人柱皇女はキスをねだる(R18)

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

文字の大きさ
1 / 38

人柱皇女

しおりを挟む
「ゼノ・ザッカリー。

今回の討伐指揮。良くやってくれた。お主の力のおかげで、誰1人として命を落とすことなく帰還できたと聞いておる。

若いながらも国一の実力があることを認め、明日からお前を第一皇女であるヴィクトリア・フローレンスの専属騎士に任命する。」

「………は?」


王族や貴族が集まる討伐完遂式に隊長として出席した俺は、異例の辞令が言い渡されて困惑した。

会場から拍手が鳴り響く中、俺はつい先日の出来事を思い出す。




____________




「腰が引けてるぞ。もっと前姿勢でだ。」
「はい!隊長!」

「こっちを軸足にするんだ。」
「はい!」

王宮横にある軍施設。俺はそこの隊長を任せられているのだ。フロリアス剣技場では毎日のように騎士が訓練をしている。

国境沿いで魔物が出た為、討伐へと呼ばれた俺の隊は、それを終えて無事にいつもの訓練に戻っている。

騎士は国内の警備に当たる者、そして休暇を取る者、そして非常勤として訓練を行う者と3つに分けられ、そうやって回っている。

15で騎士となり、魔物の討伐やら他国の援軍要請に応えているうちに、戦場の 狼と呼ばれるようになった俺は、20で戦場から足を洗い、騎士を育てる地位についた。

それでもまだ22だ。

そんな若い俺に従うのが嫌だと言っていた隊員たちも、今では真面目に訓練に取り組んでくれるようになった為、やりがいがある。そして何よりも俺は騎士という仕事に誇りを持っているから、辞めたいとは1度も思ったことはない。



「ゼノ隊長。」
後ろから声をかけられて振り返る。

「…初めまして。私はシャノン・テオドールと申します。」

綺麗な金髪に整った身なり、そして腰に剣を挿す男は名乗った。

「…皇女様の専属騎士様が私に一体何の用でございましょうか。」

一応礼儀として笑い、にこやかに話す。
するとシャノン卿はすぐに口を開いた。

「ゼノ隊長の腕を見込んで皇女付きの職を受け継いでほしいのです。」

嘘くさい笑顔を浮かべる男は、胸ポケットから白い紙を出した。

「推薦状です。
私はあなたを皇女の専属騎士に推薦致しました。」


「……断る。
他にもなりたい奴は沢山いるでしょうから、他を当たってください。」


フロリアスの第一皇女であるヴィクトリア様はとても綺麗で優しい。
その為、専属騎士を目指して騎士になる者が後を絶たないのだ。


だが俺は専属騎士にはなれない。
いや、なりたくないのだ。



俺はひたすら剣を振るっている方が性に合う。


シャノン卿に断りを入れてすぐに足を動かした。


するとすぐシャノン卿が俺を止める為に前を塞いだ。


「それでは、
私に勝つことができれば
ましょう。」


俺は少し考えはしたものの、仕方がないと、その要求を飲み、シャノン卿と手合わせをすることになった。

今日はわざと足場の悪い場所で訓練していた為、実戦に出たことのないシャノン卿には絶対的に不利だ。

俺は開始の合図が聞こえてからすぐに
流れるように腕を振りかざしてシャノン卿の手から木刀を叩き落とした。



「…さすがですね。」

相手にならない。その一言だった。


一応戦場からは遠ざかったものの、力は衰えていない。俺はそのまま修練へと戻った。



____________

あの時シャノン卿に勝ったはずなのに。そう思って完遂式後にシャノン卿の執務室を訪ねた。



コンコン。
「どうぞ。」
「失礼致します。ゼノでございます。」




「…っ。」
一礼して顔を上げるとそこにはシャノン卿だけでなくヴィクトリア皇女もいた。

「来るだろうと思っていたよ。」

シャノン卿はニッコリと笑っており、悪いとは微塵も思ってはいないようだ。



「…話が違うのではありませんか?私はお断りをしたはずです。勝負には勝ちました。」

「ああ。ゼノは勝負に勝った。だから皇女の騎士になって欲しいと強く思ったんだ。
それに、あの勝負の時、私が何と言ったか覚えていないかな?
と言ったのだからしっかりと考えたよ。」

最初からこうするつもりだったのだろう。そんな彼を前に、俺は眉間にシワを寄せた。

ピリピリとした雰囲気の中で口を開いたのはヴィクトリア様だった。
「え…っと。ゼノは私のことが嫌いなのかしら…?」

今にも泣きそうな顔でヴィクトリア様にそう言われれば、俺は少し心が痛んだ。


「そういうことではございません。
私は今の仕事が場気に入っており、辞めたくないのです。剣を振り、ただひたすら強さを求め、強い者を育てたい。
それに私は剣はできても執務はできません。」

つまり頭が悪いのだ。



「それなら問題はない。
ゼノはいつものように隊長として剣技場で訓練していて貰って構わないよ。

ただ、ヴィクトリア様が生命の樹へと行く際の護衛をして欲しいだけなのです。」

「……それなら私である必要もないはずです。」

「いや。ゼノでなければならない。
ゼノはヴィクトリア様に強いを持っていますよね?
ヴィクトリア様の美しさは他の者では返ってなのです。」

言っている意味が分かるよな?と言うように強い視線を向けられた。

確かにヴィクトリア様は人気が高く、街を歩けば囲まれる。それを護衛するのだから強い者でなければならないのだ。

そして騎士の中にはヴィクトリア様を手に入れたいと思う者もいる。そういうことを心配しているのだろう。




「私からもお願いします。どうか私の騎士になってください…。」



うるうるとした目で近寄られれば、俺は後ずさった。


「っ。……分かりました。
ヴィクトリア様を助ける。
それ以外はいつものように騎士隊にいて宜しいのですよね?」

諦めるしかないと思って俺は大きなため息をついた。

「ありがとうございます!」
「っ!」
そう言ってヴィクトリア様に手を握られれば、俺は息が止まるようだった。

柔らかい彼女の手が俺の手を包む。
俺はその手を振り解くことも出来ずにただそれを見ているしかなかった。


俺は…



俺はヴィクトリア様に恋をしている。



だから専属騎士にはなりたくなかったのだ。




執務室にヴィクトリア様がいなければ、俺は彼女の騎士になることはなかっただろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...