変冥利に尽きました。これから、長い旅に出ます。どうかお元気で。

ソレッダ


一流シェフが作ったような本格的な出来栄えだ。ベリーの酸味がメロンの甘さをより引き立たせる。紅茶は、香りもよくさっぱりとしているのでケーキの味を邪魔しない。

「このケーキはね…、お母様とお父様とお兄様と私でよく食べた家族最後の思い出のケーキなの…。」

シャディートは、ナイフとフォークをテーブルに置きステンドグラスの窓際に、置いてある写真立てを持ってきた。

「素敵な写真立てばかりでしょ…。これは、ロトナフレ城のお屋敷で撮った写真で…これは、ムプセク島で…これはセムリュフェーネ海で撮ってもらったのよ…。でも…、あんな惨劇になるとは…。」

シャディーは、先程からケーキと紅茶に一口も手をつけていない。「家族最後の思い出」…。「あんな惨劇」…。一体、シャディートの家族の身に何があったというのだろうか。

「……つい、暗い感じになってしまったわ。ごめんなさい…。お話の内容がずれてしまったから、元に戻すわね。えっと…、何だったかしら…。あ、思い出したわ。ジャドメナ率いる「シェガホッダンド」は、あなたを利用して私を殺す。何故なら、家族を殺したのは…ジャドメナの父だから…。」



シャドメナ達は、相容れない国スワトノエズを恨んでいると言っていたのに…何故、シャディートの父親を殺す必要があったのだろうか。憶測に過ぎないが、もしやスワトノエズに関する人物だったのでは。それか、シャドメナ達の長だったのだが裏切り行為を犯したとか。幾つもの要因が浮かび上がってきた。シャディートは、重い口を開いた。

「私の父親は、スワトノエズの王だったの。(シャドメナ達の国)ルクッドウォーの王、イムエントとは友好関係にあったわ。だが、ある日一人の少年が民衆の前で公開演説をした。それは、ルクッドウォーとの関係を絶つことだった。少年は、ルクッドウォーが善からぬことを企んでいると話した。それに、怒ったルクッドウォーの民はスワトノエズを攻撃した。それに負けじとルクッドウォーに反撃をした。少年の言った善からぬことと言うのは、おそらく基地を支配するということなのかもしれない…。」

ガラッ

「シャディートちゃん、それは違げぇな!ソレッダが、あんたの父親を殺したんだよ!そして、おまけにあたいの父親まで殺したんだよ!」

「!?何を言っているのよ。ソレッダが、あなたの父親や異父親を殺すだなんて絶対にあり得ないわ!それに、勝手に入って来ないで!」

「シャディートちゃんは、誤解している。あいつは、あんた貴族一家を殺す為に近付いた。そして、私とあんたの国を争わせようともした。最初から騙す目的でいたんだよ。」

ソレッダが?でも、どうして…。何かの間違いだと信じたい。

ピンポーン

「ソレッダで、ございます。シャディート女王陛下、開けて下さいますか。」

「開けるな!シャディートちゃん!」

「何で?あなたの言うことなど聞かない!開けるわ!」

ガチャッ

「おやおや、皆さんお集まりのようですね。」

カチャッ

シャドメナは、銃をソレッダの方向に構えた。ソレッダも、剣をシャドメナに向け飛びかかった。

「ソレッダ、止めて!」

「騒々しいガキだこと。無知でいれば良いものを、知ってしまったからには生かしておけぬわい!」

「父親の敵を思い知れ!」

ソレッダの優しさは、初めから嘘だったのね…。私は、ソレッダといた時間が好きだったのに…。ソレッダが、作ってくれたケーキが好きだった…。紅茶も…読み聞かせも…笑顔も…怒った顔も…泣いた顔も…全部…。どうして…。ただただ、悲しいわ…。だけど、あなたが憎い…。

ドドドドドドドドドド

キィーンキィーンキィーンキィーン

「ぶはは。心臓に命中するとでも思ったか。剣は、鍛えられておるからな。甘く見るな、生意気な女!それでも、ルサナッドの娘か。笑わせるな!お前なんぞ、ルサナッドの足元にも及ばんな!」

「さっきっから、うるせぇな!あんたの口、ぶち抜いて殺ろうか!あたいは、あんたみたいにならない!シャディートちゃんを護衛(まも)んだ!」

ドドドドドドドドドド

キィーンキィーンキィーンキィーン

シャドメナの銃弾は、ソレッダの剣に弾かれ天井や壁にめり込んでいく。身体や顔に何一つ当たっていないどころか、かすりもしていない。このままでは、シャドメナが危ない。ソレッダは、シャドメナの喉に鋭い刃を突き付けた。それを見かねた、シャディーが泣きながらソレッダの頭に本を投げつけた。

「もう、止めなさい!あなたには、失望したけど、私にとって家族当然なの!シャドメナちゃんから、離れなさい!命令よ!」

「こざかしい。命令なんぞ、聞くわけないだろう。ならば、お前から殺してやろうかい。純粋で、単純で綺麗な心が一番嫌いだからのう。」

「シャディートちゃん、逃げろ。」


ソレッダは、シャディートの背後から忍び寄り、剣を振り下ろそうとした。シャドメナは、とっさにシャディートを突き飛ばした。シャドメナは、脇腹を刺されて倒れてしまった。血が、1滴1滴床に零れ落ちていく。僕と、シャディートはシャドメナをソファーへ運んだ。

「シャディート女王、シャドメナさんの手当てをお願いします。僕は、ソレッダさんと闘います。」

「お願いだから、ソレッダを殺さないで!それだけは約束して!」

「分かりました、お約束します。」

「小僧だけか…?まあ、よい。お前から、片付けてやるわい!」

「僕は、あなたを生かさなければならない。だから、もう闘いたくはありません。」

「降参という訳か。つまらんな。それもそれで、こちら側としては好都合だ。この国を支配出来るからな。」

ありったけの本を投げつけたが、あっさりと避けらてしまった。剣銃(ぶき)を所持している訳でもないので、最初から勝ち目などあるわけもない。

「お前は、何にも持っていない。余裕で勝ててしまうわい。では、あの世へ逝きな!」

もう駄目かと思ったその時!一冊の本が、光を放ってページが次々と捲れていく。しばらくすると、ぴたりと止まった。恐る恐る読んでみることにした。

「我を覚醒(よび)起こした瞬間(とき)、光を手に入れるだろう。それは、主を導く鍵となるだろう。我を再び、汝の地に復刻させたまえ。」



シュルルルルゥー

部屋全体が、眩い光に覆い尽くされ本の中から、何やら、人らしき陰影が見えた。

「召喚(よんだ)のは、君?俺は、ルジア・メハオン。一応剣士専門なんだけど、魔召館学校から、退学を言い渡されてしまって…。授業なんて、全く受けてなくてさ…まぁ、自業自得なんだけどな…。父親が一流の剣士で、俺は幼い頃から剣の稽古を毎日行っていた。父親と比較され、こねで剣士に加入したんだろうとも言われ…そんな毎日が嫌で嫌で仕方なかった…。剣士なんか、正直なりたくない…。だって、父親譲りの才能なんて、一切持ってないのだから。それに、ちゃんと夢があるんだ。それは、莫大な都市リミテッドワープを見に行くこと。」

ルジアは、剣士専門という肩書きを利用し、材料調達員として仕事をしている。主に、ランクが100以上の戦闘士らの武器に欠かせない希少価値の高い材料から、ごく一般的な材料(娯楽や生活に欠かせない材料)を依頼場所まで運搬する仕事。洞窟や崖など危険エリアまで行かなければ、入手出来ない。その為、誰もやりたがらない仕事だ。

「ルジア・メハオン。戦って!」

「召還(よ)ばれたからには…とりあえず、何が何でも戦う…と言いたいところだが、今回は休戦とする。」

「ちょっと!休戦しないで!」

「忌々しい魔書で召喚したものの、戦力外(つかいもの)にならん奴だったとはな。運は、お前を見放しわしに味方する。なんと、素晴らしい。」



「ソレッダ…もう…止めて…。」

「何だ、その潤んだ目は。無垢と悲哀の少女を醸し出しても、その手には騙されてやらんぞ。お前は、何も出来ない憐れな姫様だ。わしを、打ち砕けるほどの勇ましさなど皆無なのに何故ゆえ止めるのだ。口を出したからには、わしを殺れる覚悟はあると言うことだな。」


私は、貴族の名を汚さぬような行動をしなければならないと叩き込まれた。その為、武器を使うことは以ての外(もってのほか)。貴族は、終始淑(しと)やかでいなければならない。でも、禁忌(きんき)を犯さなければならない状態にあるのなら、「致し方ない」と、亡き父母は許してくれるだろう。貴族を棄てる覚悟は、決めた。

「私、あなたと戦うわ。だから、殺るなら私だけにして!」

「ふっ、面白い。お手並み拝見といこうかのう。手加減は無用だ。本気で、来い!」

「亡き父母の無念を晴らす為に、あなたを倒す!」

「その意志(ことば)を、わしは待ち望んでいたよ。やはり、見込まれた通りの姫のようだ。狂いは、なかったようだな。だが、貴族の教えに反した。よって、お前はもう姫ではないと見なされた。そこまでして、わしに挑んだのか。大人しく見ていれば善かったものを。そうすれば、死を選ばずに済んだ。大抵の人間は、死を選ばず生を欲する。お前は、死を欲しわしの餌食となりよう。」

ソレッダの心が、若干ではあるが揺らいだように感じた。


「私のことを心配する癖は、変わっていないようね。ご無用よ!優しくするのは、止(よ)して!ソレッダは、虐殺者なんだから!私の大切な家庭を葬った!貴方には、敗(ま)けない!だから、もうここで方を付けましょう。」

「虐殺者呼ばわりか…。宜しくないな。親切にしてやったのに…。とても遺憾だよ…。お前とこんな形で殺り合うなんて…。だが、所詮は単なる憎悪の争い事だ!敗けることに賭けるとは、お前も単純な奴だな。敗北者に、為り得ないお前ごときが語るな!」

ソレッダは、血走った眼で剣を振り下ろした。シャディートは、ソレッダの異変に気が付き、顔が青ざめ足が震えていた。凄まじい迫力に圧倒されたあまり、誰もが息を呑んだ。それでも、ソレッダは攻撃を一切止めようとはしない。

「さっきの台詞(ことば)は、嘘だったのか?まあ、お前に出来ないことは解っていたよ。お人好し人間だから。真相を知った後も、わしを信用しきっている。お前は、敗(ま)けたんだよ。心を委ね、善意を棄て去れば、お前は解放される。つまり、わしが今まで通り側で、遣(つか)えると宣誓(ちか)ってやろう。」

「ソレッダ……貴方は、本当は……私を……殺せない……。少し、肩がブレたから……気の迷いがあるなって……思ったの……。そうじゃないなら……、私を……家族の元へ連れて逝(い)って……。」

これで心置きなく逝(い)ける。

「……シャディート……ちゃん……、危ない……。」

(バタッ)

「シャドメナ……ちゃん……。何で……。死んじゃだめ……。呼吸(いき)をして……。ねぇ……。」

シャドメナは、最期の力を振り絞ってシャディートを護(まも)った。

「シャディートちゃん……、あんたが死んで……どうすんの……。泣かないで……笑って……。あんた……を……護(まも)れて……よかった……。」

頬を大粒の涙が、シャディートを包んだ。空気は、哀しみで蔓延していた。そんな姿に、ソレッダは落胆した。

「泣くことでしかない存在なのか。嘆いたって、わしを倒せまい。」


「そんなこと…知っているわよ…。貴方は、血も涙もない性質(ひと)なのね…。私は…、いつだって護られる側…脆くて弱い宿命を背負わなければならない…そんな存在(にんげん)でしかない…。それが、悔しくて仕方がない…。こんな自分が何で産まれなければならないのか…。さぞかし、父上母上に嗤われることでしょうね…。貴方は、強くて逞しいから羨ましいわ…。私が、産まれてこなければ…誰も死なずに済んだのに…。だから…、私を…。」

「今のお前など、殺し我意がない。そう判断した。何故、護られる側なのか。決して弱いからではない。お前が、そう自分に命じたからだ。わしは、強くも逞しくもない。気の迷いを生じている。自分でもよく解らない。最期に伝えておきたいことがある。エスア刻印の紋章を司る者。亡きエスア国家の、生き残り。真相解明にたどり着いてしまったわしらは、お前の権力牛耳ろうと企(くわだ)てた。お前の父親、母親は、血が繋がっていない。エスア国家から、3000km離れたこの地にお前は隠された。シャディートと名付け、我が子のように育てた。 わしは、ソレッダという偽名と詐称(保安官と執事)を使い、国民(みな)に植え付けた。誰一人として疑いの眼差しで視(み)る者はなかった。怪しまれなかったのは、奇遇といえよう。シャドメナが言った通り、お前の父親も、母親も、義父もわしが殺った。そやつらは、裏切りを働き金を独占(せ)しめたが故、保安官に自ら発しようとした。口封じの為、殺った。」


経歴詐称と子児拐いをしてまで、彼らは権力を我が主(もの)にしようとした。少女の存在を握り潰そうと企てた彼らに、白日の下に晒すことで、彼らが罪を免れずに済み、少女は再び、他国の統治者として地を築き上げる。僕は、そう思った。でも、シャディートは権力を棄権し、彼を赦免した。


「私は、断じて許しを判(くだ)した訳ではありません。シャドメナちゃんや家族の命を奪い、私を騙した。でも、私も貴方と同様に、反する行いを犯した。私が、どうこう言う資格なんてない。だから、もういい…。貴方と永久に遇(あ)わないから…。」

「赦すだなんて…。お前、随分異人(か)わっているな。白々しいと思うが、赦しを乞(こ)おうとさえしたわしに…。何故だ!罰を科されてもおかしくはないのに…。」

シャディートは、ソレッダの肩にそっと触れ、若干ではあるが笑みを浮かべた。ソレッダは、手を払い除け大粒の涙を床に溢した。

正義は、人を救う為のものとは限らず、時として世界を破壊してしまう程の脅威を秘めているのだと…僕は、確信した。でも、いつか灰被れた世界に…銀(しろ)白き光輪の環(わ)を…。



「シャディート、わしの己名(まことのな)はリシーリル。」

「ありがとう、リシーリル。貴方は、私に尽くした。償うとは、少し違うけどそれでも、嬉しかったわ。誰かを責めても、シャドメナちゃんや、家族は帰って来ない。だから、貴方を許すしか他ないじゃない…。」

「わしは、もうじき、抹殺(け)される。刻家(こっか)にとって、わしは不廃品。名を汚した罰が課される。失態を晒した奴に、生(な)す路(みち)は失(な)い。亡(な)き途(みち)が、わしに能えられた最期の末路。」

リシーリルは、初めて悔やんだ顔を見せた。鋭い目付きさえ、弱々しい目付きに変わってしまう程、死に脅えている様子が伝わってきた。人を散々殺めておきながら、脅える情(かお)はとても理解し難い。シャディートは、震えるリシーリルを我が子のように抱き締め、リシーリルはまた涙を溢した。

「死を拒絶していては、あの世廻でも生きていけない。だから、わしは死を全うする。苦や死を知らぬわしにとって、不安感でしかないのだ。これ程、恐いと思ったものはない。」

「シャドメナちゃんだっているし、私の家族だってあの空にいるの。だから、怖がることなんて何もないと思うわ。私だって、ここにいる皆だって、いつか死が訪れるわ。だから、皆で冒険しましょうよ。生存(い)きている間に。リシーリルも、冒険に付き合ってくれない?その方が、愉快(たの)しくなりそうだし。」


リシーリルを連れて行くのは、正直不安だ。罪を償う形を執(と)ろうした行為は、何らかの策略に違いないだろうし、何処で裏切るか解らないからだ。黙って見守っていたルジアだったが、これだけは譲れなかったようだ。

「リシーリルさんがいるのは、正直嫌です。シャディートさん、何かされてからでは遅いんですよ。誰も、武器持っていませんし…。それに、僕だって護衛(まも)れないし…。とにかく、僕はリシーリルさんといたくありません。」

「ルジア、そんなに嫌ならついて来なくていいわよ。私たちは、冒険してルジアはお留守番していなさい。それが嫌なら、魔召館学校へ入学していらっしゃい。」

ルジアは、これ以上言ってもシャディートは食い下がらないと思い、黙ってついていくことにした。
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