脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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記憶④

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「…グリニエル様。
…まさかとは思いますが、記憶が…っきゃぁ!」




ドサっと音を立てて、目を開くと、私は彼を押し倒すようにベッドに手を置いており、慌てて避けようと目を逸らした。


「も、申し訳ありません!」



私は早く元の体勢に戻ろうと体に力を入れたが、それは腰に回されたグリニエル様の手に阻まれた。

「うぁ……で…殿下?」





恐る恐る彼の顔を見ると、
今にも泣きそうな顔で私を見ていた。





「エミリー…ごめんよ…」




「っ!」







数日ぶりに発されたその懐かしい呼び名に、
私の心はぎゅっと掴まれる。







「グリニエル様…やはり……」






「…ああ。思い出したよ…
記憶も気持ちも全て…
それに、ここ数日のこともよく覚えている…」



「……!」


私はその良い知らせに目を開かせた後、
ホッと胸を撫で下ろし、
今から隊長に報告して、城へ向かわなければならないとそう思った。

しかし、彼は一向に私から離れようとはしてくれなかった。





「……。」


「あ、どこかお加減でも悪いですか?
…気持ちが悪かったり、頭が痛いとか……。
っ。とにかく、お水をお持ち致しますから、
離していただけると……っ」















「嫌だ……」




「え…?」




さらにギュッと縮まった距離は、
彼の顔がよく見えないほどに近かった。




「ぐっ…グリニエル様!
とりあえず、元の体勢に戻っていただかなければ、私も、その…!
いつまでもこの体勢はキツくて…!」




好きな人の顔がこんなにも近いことがあっただろうか。



いや、あったのかもしれないが、
彼を意識してからは初めて
こんなにも近くにいる。

そんな状況で私は目が回るような感覚で
離れたいと言うと、彼は諦めたように
手を緩めてくれた。






「分かった…」




「あ、ありがとうございます!」







その隙に手に力を入れて体を押し上げると、
また彼の元へと引き寄せられた。





「……え…?」




「これならば体も楽だろう?」




「っ!」




近かった顔は見えなくなり、
私はすっぽりと彼の腕の中。





彼のドクドクと鳴る鼓動に、
私の心臓も彼に聞こえるのではないかと思った。




「グリニエル様!」



バタバタと動く私をよそに、
彼はゆっくりと諭すように口を開いた。

















「…エミリー。このまま聞いておくれ。」




「…え?」











「言い訳させてほしい。
私はどうかしていた…。
君に恋していないなどと、
そんなわけがない。」




「っ!」



「こんなに苦しくて切ない、
それであって早く自分のものにしたいと思う……
こんなにも汚く、醜い気持ちではあるが、
私はエミリーが好きで好きで堪らない…っ」




「…っ」






「今だって、君が早く私のものになるのなら、順番がどうなっても構わないとさえ思った。
…君の愛情を早く知りたくて、
私は嘘をついた…。」


「…。」



「っ…エミリー……
こんなに情けない人間でガッカリ
させてしまったかもしれないが、
どうか私にチャンスをおくれ…
必ず、君をもう一度振り向かせる…
だから…っ」




「……。」




彼が言っていることは事実なのだろうか。





確かに、隊長をケインと呼んだことで
彼が記憶を取り戻したのかもしれない
とは思ったが、
果たしてそれはちゃんと全てを思い出した状態であるかまでは、はっきりと分からない。





もしかしたら、昔私を好いていてくれた時期の記憶だけがもどり、今は本当は然程でもないのに気持ちに振り回されていることだってあり得る。



だから私は、
首を縦に振ることができなかった。






「…それが、本当であると、
証明することができますか?」




「え…?」




ぽつりと呟いた私に、
グリニエル様は一瞬戸惑ったようだったが、
はっきりと口にした。





「………証拠はない。
…だが、それが真実だという自信はある。
調べる方法があるならなんだってするよ。」





決心したようにそう頷くグリニエル様に、
私はため息を溢した。





「グリニエル様…
お気持ちは嬉しいです…
ですが、それが本当のことであるという確証がなければ、あなた様の気持ちを素直にお受けすることはできないのです…。」




「っ…。」








ゆっくりと起き上がり、俯く私に、
グリニエル様は言葉を詰まらせる。









「だから…………アネモス…ソアレ。」



「っ!」



『なんじゃ…』

『いたぞ…』





「…良い方法はないかしら?」





声のみが聞こえるが、
これはグリニエル様にも聞こえている。

それを分かっていて相談した。




『…私の契約時に此奴もいた。
だから起きているうちの変化はすぐに分かるが、あの時とは
…元の状態に戻っていると断言しよう…。』






「…そう…。」




ソアレが曖昧ではなく
断言するかのようにそう告げると、
すぐにアネモスも続いた。







『なにも問題ないではないか。
2人が想いあっていることは誰しもが知っておった…
ここまでよく拗れたものだと
感心するほどにの…。
…エミリー。
お主はどうしたい?』







「っ。」










2人の後押しに、
グリニエル様が反応すると、
彼は私の方を見てゴクリと返事を待つ。


「……私は…。」







私は俯きながら、ギュッとこぶしに力を入れると、自分の心と頭の中を照らし合わせた。




2人の言うことが本当であれば、
私の思うことは変わらない。











「…グリニエル様と共にありたい…っ。」




「っ」











それを言葉してしまえば、
それが同じもので塞がれ、
私は瞳を閉じながら幸せを噛み締めた。





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