脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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殿下のパーティー4

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翌日、目を覚ました私は、廊下の騒めきに気付いた為、殿下の目覚めを待つことなく、屋根裏から外へと抜け、研究室へとたどりついた。

あのままあの部屋から出ていたら、殿下の婚約者として顔も名前も出されてしまう。
そうなれば潜入の仕事をすることにとても不利なのだ。

だから後処理は原因を作った殿下に任せ、私はここにいる。

すると、どこからともなく姿を現した隊長が、私が1人でいることを疑問に思ったようで口を開いた。

殿下あいつはどうした。」

「…朝起きたら廊下に沢山の方がいらっしゃいましたので、顔がバレる前に抜け出してきました。」

私がそう言うと、隊長は目を少し開いた後、クックッと笑い始めた。

「ああ。おかしいな。そのまま王宮の者に見つかってしまえば、殿下の婚約者候補となっただろうに。」

「笑い事ではありません。顔が割れれば仕事に支障をきたします。それに、相手は殿下です。妹を婚約者にしようなどと考えるはずがありません。」


「ほう。…なら、もし殿下がそう望むのであればどうする。」

そう言われた私はハッとした。
もし、殿下の好き人がその地位を嫌がり、それでも共にいたいとなれば、その仲を壊さない妻が必要となる。そうなればが適任とも言える。

私であれば仕事もその仲の邪魔もすることはない、そう思った。


「…その時の殿下の状況によります。
私がその役目を担えるのであれば、私はそのを全うするでしょう。」

「…そうか。そうだよな…。」

隊長はやっぱりなと言うように目を伏せて笑う。その姿を見た私は、自分の考えが筒抜けだったように感じて、あまりいい気はしなかった。


すると、研究室の扉が開き、いつもより少しやつれ気味の殿下が顔を出した。


「あ、おはよう御座います、殿下。」

「やっときたか、グリニエル。」


話をしていた私と隊長がそちらを見やると、殿下はそのまま私の方に歩いてきて肩を掴んだ。


「エミリー。どうして私を置いて行ったんだ…。お陰で朝から大変だったんだぞ…。」

何となくは想像がつく。
一緒に過ごしたはずの令嬢が部屋から消え、廊下にいた近衛騎士もそれをみていないとなれば、なかなかな問題だっただろう。

「どうやって場を収めてきたんだ。」


その様子を半ば面白がっている隊長が、殿下にそう聞くと、不満そうにしながらも殿下は教えてくれた。


「朝起きたらエミリーが居なかったからね、働かない頭でいろいろ考えたよ。
廊下に出たらどこの令嬢と過ごしたのかと騎士たちにも聞かれた。
だから…。今回は誰の目にも触れずに帰し、私の準備が整ってから発表すると言ってきた…。」


それは婚約者の決まっていなかった殿下にも、密かに想いを紡ぎ合う女性がいることを匂わしている。

そしてその過ごした令嬢が公にされないことは、後々正式に婚約者となる殿下の好き人をすんなりと迎え入れる為の準備となっただろう。


そう思うと、私の逃げも役に立ったと言うことだ。

「お役に立てて良かったです。」


「……まあ、そうだな。今は公にするわけにはいかないことだから、助かったとも言えるかな。
婚約しようとしている令嬢がいるということは、少しずつだが広まってくれることだろう。

他の令嬢達には、来月の母上のお茶会に招待するということを約束してきたよ。」

お手通りがなかったとしても、王妃様のお墨付きがあればいい縁談に結びつくことができる。

ある意味、令嬢たちにとってはとてもいい提案をされたと思った。


まあ、殿下はやつれるほどに頭を悩ませはしたものの、とてもいい答えを導き出してきたと言うことだ。





そう思っていると、分析を終えたサターシャと、仮眠を終えたクローヴィスが揃った。



「おはよう、エミリー。よく眠れたかしラ。」

「ええ。ぐっすりだったわ。」

私は徹夜明けのオネエ様に軽く挨拶をした後、まだ眠そうにしている後輩の手を引く。

「…おはよう御座います、エミリー。」

「大丈夫?また眠れなかったの?薬は?」


クローヴィスは不眠症だ。
それを知っている私はどうも彼の体調が心配になる。

「薬は飲んだけど、さっきやっと寝付けたばかりで…」

要するに上手くはいかなかったのだろう。

「おいで。」

私が膝をポンポンとすると、クローヴィスは私のところにやってくる。
そのまま私の隣に座り、頭を倒すと膝枕をしてあげられるのだが、斜め向かい側にいた殿下の手に止められてしまった。

「え、殿下?」

もう少しでクローヴィスの頭が膝に乗るという時に、殿下がクローヴィスの頭を手で受け止めた。


「クローヴィス。私の膝を使うといい。」

「うえ″。」

クローヴィスが嫌そうな顔をしたまま固まると、サターシャが声をかけてきた。

「クローヴィス。不眠症用の枕、できてるわよ。」


「…先に言って欲しかった。」

「ごめんなさい。バタバタしていたからついネ…。」

オホホと笑うサターシャを他所に、クローヴィスはまた仮眠室へと戻って行った。





クローヴィスの今の状態では、情報を共有したところで頭には入らない。だから彼には後で伝えられることだろう。

「クローヴィスの不眠症は酷いのか?」

「ええ、そうねぇ。一時期エミリーの膝枕じゃないと眠らない時期もあったくらい…」

私はサターシャのその失言を隠すようにコホンと咳払いをしたが、どうやら殿下にはしっかりと聞こえてしまったようだった。

「エミリーの膝枕で眠っていただと?」

殿下のシスコンが顔を出したことで、私はハラハラとする。

「で、でも、すぐにサターシャが枕を作ってくれたからそんなには…ね、サターシャ。」

「え、あ、まあ、そうね。」

明らかに嘘っぽいが仕方がない。
いつも生意気な後輩ではあるが、苦しんでいる彼を助けたいと思って初めに膝を貸したのは私だ。

それなのにクローヴィスが怒られてしまうのは見たくはないため、咄嗟に庇ってあげた。


「……エミリーがそういうのなら、は見逃してあげるけど、次はないからね。」

次にクローヴィスに膝枕をするときは、きっとクローヴィスは殿下の鉄槌を受けることだろうと思い、私はコクコクと頷いた。

「グリニエル。シスコンも大概にしておけ。エミリーの関係にまで口を出していると嫌われるぞ。」


「っんぐ。」


殿下は隊長の攻撃?を受け、胸を押さえる。
そんな彼を放っといて、隊長はそのまま口を開いた。


「サターシャ。分析結果を教えてくれ。」



急に真剣な話になった為、私も殿下も座り直し、話を聞く。


「彼女の体内からは幻覚の薔薇ニーヴローズが出てきたわ。

ニーヴローズはとても珍しい花で、この国では栽培などされていないはずよ。幻の薔薇とも呼ばれていて、あまり人目には出ない。
原油としては毒性を持つのだけれど、加工してしまえば毒は薄まり、ほぼ害はないの。でも、その原油を1度でも口にすればすぐに幻覚が見え始めるわ。

そしてそれはいい香りがするから、香水や御香。入浴剤やオイルに加工されるものだから、原油のままだと知らずに使い、その毒が知らぬうちに体内に取り込まれる可能性もあるわ。

この毒の効果は、その者の奥深くにある欲望を増幅するもの。その欲望を幻覚として見せたり、気持ちを高めたり、とにかく快楽が伴うわ。だから自力で止めようとするのは無理ね。

体内に吸収した瞬間から症状は現れるけど、その欲望のみにしかおかしい反応を見せないから周りに気付いてもらえることは稀よ。
その者に触れただけでは大丈夫だけれど、それが染み込んだハンカチを直接吸ったり、それで作られた飲食物を口にすれば同じように反応するわ。


今回、あの子の場合は、睡眠や食欲にも影響したみたいだからやつれていたけれど、本来なら見ただけでは分からないものなの。

解剤は作れるけど、その麻薬を長く使えば使っただけ体内から出すのに時間がかかるわ。



「…そうか。例の令嬢だとどれくらいかかりそうなんだ?」


「そうネ…。使った期間は3ヶ月…までは行かないだろうから、体内から出すまで1週間ってところかしら。
ここで診てあげるわけにもいかないから、監禁できる場所で投薬していかなければならないわね。」

監禁。それは難しいだろう。伯爵令嬢である彼女の家がそれを素直に頷くとは思えない。


「それは私が話をつけよう。伯爵を呼んで麻薬のことを話し、令嬢の身を3週間ほど借りることとしよう。周囲には行儀見習いとして王宮に出向かせている、ということにする。それなら許してくれることだろう。」

殿下は令嬢の身の安全、そしてその家の対策までもを一瞬にして考える。

彼は誰も傷付けず、安全にことを運ぶ人だ。
だから私はこの人の優しさに胸を打たれてきた。




「…その薔薇はどこから入手したのかしら。」

「それは俺が調べよう。少し思い当たる節がある。その者が怪しければそこに潜入することにもなるかもしれない。その時はいいな?」

「…はい。」


とりあえず今回の騒動は麻薬によるものだったということが分かり、私たちは次の潜入のために暫く休むこととなった。

次の潜入はきっと麻薬に関してだろう。と、その時の私はそう思った。



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