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リリベルの解呪

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今日はグリニエルに帰国する日。その前にまた大きな湖を見たいとお願いして馬車で向かう。

馬車にはエルとフィリネル、殿下と私、更に護衛のリオネルと御者が乗っていた。

本来ならもっと沢山の護衛が必要であるが、湖に人がいない早朝に行くことにして護衛を減らしたのだ。

「まあ、綺麗ね。」
キラキラと湖が光っている。
誰もいない湖はとても静かだった。

「リリィ。足だけでも入ってみましょう?」
フィリネルの提案に私はすぐに頷いた。

パチャパチャと足を濡らす。
「早朝でなければ水着になれたのだけれど。」
秋の始めという事で、朝は少し肌寒いのだ。

「仕方ないわよ。私も流石に水着になれる自信もないし、暖かくなったらまた来るわ。」その時に一緒にまた湖を楽しみましょう?と提案した。

「そうね。まだ湖はではないから、次の機会に取っておくわ。」にっこりと笑うフィリネルが可愛い。


私の側にリオネルを置き、エルとレオンは何やら話をしていた。真剣な表情を見る限り、外交の話かなと思った。

私とフィリネルは湖の周りを少し歩いてみる。すると急に岩陰から声が聞こえた。

「珍しい魔力をお持ちだ。」
私は驚いて魔力を漏らす。すぐに気を引き締めたが、当たったリオネルとフィリネルは少し苦しそうにしていた。

「まだコントロールは難しいようですね。」フィリネルを気遣いつつ、声をした方を見た。

深緑色の髪に黄色い目をした若い男性が立っている。
「あなたは?」近付いてくるその男を睨みながら私は聞いた。

「私は魔女です。」そう言ってフィリネルに手をかざすと魔力が晴れていくのが分かる。

すると息を整えたフィリネルが口を開いた。
「リリィ。彼はイライジャ。どんな呪いも魔法も解呪をする魔女ひとなの。」

フィリネルの言葉を聞いているうちに、次はリオネルに当たった私の魔力が晴れた。

「クッ…」
リオネルはイライジャを攻撃せずに様子を伺っている。

「私はイライジャ。王族の依頼を受けたものです。ここの湖では毎年必ず人が無くなる。そういう呪いがかけられていました。それを解呪するためにここにいたのです。」

疑いの目を向けるのはリオネルだ。

「きっと本当よ。魔女は嘘をつかないもの。」

私がそう言うとイライジャは驚いていた。
「よく知っていますね。私は魔女だ。だから嘘は許されない。」


「イライジャは解呪の腕は確かだけれど、解呪出来ない魔女なの。」
フィリネルが彼のことを教えてくれる。

「おっしゃる通りです。私は解呪しか出来ない。生計を立てるのも難しいのです。」
そう言ってイライジャは嘘泣きをしていた。

するとそこにレオンが来た。
「リリィっ!」
ぎゅっと抱きしめられて私はホッとした。

レオンを見てイライジャが口を開いた。
「わぁ、中和の存在か。これは珍しい。」

誰だと言いたげなレオンに声をかけたのはエルだった。

「彼はイライジャ。私の依頼でここにいるのだ。」

エルは真剣な顔をしたまま訳を話してくれた。

「ここの湖では毎年必ず人が亡くなる。だからイライジャに見てもらうことにしたんだ。予想は的中。湖には強力な呪いがかけられていて、彼解けないのだと知った。
彼は私の命でここの解呪をしていただけだろう。彼は自身が受けた呪いのせいで解呪しか出来ないから、戦いは向いていないんだ。」

敵意はないことを私たちに教えてくれた。解呪しか出来ない呪いなのに自分の呪いは解呪できない厄介な呪いのようだ。


「だが、先程の魔力はなんだ?」

エルの言葉に私は隠しておけないと思って自分の魔力について話した。





「自分でコントロールできない膨大な魔力か。」口を開いたエルにイライジャは続けた。

「今は中和途中だ。そこの王太子様がいれば彼女の魔力は次第に安定するから、あまり深刻にならなくていい。」

イライジャの言葉にエルは不思議に思いつつも安心していた。

「なぜリリィに声をかけた?」

「簡単なことです。魔力を抑えるのに私を雇わないかと思っただけなのです。」
イライジャは確かに先程、生計を立てるのが難しいと言っていた。解呪しか出来ないのだから、依頼があまり無いのだろう。

「私がいればリリィの魔力は中和されるのだろう?」

「ええ。中和しきれれば混ざりますが、まだまだようなので。」
私は何が足りていないのか分かったため口を噤んだ。

「もし、私に何か手伝えるようであれば依頼して下さい。エルの知り合いという事で少しはお安くしますから。」

にっこりと笑うイライジャはまだ信用できないが、嘘はつかないと分かっているため、事実しか言っていないのだと分かる。

「何かあればその時に頼むことにしよう。」
そう言ってレオンは身構えるのをやめた。

「それじゃ、俺はここで失礼するよ。それと、湖の解呪は成功だ。溺れない限りは人は死なない。」
そう言い残してイライジャは去っていった。


私達はその後、安全になったという湖でボートに乗らせて貰った。

グリニエルの王太子とサウスユークの皇子皇女が乗るボートは周りから見たら不思議なものだと思うが、今は人がいない為、人目を気にすることがなかった。

「グリニエルにはこれほど大きい湖がないので新鮮ですわ。」私はキョロキョロと辺りを見渡す。

「リリィ。危ないからもう少し私に寄ってくれ。」これ以上寄れないというのにもっともっとと言っているレオンを無視する。

「2人は本当に仲が良いのだな。」
エルが言うと当たり前だとレオンが食い気味に被せた。

「リリィは私の全てだ。リリィのいない人生など考えられない。」
そう言って私の手を握るのだ。私は恥ずかしさと嬉しさから、レオンに微笑む。

「ああ、私も早くリオネル様と手と手を取り合ってラブラブしたいですわ。」

フィリネルのその言葉にリオネルのボートを漕ぐ手が止まった。


「エル。私たちの婚約式にはぜひ参加して欲しい。」

「ああ、当たり前だ。楽しみにしているよ。」ニコリと笑うエルを見たレオンは嬉しそうだ。

「さて、そろそろ王宮に戻ろうか。」

ボートから降り、馬車で王宮へと戻った。

持ってきていたオフショルダーのドレスを着て、帰り支度をする。サウスユークではこのオフショルダーのドレスでさえ暑いのだなと感じるが、今からグリニエルに戻るので、それまでは暑さを耐えようと思う。

コンコンと扉をノックされ、そこにはフィリネルがいた。お土産よ。と渡された袋は中身が見えない。

「この中には何が?」
開けようとしたところをフィリネルに止められた。

「変なものではないの。きっと王太子殿下との仲を深めるのにいいかと思って。でも、グリニエルに戻った後、1人の時に開けて欲しいの。」

そう言うフィリネルに、分かったわ、ありがとうとお礼を言って別れた。

出発の準備が整い、サウスユークに転送された時と同じ広間へと通される。

そして準備が整ったようで転送が始まった。

私は光の中、寂しい気持ちになりながらフィリネルに手を振る。



スゥッと目を閉じ、次に開けると、目の前には見慣れた顔ぶれがあった。

「お帰りなさいませ。王太子殿下。王太子妃様。」

聴き慣れた声にホッとして、笑顔でただいま戻りましたと答えた。

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