脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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ルピエパール2

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掃除を終えた次の日の夜。
仕事を終えた私は、いつものようにへと向かった。



ここは美脚の店、ルピエパール。
そこは今日、営業日として店が開いていて、タイミングよく訪れた者たちは、ほろ酔い気分で酒を煽りながら脚を眺めている。


そこのスタッフである女の子たちは、ベールを被り、短いワンピースやスリットの入ったドレスを身に纏って接客をしている。

席を回ってお酒を注いだり、楽しく会話をしているのを、私は店の真ん中に置かれる椅子に腰掛けながら、女の子たちが嫌がるようなことをされていないかと目を光らせている。


ここの店に来るのは大半が常連客で、なおかつ1度でも目をつけられれば、出禁とされてしまう上、戦場の生きる剣と呼ばれた彼がオーナーをしている店で大騒ぎする者はいないのだが、接客の苦手な私はいつもそのスタイルで店にいる。

私がそうしているうちに閉店時間が近付くと、客は疎になっていく。帰っていく者と奥の部屋にスタッフと入っていく者、其々に分かれていくと、最後に残ったのは私と隊長。そして潰れた客だけになった。

「レィナ。悪いがこいつはお前の控え室に泊めてやってくれ。」

夜遅くまで営業するこの店は、スタッフの宿泊用の休憩部屋が用意されており、仕事終わりは其々好きな客や羽振りのいい客と過ごしたりと様々だ。 

しかし、私は客の1人も入れたことはない。その為私は嫌だと表すように首を横に振った。

「…レィナ。こいつの顔を見てもそう言えるか?」

そう言われて初めて酔っ払いの顔を見ると、私は驚いた。

「で、殿下!」

私は慌てて口を塞ぐと、今のこいつは“エル”としてここにいる。と教えてくれた。

「どうしてここに?」

「こいつは脚フェチなんだが、最近好みの脚にありつけなくてな、ここ数日役立たず状態だったから、ここに来れば少しは回復するかと思って連れてきたんだ。まあ、酒ばかり煽って潰れてしまったんだがな…。
だから悪いが部屋で見てやってくれ。」

「はぁぁ…。」

こうなってしまった彼を外に放り出すことはできない。しかし、一緒に過ごして顔がバレれば、この仕事を辞めさせられてしまうかもしれないという不安もある。

「顔はバレないようにしますが、声はどうしたらいいのですか。」

「…これだけ酔っているのだから今日くらいは大丈夫だろう。」

「はぁ。分かりました。他の子に任せるわけにもいかないですし、私の部屋に運んでください。」

「ああ、悪いな。」

今日1日くらいは仕方ない。眠るだけなら構わないだろうと承諾した。



当たり前だが王宮よりは劣る綺麗な部屋は、私仕様にシンプルなものだ。
客の目を引くような華やかなものは置かない。ただ、私が過ごしやすいようにとしたものが揃っており、なんなら自宅より住みやすい。

そこのベッドに殿下を寝せ、私はシャワー室へと入り、隊長は部屋から出て行った。


隊長は他の部屋の子から助けを求められたときに向かわなければならない為、別室で待機している。…とは言っても、どこからか部屋の様子を見ているわけではなく、サターシャの研究の賜物であるスイッチを押すと、自動的に隊長に知らされる機能があるのだ。

まあ、奥の部屋に入ることができるのは隊長の許可が下りた者だけなので、そのスイッチは使われたことはない。


そうしてシャワーを浴びて部屋へと戻ると、殿下が起き上がっていた。



ヤバい。そう思ってベールをかぶり直すと、私に気付いた殿下が喋りかけてきた。


「ここは?」

「…ルピエパールの私の休憩室です。」

「あ、ああ。そうか、どうやら迷惑をかけたようだな。」

そう言って殿下がベッドから出ようとするのを私は止めた。

「相当酔っていますから、こちらでお休みください。オーナーからもそうするようにと言われました。」

声でバレるかと思っていたが、酔っ払っている彼には分からないようだ。それにホッとしたような、悲しい気持ちになる私は、その気持ちを整理することなく彼に水を手渡した。

「ありがとう。君は…レィナ。かな?」

「……よく分かりましたね。こんなものベールを被っているというのに。」

「店に入った時、君の脚を見たからね。好みの脚だったから直ぐに覚えてしまったよ…。」

先程隊長から教えてはもらって覚悟はしていたが、それ程までの脚フェチだとは思ってもいなかった。

「ところで、今日初めていらしたのに、どうしてお酒ばかりに手をつけていらしたの?脚が好きならお酒よりもそちらにいくべきだと思うのだけれど?」


「……うーん。早い話が、私には悩んでいることがあってね。どうしてもスッキリしなくて、酒に逃げてしまったんだよ。不甲斐ないだろう?」


少し悲しげに見えるのは自分を責めているからだと知っている。

「………そんなことないわ。それだけ真剣に悩んでいるということですもの。不甲斐なくなんてない。誰しも悩むことはあるものよ。
…それに、悩みなら私で良ければ聞くけど、どうかしら?」












「……ありがとう。会ったばかりで申し訳ないが、知り合いに話せるようなことでもなくてね…
そう言ってもらえると嬉しいよ。
君がいいなら、聞いてくれるかい?」

「ええ。」

私は彼のいるベッド脇に腰を下ろし、話を聞く準備を整えた。


「私には可愛くて優しくて天使のように可憐な妹がいるんだが、どうやら良い仲の男がいるようでね。」

「は?」

彼の妹。それは即ち私のことだろうが、私に良い仲の男などいない。きっと彼が1人で誤解して突っ走っているのだろうと思い、仕方なくそのまま聞くことにした。


「先日彼女が町の男と仲良くしていることを知ったんだ。
その男は私をお兄さんだなんて呼ぶんだよ。
結婚を考えているのが決定的だと思わないか?」


シスコンを全面に出す彼の発言に身に覚えがあるとすればそれはランドリフのことだろう。

「妹が可愛いことは分かっている。いつか私の元から離れてしまうのも分かっているが、それを目の前に感じた時、受け入れてやれなかったんだ。」

彼が悩んでいることは私が結婚するかもしれないという非現実的なもので、それを受け入れられないというものだった。
受け入れる必要はないことをどう説明して、彼の誤解をどう解こうかと困惑した。

「妹さんが自分から言っていたの?…その、結婚すると。」

「いや、言わなくとも分かる。あの雰囲気は絶対に付き合っているものだった。そしてあんなに親しげなのだから結婚だって視野に入れているはずさ。いや、結婚を考えてもいないのに私のエミリーを弄ぶことはそれはそれで許せない。」

確かにリーフの距離感は近い。むしろ近すぎる。その為、勘違いをする町娘は少なくはないのだが、彼と私は一切何にもないのだ。


「………まずは直接聞いてみたほうがいいと思うわ。私はあなたの勘違いだと思うもの。
どんな雰囲気かなんて分からないけど、結婚を考えているならちゃんと妹から言われるはずよ。

あなたが妹を大事にしているように、妹もあなたを大切に思っているはず。
それなのに結婚を考えている人をちゃんと紹介しないことはおかしいもの。
だからそれはあなたの思い過ごしだと思う。」

彼にどうしてそう思うのだ、と聞かれれば、説明できる理由はない。ただ彼は余程に酔っていてあまり頭の回転が宜しくない。だから無茶苦茶だが、はっきりと断言させてもらった。



「……私の思い違いだろうか?」

「ええ。」


「んー。…そうかそうか、ならいいんだ。」

彼の酔いはしっかりとは覚めていないらしい。その証拠にすぐに納得して話が変わった。


「エミリーはな、私の為に体を張りすぎるんだ。好きでもないやつに触られても、ケロッとしている。
私はあの子にそうさせてしまうことが悔しくて悲しくなるんだ…。」

事情の知らないものがそう相談されればどんな理由でそんなことをしているんだと思うが、言っていることは私のことなので特に突っ込むことはせずに話を進めた。

「あなたは妹想いなのね。」

「っ。ああ。そうだ。私はエミリーが大切で大切で仕方がないんだ。分かってもらえて嬉しいよ。」

ニコッと笑うその笑顔は破壊力が凄い。

 
「妹さんはきっとあなたのために動いていたい、でもあなたはそこまでされてしまうと悲しくなる。そういうことよね?」

彼の役に立とうと思っていたことは、私の一方的な気持ちでしかなく、実際は彼を苦しめていたのだと知った。


「ああ。そうなんだ。私が辞めてほしいと思っても、それは彼女の気持ちを否定してしまっているように思われてしまって、上手くいかないんだ…。」

それだけ彼が心配してくれているのなら、色仕掛けを使った仕事は極力控えようと思った。

「大丈夫よ。きっと妹さんも分かってくれるわ。」

私がそう言うと、彼はニコニコと笑っていた。

「なんだか、君の声はエミリーのものとよく似ているから、本当に分かってもらえるんじゃないかと思えるよ。」

「っ。そう。まあ、声が似ているなんてよくある事よね。似ていると思えば思うほどそう聞こえるものよ。」

「ああ。違うとは分かっているんだがな、嬉しくなるな。」


「それじゃ、悩みもスッキリしたでしょうし、休んでくださいな。もう飲みすぎてはいけませんよ。」

そう言ってベッドから立ち上がろうとすると、腕を引かれた。








「…もう一つ、あるんだ。」

「え?」


「頼む。手を貸してはくれないだろうか…。
君が手を貸してくれさえすれば解決するかもしれないんだ。」

酒によって潤みの増した瞳が揺れている。そんな顔に私が勝てるはずもなく、そのままベッドに腰を下ろした。


「…はぁ。
…まず、悩みから聞かせてちょうだい。」

どんな悩みを抱えているのか、それを聞かなければどうすることもできないためにそう聞いたのだが、彼の顔は聞いてくれるのか、と言うように、パァッと明るくなった。



「私はね、脚フェチなんだが、最近自分好みの脚を見つけてしまってね…。
でもその子には嫌われたくなくて伝えるわけにはいかないんだ。
だから他の女性で何度か試みてみたものの、彼女の脚が忘れられなくて、性欲の処理ができなくなってしまったんだよ…。」

私は予想を遥かに超える爆弾のような悩みに、頭を抱えそうになりながら、乾いた返事を返した。


「……それは、どうしようもないわね。」


正直彼の女性経験やらの性に関することは知りたくなかった。

彼はわたしだと知らずに打ち明けてくれているため、やるせない気持ちになり、勝手に知ってしまってごめんなさい。と心の中で彼に謝っていた。



「…頼むよ。レィナの脚に少し触れさせてはくれないだろうか?」

少し触れるだけ、それだけでいいのだろうか。
そう思ったが、その先をやらせる予定はないためその言葉は飲み込んだ。


「どうして私なの?貴方ほどのイケメンであれば、女性なんてきっとコロッといくわよ?」


「…さっきも言っただろう?
私は好みの脚を見つけてしまった、と。だからその女性以外では興奮しないんだよ。
だからせめて、脚の形が似ている君のであれば、と思ったんだが…。」

しゅんと小さくなる彼は本気で言っているらしい。彼をそこまで夢中にさせる女性がいるなんて、妹ながらに知らなかったことにショックを受けた。

しかしそれと同時に、隊長の言っていたことは間違いではなかったのだと思った。



「はぁ…。それでちゃんと満足してくれるなら良いわよ。」





「酔っ払っているのに、休まなくて平気なのですか?」

「脚に触れられる機会をみすみす逃すような愚かなことはしないよ。」

「そう…。そこまでいうならいいけど、無理はしないで下さいね。一応オーナーに頼まれてここで休んでもらうことになっているのだから。」

「ああ。
それじゃ、早速で悪いけどベッドに脚を伸ばした状態で座ってもらえるかな。」

私は殿下に言われた通りにベッドに座り、脚を伸ばす。すると彼ははぁぁ。と熱い吐息を漏らしていた。

膝丈のバスローブは少し上がり、さらに彼がそれを少したくし上げる。すると私の太ももが露わになり、彼が目を細めた。

「今日ケインに無理やり連れてこられたんだが、来て正解だったな。まさかルピエパールの看板を背負っている君が、これほどまでにいい脚をしているとは思ってもいなかったからね。」

「……ありがとう。」

とりあえず褒められたらしい私は礼を述べた。



「真っ白に滑らかで、光を放つほどにつややかで素晴らしいよ。」

そう言う彼はまだ私の脚に触れてすらいない。ずっといろんな角度から私の脚を眺めるばかりなのだ。

すると、やっと彼の手が動き、私の足先に触れた。


「爪の形もいいね。指も長くて綺麗だ。女性らしく小さめの足なんだね。私は指の並びが外側に向けて下がっているのが好みでね…特に薬指が好きなんだ。
丸みのある所が可愛いだろう?」

何やら理解の難しい発言になってくると、彼の手は少しずつ上へと上がってきた。

「キュッと引き締まった足首。弧を描くふくらはぎ。手入れのされた綺麗な膝に可愛らしい窪みのある膝裏。そして何よりも私が愛してやまない太もも…!
ここはもう天国のようだ。」

私の知る殿下はここにはいない。
しかし驚きはしたものの、受け入れられるのは、私がこの仕事をしているからかもしれない。

確かに脚フェチに耐性のないであろう
彼の想い人が、急にこんなことを言われたらドン引きは免れないだろう、とは思うので、隠していて間違いはない。

しかし、その人と一緒になるならば、いずれは打ち明けなければならないことだとは思う。

すると、考え事をしていた私に彼が謝ってきた。

「す、すまない。つい興奮してしまったようだ。」

「…いえ。大丈夫ですわ。私は他の人よりも脚フェチの方に耐性があります。
踏みつけたりは専門外ですので、むしろ少しホッとしました。
どうぞ、存分に楽しんでもらって構いません。」


「…。驚いたな。いや、嬉しいよ。私はこの感情を受け入れてもらえないと思っていたからね。」

そう口にする殿下は少し悲しげだ。

この国では貴族令嬢が脚を出すことに消極的で、男は皆脚フェチに陥りやすい。

誰にも見せないその脚を思うと見てみたくなり、見てしまえば釘付けになる。
きっと彼も普段見ることのできないものに惹かれ、どっぷりと浸かったのだろう。

誰にも伝えることのできない性壁を、こうやって発散させてあげることができて良かったと思う。


良かったです、そう言おうとして阻まれた。
楽しませてもらうよ。」

そう言った殿下は私と向かい合うように座り直し、私の片脚を開いた。

「っ。」

私はバスローブの中に下着はつけているものの、そうされるとは思ってもいなかった為、咄嗟にバスローブの裾を掴んだ。

すると殿下が意地悪そうな顔をしているのがベール越しに見えた。

「…ベールで見えないのが残念だよ。」

「っ。」

そう言われて私が唇を噛むと、彼の手は私の脚の内側を撫でていく。

「…ん。」

擽ったい。

脚フェチ相手に接客紛いの仕事はしてきたが触られるのは初めてだ。


「レィナは接客をしないと聞いたが、もしかして私が君の初めてのということになるのかな。」

「ええ…そうですね。」

「光栄だよ。」

私の脚を直に触ったのは確かに彼1人だけだ。そしてその彼は容赦なく私の脚を弄っている。

「っ。」


ずっとふくらはぎを触っていた彼は、私の足を立てようとしてくる。

それを私は当たり前だが力を入れて拒んだ。

「…ダメかい?」

「当たり前です。」

すると彼は私の上に跨り、太ももを触り出した。

片腕で自身を支え、片手で私の脚を摩る。その体勢では、彼の顔が近づき、私はバレるのではないかと心臓が跳ねた。

「どうして好きな方に想いを伝えないのですか?…貴方はきっと町の者ではないはずです。それなら縁談を取り付けてしまえばいいのではないですか?」

私は彼の気を逸らすように話しかけると、殿下は私から少し離れた。


「…私は彼女の心が欲しいんだ。
私と同じ気持ちになった彼女と結ばれたい。今の彼女は私を好いてはいるが、恋心として私を見てはいない。
だが、彼女の近くにいるとなんだか押し倒してしまいそうになる。
彼女は拒まないでくれるだろうが、私はそんなことをしたくないんだよ。」

そう言う彼は余程その人を想っているように優しい顔をしていた。

「だからケインに相談したんだ。
そしたらここに連れてこられてね。
君には悪いが、君の脚は彼女のものとよく似ている。
そんな君に私の吐口となってもらえて助かるよ。」

何とも冷たいその声色に、殿下の面影などない。

彼は“私”ではなく、私の“脚”だけをその女性と重ねているが故に優しくしてくれているだけなのだと分かった。



「……貴方とその女性が結ばれること、私も心から望むことにしますわ。」

私がそう言うと、冷たかった空気が少し和らぐ。

その言葉は本心ではあるものの、妹としてはやはり寂しくもあった。


「妹さんには、その気持ちを伝えないのですか?」

「……ああ。まだ言えないな。」


はっきりとそう言われてしまって私はショックを受けた。
あんなに溺愛してくれているのに、私にはその女性を紹介してくれるどころか気持ちさえ教えてもらえないなんて悲しいと思う。

するとコンコンと扉が叩かれた。

「レィナ。今いいか?」

それがオーナーだと分かった彼は私から退いてくれたため、私はベッドから下りてその扉を開けた。

「どうしました?」

「エルを押し付けて悪かったな。
今から大丈夫か?」

「ええ、大丈夫ですが、どうかしたのですか?」

「ああ、少し店のことでな。」


隊長のその目は話を合わせろと訴えてくる。ならば私はそれに従うだけだと思い、コクンと頷いた。


「エル。レィナは俺のところで休ませるから、シャワーも浴びてゆっくり休むといい。」

少し気まずかった雰囲気を壊してくれた隊長にありがたいと思い、私は部屋から出る。

「エルさん。ゆっくりお休みください。」

ベールを被っている為、表情は見えないのだが、そのままにっこりと笑ってやり、隊長の後を追う。


また来てくださいとは言わない。

もう2度とこの店で彼の相手をするのはごめんだと思った。



「もしかして起きてるんじゃないかと思って行ってみたのだが、大丈夫だったか?」


「はい。私だということには気付かなかったようです。それに、とても良いタイミングで来てくださって助かりました。」

あれ以上はいろんな意味で危なかった。


彼に礼を述べながらながら仮眠室に着くと、私はその部屋のソファで休み、翌日の早朝に家へと帰った。
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