脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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神殿2

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「もし、死の真相に近づくことで、エミレィナ様の身を脅かすことにでもなれば、私は自分を許すことはできません。

それにブルレギアス様の狙いがなんなのか、私には説明もされておりません。ジョルジュワーンの王族を信じ切ることが私にはできないのです。」

何も知らぬまま、手の内を見せることはできないという気持ちは分からなくはない。
それが私を思ってくれてのことだということも伝わってくるため、私は何も言ってあげられなかった。


「………ジークロウザ殿。
私の知る限りの情報。そして現在の状況をお話致します。それと交換であれば如何でしょうか。

レティシアーナ様の持つ情報はきっとエミリーの助けとなると私は目星をつけております。私はエミリーを守る為に、彼女の情報が欲しい。
その為にこちらの情報を差し上げます。」


嘘偽りのない瞳。
彼は心からそう思っているのだろう。

真実を知ることは私を守る為であり、民を守る為に繋がる。


するとジークは恐る恐るだが、頷いてくれた。


それからブルレギアス様は、自身と私の婚約を国王が考えているということ、それの意図を調査していることをジークに話すと、ジークは何か考えているようだった。

「……国王陛下はエミレィナ様に聖女の力があると思っているのでしょうか。」

「どうだろう。今陛下は病に伏せておられていて正常だとは言いにくいんだ。だから誤った判断をしていてもおかしくはないが、結婚の話は幼い頃にされたものだから、なんとも…。」



それは私ですら初めて知るものだった。

「国王陛下が近頃、ブルレギアス様を介してしかお話をなさらないというのは、そういう理由だったのですね。」

「ああ…。少し前からどうもね…。」

困ったように笑う彼は、今王太子としてではなく、息子としての顔をしている。




「生前。国王陛下からレティシアーナ様の元に何通もの手紙が届いておりましたので、もしかすると部屋にあるかもしれません…。」

手紙。残したくないものであれば捨てるか燃やすか…はたまた力を使えばどうとでもできてしまうだろう。

レティシアーナの部屋に手掛かりがあるだろうか。そう思いつつ、私とブルレギアス様はジークに案内してもらってそこへと向かった。



「ここがレティシアーナ様のお部屋で御座います。」

それはそれほど大きくはない扉の前。
開かない部屋となっているようには見えなかった。

「巧妙ですね…。」

「はい…。」

魔力のない私は魔力を感じることは難しい。
魔法での攻撃などは目には見えるが、こうして日常に組まれたものを感じ取る能力はない。


「エミリー、扉に触れてくれるかい?」

「はい。」

私はゆっくりと右手を添える。
するとなんだか手で触れた扉が温かくなり、
勝手に扉が開くと、ローズの香りに包まれた。


「え…?」


「さすがは聖女レティシアーナ…。
20年経っても部屋の時間はそのままなのか。」


その部屋はずっと掃除されていたかのように綺麗で、ホコリひとつもない。
そして、20年締め切られていたとは思えないほどに空気が透き通っていた。


「……レティシアーナ様。」

開かずの間だった主人の部屋を開けると、ジークの目からは涙が溢れている。
今にも溢れそうなそれには触れずにおいてあげようと、私は部屋の中に足を踏み入れた。

「…ローズの香り。」


部屋のあちこちからは常にローズの香りが漂い、鼻をかすめる。誰にも説明されなくとも、それが母の香りだということはなんとなく分かった。

ブルレギアス様は本棚の前で立ち止まり、
私はというと部屋中歩き回った後、テラスへと出た。

「そちらは祈りの間でございます。」

丸い円を描いた泉のようなものがそこにあり、その水は常に白いオブジェから新しい水が流れ出ている。きっとどこからか水が流れ出ているはずだが、どこからなのかまでは分からない。

「ここの水は森から流れてきた清らかな水なのです。ここでレティシアーナ様は毎日のように、水儀装をお召しになられて祈りを捧げておりました。
ここの水はレティシアーナ様の回復魔法がかけられておりましたので、浸かると傷や病気が治るとされております。
今もなお魔法が効いているかは分かりませんが…。」

「水儀装?」


真ん中に神台と呼ばれる白い石台は、特に光を受けているように見えた。



「こちらが水儀装でございます。」

いつの間にか持ってきたらしいその服を、ジークは私に見せてくれた。

「なんだか私でも着れそうな大きさね。」

「着られてみますか?
いえ、できることならここで祈られてはどうでしょう。
レティシアーナ様もお喜びになられると思います。」


ニッコリと笑う彼はすぐに侍女を呼びつけ、私をドレスルームへと通した。


「初めまして。エミレィナ様。私はレティシアーナ様にお仕えしておりました、トレミアと申します。ミーアとお呼び下さい。」

流石にジークに着替えさせられるわけにも、自身で着替えることも許されない私は、ミーアという侍女に頼むこととなった。


「ミーアは、いくつなの?若い気がするのだけれど…。」

ミーアは私と5つほどしか離れていないのではないかと思う程に若い。それなのにお母様に仕えていたとすればいくつなのだろうかと疑問に思った。

「ふふっ。嬉しいですわ。私は30になりました。レティシアーナ様には幼き頃…10歳前後に拾われて、その時にお仕えしていたのです。」


慣れたようにその服の準備をする彼女をみていると、20年も間が空いてはいなかったのではないかと思えてくる。

「私が初めてさせてもらった仕事が、儀式のお着替えだったのです。何年、何十年経とうと忘れることはありません。」

「そうなのね…。ミーアにとってお母様とはどんな方だったのかしら?」

「そうですね…慈悲にあふれた女神。のような方です。とても聡明で優しく、それであって少女のように天真爛漫な方でした。」

ミーアは準備を終え、私の服を脱がしていく。すると、その体に巻かれている包帯に気付く。

「お怪我をされておられるのですか?」

「え…ええ。鞭傷だから血で水を汚してしまうことはないのだけれど、入っても大丈夫かしら。」

「もちろんです。レティシアーナ様の魔法が残っているかは分かりませんが、尚のこと浸かってください。傷が全て治らなくとも、清めることはできますので。」

どうやらここの水の話は本当のようだ。
それは生前のレティシアーナが毎日のようにここで祈り、回復魔法を施していたからだろう。それが20年経った今もまだ効いているかは分からないが、何もしないよりは早く治すことができそうだ。


「…その傷は、あの王太子にされたわけでは…。」
「ないわ。」

とんでもないことを聞く。
しかし、王家を信じることのできなかったジークと同じで、ミーアも信じることができないだけなのだろう。

「も、申し訳ありません。要らぬことをお聞きいたしました…。」

私が被せ気味に強く言ったからか、彼女は萎縮する。そのため、私は慌てて訂正した。

「この傷はね、私が失敗して受けてしまった傷なの。ブルレギアス様は関係ないのよ。この傷を見てお辛そうにしてらしたくらい…。私は十分すぎるほど彼らに大事にされているわ。だから、そんなに心配しないで頂戴。」


「っ…はい。エミレィナ様。」

きっと不本意だろうが、そうしてもらうほかない。そうでなければ彼らの元で暮らすこととなってしまいそうだと思ったのだ。


そうこう話してる間に準備を終えて部屋へと戻ると、それに気付いたブルレギアス様が驚きに声を漏らした。

「おお、エミリー。綺麗だな。」


白く、透き通るように薄い水儀装は、身につければさほどでもなく、下は男物のようにゆったりとしたパンツ型だった。

それは、ミーアに聞いてみれば、“水に浸かった時に、ワンピースだと服だけが浮いてしまうのが嫌だとレティシアーナ様が自ら考案して作られたのです”と説明してくれた。


そんな服を着て、何の説明を受けることなく水に足を踏み入れると、少し冷たい水が足を飲み込む。

そして私は、背中が水に浸かるようにその中でしゃがんでみた。




水の中でジッとしているだけでは、何だか私の探究心は落ち着かなかったため、ゆっくりと神台へと近づいてみる。

ここで母が祈りを捧げていた。
そう思っても、大して現実味はない。
そもそも自分の親のことなど気にしたこともなかった私にとって、それは知っても大した衝撃ではなかったのだろう。




そして、そろそろ日が暮れてしまうという頃。私が着替えを終えて部屋へと戻ると、ブルレギアス様は徘徊を終えていた。

「お待たせいたしました。ブルレギアス様。」

私が聖水へと浸かっている間に、彼はこの部屋から情報を得ていたに違いない。
彼の前には何冊か選び抜かれたものが置かれていたのだ。


「ジークロウザ殿に頼んで、こちらは持ち帰らせてもらうことにしたよ。どうやら魔法が込められていて、読むだけでも少し手間取りそうなんだ。」

「そうなのですね。」

「これだけ人目に触れないようにしてあるところを見ると、もしかしたら何か秘密でもあるのではないかと思えてくるよ…。
それより、背中の傷は癒えたのかい?」

「あ、完全に、とはいきませんでしたが、大分良くなったようです。」


そう、私の鞭後は、もう痛みは残っていない。きっとレティシアーナの回復魔法が少量なりとも残っていたのだろう。




「それでは、帰ろうか。嗅ぎつかれる前に戻らなければならないからね。」

ニッコリと笑う彼に、ジークが問う。

「お帰りになられるのですか?
このままお泊まりになられても宜しいですのに。」


ジークもミーアも残念そうに眉を下げる。


「そうだね。今回は聖女レティシアーナの本をお借りするのだから、お礼に今度はゆっくりエミリーがここに来れるように手配するとしよう。」


「っ。それは我々にとってとても嬉しいことでございます。」


私としては、なんだか申し訳ない気持ちになる。聖女の資料を借りる代わりが私のお泊まりなんかで釣り合いが取れるのだろうか。
そう思いつつも、役に立てるのであれば何も言わないのが私のポリシーだ。


そうして別れを惜しみながら、正面玄関へと向かう。すると、中庭で夕日の光を反射した何かが光を放った。

「っ。何かしら…。」

私が目を細めたことで、ジークが口を開いた。

「あれはアルフレッド様の聖剣、そしてその隣にあるのが聖女の杖でございます。エミレィナ様が生まれた後、あそこに突き刺したものと思うのですが、誰もその姿を目にしてはおらず…。
そして、どうも次の勇者でなければ抜けないようになっているようなのです。」

そう説明された私は特に何も感じはしなかったが、ブルレギアス様はなぜか中庭へと向かっていった。


特に変哲もない地面に、聖剣と杖が刺さっている。それは少し力を入れれば抜けそうに見えるのだが、殿下は触れもしなかった。

「…なるほどな。」

「私が力づくで引っ張ってみましょうか。」


ヴィサレンスの血を受け継ぐ私は、身体能力が桁違いなのだが、ブルレギアス様は首を横に振った。


「いや…。これは力づくでは抜けないよ。」


「どういうことです?」


「ここには魔法が込められているんだよ。
先程のレティシアーナ様の私室同様、巧妙なものがね。
それは今世の勇者と聖女の手が必要なようだ。そして、この地面からは、聖女の力を感じるよ。」


何が何やら難しいことを言われたが、簡単に言えばこれはどうにもできないということだろう。

その証拠に、ブルレギアス様は立ち上がり、また元来た道を戻り始めたのだった。








「それでは、ジークロウザ殿。本日は誠にありがとう。また来ることとなるかと思いますが、その時はどうかすんなりと通してくれると嬉しいですな。」


「ええ。あなたが信頼に値する方であれば、約束いたしましょう。」


その言葉にブルレギアス様は目を瞑り、笑った後頷いた。

そうして神殿を出た私たちは馬車へと向かう。その後をジークロウザとミーアも付いてきた。きっと見送りまでしてくれるというのだろう。

それが分かっているため、私は何も言わずにただブルレギアス様の数歩後ろを歩いた。



「それでは、またお会い致しましょう。」

ブルレギアス様の礼に合わせて私も綺麗に腰をおる。すると、こちらへ向かってくる馬車の音が耳につく。


「っ。ブルレギアス様。こちらへ!」

あまりにも勢いのある馬車は、私たちの近くで止まる。彼はお忍びでここへときたため、もしかしたら危ない輩でもきたのかと身構えたが、馬車の横に着く王家の家紋を見てすぐに違うと分かった。



「…番犬にバレてしまったようだね。
それじゃ、私は失礼するよ。
エミリー。悪いがの回収を頼むよ。」

が誰なのかすぐに気付いた私はそのまま頷くしかない。
彼にバレる前に王宮へと戻るはずだったのだが、仕方ないだろう。そう思った。

すると、ブルレギアス様の馬車が走り出し、それと同時に先程着いたばかりの馬車の扉が開いた。


「エミリー!」

勢いよく顔を出したのは思った通りグリニエル様だった。

「エミレィナ様。こちらは?」

「ええ。ジョルジュワーンの第二王子であるグリニエル様よ。彼も私の義兄に当たるの。」

「そうですか。」

私から義兄という言葉が出たことで、一応刺々しい雰囲気は緩和された。

しかしそうとも知らない彼は、私を見つけるや否や、すぐに私を抱きしめた。


「エミリー!探したんだよ。
部屋にいってもいない、研究室にも中庭にも、調理場にもいないだなんて、本当にどうしようかと思ったんだ。」

その話だけを聞いただけで、彼が自ら私を探し歩いたことが容易に分かった。

「も、申し訳ありませんでした。今戻るところだったので…。入れ違いにならなくて良かったです。」

私はとりあえず苦笑いを貼り付けながら、彼を引き剥がす。すると、グリニエル様はジークとミーアに気付いたらしい。

「エミリー。こちらの方は?」

「…私の母に仕えていたジークロウザとトレミアです。」

「は?エミリーの母君?エミリーの母君とは…。」

彼はもしかしたら知らないのかもしれない。
私はそう思って母の名を口にした。

「…レティシアーナ。」

「っ。」

「私の母は聖女だったようです。」
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