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エミレィナ・ヴィサレンス②
しおりを挟む「お初にお目にかかります。エミレィナで御座います。」
扉を叩き、入室した私に刺さる視線は3つ。
伯母にあたるレロリア、その長子であり姉のセレインと弟のレヴィのものだ。
2人は双子だと聞いているが、随分と印象は違う。姉のセレインは腕組みをし、強気なところが伺える。ボリュームのあるバストが印象的で品定めをするかのように私を見ていた。
それとは対照的に、弟のレヴィは物静かそうで、特に表情を変えることなく私の方を見ている。
そんな彼女らの間に立つのは国王の実妹であり、母の姉に当たる伯母だ。継承権はロレンザ様が生まれた時に消失し、今はヴィサレンスの頭脳と呼ばれ、ロレンザ様の政治活動の手伝い…もといその大半を担っているお方だ。
するとレロリア様がまず口を開いた。
「レロリアです。
…本当、レティにそっくり。
濃い色の瞳なんて彼女そのものだわ。」
彼女は私に近寄り、そっと微笑む。
「ありがとうございます。
母の事は何一つ知らないのですが、似ていると言われれば嬉しいものです。
…この度は私を受け入れてくださった事、感謝申し上げます。」
「いやね、正式にあなたの名前が書に記されるだけよ。あなたは生まれた時から私達と繋がっているの。
だからもうすでに家族なのよ。
寂しいことなど言わないで、あなたらしくのびのびと過ごして頂戴。」
「……恐れ入ります、レロリア様。」
「…。」
少し寂しそうではあるが仕方がない。
私にとっては急に家族となった人で、それも王家の人たち。敬意を払わないわけにはいかないのだ。
「レロリア様。お久しぶりで御座います。」
「あら、ミレンネ。お久しぶりね。
聞いたわよ。危ない目にあったとか…
無事で何よりだわ。」
「ええ。もうダメかとも思いましたが、エミリーが助けてくださって、今こうしてまた国に戻ってくることができましたわ。
彼女には感謝でいっぱいですの。」
「まぁ!そうなのね。
ありがとうエミレィナ。
私からもお礼を言うわ。
ミレンネを助けてくれて本当にありがとう。
あなたを誇らしく思うわ。」
ミレンネが入ってくれたことで、また会話を続けることができた。
「…ところで、私もエミリーと呼ばせて頂いてもいいかしら。」
「…はい。もちろんで御座います。」
彼女はきっと私を気にかけてくれているのだろう。そんな気持ちが素直に嬉しくなった。
すると後ろにいたセレイン様も数歩寄ってきて、レロリア様の隣に立つ。
「娘のセレインよ。後ろにいるのがレヴィ。2人はエミリーの一つ年上になるわね。」
背筋の伸ばしすぎなのか、もはや私を見下す程に視線を向ける彼女に、私はまた挨拶をする。
「エミレィナで御座います。
これからどうぞよろしくお願い致します。」
「…ええ。王家の一員となれば家族も同然ですもの。遠慮は要らなくてよ。
でも継承権は私の方が上。年も上ですから、調子に乗らないことね。」
「セレインったらまたそんな言い方をして…。」
強気な発言をするセレインはレロリア様に嗜められ、腕を組みながらツンとそっぽを向いた。
ヴィサレンスの継承権は親の生まれ順も関係している。ここでいうならロレンザ様、ミレンネ、セレイン、レヴィの順で、最後が私になるのだ。
そんなことを言われなくとも、王家である実感すらもない私が大きい顔をできるはずもないのにと思った。
「従姉様は少し捻くれているけど、本当はエミリーと仲良くしたいのよ。
さっきの言葉も、『私の方が年上だから、困ったことがあれば悩まずに私を頼りなさい』と言うことだから、気にしないでね。」
なるほど。ミレンネの耳打ちのおかげで、彼女が随分と損な性格をしているのだと知る。
それならば私も警戒せずにいようと思った。
「…セレイン様。ありがとうございます。
私はまだまだ知らないことばかりですので、きっとあなた様を頼ることも御座います。
セレイン様が宜しければ、お知恵をお借りしてもよろしいでしょうか。」
「ぁ、当たり前のことを聞かないでちょうだい。
私のことは従姉様と呼んで構わないわ。
エミリー、ここまでよく来たわね。
歓迎しなくもないわよ。」
セレイン様は完全に捻くれているわけではない。
ただ素直になるのにワンクッション必要なだけなのだろう。
顔を赤らめてそういう彼女は、なんだか可愛くも思えた。
そして次はレヴィ様と話そうという時、謁見の間の扉が開き、ロレンザ様とグリニエル様が入ってきた。
「おや、我々が最後か。
少々話過ぎてしまったようだな。」
ロレンザ様は持ってきた書類を国王陛下の椅子近くにあるテーブルに用意する。
一方グリニエル様は私の隣に立った。
「エミリー。エスコートしてやれなくて悪かった。今日も綺麗だよ。」
いつも通りにシスコンを全面に出す彼に、私は少し眉を下げながらも笑いかけた。
「大丈夫ですわ、今皆さんとご挨拶させて頂いていたところですの。」
「レロリア様にセレイン嬢、そしてレヴィ殿ですね。お初にお目に掛かります、グリニエル・ジョルジュと申します。
ジョルジュワーンの第二王子で、エミリーの義理の兄です。
この度はエミリーのジョルジュワーンへの外住をお許しくださり、誠に感謝いたします。」
彼は胸に手を当て綺麗な礼をする。
するとどこからか、はぁぁと、熱い息が聞こえた。
「っグリニエル様と仰るのですね。
私、セレインと申しますの。
私あなた様を気に入りましたわ。
ロレンザ従兄様が忙しい時は私がグリニエル様を楽しませますわ。どうか一緒に過ごしましょう!」
先程までのツンはどこに行ったのか、彼女は好意を全面に出してグリニエル様に接する。
グリニエル様は、困ってはいるようだが、ヴィサレンス国の第3継承権を持つ彼女を無下にする事はできないらしく、程よい距離感で彼女の案内の申し出だけを受け入れていた。
「セレイン従姉様!
グリニエルはエミリーの…っ。」
ミレンネの言葉を遮るように、国王陛下が姿を見せた。
誰もが腰を折り、綺麗に礼をする中、彼は王座へと着く。
「…では始めるとするか。」
重く、威厳のある声。
その声が聞こえると、私の名が挙げられ、決められていた通りに書状が読まれる。
私は今日、この時を以て王家ヴィサレンスの代5継承権を得て、エミレィナ・ヴィサレンスとなった。
そしてここに住うことなく、留学と称してジョルジュワーンに外住することとなる。
そんな当たり障りのない書状が読み進められ、この場にいる皆が承認し、儀式はすぐに幕を閉じた。
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