99 / 104
記憶
しおりを挟む「ここは…、」
クローヴィスの移転によって連れてこられたのは美脚の店、ルピエパール。
壊れた奥の壁は直され、隙間風の入らなくなったそこは、もう私を必要とはしていない。
隊長が忙しいからと、まだ営業再開していない静かなその店には、いつものようにスリット入りのワンピースを身に纏ったシェリーがいた。
「え…シェリー?」
「お待ちしておりました王子殿下…。
そして、レィナ…
いいえ、エミレィナ様…と呼ぶべきね。」
「っ…。」
シェリーは、あの事件の後から会うことができておらず、ずっと気がかりだった。
身分を隠し、側にいたということは、結局は騙したようなもので、きっと恨まれていることだろう。
「……。」
「シェリー。あとは頼む。」
「ええ。任せて頂戴。」
私は、彼女に何と謝ればいいのだろうか。
こんなにも長い間偽っていたが、
シェリーとは本当の姉妹のように
過ごしてきた。
できることなら以前のようにしたいのに、
彼女は私に敬称を付けて呼んだ。
それは私にとって壁を感じるもので、さみしいものだった。
そんな私とシェリーを置いて、隊長とグリニエル様はいつの間にかその部屋を後にしており、部屋には私とシェリーしかいない。
「あ、シェリー…あの…」
「その…。」
どこから話せばいいものか。
最初から知らないこともあり、偽るつもりはなかったが、それはこちらの都合。
上手く説明することができないと思った。
「…ごめんね、レィナ。」
「え…?」
「あの人に聞いたの。
…ずっと、気づいてあげられなくてごめんね。
沢山辛く、大変な思いだったでしょう…
私がこの店を飲み屋ではなく、そういう店にしてしまったから、人目に晒されるようなこと…。っ…。
あなたが乗り気じゃなかったのに店を辞めなかった理由がやっと分かった。
今までごめんね。」
「っ…。」
そんなこと、謝るのはこちらの方だ。
「そんなことない…私は…。
偽りばかりで…っ
それにシェリーを危ない目に…っ」
グッと込み上げた涙が流れると、私の体は温かくなる。
「っ。」
目の前にいるシェリーが優しく私を抱くと、耳元で囁いた。
「いいのよ…。
レィナがいたから私たちは助かった。
そう聞いているわ。…ありがとう。」
「…!……うぅ…。シェリー…。」
ボロボロと色んな涙が流れる。
その涙を彼女はそのまま肩で受け止めてくれた。
「もう…泣いている暇はないじゃない。」
「…え?」
「あの王子…記憶喪失なんでしょう?」
「っ……!……ええ。」
そんなことまで隊長はシェリーに話したのだろうか。
情報を表に出さない隊長が、まさかそこまで話すとは、きっと何か理由があるのだろう。
そう思った。
「あの王子様の記憶を取り戻させる為に、店を開けるように言われたの。
だからいつも通りに着替えて待っていたのだけれど……」
シェリーは私から離れると、国の王子を前にして緊張したのだろうか…。俯き、プルプルと震えていた。
「シェリー…大丈夫?」
やはり一般市民に王子の存在は大きすぎる。
そう思ったが、すぐにその考えは覆された。
「…あんの王子、私の脚を見たところで顔色一つ変えないなんて、良い度胸じゃない…!
絶対ぎゃふんと言わせてやるんだから…っ!」
「え?」
「ほら!レィナ‼︎やっぱりケインが言っていた通り、あの王子にはやっぱりあなたじゃなきゃダメなんだから、
とびっきりのメイクとドレスで気絶するくらいの衝撃をあたえるのよ!
ほら!早く準備して!」
「え?え?」
何がどうしてそうなったのか、私には理解できない。
「…中途半端なことはさせないわよ…
私のプライドへし折った罪は重いの。
ほら、早くしなさい!」
「は、はい!」
私はシェリーに急かされるまま、用意されていたドレスに着替え、メイクを施されている間に、彼女が隊長と企てた作戦を聞かされた。
彼女の勢いに負かされ、
私は記憶を取り戻す方法が他にもあるということを言いそびれてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる