23 / 40
23 翼を持つもの2
しおりを挟む
「何事です。ビスラの王ともあろうお方が、他国の神官を呼びつけるなど、感心できることではありませんね」
ふわりと半分透き通ったアルファさんの姿が現れる。
まるで幽霊みたい。脚はあるけど。
陛下は不機嫌そうに顔をしかめた。
「何を言うか。見ていたのだろうが、ずっと。こいつはお前の鏡に映るのだろう?」
「よくご存知で」
「ふざけるな。ビスラの王宮にまで姿をとばすような化け物が」
声をひそめながらも、苛立ちが滲み出ている。
「おやおや、それは誤解ですよ。王たる貴方が私を呼んだからこそ、声や姿を送れるのです。遠見ができるのも彼女の竜の翼の加護があってこそ。でなければ魔物の領域に手を出すことが叶うはずもございません」
「はっ、どうだか。四精霊の血を引くもののくせに」
おや?という顔をして、片眉を上げた。
「ご存知でしたか」
「ああ、思い出したんだよ。昔そういう者の話を聞いたことがある。やはりお前だったか」
アルファさんは答えない。
「以前、お前は水火風地の精霊を操るとリューンが言っていた。たしかに風の力を持っていないと、あいつを風の神官に育て上げることなどできぬ。だが、そんなことが普通の人間に出来るはずがない」
アルファさんは仕方なさそうに肩をすくめた。
「私の王には秘密にしていてくださいね」
「知るか」
「で、何の御用です?」
「こいつを還せ。元の世界へ」
陛下の重々しい命令に対して、アルファさんはあっさり答えた。
「それは無理です」
「なに?」
陛下が怪訝そうに彼を睨みつける。
「風鏡がなくてはだめなのです。あちらとの接点がない今、水鏡だけでは空間が定まりません。無理に還そうとしても、どことも知れぬ場所に放り出してしまうということにもなりかねません」
その言葉をきいたとき、私はやっぱり、という気がした。
なんとなくそうなんじゃないかと思っていたから。
陛下は唸るように問いかける。
「まさか貴様、初めからそのつもりで?」
すごく怒っている。背中に陽炎が見えそう。
アルファさんは冷静な声で答える。
「おわかりでしょう?ビスラはもはや滅亡寸前。いちかばちかに賭けるより他なかったのです………賭けには負けたようですが」
「負けてなんかいない」
思わず答えていた。
二人が驚いて私を見る。
「ルーラ、気がついたのか」
「ルーラ様」
ようやく動くようになった腕で身体を支える。
ずいぶん重く感じたけれど、なんとか上体を起こすことが出来た。
「まだ、負けていない。まだ、終わっていないよ」
アルファさんは謎めいた微笑を浮かべた。
「そうですね。貴女が諦めない限り、勝負は終わりはしない」
「ええ」
そうだ、私は逃げない。諦めたら全てが終わってしまうから。
この国が失われてしまう。
私がここに来た、その意味がなくなってしまう。
「ルーラ………」
喘ぐような掠れた声で、陛下が私の名を呼ぶ。
「お強くなられたようですね。貴女の纏う光が輝きを増しています」
ふわりとアルファさんが私の肩に手を置く。
幻影のはずなのに、微かに温かかった。
「精霊は貴女の呼びかけを待っています。信じてください。水鏡が映したのは貴女の風の刻印だけではありません。貴女は更に別の力も持っておられる。貴女の翼は……………のしるし…………」
スウッと声が遠くなった。
「アルファさん?」
「時間………切れ………す。もう、術が…持たな………い」
途切れ途切れに聞こえたと思うと、ゆらっと姿が揺らめく。そして止める間もなくかき消すように消えた。
ふわりと半分透き通ったアルファさんの姿が現れる。
まるで幽霊みたい。脚はあるけど。
陛下は不機嫌そうに顔をしかめた。
「何を言うか。見ていたのだろうが、ずっと。こいつはお前の鏡に映るのだろう?」
「よくご存知で」
「ふざけるな。ビスラの王宮にまで姿をとばすような化け物が」
声をひそめながらも、苛立ちが滲み出ている。
「おやおや、それは誤解ですよ。王たる貴方が私を呼んだからこそ、声や姿を送れるのです。遠見ができるのも彼女の竜の翼の加護があってこそ。でなければ魔物の領域に手を出すことが叶うはずもございません」
「はっ、どうだか。四精霊の血を引くもののくせに」
おや?という顔をして、片眉を上げた。
「ご存知でしたか」
「ああ、思い出したんだよ。昔そういう者の話を聞いたことがある。やはりお前だったか」
アルファさんは答えない。
「以前、お前は水火風地の精霊を操るとリューンが言っていた。たしかに風の力を持っていないと、あいつを風の神官に育て上げることなどできぬ。だが、そんなことが普通の人間に出来るはずがない」
アルファさんは仕方なさそうに肩をすくめた。
「私の王には秘密にしていてくださいね」
「知るか」
「で、何の御用です?」
「こいつを還せ。元の世界へ」
陛下の重々しい命令に対して、アルファさんはあっさり答えた。
「それは無理です」
「なに?」
陛下が怪訝そうに彼を睨みつける。
「風鏡がなくてはだめなのです。あちらとの接点がない今、水鏡だけでは空間が定まりません。無理に還そうとしても、どことも知れぬ場所に放り出してしまうということにもなりかねません」
その言葉をきいたとき、私はやっぱり、という気がした。
なんとなくそうなんじゃないかと思っていたから。
陛下は唸るように問いかける。
「まさか貴様、初めからそのつもりで?」
すごく怒っている。背中に陽炎が見えそう。
アルファさんは冷静な声で答える。
「おわかりでしょう?ビスラはもはや滅亡寸前。いちかばちかに賭けるより他なかったのです………賭けには負けたようですが」
「負けてなんかいない」
思わず答えていた。
二人が驚いて私を見る。
「ルーラ、気がついたのか」
「ルーラ様」
ようやく動くようになった腕で身体を支える。
ずいぶん重く感じたけれど、なんとか上体を起こすことが出来た。
「まだ、負けていない。まだ、終わっていないよ」
アルファさんは謎めいた微笑を浮かべた。
「そうですね。貴女が諦めない限り、勝負は終わりはしない」
「ええ」
そうだ、私は逃げない。諦めたら全てが終わってしまうから。
この国が失われてしまう。
私がここに来た、その意味がなくなってしまう。
「ルーラ………」
喘ぐような掠れた声で、陛下が私の名を呼ぶ。
「お強くなられたようですね。貴女の纏う光が輝きを増しています」
ふわりとアルファさんが私の肩に手を置く。
幻影のはずなのに、微かに温かかった。
「精霊は貴女の呼びかけを待っています。信じてください。水鏡が映したのは貴女の風の刻印だけではありません。貴女は更に別の力も持っておられる。貴女の翼は……………のしるし…………」
スウッと声が遠くなった。
「アルファさん?」
「時間………切れ………す。もう、術が…持たな………い」
途切れ途切れに聞こえたと思うと、ゆらっと姿が揺らめく。そして止める間もなくかき消すように消えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる