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婚約祝い③
しおりを挟む「す、すまない。せっかくのお祝いを中断させてしまって…。」
彼はシュンっとし、小さくなっている。
ルキアが花瓶にぶつかって割った時も、こんな感じになっていたなと庇護欲が湧く。
「…構いませんわ。
レオにはとびきりのお酒を用意しておきましたから、彼は気にしないです。」
「…。随分とレオッツォと親しいのだな。」
「あー…そうですね。
彼以上の男友達はいないでしょう。
さあ、入ってくださいな。」
彼は私が開けたドアからその部屋へと踏み入れ、辺りを見回していた。
「卒店となっても部屋はあまり変わらないのか?」
「ええ。まあ、次の子が使いますから…。」
グリニエル様は部屋を歩き、机に指を這わす。
「君がもう店にはいないと思うと、寂しくなるな…。」
「私がいなくとも、想い人様と仲良くなされば、私のいない寂しさなど感じないことでしょう。」
私はコツコツとその前へと進み、ベール越しにグリニエル様と目を合わせた。
「今日はなんの相談ですか?
最後ですから、とことん付き合いますよ。」
「っ…。」
にっこりと笑うと、彼の手が私のベール越しに頬へと添えられる。
そんな彼は眉を下げた後、ゆっくりと私のことを抱きしめた。
「君は本当に………
エミリーにそっくりだ…。」
「え…?」
その言葉を聞いて急に頭の中で整理が追いつかなくなった。
彼が私を大事にするのは想い人と似ているから…。
それなのに、ベールをかぶった私をエミリーと似ているから。と言ったのはどうしてだろうか。
まさか…
そんな期待が胸中渦巻く。
彼から数歩後退り、私はそのことに触れようと試みる。
「あ、あのっ…
エルさんの想い人様は…。」
「ん?」
「その…。エミリー…なのでしょうか。」
どう聞けば自然なのだろうか。
そう思いながらもそれを言葉にすると、廊下の方から何やら揉めているような声が響いた後、ドンっと建物が揺れるほどの音が鳴った。
「っ!」
「っ…なんだ!」
ガラガラと建物が崩れるような音もするが、この建物はそんなに脆くはない。
どこかの客が暴れて壁に穴でも開けたのだろうか。
そう思ったが、嫌な予感が拭えず、そのまま走り出した。
「っ…グリニエル様はここでお待ち下さい!」
「!」
私は急いで部屋の扉話を開け、ドアに隠れて廊下の様子を伺うが、すぐに隊長の声が聞こえて飛び出した。
「シェリー!」
「っ!」
シェリーに何かがあった、そう思ってすぐに飛び出ると、シェリーは気を失っているのか、大男に担がれていた。
「シェリー!」
隊長とレオの腰に剣があるのに抜かないのは、廊下ではそれを使える広さがないからだ。
そして隊長の魔法ではシェリーにも当たりかねない。
そのことを一瞬のうちに頭を過り、行動に移す。
「アネモスっ」
グッと足に力を込めてその男に飛び掛かる。
するといつもとは比べ物にならない速さでターゲットに近付いた。
「っ。」
急所となる場所に次々と攻撃を当てていく。
すると3発目は腕により防がれ、そのまま回転させた腕に捕まった。
「くっ…」
掴まれた手を振り解こうにも、びくともしない。
そう思ってその手を握り返すと、その大男はやっと口を開いた。
『……可愛いお嬢さん。お名前は…?』
「っ⁈」
「レィナ!」
隊長の呼びかけと共に、その大男の顔が爆発する。
私とシェリーにはなんの怪我もないそのコントロールに、私は誰の攻撃なのかすぐに分かった。
「っ。」
『…そうか…レィナと言うのか。
…………ならお前に用はない。』
煙の上がる中、その攻撃を気にもしないその大男は、そう言った後、私の手を離した。
するとすぐに後ろへと飛び下がり、瓦礫を投げつけてきた後、壁に空いたその穴から外へと出て行った。
「…っシェリー!」
慌てて追おうとする隊長は、その大きな瓦礫に阻まれ、追うことができない。
「っアネモス!追って!」
アネモスの力は私の想像とリンクする。
それは私の魔力と想いからなるのだが、その時の私は自分の魔力の少なさを考えている余裕はなく、何がなんでもシェリーを見失わずに追うことだけをアネモスに伝えた。
「どういうことですか。
なんでシェリーがっ…。」
「……ひとまず城に行く。急ぐぞ。」
「…っ。」
シェリーの身に何があったのか、さっきの者は一体何者だったのか。色々と聞きたいことはあったのだが、隊長の余裕のない表情を見て、私はそれ以上何も言えなくなった。
「…エミリー。」
「……っ。グリニエル様…。
説明は後ほどさせていただきます。
今は、申し訳ありませんが、城へ…。」
「ああ。…分かった。」
今日のことで、グリニエル様には私が嘘をついていたことがバレてしまった。これでは愛想尽かされても仕方がない。しかし今は、シェリーの奪還が優先事項。
「グリニエル…直せるか?」
「粉々にされたわけじゃないから可能だ。
それより、店に彼女達を置いていくのか?」
「…ランドリフに声をかけてくる。
グリニエルとレオッツォは壁が治り次第城に向かってくれ。
ランドリフに店を任せた後、俺とエミリーで向かう。エミリーは騎士服に着替えろ。それなら1人でも着替えられるだろう。」
「分かった。」
「はい。」
王太子殿下に会う以上、ちゃんとした格好でなければならないが、そうであれば動きにくくなってしまう上、時間がかかる。
だから私は最後であろう騎士服に袖を通し、準備を整えてから城へと向かった。
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