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目覚め
しおりを挟む「エミリー。準備が終わり次第、ブルレギアス様の所に来る様にとのことだ。
…どうやら、グリニエル様が目を覚ましたらしい。」
「っ!すぐに行くわ。」
式典の準備を進める最中、私の部屋を訪れたのはルキアだ。
特に怪我もなかった彼だったが、魔族とブルレギアス様の間に立って色々と話を進めた彼は、数日忙しくしていたらしい。
本当ならエミリーの側で目覚めを待っていたかったのにと何度も言われたが、翌日には目を覚ましていた私を、待つも何もなかっただろうと思った。
そんな彼は改めて私の側にいてくれることが決まり、魔族の方はネズレットに完全に委ねられた。
今回の件は、公には処分したと言うことにし、手を組むことを条件に不問となった。
まあ、ネズレットがヴォーグに勝手をさせないことは言わずとも条件内に組み込まれている。
そんな彼に連れられ、急いで支度を仕上げてもらった私はブルレギアス様の元へと向かう。
「失礼しますっ!
エミレィナでございます。
遅くなりまして申し訳ありません。」
私がシャンパンゴールドの髪を靡かせながらその部屋へと入ると、すぐにブルレギアス様が声をかけてきた。
「急がせて悪かったな。」
「いえ、とんでもありません。
グリニエル様がお目覚めになられたと聞いて、居ても立っても居られなかったのです。」
私はそのまま彼らのいる場所まで進み、ブルレギアス様に答えた。
「グリニエル様…。お目覚めになられて本当に良かったです。」
私は彼の手を取り、そう言うと、
グリニエル様の眉がピクリと動く。
「誰だお前は。…断りもなく私に触れるとは無礼だぞ。」
「え…?」
その声色どころか、私を写す彼の目までも、とても冷たいもので、以前までの彼のものとは全く違っていた。
「ぐ、グリニエル様…?」
「…これがお兄様の言うエミリー…ですか。
申し訳ないが、これといって何も思い出しません。
なんなら、彼女を見ているだけで苦しくなる。
私と彼女が想い合っていたという話は、間違いかと思います。」
「っ!」
「…そうか…。」
何の話だろうか。
そう思う頃には既に彼から手を払われて、私は瞳を揺らす。
「…。」
「あのっ…ブルレギアス様…
ど、どういうことでしょうか。
何が。どうして…っ…。」
私は振り払われた手を胸の前でぎゅっと握ると、その理由を知る人に尋ねた。
「…どうやら一時的に記憶を無くしているようだ。
私のことも、ケインシュアのことも何も覚えていない。
唯一、体に染み込んでいたのか、貴族としての立ち振る舞いはあるが、自分が関わった者の記憶がすっぽりと抜けているんだよ。」
「っ…そんな。」
「エミリーに会えばもしかしたら。
と思ったが、違うようだ。」
「…。」
「今日の式典に、本当は出さない方が良いのかもしれないが、それはそれで面倒な噂が立つ。目を覚ましたのなら出てもらうつもりだ。
まあ、良い機会だから私が式典を務めることにした。このまま派閥が勝手に無くなれば面倒がひとつ減るからね。」
ブルレギアス様派とグリニエル様派。
それは昔からあった。
知能に優れたブルレギアス様。
そして近隣諸国の手助けや魔物討伐に活躍する武才に優れたグリニエル様。
どちらの派閥も引くことはなかったが、本人達の中ではもうすでに決まっていることだった。
「ブルレギアス様が次に立つと理解してもらえれば宜しいのですが…。」
「大丈夫だろう。
リンマナとの婚約も正式に伝えることになるからね、きっと何も言わなくとも噂が流れてくれるだろう。
私の婚約とエミリーの移住。
2つが同時に発されるのだから、グリニエルの様子の違いは気にしないでもらえると思っている。」
「…分かりました。
ブルレギアス様の式典に参加しなければ、ブルレギアス様を認めていないと認識されてしまいますから、グリニエル様の参加は致し方ないと思います。
ですが…」
「ああ。念のため、側にはケインシュアを置こう。」
「…はい…。」
グリニエル様はなぜお前が意見しているとでも言いたげに、怪訝な顔を向けてくる。
「エミリーは私の義理の妹だ。
国のこともよく理解している。
私は、国を良くするためであれば誰の意見でも聞く。
今のお前には理解できないかもしれないがな。
…とりあえずグリニエル。お前はケインシュアと会わせる。わからないことがあればケインシュアに聞けば大体分かるだろう。」
「分かりました。」
グリニエル様は返事をした後、家臣に案内をさせてその場を去る。
その間、私のことは一切見ることはなかった。
「エミリー。せっかくの門出だというのに、こんなことになって申し訳ない。」
「っ。そんなことありません。
きっとすぐ思い出してくださいます…!」
「…そうだね…。
…あのままでは国としても危うい。」
「…え?国としても?」
「グリニエルが覚えているのは王族の立ち振る舞いだけだ。戦い方は一切覚えていないんだよ。何かあったら…
そう思うとやはり早い方がいい。」
「っ…分かりました。
私に出来ることがあれば何でも致します。
その時は呼び付けて下さい。」
「…君は今から正式に王族として迎え入れられるんだ。
行動には十分気をつけなければならない。
何かしたいという気持ちはありがたいが、ジッとしていておくれ。いいね?」
「…っ。はい。」
私はブルレギアス様に念を押され、その場を後にするしかなかった。
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