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怒り④
しおりを挟む「…ジョルジュワーンとの外交商を任せて欲しいのです。」
それは第二応接室と記されたその部屋から微かに聞こえる。
『それは何度もお断りしている案件です。ジョルジュワーンは同盟国となりました。
外交はレロリア・ヴィサレンスが行うことが既に決まっております。
それが覆ることがないと言う事は、サリヨン伯爵も知っているはずです。』
「やはりサリヨン伯爵。懲りない人ね…。」
扉の前に来た私とセレイン様は、行儀が悪いと思いながらも聞き耳を立てていた。
「伯爵の地位でも他国との外交を行うことができるのですか?」
普通、他国との外交は公爵家以上の決められたものしかすることができない。それは国内であれば伯爵でもできるものがあったりもするが、ジョルジュワーンとは国の大きさが違う為、伯爵の地位だとしても多少妥協しているところなのかと思った。
「そんなわけないでしょう。
外交とはそもそもとても責任の重いもの。
少しでも発言を間違えれば戦争だってあり得るのよ。
そんな重要なことを伯爵に任せるわけはないでしょう。
この国ではトップであるレロリア・ヴィサレンスとその重鎮である2人の公爵の仕事よ。」
国の考え。そう思われる重大なその職は、皇帝への忠誠心の高さだけでなく、才能やその家督までが関わって選出される。
「伯爵が外交に遣わされたと分かった相手国はどう思う?下手に見られていると思うでしょう。」
苛立ちを見せるセレイン様は、今にも中に入って行きそうな勢いだ。
それを辛うじて止めているのは、サリヨン伯爵の相手をしているレヴィの存在だ。
『……外交は決められた者のみが行うことのできるものです。サリヨン伯爵が、今空席となっている三柱のひと席に着くことができれば、きっと任されること。それを待たないことには、どうにもなることではありません。』
ヴィサレンスの外交組織がどんな成り立ちをしているかが分からない私はセレイン様に問う。
「三柱?」
「ヴィサレンスの外交官のことよ。
お母様の他に、外交官は今2人いる。その2人が三柱と呼ばれるものよ。その三柱に選ばれてやっと外交官となれるの。
今、その席はひとつ空いている…。
でもそれは…レヴィのものよ。」
「っ。」
『それでは、私が三柱に選ばれるために、レヴィ様の辞退を求めます。
更に私の推薦文を…。』
サリヨン伯爵は、あろうことか次期三柱であるレヴィにそれを告げる。
レヴィはこんな話をもう30分も聞いていたのかと思うと、胸が苦しくなった。
サリヨン伯爵はレヴィに対してとても失礼な態度を取っている。私でもそれが分かる。
彼はレヴィに辞退を求めるだけでなく、推薦文まで書かせると言うのだ。そんな屈辱的なことに、私は拳を握りしめていた。
「………もう我慢できないわ。」
「せ、セレイン従姉様!お待ちくださ…っ」
私が扉を開けるセレイン様に声をかけると、私の肩を掴み、それを止める者がいた。
私はその者を一瞬振り返り、驚いたが、またすぐにセレイン様の方を見た。
な
扉の奥に目をやると、レヴィが少し驚いた顔をしているのが見える。かと思うと、すぐに口角が上がったのが分かり、私はそのままセレイン様を見送ってしまった。
「……。止めなくて良かったのでしょうか…。……ロレンザ様…。」
私は肩を掴んだ者にそう聞くと、彼はゆっくりと立ち上がった。
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