脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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ルピエパール1

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「エミリー、今からちょっと手伝ってくれ。」

今日は休みだということで家で寝ていたのだが、隊長の訪問によってそれは妨げられてしまった。騎士の訓練用である白シャツ1枚で玄関を開けた私に、隊長は第一声でそう告げた。

隊長にはこんなみっともない姿を晒したところでお互い何とも思わないくらいには共に過ごしている。

なんなら何度か色々とあったこともあるが……それは今関係がないから伏せておこう。


「…仕事ですか?」

貴重な休みに私を起こしにくるくらいなのだから、仕事でなければ困る。そう思って聞くと、隊長は口を開いた。


「ああ。仕事のことで、だ。」

そう言われてしまえば私はため息をつく。


「はぁ。とりあえずお待ち下さい。
今準備しますから。」

「ああ。」

私は隊長の返事を聞いてから、玄関の扉を閉めて準備へと移った。



私は16で王宮から出してもらって以降、隊長の紹介でここの空き家を借してもらっている。もう住んで4年になるだろうか。

ただ眠りに帰ってきているだけのようなものなので、大して物のない家ではあるが、意外と愛着はある。

ギシギシとなる床、取り付けの悪いクローゼット。たまに水が出てくるシャワー室に、1人にはちょうどいいシングルのベッド。

私にはどれも贅沢過ぎなくて心地いい所だ。


そんな深みのあるクローゼットから出したのは動きやすいワインレッドのワンピースだ。

今から向かうのは多分“ルピエパール”という名前のバー。
日中からお酒を飲むわけではない。
きっと大掃除をしに行くのだろう。

私は潜入の仕事だけでなく、そこのナンバーワンとしても働いているのだが、そこの店は半年に一度ほど大掃除をしている。私はアシスタントにもかかわらずそういう準備仕事にまで駆り出されているので、なんとなくの予想だけで汚れてもいいワンピースに着替えた。





美脚の店、“ルピエパール”。
そこには沢山の脚フェチがやってくる場所で、営業日は一定の括りがない為、詳細のわからない夢の店と言われている。

それもそのはず、私達の潜入調査がない日にだけ開かれているのだから、決まった曜日もない。だから店の空いている日に来れるだけでラッキーだと噂されている。

今の従業員は5人ほどで、脚を出したアシスタント達がお客の相手をする。

それは会話だけでなくお金を払えば接触だってすることも可能な場所で、隊長がそこのオーナーをしている。

私は情報収集に最適だと唆されてあれよあれよという間にアシスタントにされてしまったのだ。

接客も接触もすることはなく、ただ座っているだなのだが、意外とそれが良いという変わったお客もいることで、私はトップを請け負う羽目になった。

そんなルピエパールも働き始めて4年。
この家程度には愛着のある居場所となっている。


「お待たせしました。隊長。」

「…ああ。」

ジッと下から上まで格好を確認すると、予定に合った格好だったらしく、よし。と頷かれた。

「言わなくとも分かったようだな。」

「ええ。この時期は掃除やり時ですからね…。」

今の時期はあまり潜入調査が重なることはないため、休みがある。だからそういう時に大掃除を済ませてしまうのだ。


「軽くは済ませておいたから、エミリーには床を頼みたいんだ。」



床。それはブラシで擦らなければならず、なかなかにハードなチョイスをされたとすぐに気付いた。

「っ。私以前もブラシ担当でしたよ。次は隊長の番じゃないですか?」

頬を膨らませて講義をすると、私の文句はスルーしてそのまま話を逸らされてしまった。

「エミリー。今日は隊長でもオーナーでもない。オーナーと呼べばお前がアシスタントもしているとバレるぞ。」

そう告げられれば私の眉はピクッと動いた。


「っ。分かっているわよ。さん。今日はそう呼びますからね。」

「ふっ。…ああ。それでいい。」



そうして小競り合いをしながら店へと着くと、本当にブラシで擦るだけの状態になっていた。


「ケインさん…ここまでしたら私を呼ぶのではなく自分でやったほうが早かったのではないですか?」

「………そんなことはない。
…俺は一服してくるから始めといてくれ。」

隊長はそう言ってタバコを口に加えて店から出て行った。


「ったく。絶対隊長がやった方が早いのに面倒くさがりなんだから…。
こんなに広いんだから私1人で終わるわけがないじゃない。

もぉぉぉぉ…はぁ。やるかぁ。」






私は裾が濡れてしまわないようにひとまとめに結び留め、桶に水を張る。
そしてその桶にブラシをつけて床を擦っていくのだが、絶対にデッキブラシの方がいい。

こんな小さなブラシではいつ終わるかも怪しいのです気が遠くなるだけだ。

「もう…せめて手伝ってくれればいいのに…!」

ブツブツと漏れる文句が止まらない。
私はその怒りをブラシに込めてどんどん磨いていくと、入り口に人影を感じて振り返った。

「んもう、やっと来たんですか?随分と長い一服ですね。」


ぷんぷんと膨れっ面を見せてやろうと振り返ったのだが、そこにいたのは隊長ではなかった。

「で、殿下?」

「え、エミリー。その格好は一体…。」

「え?…ひゃぁっ!
も、申し訳ございません。お見苦しいものをお見せしてしまいまして…。」

私は慌てて結目を解き、元のワンピースへと戻して裸足のままパタパタと殿下の元へと向かった。


「殿下、どうなさったのですか?
急な仕事でも入ったのですか?」


殿下がどうしてこんなところにいるのだろうか。

ここは街でも飲み屋街。
中央にある大通りの商業地域とはまた違うため、王族が来るなんて聞いたことなどない。

「いや、ケインに呼ばれたんだ。庶民の服を着てここに来いと…。」

「そうだったのですね。」

言われてみれば殿下は庶民のようなラフな格好をしており、オーラと服が合っていない。それを見てこの人は庶民に紛れることは難しいのではないかと思った。


「お、来たか、。」

そう言ってやってきたのは隊長だった。

「た…ケインさん!
んもう、待ってたのよ!」


私が隊長をケインと呼んだのには彼の横にいる人が原因だ。

「やあ。エミリー、デッキブラシを持ってきたんだよ。」


隊長の隣にいるのは街で評判の年下のランドリフだ。
雑貨屋の息子である彼は商売に優れており、困りごとがあると知恵を貸してくれる。

「リーフ。わざわざ持ってきてくれたのね。ありがとう。」

「いや、ケインシュアさんにはいつも贔屓にしてもらっているからね。このくらいはさせてもらわないと。」

私が彼に近付き、デッキブラシを受け取ると、隊長が口を開いた。

「エル、彼は街1番の商人で俺の仕事の助けをしてもらっているランドリフ。年は若いがなかなか目の付け所がいいんだ。俺もエミリーも世話になっている。


そしてこっちはエル。王宮で私と共に騎士をしているエミリーの兄だ。」

「初めまして。お兄さん、ランドリフと申します。」

爽やかにそう告げるリーフは、街で評判の好青年なのだが、たまに抜けているところがある。

「…君にお兄さんと呼ばれる筋合いはないからね。エルさんと呼んで貰えると助かるな。」

ニコニコと笑っているはずの殿下が何故か火花を散らしているように見えるのだが、細かいことは気に留めないランドリフは気付いてすらいない。



「エミリー。今日は店が休みだからね。僕も手伝うよ。」

リーフはデッキブラシを一本持ち、床をどんどん磨いていく。


「…魔法でやってしまった方が早くないか?」

魔法の得意な殿下が元も子もないことを言い出すと、隊長が殿下に耳打ちをした。

「…やるか。」


先ほどまでとは打って変わって、
真剣な眼差しになった殿下は、私からデッキブラシを受け取って床を磨き始めた。

何を言われたのだろうか。
気になって隊長に聞いてみたが、
“苦労すればそれなりに良いものが拝めたりするものだ。”としか言われなかった。

意味は分からなかったが、とりあえず1人でする予定だったものが4人でできることとなり、私は2人とは別の場所から床を擦り始めることにした。


「エミリー。可愛い服が汚れてしまうよ。」

「平気よ、リーフ。今日は汚れてもいいものを着てきたのだから。」

「そういうわけにはいかないよ。濡れてしまったら帰れないだろう?
ほら、ジッとして。」

私は何をされるのかと思いつつ、その場に真っ直ぐ立つと、リーフは私の裾を畳み上げた。

「っな!」

突然のことに声を出したのは私ではなく殿下だ。あらわになった膝下を見た途端、そのままブラシをカタンと落とした。


「リーフ?」

「ほら、こうすれば濡れないだろう?」

リーフが付けてくれたのは可愛らしいピンだった。

「まあ。本当ね。ありがとう。」

「いいよ、試作のものだからこのままあげる。」

私はそのあと、チラチラと視線を送る殿下に気付くことも、裾を気にすることもなく掃除に没頭することができた。




そして床掃除を終える頃。
私たちは休憩する事になり、外に出した椅子に腰掛ける。 

すると隊長がコップに入った飲み物を手渡してくれた。

「ありがとう、ケインさん。」


私にとっては何ら違和感のないことでも、殿下にとっては異様な光景のようで、私と殿下を睨んでいる。


「ケインシュアさん。床が乾いてきたので、テーブルも運んじゃいますね。」

この中で1番若いリーフは頼りになる。
さほど休むことなくどんどん机を運んでいくのだ。

その姿を見た私は、彼に任せっきりにするのは申し訳なくなって立ち上がった。

「リーフ。私も手伝うわ。」

「エミリー。気持ちは嬉しいが手伝いはいいよ、か弱い君にやらせるようなことじゃない。少しは僕を頼っておくれ。」

ニッコリと私にそう告げる彼は、何ともスマートで、さすがだと思う。
彼は天然人たらしで有名なのだ。
本命にもこうすることができるのであれば、もっと上手くことが進むだろうに、本当に勿体ない性格をしている。

「重いものは僕がやるから、エミリーはテーブルの位置とか教えてくれよ。」

「ええ。分かったわ。ありがとう、リーフ。」


私とリーフは2人でどんどん運び入れていくと、不意に殿下が口を開いた。






「…ここはなんの店なんだ?」

「ここは俺の店。ルピエパールだ。
客に脚を見せるためのサービス店ってところか。」

「脚…っ。」

とんでもない商売をしているのだと言いたげな顔で固まる殿下に、リーフは店の説明を始めた。

「ここの女性スタッフの方々は一人一人とてもいい脚ですよ。ナンバーワンのレィナ。店の看板娘のシェリーにむっちりとしたムー。他にも数名のスタッフがおりますが、やはり人気を集めているのはこの3人ですね。特にレィナは話もせず、触れもせず、孤高のトップと言われております。エルさんは来たことはないのですか?」

「んなっ。あるわけがないだろう。そんな店をケインがやっていることも初耳だ。
…まさかとは思うがエミリーに手伝わせている訳じゃないだろうな!」


急にキッと視線が鋭くなった殿下を、リーフが宥めた。

「お兄さん。エミリーはこうやってお手伝いをしにくるだけですよ。
女性スタッフの中にはエミリーなんて名前の子はいませんし、安心してください。」

「だから私をお兄さんと呼ぶな。
エミリー。いいか?間違っても店を手伝おうなんて考えるんじゃないぞ。」

そんなことを言われてももう遅いのだが、私がここの店で働いているということは門外不出事項の為、ただ笑って誤魔化しておいた。


「お兄さんも一度来たらきっとハマりますよ。」

ニコニコととんでもないことを言うリーフは特に脚フェチというわけではなく、ただ噂になっている流行りの店がどんなものかと気になって足を運んでいるだけに過ぎないのだが、どうしてそんなことを言うのだろうかと思った。


「わ、私は…っ。
……用事を思い出したから失礼するよ。」


セクシーな店に誘われただけであんなに動揺するだろうか。

殿下はもしかしたら脚が好きなのではないかと疑っていたが、もしかしたら私の勘違いだったのかもしれないと思い直した。


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