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第一章 ルシュディーと俺
筋肉神官長
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「お久しぶりでございます、神子様! お元気そうで何よりでございます! 昨日は濃霧がひどく、御身に何かあったのかと心配しておりました。お聞きしたところ、記憶喪失とのことですが、明日の雨乞いの儀式に障りはありませぬか?」
開口一番、そう捲し立てるように言う男。この人は神官長のリエーヌというらしく、筋骨隆々で非常に逞しい。俺の中の神官長と言えば、神経質で妄信的なイメージがあるのだが……この人はその真逆の存在だ。俺の神官のイメージを全力で逆張りしてくる。
戦士だと紹介された方が、まだ納得できそうだ。
「はぁ、雨乞いの儀式ですか……」
「おや、その反応を見るに、記憶喪失は本当のことでしたか! しかし、この儀式だけは神子様しかできないのです。民衆も王様もこの儀式の日だけは、どうにも緊張を孕んでおります。神子様も記憶喪失で大変でしょうが、どうか私どものために雨を降らせてください!」
筋肉が土下座をする勢いで頭を下げてくる。真剣な表情から察するに、この雨乞いの儀式は俺の想像以上に大切なものなのだろう。だが、今の俺に出来ることなどない。
「お願いします、神子様!!!」
「う、」
リエーヌ神官長は俺の肩をガっと掴み、その切なる願いを訴えてくる。子どもが見たなら、きっと泣いていたはずだ。
助けを求める様にちらりとフリューリくんを見れば、そっと目を逸らされてしまう。確かに、砂漠の多いこの国にとって雨は大事なものだと想像に容易い。
だけど、そんな大事な事を何も分からない俺がやっていいものなのか……。
「どうか!! 我らに恵みの雨を!!! 神子様ァァァ!!」
「あー! わかったッ、わかったからッ!」
ついに叫び出した神官長に根負けした。
流石に神子様と祀り上げられて、一般人市民より良い暮らしをさせて貰っているのだ。成功の有無はおいておくとして、儀式をしない訳にはいかない。
「ありがとうございます! それでは儀式は明日に執り行ってください!」
「え、やり方とか教えてくれないんですか!」
「儀式は神子様によって変わるのです! 神子様の兄上にあたる隣国の神子様は一晩中、舞を踊る事によって雨を降らせるとの事ですが、ルシュディー様。貴方様の儀式は誰も見学を許すことなく、今まで雨を降らせてきました。ですので、我々神殿の関係者ですらその内容を知りません!」
「そう、ですか……」
ルシュディーって俺の体の持ち主の名前なんだとか、兄貴も神子なんだとか、色々と言いたいことはある。しかし、何よりも儀式の情報の一つすらない事が、その疑問を遥か彼方に追いやってしまう。
「……あー、マジで、何?????」
大混乱中の俺を目の前に、言質はとったとばかりにニコニコ笑顔の筋肉神官長。
この筋肉、いつか必ず一発殴ってやる! 殴った手を痛めそうではあるが!!!
「それでは、明日はよろしくお願いいたしますぞ!!」
そう言って神官長は帰っていく。突然やってきて、事案を投げ入れて帰っていきやがった。
俺はため息をつき、水の入ったグラスを手に取る。このグラスに入った綺麗な水も、きっと俺が神子様だから飲めるものだろう。
この大切な水資源を生み出す仕事とは……なんとも重大な責任が伴う。
雨を降らすっていっても、俺に出来ることなんて本当にない。
踊りもソーラン節とかしか出来ないし、歌もまともに歌える自信は皆無だ。
「思い切り悲しい事を考えて、悲しい気持ちになるか?」
いや、それも無理がある。感情は出そうと思って出せるものじゃないのだ。ほかに何かあるだろうか。
「ダメだ……一旦、考えるのやめよう」
俺は座り心地の良いソファに足を上げて座る。テーブルにある籠から、一口サイズにカットされたフルーツを口に含んだ。もぐもぐしながら、手元に編みかけの毛糸を手繰り寄せる。
これは昨日、フリューリくんに買ってきてもらったものだ。他にも皮紐や天然石、大きな生地など暇を潰せそうなものを大量に購入してもらった。
「んー、ねぇ、フリューリくん?」
「はい、なんでしょうか」
「小物が入りそうな小さめな袋と、服とかが入りそうな大きな袋どっちが良いと思うー?」
「……小さめな袋でしょうか?」
「なるほど、わかったー」
「? はい」
フリューリくんは首を傾げていたが、お遊びの一端だと納得したのかスッと端に寄って待機する。何度か座ったらと進めてみたが、使用人には座る事が許されていないらしく、ずっと部屋の隅にいる。
目上の者に対しての扱いに慣れていない為、どうもむず痒い。フリューリくん的には当たり前のことらしいけれど。
俺は毛糸を編み進めながら、頭を空っぽにする。感情が天候を左右すると知ってしまった以上、壁を意識していたとしても、穏やかに過ごす事が重要なのは変わりない。
あまり考えたくない事だが、神子が病んだ時、国の存続が危ういのではなかろうか。
ちらっと浮かんだ怖い考えを振り払い、俺は手元に集中する。
開口一番、そう捲し立てるように言う男。この人は神官長のリエーヌというらしく、筋骨隆々で非常に逞しい。俺の中の神官長と言えば、神経質で妄信的なイメージがあるのだが……この人はその真逆の存在だ。俺の神官のイメージを全力で逆張りしてくる。
戦士だと紹介された方が、まだ納得できそうだ。
「はぁ、雨乞いの儀式ですか……」
「おや、その反応を見るに、記憶喪失は本当のことでしたか! しかし、この儀式だけは神子様しかできないのです。民衆も王様もこの儀式の日だけは、どうにも緊張を孕んでおります。神子様も記憶喪失で大変でしょうが、どうか私どものために雨を降らせてください!」
筋肉が土下座をする勢いで頭を下げてくる。真剣な表情から察するに、この雨乞いの儀式は俺の想像以上に大切なものなのだろう。だが、今の俺に出来ることなどない。
「お願いします、神子様!!!」
「う、」
リエーヌ神官長は俺の肩をガっと掴み、その切なる願いを訴えてくる。子どもが見たなら、きっと泣いていたはずだ。
助けを求める様にちらりとフリューリくんを見れば、そっと目を逸らされてしまう。確かに、砂漠の多いこの国にとって雨は大事なものだと想像に容易い。
だけど、そんな大事な事を何も分からない俺がやっていいものなのか……。
「どうか!! 我らに恵みの雨を!!! 神子様ァァァ!!」
「あー! わかったッ、わかったからッ!」
ついに叫び出した神官長に根負けした。
流石に神子様と祀り上げられて、一般人市民より良い暮らしをさせて貰っているのだ。成功の有無はおいておくとして、儀式をしない訳にはいかない。
「ありがとうございます! それでは儀式は明日に執り行ってください!」
「え、やり方とか教えてくれないんですか!」
「儀式は神子様によって変わるのです! 神子様の兄上にあたる隣国の神子様は一晩中、舞を踊る事によって雨を降らせるとの事ですが、ルシュディー様。貴方様の儀式は誰も見学を許すことなく、今まで雨を降らせてきました。ですので、我々神殿の関係者ですらその内容を知りません!」
「そう、ですか……」
ルシュディーって俺の体の持ち主の名前なんだとか、兄貴も神子なんだとか、色々と言いたいことはある。しかし、何よりも儀式の情報の一つすらない事が、その疑問を遥か彼方に追いやってしまう。
「……あー、マジで、何?????」
大混乱中の俺を目の前に、言質はとったとばかりにニコニコ笑顔の筋肉神官長。
この筋肉、いつか必ず一発殴ってやる! 殴った手を痛めそうではあるが!!!
「それでは、明日はよろしくお願いいたしますぞ!!」
そう言って神官長は帰っていく。突然やってきて、事案を投げ入れて帰っていきやがった。
俺はため息をつき、水の入ったグラスを手に取る。このグラスに入った綺麗な水も、きっと俺が神子様だから飲めるものだろう。
この大切な水資源を生み出す仕事とは……なんとも重大な責任が伴う。
雨を降らすっていっても、俺に出来ることなんて本当にない。
踊りもソーラン節とかしか出来ないし、歌もまともに歌える自信は皆無だ。
「思い切り悲しい事を考えて、悲しい気持ちになるか?」
いや、それも無理がある。感情は出そうと思って出せるものじゃないのだ。ほかに何かあるだろうか。
「ダメだ……一旦、考えるのやめよう」
俺は座り心地の良いソファに足を上げて座る。テーブルにある籠から、一口サイズにカットされたフルーツを口に含んだ。もぐもぐしながら、手元に編みかけの毛糸を手繰り寄せる。
これは昨日、フリューリくんに買ってきてもらったものだ。他にも皮紐や天然石、大きな生地など暇を潰せそうなものを大量に購入してもらった。
「んー、ねぇ、フリューリくん?」
「はい、なんでしょうか」
「小物が入りそうな小さめな袋と、服とかが入りそうな大きな袋どっちが良いと思うー?」
「……小さめな袋でしょうか?」
「なるほど、わかったー」
「? はい」
フリューリくんは首を傾げていたが、お遊びの一端だと納得したのかスッと端に寄って待機する。何度か座ったらと進めてみたが、使用人には座る事が許されていないらしく、ずっと部屋の隅にいる。
目上の者に対しての扱いに慣れていない為、どうもむず痒い。フリューリくん的には当たり前のことらしいけれど。
俺は毛糸を編み進めながら、頭を空っぽにする。感情が天候を左右すると知ってしまった以上、壁を意識していたとしても、穏やかに過ごす事が重要なのは変わりない。
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