55 / 104
お出かけ③
しおりを挟む「フルーツサンドとコーヒーで良かったかい?」
「はい。苦いものと一緒だと、より甘さが際立つのが好きなのです。ヴィサレンスは比較的寒い地域ですから、国産の珈琲を味わえないのは少し残念ですが、やはり入れ方は違うと思いますので、飲んでみたかったのです。」
カフェに着き、彼と共に注文を終えてすぐ、席へと座ろうとしたのだが、席を離して設けられているテーブルは、どれも埋まっており、空いているのは1人席の小さなテーブルだけだった。
「…あ。椅子、借りましょうか。」
私は空いていた椅子を一つ借り、小さなテーブルに椅子を向かい合わせで置く。
彼が座ったのを見届けてから向かい合った席へと座ると、コツンと膝がぶつかってしまった。
思いの外、テーブルが小さく、その為、どうやっても膝がぶつかってしまうのだ。
「っ。」
何度か座り直してはみたものの、やはりどうしても膝がぶつかる。
「あ、すみません。」
「か…構わない、よ。」
私の膝と膝の間に彼の膝を置いてしまい、ピクッと彼が反応した。
テーブルに近づこうとすれば膝がぶつかり、遠ざかれば食べにくい。
「このまま食べましょうか。」
最終的に私の膝とグリニエル様の膝は、多少右外部分がぶつかる程度に収められ、私はそのまま食事にありついた。
「このフルーツサンド美味しいです。」
「そうか。
やはり噂のことだけはあるね。
エミリーの幸せそうな顔を見れて、私も嬉しいよ。」
「…ふふっ。」
こんなに近くで食事をとることなんてない。
そんな状況を不思議には思うのに、緊張はしなかった。
「食べたらもう少し歩いてみようか。
人混みを歩くことなど滅多にないことだからね。」
彼があまりにもワクワクしたようにいうので、私もその感情が伝染する。
「そうですね。街中を歩くことなどできませんから、今日は楽しみましょう。」
先程までの不安はどこに行ったのだろうか。
そう思うほどに私は彼との街歩きを楽しんでいた。
「…ジョルジュワーンに戻ったら、エミリーの扱いを変えなければならないからね。1週間ほどは自由にしてやれるかもしれないが、以前のように別宮で暮らすこととなるだろう。」
「…はい。」
それは致し方がない。
私の扱いはヴィサレンス王家への扱いに繋がるため、雑にすることができなくなったのだ。
もちろん、街にあるアパートを解約しなければならないし、別宮で暮らすということは、ルピエパールにも通えないということだ。
私の自由はまたなくなることだろう。
まあ、良かった点は、やはり彼のそばにいれることだろう。それ以外はない。
これからきっとヴィサレンスの血筋として婚約の話が上がるかもしれない。
それで好き人が見つかればいいが、ときめくことがなければ結婚するわけにもいかないだろう。
それは私の能力向上に繋がるのだから、安易に夫婦となるわけにはいかない。
彼のそばにいるには、彼の能力と渡り合えるほどの力がいる。
その条件に私はまだ当てはまらないのだ。
だからどうにかして好きになった相手と結ばれる必要があるのだ。
「出来る限りエミリーの思いは尊重してやりたいが、状況が状況だからね…。
あ、あの猫は一緒に連れてきて構わないからね。それは心配しなくていい。」
「ええ。お気遣いありがとうございます。」
自由がなくなる。しかし単身でヴィサレンスに渡るよりも何倍もいいと思うのだから、きっと問題はないだろう。そう思った。
「別宮で過ごすのですから、もし私に出来ることがあれば言ってくださいませ…。
夜も予定はありませんから…。」
私が別宮に入ればルピエパールのレィナは店から消える。そうなれば、グリニエル様が想い人と共に歩めるまで、彼の欲望を受け止めてあげたいと思ったのだ。
レィナの脚でいいのなら、私の脚でも構わない筈だろう。
「い…いいのかい?」
「ええ。…私はグレン様と対等、なのですから…。
遠慮などなさらないでください。」
「っ…。」
彼は私がレィナだとまだ知らない。
できることなら知らせないままの方が良いのかもしれない。
ずっと彼に嘘をついていたなんて知られたら、私は嫌われてしまうかもしれない。
そんな怖さがあった。
するとガヤガヤとするのが聞こえる。
「何でしょう…。
急に前が進まなくなりましたね。」
「ああ。何だろうね。少しこのまま様子を見ようか?それとも抜けられる場所でも…っ」
グレン様はキョロキョロとし終えると、話していた言葉が途切れ、空を見たまま目を見開いていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる