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それぞれの道③
しおりを挟む「エミリー。アルフレッド殿と双子が登城したそうだ。
人目につかないように西にある別棟のサロンで会うように言われて来た。
念のために俺が護衛としてつくことになったが、俺のことは構わずゆっくり話すといい。」
「分かりました…。
それでは、ローザにお茶の用意を頼んだ後、向かいます。」
昨日、ゾゼダイル様とレオがロティスタディアへと戻った後から、ずっとグリニエル様のそばにいる私の元に来たのは隊長だ。
私は、必要以外はずっとここにいる。
最初は誰しもが辞めるようにと言いに来ていたが、食事や睡眠を条件にブルレギアス様に許可をいただくことができた為、もう誰も止めることは無くなった。
私は、隊長のエスコートで西にあるサロンへと向かう。
「遅くなりまして申し訳ありません。
エミレィナでございます。」
扉の前で容姿魔法を解いた私は、本来の姿で3人の前へと立ち、綺麗に挨拶を見せた。
左からミカレル。アルフレッド様。レシファーの順に座っており、双子の2人はアルフレッド様に寄り添うように近い。
それを見て、随分と懐いていることが伺えた。
「遅くだなんて、とんでもありません。
こちらに来ることを事前に知らせる術がなくて申し訳ありませんでした。
お時間いただき、感謝申し上げます。」
「…。」
父娘とは思えないようによそよそしい。
互いがどうしたらいいのか分からない状況で助け舟を出したのは双子の片割れであるレシファーだった。
「久しぶり。エミリー。
元気そうで良かった…。
君が目を覚まさない時はとても心配したんだよ…。僕らは君を危険に合わせてしまうほど悪いことをしてきたんだって分かった…。
反省しているよ。
…僕らを…。世界を救ってくれてありがとう。」
「…レシファー。」
おしゃべりな彼は幼いながらも沢山の言葉で悔いていることを私に伝えてくれる。
その一方で、アルフレッド様の腕にしがみついている小さな女の子は眉を下げ、彼女なりに反省していることを表していた。
「僕も…ごめんなさい…。」
「ミカレル…。」
私はコツコツと靴を鳴らし、ゆっくりと3人の前へと進み、にっこりと笑ってみせる。
「2人とも、本当は心の優しい子よ。
私がきっかけなのかもしれないけれど、2人が闇から抜け出せたのは2人が光に気付いてくれたから…。
きっと初めてのことで怖かったと思う。
それでも、頑張ってくれてありがとう。」
「「…っ!」」
私は感謝を述べた後、やっと彼らの前に用意された椅子に座る。
隊長はローザが用意してくれたお茶を入れた後、ドアの側まで下がった。
「…お会いできて光栄です。
エミ…レィナ殿…。」
「いえ、私もですアルフレッド様。
前勇者であらせられるあなた様にお会いすることができるなんて思ってもおりませんでした。
…今回はお手をお貸しいただきましてありがとうございます。」
「っ…いや。そんなことは…。」
彼はこういう場には慣れていないらしい。
しかし、何十年と国から離れていれば仕方のないことだとも思えた。
「「………。」」
紅茶を飲む音だけがする部屋で、その沈黙を破ったのはお喋りの小さな天使だ。
「2人は親子だろう?
なんでそんなによそよそしいんだい…。
これじゃまるで…。」
「まるで両親みたい…。」
「「っ!」」
「そ、そんなことはないぞ、2人とも。
私はずっと…っ…。」
アルフレッド様は2人に説明しようと試みるが、あまり言葉が出てこない。
そんな彼に変わって私は口を開いた。
「…2人とも。心配してくれたのね。
でも大丈夫。私たちはお互い、この距離感で丁度いいのよ。」
「丁度いい…?」
「ええ。会えたことは嬉しいの…
でもね。素直に跳んで喜びたくとも、それを表す術を知らないだけ。」
「…?」
「私は会えて嬉しいと思ってるわ。
それに、今回の件で手を貸してくれたのがアルフレッド様……いいえ、お父様で嬉しかった。
…お父様がが私を信じてくれていたから、私は力に気付くことができ、それと向き合うことができたのだから…。」
「エミ…リー…っ。」
「今はまだこんな距離感だけれど、これからゆっくり時間をかけて親子らしくなると思うわ。
だから、今はこのままでもいいの。」
「ふぅーん。…それなら良いけど。
僕らみたいにはなって欲しくはないからね。」
「ありがとうレシファー。ミカレル。
でもね。私とお父様だけじゃないわ。
貴方達2人も、もう私たちにとっては家族よ。
だから、一緒に仲良くなっていきましょう。」
「っ。」
「それは…嬉しいな。
よろしくね。エミリー。」
レシファーもミカレルも心から嬉しいようで、私に向けてそう言うと、愛情を求めるようにアルフレッド様にくっついていた。
私はそれを微笑ましく眺める。
父の愛情を求めたこともあった。
しかし、それに渇望していないのは、きっとグリニエル様が私に愛情を注いでくれていたからだろう。
「…っ。
もし良ければ、私と共に過ごさないか。
20年間何もしてやれなかった分、何かしてやりたいんだ。」
「そうだよ、エミリー。
僕らと4人で魔族達とわいわい過ごせばきっと楽しいよ!」
父の申し出に被せるようにレシファーが賛成すると、ミカレルも同じだと言うように頷いていた。
「そうね…とても素敵な申し出だわ…。
…でもね、私にはもうそばに居たいと思う人がいるの…。だから…」
「っ…そ、そうか…。
そうだよな…。」
「ごめんなさい。一緒には行けません。」
「…いや。これで良かったんだよ。
エミリーが芯のしっかりした子に育ったようで…私も安心だ…。」
20年会わなかった父は、私のことを大切にしてくれている。
きっと、会わなかったのではなく、会えなかった…もしくは会うことができなかったのだろう。
その愛情に気付くと、私は手を伸ばさずにはいられなかった。
「でも…私もまだまだ子どものようです…。
たまに遊びに行ったりたわいもない事を手紙でやり取りしたいと思うのです。」
「っ!」
「わあ!いいじゃないか。
僕は賛成だよ!」
「…い、良いのかい?」
「勿論です。
ずっと我慢させて申し訳ありませんでした。貴方を恨んだ時のこと、少し恥ずかしいと思います。」
「っ。恨まれても、私のことを考えてくれてたこともあると思うだけで、愛おしいよ…。
エミリー。立派に育ってくれてありがとう。
私もレティも嬉しく思っている。」
父の口から初めて出た母の名前に、私の胸はキュッと温かく苦しくなった。
「…ええ。周りに恵まれていたのです。
…それと、まだ時間はお有りですか?
みんなの話やお母様の話…あと冒険の話に昔のヴィサレンスの話も聞きたいことは山程あるのです。」
「!」
「勿論だよ!日が沈むまで沢山話をして過ごそうじゃないか!」
それから私は、20年という父との時間を埋めるように、沢山の話を聞き、冒険の話は隊長が特に聞き入っていた。
そんな日を過ごし、私は遂に正式にヴィサレンスの王族としてこの国へと入る式典の日を迎えた。
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