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銀(しろ)き刻(とき)の街~メガキオリオヴォルス

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「私の城(いえ)は、あちこちに薬莢(やっきょう)が散らばっていたり、壁に弾丸の痕跡がある為に、気品さの欠片(かけら)さえ失(な)いほど無惨な姿ね…。まるで、廃墟のようね…。城(いえ)の価値は、降価したも同然ね…。」

曰(いわ)く付き物件として扱われたり、変な噂が街中で囁かれたり…。いづれにしても、そうなる可能性はあるだろう…。何しろ、人を殺(あや)めているのだから。と、それはさておき…。この惨事を、個々はどう思っているのだろうか。時に正義は、非道行為を犯し、惨(むご)たらしいものへと変わってしまう。この一件を通じて、垣間見えたような気がした…。リシーリルは、残虐な人間は冒涜(ぼうとく)することでしか為(な)生(せ)ないと思っていることだろう。僕は、そうは断言できない。あれほどにまで、脅えているリシーリルを見た瞬間(とき)、汚れなき顔だった。あれが、きっとリシーリルの本性だと思う。虐殺者でない、もうひとつの姿。リシーリルは、自らの手で本来の姿を殺(あや)め、仮の姿を創った。創ったことで、存在意義を示した。僕の勝手な憶測だが…。

「わしは、叛逆(はんぎゃく)行為を表すことに躊躇(ためら)いはなかった。それこそが、正義なのだと知った…。正義は、綺麗なものばかりでは測れない。穢(きたな)い手を使わねば、生(な)らぬ命が在る。それゆえ、わしの使命。ここで身を退(ひ)く訳にはいかぬ。」

「リシーリルさん、使命って何ですか?これが、リシーリルさんの使命なのですか?使命なら、別にあります。シャドメナさんの命を無駄にせず、生きること。僕は、そう思います…。すみません、出過ぎたまねをしてしまって…。」

僕は、決して後悔しなかった。むしろ、言わなければリシーリルは気付かなかったと思う。

「そうだな…。わしは、サゼンクの権限を黙って飲んでいたに過ぎん。サゼンクというのは、統治者に当たる次期皇子だ。わしは、サゼンクの下部。いや、元下部が妥当な表現か…。わしは、サゼンクや手下どもに見つかれば、最期も同然。本来ならば、冒険に出るなど以(もっ)ての外(ほか)なのだろう…。だが、わしはお主ら側に従(つ)く。罪滅ぼしとまでは、いかぬがそれでも構わぬ。」


リシーリルは、腰鞄(ウェストバック)からアンティークナイフをシャディートに渡した。柄の部分は、錆び付いていて、かなり年季が入っているのが見て取れる。銀白に光った刃の部分には、蔦と鳥がこと細かく彫られていた。

「ありがとう。せっかくだけど…私、受け取れないわ…。だって、武器(えもの)は、自分で捕らえるものなのでしょう。リシーリルが教えてくれたことよ。それに、私だけ持っていたら他の皆に悪いわ。」

「皆にあげるから、黙って受け取れ。そのナイフは、お前の仲間を護衛(まも)る為のもんだ。決して、わしみたいに使うでないぞ!よいな。わしだって、使う人間を見極めて託している。お前を信頼しているからこその武器だ。遠慮せず、貰え。お前なら、使いこなせる。」

シャディートは、戸惑っていた。禁忌を犯した自分の行動が恥じであり、穢(けが)れだと思ったからだ。そんな自分に、武器など所持してよいのだろうか。誰かを護衛(まも)れるのかどうか。シャディートは、結局、受け取らなかった。だから、僕が代わりに預かることにした。

「ごめんなさい…。戦う意志を遠ざけたいって思うようになってしまった…。それは、きっと幼い頃からだと思うの…。その刻(とき)の記憶が失(な)いから、何とも言えないわ…。」

いわゆる、記憶喪失というものだ…。頭の中に記憶を投影出来たら…。きっと、シャディートは戦士としての感情が芽生え始めるかもしれない。

「……いつか私が、人や世界を無惨に殺めてしまう日が来て…仲間まで、裏切ってしまう…。そんな物語(シナリオ)を書き遺して、去り逝くことになったら…。リシーリル達は、どう思う?私が、"叛虐者"だと認識するの?世界は、そう認識して眼で殺すかもしれないわね…。」

「そうなれば、自身に無数の鉄槌の雨が降るだろう…。"屍神"は、身分や値位を嘲られる性分だ…。屍神は、"叛虐者"や"殺戮者"を好む性質があると、この地では昔から言い伝えられておる。わしは、ゆうなれば屍神の遣い殺魔(こま)に過ぎん。お前は、絶対になるな!」

リシーリルの言葉一つ一つが、重苦しく聴こえ、耳を抉る。シャディートが、例え僕らを見境なく殺しても、シャディートはかつての仲間だという事実には、逆らえない。シャディートが、消し去ろうとねじ伏せようと無駄なことだ。

「リシーリル、絶対にならないから安心して!ただ、悪終焉説(バッドエンド)を考えてみたかっただけなの。起こり得ない創り話よ。そう言えば、私はエスア国家の生き残りなのでしょ?もっと、エスアについて知りたいわ。」

「エスア……。今はメガキオリオヴォルスと喚ばれておる。エスアについて深く知りたいというのなら、次はメガキオリオヴォルスに行け。そして、トゥールティール兄弟に会え。わしは、独り残り追悼を執り行う。聖法の礎より"罪悪"から免れることは決して出来ぬ宿命だが、シャドメナには壮大な鎮魂(レクイエム)の旗を息命(いのち)に掲げようぞ。わしは、シャドメナに生涯身を奉仕しなければならない役処になった。自業自得なのだがな…。」

メガキオリオヴォルス…。エスア…。シャディートの生い立ちや、過去が明らかになると同時に「記憶」を再び脳内へ喚び醒ますことが出来るかもしれない…。不可とも可とも現段階では、判(わか)らないが…。ともかく、手掛かりになる情報を街で収集するのが先決だ。収集した情報を頼りに、進んで行くしか手段はもはやない。リシーリルは、シャドメナのことを機に罪の奥深さを思い知ったようだ。聖法の前では、為す術もない。跪(ひざまづ)くことしかないほど、聖法の力が偉大で、徳化していることがどれ程恐ろしいことか知っただろう…。こうなる前に懲りていれば善かったのだが…。

「本当は、皆で行きたかった。でも、仕方がないわね…。リシーリルの意志を尊重するわ。でも、これだけは約束してちょうだい。必ず、私達を待っていて。先に死ぬなんて、そんなの絶対に赦さないわ!リシーリル、あなたは生存きる権利を与えられし者なのよ。ロゼアット様もきっと赦して下さるわ。」

「待っているという約束は、悪いができねぇな。毒罪の血を飲み干し、骨翼を纏う屍神にとってわしは好都合な獲物だ。"贖罪"のワインを酌み交わす聖神よりも質(たち)が悪い。どちらにせよ、裁きを請ける身。殺されても見放されても当然の酬(むく)いだ。わしといると、ろくな目に遭うだけだ。行くなら行け!」

どちらにしても、猶予が僅かばかりしか残っていないのだと、リシーリルは薄々勘付いていたことだろう。独殺する為に、僕らをわざと近付けさせないようにして、ここに残ると言ったのだとしたら…。

「ここで、お別れね。最期の死を看取らなくても、本当にいいと言うことなのね。不要だと言うでしょうが、花を手向けておくわ。墓の前で、哭(な)かれるのはさぞかし嫌いでしょうから、哭(な)かないでおくわ。」

「哭(な)く?やめてくれよ。苦しみに溢れた表情の方が、お前たちらしい。息絶える光景が目に浮かんできたわい。かつての栄光のように花も枯渇するだけだ。手向けんでいい。酷似してしまう。」

「解ったわ。花は、召さないのね。それなら、お土産を置くのはどうかしら。看取らせてくれないのなら、それくらいのことはさせて。」

「では、お前の意志(こころ)を置け。今は、置くな。勇敢な人間になってからだ。」

僕らは、シャディートの城(いえ)を後にした。後に聞いた話だが、リシーリルはシャドメナと城を燃やし、炎渦の中で剣を左胸に突き刺した状態で、息絶えたそうだ。灰骨と焦げた匂いだけが、散らばった部屋に静寂が響いていたと…。謎の少年が教えてくれた。



「メガキオリオヴォルスまでの道程、誰か解るかしら?」

「僕は、異世界から来たので土地勘は全くありません。なので、当てにしないで下さい。期待するだけ無駄です。」

「異世界?それってどういう場所なの?愉(たの)しい場所なの?」

「え…っと、それは…。」

異世界から来たと言っても、この世界も似たような場所だ。法も、規則も、教えも、罪も、正義も、戦争も、裁きも…。備わっている。見方の角度を変えれば、愉(たの)しいと思えるかもしれない…。

「ルジオは、解る?」

「永い間、本の中に閉じ込められていたから

街の様子も、父親の安否も、何もかも俺は解らない…。荷物の中に地図さえあれば…。」

「探すの手伝うわ。地図があれば、凄く頼りになるわよね。」

「探さなくていい。地図を見て進むことだけが、冒険じゃない気がしてきた。物に頼らなずに進むのも、案外醍醐味ってやつかもしれない。」

"物に頼らず"が何処まで出来るか。把握しておきたいところだ。

「物に頼らずに進むにも、限界が来ると思うわ。その言葉も、そのうち使えなくなるわよ。」

「存分に言うがいい。証明してやる。俺が、口だけ男じゃないことを。ちゃんと見てろよ、お嬢さん。」

「ちゃんと目を見開いてあげるわよ。私の意見が、正論だとそろそろ解る頃だし。」

二人の論争は、兄弟喧嘩のレベルだ。正直、仲裁に入るほどのことではない。なので、僕は手段を考えていた。例えば、案内係に要請するとか…交通が整備されていればの話だが、乗り物を活用するとか…。でも、渋滞や事故や悪天候に見舞われてしまった場合…。状況を常に把握していなければ、迅速な対応など到底出来ないだろう。そう思ったが、ここにはインターネットや携帯電話がない。情報を獲(え)るには、書物を当てにするしかない。と、なれば書庫に行くしか…。

「ルジオとでは、話にならないわね。ソラ、あなたの意見を聞かせて。」

「話にならないだと?もう、勝手にしろよ!俺だって、プライドって物がある。シャディート、そいつと一緒に行ったって時間の無駄だと思うぜ。まあ、せいぜい頑張ることだな。俺は、一人で行く。」

「ルジオこそ、勝手にしなさいよ!本から出してあげたのは、誰のお陰だと思っているの?恩を仇で返すのなら、もう仲間なんかじゃないわ!」

「この話と本の話は、別だろ!俺は、出して欲しいだなんて一言も言った覚えないけどな。そもそも、仲間でもなんでもない。お前らが"仲間"って呼んだだけだろ!」

また始まったのか…。仲間割れなんて、そう珍しいことではない。単に相性が合わなかっただけのことだ。僕は、どちら側に付く気も更々ない。単独行動の方が、気楽でいい。だが、結局は仲間といた方がいい。

「…勝手に仲間にした方が悪いわよね…。ごめんなさい…。ルジオの意思を無視してしまって…。だから、ルジオの好きにしていいわ…。」

「ああ、そうさせてもらう…。色々とありがとな…。」

ルジオは、リュックサックを背負い、前進した。もう、戻って来ることはないのだろうか…。きっと、また戻って来ると切に願う。

「…行ってしまったわね…。私が、余計なことを言わなければ良かった…。"仲間"って、こんなにもあっさりと崩壊してしまう物なのかしら…。もっともっと、頑丈に構築されていたら…。」

「シャディートさん…、自分を責めてばかりいたら、それこそ崩壊しますよ…。ルジオさんだって、言い過ぎていた部分がありますし…。僕だって、お二人に注意喚起しなかった訳ですから…。お互い様だと思います…。」

「ありがとう…。そんな風に、言われたことが今までなかったから…。何て、表せばいいのか分からないわ…。」

リシーリルの下りから、シャディートは苦悶(くもん)の表情ばかり浮かべている。しだいに、会話が滞(とどこお)り沈黙だけの空気が包んだ。静寂すぎて、落ち着きを保てない。話題を振っても、振られても、いづれにせよ、どのような内容を話せばいいのか、分からない。だが、静寂の重圧に耐えきれなくなったので、話すことにした。

「シャディートさんって、この世界をどのように視(み)ていますか?僕は、どの世界も類似して視(み)えます。」

「類似…。そうかしら…。どの世界にも、たった一つしかない物ってあると私は思うの…。それは、きっと目に見えない物で案外近くに隠れているのかもしれないわね…。それが何かは、具体的に"これ"とは言えないわ…。でも、いつか見つけて証明してみたいの。」

シャディートの表情が、僅かではあるが本来の表情に戻ったような気がする。類似して視(み)えてしまうのは、まだ無知脳という殻を破りきれていない自分自身が、ここに在るからだと思った。脳に情報源のプラグを繋ぎ、充(み)たすところから、僕は始めなければならない。

「そういえば、まだソラの意見を聞いていなかったわね。いい案はあるかしら。」

「こう言っては変ですが、シャディートさんは、一人でここへ残っている方が妥当かと思います。ここから、別行動になります。ちゃんと帰って来ますので、安心して下さい。」

「結局、あなたも単独行動がお気に召すようね。姫に、忠誠心の欠片がない戦士など不要だわ。"護る"と言ったのは、あなたなのよ。お願いだから、私を一人にしないで。わがままだと言うことは解るわ…。だけど、もう独りなんて嫌なの…。だって、私はまだ子供なのよ…。」

「だからこそ、巻き込みたくはないのです。僕は、誰かを護衛できるほど、敵軍を破壊するほどの力が宿されていない…。それどころか、この手には何一つ修得していない…。そんな状況で、シャディートさんは僕を認められますか。」

僕は、これまでに何かを"護る"という行為をしたことが一度もない。むしろ、その考えすら皆無だ。いつから、その言葉が自然と口から零(こぼ)れるようになったのだろう。何かしらの"影響力"がなければ、おそらく無価値な言葉になってしまっていただろう。

「認める?どういう意味?ソラが武器を使えないどころか持っていないことは、もちろん知っているわ…。リシーリルは、もう私の支(つか)える身ではなくなってしまった。ソラ、あなたがこれからの生涯を私に、支(つか)えてちょうだい。これでも、まだどうこう言うつもり?」

「ハイリスクを伴う覚悟があるのであれば、これ以上は何も。でも、万が一シャディートさんを危険に晒したとなれば、首の皮一枚では当然、済まされなくなるでしょう。その時は、責任を課す為、僕は身を退(ひ)かせていただきます。」

「ソラ、あなたの自案は、却下とさせてもらうわ。責任は、私が全て執る。交渉成立でいいかしら?」

「言っている意味、解ってます?失礼ですが、シャディートさんはまだ子供です。と言っても、僕も子供ですが…。責任なんて、執れませんよ。それにしても、難しい言葉をよくご存じですね。本当に子供かどうか、疑ってしまうくらいの発言力。」

「難しい言葉?そうなの?私、いつもこんな感じで話しているわよ。しいて言うなら、堅い環境で育ったからかしら。貴族の世界は、とても厳しくて…。確執が生まれてしまうのよ…。女の子の憧れているメルヘンな世界とは、全くかけ離れているの。マナーも、言葉使いも、耳にたこができるほど言われてしまうし…。ごく普通の暮らしに、ずっと憧れを抱いて、これまで生きてきた。「上品さこそが、貴族」「下品は下階級以下の振る舞い」って、毎日暗唱していたわ。私の生まれ故郷ヴレザドアには、昔からのしきたりがあるの。剣は、男が使うもの。女は、家事と踊り。女子生徒は、アンクティス貴令嬢学校。マナーと舞踏会のワルツがメインの授業。男子生徒は、アンクティニ騎王士学校。騎士の技術を習得したり、騎士になるための検定試験を受けたりする授業がメインなの。家に帰ったら、剣の稽古と力作業をするのよ。でも、私の家は男の子がいなかったから、力作業もやったわ。こんな日常に、飽き飽きして仕方なかった。だって、普通の子供は外で遊ぶのが本来の仕事なのでしょう。ソラは、どんな幼少期だったの?おそらく、自由に遊べたでしょうね…。羨ましい限りだわ…。」

幼少期…。どんな風に、歳を重ねここまで生きてきたのだろう。シャディートよりは、自由だっただろう。だけど、自分が欲する自由ではなかっただろう。普通の生活の中にも、退屈はあり、自由の中にも規則という厄介な怪物に支配されてしまう。僕は、他人よりも、ひねくれているのかもしれない。

「シャディートさんの方が羨ましいです…。早い段階から、"苦"というものを知っている。逆境に立ち向かえるだけの力が、備わっている。僕は、"楽"でしか生きられないような人間だから…。そんな愚者(ぼく)に、羨ましいなどと軽々しく言わないで下さい!」

「…。つまり、住んでいる世界が違う。階級が違う。そう遠回しに言いたい訳ね…。産まれ育った環境が、異なっているのは今に知ったことじゃないでしょう。確かに、苦しかったし逃げたかったわ。だけど、それが後々自分の糧になると教えてくれたから、少しだけ頑張ろうと思った自分がいた。でもね、結局ただの逃避で終わってしまったわ…。本当の愚者は、私の方ね…。……話は、それくらいにしてメガキオリオヴォルスに行くわよ!」


一方その頃…ルジオは、アーロスティーから2キロ離れた北の村、シイドゼピルでメガキオリオヴォルスについて聞き込みをしていた。そこで、一人の元冒険者と出会う。名前は、エマノン。彼と、出会うまでの話を書くとしよう。

「あの、すみません。メガキオリオヴォルスについて、何か情報はありませんか。」

村人A「メガキオリオヴォルス…。ああ、"古(いにしえ)の呪檀"ってこの辺りでそう呼ばれておる。まさか、お前さん入る気じゃないだろうな。そういえば、大昔迂闊に入った奴がいたわい。そいつは、二度と還って来なかったそうだ。奴みたいになりたくなければ、立ち入らない方が身の為だ。」

村人B「それだけじゃないわよ。奇妙なことばかり起きているの。立ち入った人だけじゃなくて、勇者と旅人も狙われているらしいのよね。あなたは、勇者?それとも、旅人?まあ、いづれにしても気を付けなさいよ。」

村人C「子供も狙われているらしいぜ。君も、気を付けなよ。」

村人D「夜になると、特に不気味だよ。謎の集団がいて、何かこそこそとやってる。」

村人E「謎の集団がこそこそやっている目的は、きっと銀き進針だろうね。銀き進針は、退針の持つ"ゼクノクト"を打ち消す力が備わっているんだ。この村のどこかに、銀き進針があると言われていて、謎の集団はその情報を知り、この村にも探しに来ているのかもしれない。ちなみに、銀き進針は、全部で100あると言われているんだ。」

夜に、謎の集団がこの村へ侵入して来るということは、情報を聞き出せる!でも、丸腰ではやられてしまう。うーん、どうすればいいだろう。そうだ!服装を聞こう!

「あの、謎の集団ってどんな服装でしたか?」

村人F「服装…。確か…、黒だったかな?」

村人G「黒じゃないよ!紺だったよ。」

村人F「えっ?そうだっけ?」

村人G「紺だった気がするのよね…。」

服装が分からないとなると、行動が難しい。おそらく、真夜中だから色が分かりにくいということだろう。謎の集団の手がかりは、これ以上なくなってしまった。それなら、俺がこの目で確かめるしかない。その前に、腹ごしらえと、宿探しをしなければ。

「いらっしゃい、いらっしゃい。お客さん、みたところ旅人だよね?今なら、お安くしておくよ。シイドゼピル村の郷土料理、ラロダーペナブが当店のおすすめだよ。簡単に言うと、骨付き肉のこと。」

「ここに、宿ってありますか?俺、帰る場所も居場所もなくて…。」

「それは、大変だ!うちに泊まりなよ。」

「ご親切に、ありがとうございます。」

「俺は、キペダ。昔、旅人だったんだ。あちこちのダンジョンを視て廻ったよ。あの頃は、とても楽しかったな…。今でも、旅人を見かけると、冒険心が高鳴ってしまうんだ。」

「俺は、ルジオって言います。一応、旅人?を主に活動中です…。仲間と只今、喧嘩中でして…それで、俺だけこの村に来ました…。」

ソラとシャディート、今頃何しているんだろう…。何であんなこと言ってしまったんだろう…。俺、こんなところにいて本当に良かったんだろうか…。

「俺も、よく仲間と喧嘩したよ。意見が食うといつも、仲間なんて要らないって言って単独行動してたな…。"仲間"って、本当にいいものだよ。側にいなくなった時、離れた時、仲間の大切さに気付かされる。ルジオも、どこかで仲間のことを思っているんじゃないの?思っているなら、失う前に取り戻した方がいいよ。俺の仲間は、3人いたんだ。3人の内1人は、失ってしまった…。つまり、絶縁してしまったんだ…。ルジオには、絶対にそうなってほしくない!あ、ごめんね。知り合って、間もない奴に言われる筋合いないよね…。」

「心配ありがとうございます。とても、嬉しいです。」

「それなら、良かった。」

絶縁…。一体何があったんだろう…。キペダさんは、もう一度その人とやり直したいと思っているのかな…。それとも…。

「ルジオ、旅は仲間がいて成り立つものと言っても過言ではないと、俺は思うよ!」

「そうですよね…。俺、きちんと二人に謝ります!でも…その前に、武器が必要なんです。と言っても、剣術を修得してなくて…。」

「剣をかれこれ10年以上握ってないもんで、身体が鈍っているかもしれない。俺よりも、ガーペ爺さんの方が良いと思う。あの人、毎日毎日、剣握ってるから。まあ、いわゆる剣使いの変人ってやつだな…。でも、腕は確かだ。でも、最近ガーペ爺さんのやつ、隣村ロインシスにいるんだ。ロインシスまで行かなきゃならないんだ…。」

ロインシス?どこかで、聞いたことがある名前だ…。確か…、「ノスパル」という小説に出てくる舞台と同じ名前だ。この小説の主催者、ノスパルはルイーシュフィネという都市で、刻の音ヴィークアを100集め、ロピテット(通称黒き時魔)の台座に嵌める重要な役割を委されていた。だが、ノスパルは100集めることができず、ルイーシュフィネ都市は、刻の音を失い崩壊してしまった。ノスパルは、ルイーシュフィネ都市を救うことができなかった後悔から新たな都市"メガキオリオヴォルス"を建てた。

「ガーペさんって、"ノスパル"に出てくるガーペ・ヴァモッソと関係あるんですかね?」

「ノスパル?ガーペ・ヴァモッソ?」

「"ノスパル"って、いうのは題名と主人公の名前です。ガーペ・ヴァモッソは、革命の剣駆者と呼ばれる英雄の名前です。ガーペ・ヴァモッソは、ノスパルの実の父親なんですが、ガーペ・ヴァモッソはノスパルに最期まで明かさず、亡くなってしまったんです…。」

「ガーペ爺さんが、英雄と同じ名前なんて…俺は、ただの偶然にしか思えないけどね。同じ名前なんて、他にいくらでもいるでしょ。ルジオ、考えすぎだよ。」

「そうですよね。変なこと聞いて、すみませんでした。」

(ガーペ爺さんが…まさかな…。)

「ルジオ、ロインシスに出発だ。」

「はい!支度してきますね。」

こうして、俺達はロインシスへと向かった。

石積の階段を登ったり、降りたりを繰り返しながら歩いて行く。周りを見渡すと、遺跡や廃城が、草木や苔(こけ)に覆われていた。まだ人がいるのだろうか。邸宅が、見える。だが、既に廃邸していた。民人の気配は、全く感じられない。風の音、雨の音、雷の音、波の音、鳥の鳴き声、虫の声・音、そして俺達の声以外、物音や、話し声は全くしない。もしかしたら、この街は消滅してしまったのか…。

「ここは、俺が産まれた街ニハーゴド。通称、"遺石の賢宝"と呼ばれていた。魔遺石が豊富に採れる場所で、有名だったんだが…。ある日、魔遺石が全て盗まれる事件が起きた。目撃者の証言では、俺のかつての仲間、エマノンが盗んだと供述。現場には、エマノンの魔学書が落ちていた。エマノンは、供述を否認したが…。誰も、エマノンのことをまともに取り合おうとはしなかった。エマノンは、批判されるばかり…。擁護したのは、俺と、ヨシュホオと、ミヨヤビだった。だが、俺らの組織「幽兵蒼雲群」は、設立から1ヶ月も経たないうちに解散してしまった…。俺は解散後も、独り密かに冒険をしていた。その頃は、まだ若かったから、諦めが悪かったんだよな。だから、ルジオも夢があるなら後悔しない選択をした方がいい。俺は、凄く後悔したからさ…。」

キペダさんは、廃邸に近付き、錆び付いた門を開けた。

キィキィーーッ

「ここは、元々俺の邸宅なんだ。父親は、武器屋を経営。兄と母親は、旅険家。弟と妹、俺は魔校へ通っていた。きっと、その頃の写真がまだ保管されているかもしれない。ルジオ、中へ入ろう。思い出が、染み憑いている間に見ておきたいんだ。」

トレベザンラ一家。と、いうことは"キペダ・トレベザンラ"がキペダさんの本名になるってことか…。庭に、彫刻が並べられている。よく見ると、ガーペ・ヴァモッソの彫刻がある!キペダさん、ガーペ・ヴァモッソ知らないって言ってたけど…。

「この彫刻は、リミテッドワーパーズ元統皇子、ガシペルアイガ・ゼグデロ様に寄贈して頂いた品だ。ゼグデロ様は、とにかく貴族扱いがお嫌いな方だったな。平等が好(よ)いとおっしゃっていたよ。民人想いの温厚な方だったのに…。ゼグデロ様は、16歳という若さでお亡くなりになられてしまった…。右端の彫刻は、15歳の頃のゼグデロ様。」

!?ソラに、そっくりだ。まさか、ゼグデロって、ソラなのか?いや、ただの偶然に過ぎない。似ている人間の顔があっても、おかしくない。それなら、双子?ソラに、兄か弟はいるのかな?今度、聞いて確かめてみよう!

「あの…、ゼグデロ様?ってどんなことをしていましたか?」

「リミテッドワーパーズという、組織(ギルド)のリーダーだった。リミテッドワーパーズは、最強旅勇者の称号が集結した組織。"豪偉属生"しか本来は加入できないんだ。だけど、ゼグデロ様は称号問わず加入させたんだよ。俺も、加入したことがあった。でも、組織のお仲間の1人スフィア様は、ゼグデロ様のやり方に不満を抱き、ご退室なさった。その他のお仲間も、ご退室なさって…結局、ゼグデロ様お1人で"刻廻の勇士"をなさった。」

「凄い方なんですね。俺とは、違う界の人間だ…。」

「ルジオには、ゼグデロ様に是非とも会ってほしかったな…。」

「会いたかったです…。とても、残念だな…。」

「おい、何をしている!そこは、立ち入り禁止区域だ!直ちに、立ち去れ!部外者が、入ると汚菌が増える!」

「デラロ兄さん、そんな言い方しなくても…。」

「お前がしっかり言わないから、易々と部外者に甘く見られてしまうんだ。はぁー、全くそんなんだからお前は駄目なんだよ!」

この人達、見るからに異人だ。1人は、歯車の付いたのコートと、ブーツと、ニット帽を纏っていて、服は、電子回路線が入っている。もう1人の男は、針型のゴーグルと針型のウェストポーチを纏っていて、足が悪いのか松葉杖を使って歩いている。

「!?エマノンじゃないか。久しぶりだな!」

「…。その節はどうも…。新しいお仲間ですか…。良かったですね…。僕は、足を悪くしてしまい、旅険家という夢を諦めました…。いや、諦めるしかないの方が適切ですね…。いいですよね、旅険家って…。」

「すまなかった…。俺が、あの瞬間逃げなければ良かったんだ…。そうすれば、怪我を負わせなくて済んだのに…。」

松葉杖を使って歩いている人が、絶縁した仲間に違いない。

「弟をこんな目に遇わせたのは、お前だったのか!よくも、弟の夢の邪魔をしたな。」

「…デラロ兄さん…。キペダさんは…、ただの(元)仲間です。それに、この足は…単に戦っている際に…折れてしまっただけ…。僕は…、"旅険家"に向かない人間だ…と解っただけでも良かったです…。しかし…、悪いことばかりでは…、ありません。冒険ができただけでも…僕にとって、この上ない幸せな体験になりました…。キペダさんには…、とても感謝しています…。でも…、敵視しています…。」




水星宙と、シャディートはというと…。

「一休みしたいわ…。」

「まだ…、50歩くらいしか歩いていませんけど…。」

と、こんな状況だ…。無事に辿り着くことはできるのだろうか…。とりあえず、辿り着けると信じておこう…。

「もう、歩きたくないわ…。だって、足が泣いているんですもの…。」

「単に、歩きたくないだけでしょう…。わがままですね…。」

「わがまま?何処が?楽な道を、ただ通りたいだけなのよ!ああ、こんなところに近道とかないかしら…。」

近道か…。探す価値は、ありそうだ。確かに、楽をしたい。でも、本当にあるのだろうか…。都合よくあったら、通らない訳がないだろう。?よく見ると、洞窟らしい洞穴がある。ひょっとしたら…。でも、罠という可能性も…。こうなったら、一か八か入るしかない!
「この穴、怪しいわね…。でも、気になるわ。ソラ、確かめに行きましょう。」
中に入ると、想像とは全く違う光景が広がっていた。多彩な砂の光の粒が、地面に散らばっていて、周りには、時針輝鉱石という名前の多彩な石があって、なんとも幻想的な空間だ。
「綺麗ね。この砂と石、私欲しいわ。ねぇ、ソラ。運ぶの手伝ってよ。」
「綺麗かもしれませんが、勝手に持ち出したらいけないと思いますよ…。」
「所有者なんて、いるの?だって、見つけたのは、たぶん私達だけよ。こんな場所、誰も入らないじゃない。少しくらい、持っていくだけなら、私は構わないと思うわ。」

何やら、洞窟の近くで話声がする。その声は、だんだんこちらに近付いてくる。

「お兄ちゃん、ここにお砂があるの?」
「ああ、ここに砂と石があるんだ。サンゼン先生のところへ、兄ちゃんと持って行こうな。」
どうやら、声の主達は子供のようだ。
「お兄ちゃん、この人たちだぁれ?」
「分からない。だから、話しちゃだめ。ティール、ほら砂と石、兄ちゃんと採ろうね。」
ティール?どこがで聞いたような名前だ…。確か…。あ!リシーリルさんが、トゥール、ティール兄弟に会えって言っていた。もしかすると…?
「トゥールさんとティールさん?ですか。僕は、水星宙です。怪しい者では、ありません。リシーリルさんに言われて、お二人に会いに来ました。」
「何で、僕のおなまえ知ってるの?お兄ちゃん、こわいよ。」
「リシーリル…と、いうことは敵の一味だな!ティール、下がって。兄ちゃん、戦うから!」
「ちょっと、待って!私達、敵じゃないわよ!失礼しちゃうわね。リシーリルは、確かに敵だったけど、決して悪い人間じゃないわ!」
「信用できる訳ないだろう!あいつは、無差別に人を殺してきた。あんた達も、そうなんだろう!そうやって、のうのうと生きてきたんだろう!そういう奴らが、一番許せない!」
トゥールが何故、こんなにも怒りを露にしているのか。それは…というと…。
トゥールとティールの家庭は、代々、刻廻時車という異世界に行ける列車を動かす操揮者である。母親も父親もすでに他界しており、面倒を見てくれる者は、誰一人としていなかった。その為、サンゼンという南にある街レエクトインに住む男が、面倒を見ることになった。何故、サンゼンが面倒を見ることになったのか。それは、サンゼンも、代々、刻廻時車の操揮者だったからだ。自分の経験を活かし、二人には、次世代の担い手になってほしいとサンゼンは、願っていた。ある日、突然、悲劇が起こってしまう。サンゼンが、忽然と消えてしまったのだ。村人達は、リシーリルの手にかけられてしまったのだと、口々に言った。未だに、サンゼンの行方は分かっていない。
「リシーリルは、サンゼンさんを殺していないわ!それは、本当よ!」
「何で、リシーリルをそんなに庇うの?あいつは、悪い奴だ!それなのに、何で?」
「リシーリルさんは、本当はとても弱い人で優しい人。自分の犯した罪を償って、更正しようとしていました。それでも、まだ悪い人だと思いますか。」
「……。」

「お兄ちゃん?どうしたの?」

「何でもないよ。さあ、行こうか。サンゼン先生が、待っているからね。」

「うん!そうだね!」

「トゥールがああなってしまったのは、僕のせいなんだ…。」

!?

「どちら様?」

「僕は、ラジアン。ハドイ刻の往時(おうじ)。トゥールとは、幼なじみといったところかな。以後お見知りおきをと、挨拶しておくよ。ジンラルが、必死に僕を探していそうだから。ハドイ刻に来る機会があれば、是非ともご指名を。」

「行く前に一つ宜しいですか?トゥールさんが、ああなったのはラジアンさんのせいだとおっしゃっていましたが、どういう意味でしょうか?」

「サンゼン先生は、身寄りのない僕とトゥールとティールを引き取ってくれた。僕には、家族がいないから…。まるで本当の家族のようだったよ。とても、有意義な日々だった。まるで、錆び付いた針が、役目を取り戻し、再起動するかのように…。そんな日常が、僕らにとって、唯一安らげる場所だった。でも、ある日突然、崩壊の警告が耳をなぞった。サンゼン先生の安否が分からないと…。村中、サンゼン先生の死の噂で溢れかえっていた。トゥールは、村人達の声に服従していたから、目を醒まさせようとした…。だけど、無駄だったよ…。僕の声を拒絶するようにと、耳を鍛えてしまったようだから…。僕は、サンゼン先生がどこにいるか知っているよ!でも、もうサンゼン先生じゃない別の人間になってしまっているけどね…。トゥールには、一応言ったけど…。」

別の人間?サンゼンという個人(アバター)ではない、何者かが…。

「ラジアン往時、捜しましたよ。何処にいらしたのですか?それより、ラロルス様が…。」

「テファム、ラロルスと婚約者したつもりはない。嫌々、契約を交わしただけの仲だ。ラロルスには、婚約者破棄を申し入れたはずだが、それでは満たないという訳か?」

「それが…、事態は一変して…。ラロルス様が、刻超の針人ハウセを喚び醒ましてしまったのです…。どうやら、メガキオリオヴォルスに向かっているようです。」

「本当に、厄介だ。手に負えないし、封印するのにかなり手こずる。そんな奴を再び、喚び醒ましてしまうとはな…。何か、策を立てなければ…。」

(ハウセ…、醒刻したイマ、一体何を企んでいるのだ?まさか、"ゼクノクト"を増創するつもりなのか?最悪、例の王司が全てを支配してしまうことになる…。)

「我を再び、この地に覚醒させてくれてどうもありがとう、お嬢ちゃん。」

「馬鹿言わないでよ。覚醒させたつもりはないから。あんたは、あたしの道具になる為だけに喚んだだけよ。」

「道具?それは、それはどうもね。我を喚んだからには、価値のあることをしてもらうまでよ。で、相応しい戦慄(オープニング)を奏でる計画はある程度、出来ているんだろうね?それぐらい考えてもらわないと、分け前の話は無効になるだけ。損するのは、つまりお嬢ちゃんの方さ。」

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