地味教師とヤンキーくんのチグハグな2人の逢瀬

もちもちもちお

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逆だと思っていた

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自分でもヘタレな人種だと自覚はある僕であるのだが、今回ばかりは違ったらしい。脚の間に座り込んでいた浅見くんを申し訳なさを感じながらグイッと前へ押し出し、素早く扉へと駆け出した。
脚の速さには自身は全くないが、こういう時は話が違うらしい。

ガラッ

勢いよく古びた扉を力任せに開いて、廊下へと飛び出す。
元マンモス校であるからか、現時点においてここの校舎の造りの欠点は…無駄に廊下が長いことだ。
上下階に引っ込む為、必要な階段に辿り着くまでには距離があるという事。要は校舎の端にしか階段はない。中央部分にも取り付けるべきだと思うが、設計者はそこまで考えていなかったらしい。今の僕には助かる設計だと思う。

だから、未だ目の前で駆け抜ける盗み見の人物が誰なのか把握出来たという事である。


「ひ、姫路先生ーー!!!待ってくださぁぁい!!」


ここ数年確かに自宅にて筋トレはしていたが、こうした走り込みは全くしたことが無い。瞬発力はあるかもだが、走るとなると別次元な訳で。今だけこの身体に纏わりつくカーディガンがうざったくて仕方がない。

学生の頃に比べると明らかに自分の運動量は減ったと思う。それが今回のこの廊下ダッシュに置いて露見したわけだ。
だが、それは僕だけではなかったらしい。目の前でダダダ!!と走り抜けていた彼女も同様のようで。段々と両肩で息をしているのが見て取れた。僕と一緒なのだろう。

「……はぁ、はぁ。ひ、ひひ姫路先生……、あのっ……。」
「はぁ…はぁ………………こ、こちらこそ、じゃ、邪魔をしてしまい、申し訳ございません。高城先生。」
「……………………………………はい?」

以前から思っていた事がある。
たまに……たまに姫路先生と話が噛み合わないことがある、と。



「えーーーっと?」
「以前から何となくそうなのかなぁとは思っていたんですよ。えぇ。お二人が特別な空気感でいるということは。」
「ふふん!俺は高城と仲がいーからな。」

あと数センチで姫路先生を取り逃してしまいそうな所を彼女のか細い腕を掴み、阻止することが出来た。
そして現在。
浅見くんを残した数学準備室に戻った。そのまま三人で床に輪になって腰掛け、会話を試みている所である。厳密に言えば、戻ってきてからずっと亜麻色の髪の彼が僕の腕に張り付いているので、完全なる輪ではないか。姫路先生はこの状態を見てより眉間の皺の深度を下げた為に、僕としてはビビり散らかしている。

現状の深刻さを浅見くんはあまり把握出来ていないらしい。通常運転である。ふんす!とドヤ顔で僕との仲の良さをアピールしているのだが…確かにその様子は可愛いけども。…今じゃ、今じゃないんだ…!

「ちょ、ちょっと浅見くんはしーっしてて!」
「んむっ。ん、しーっ?」
「そう、しーっ。」
「んぐぁっっ…!!!」
「「?!?!」」

何だか身に覚えのある唸り声が室内に響いた。発生源は探そうとしなくても明らかで。まさかの姫路先生からである。服の胸元を細く美しい指先が鷲掴んでおり、床に崩れ落ちていた。

「ひ、姫路……先生?」
「すみません、動悸が。」
「……はぁ。」
「姫ちゃん大丈夫か?」
「………………ってたのに。」
「「??」」

ボソッと彼女が呟いていた。なんだろうと思い浅見くんを貼り付けながらそっと近づく。

「…逆カプだと思っていたのに。」
「?!」
「?」

ぎゃ、逆カプ…とな。
これはあれだ、僕にも馴染みのある文言だ。主に…同人界隈のやつじゃなかろうか。
そうか。
そういう事か。
話が噛み合わないとか思っていたけれども、この方……。
もしや。

「姫路先生は……腐女子の方だったりしますか?」
「………………左様です。」
「さ、左様です……か。」

やっぱり。
ここ数週間彼女の元で日々生活をしていたが、教師業務に関しては学ぶ事も多く当然頼りにさせて頂いていた。頭の回転が早く、僕もそれになりたいと尊敬していたくらいである。
けれど反対に、時たまに話が噛み合わない部分があった。自分の理解不足なのかと頭を悩ませることもあったが…。
そういう事か。

どうやら、彼女は僕と浅見くんの仲を楽しんでいたらしい。

「私の日々の趣味はネットサーフィンしながらBL作品を読み漁ることです。ですがあくまでも趣味の範囲。……だったのですが、高城先生がこの学校に来てから事態は変化してしまいまして。」
「………そ、それは一体。」
「…………………日を経つ毎に妙に浅見くんが可愛らしくなっていると感じ始めてから、観察するようになっていったのです。」
「俺ぇ?」
「そう。」

完全に真剣な顔をして自身の趣味について話し出したぞこの人…。
だけど、聞かないという選択肢は無さそうである。話の内容から浅見くんもワクワクしてるし。

「初めはよくあるヤンキーである浅見×ヘタレ高城ルートなのかと思っていたんですよ。浅見くんがお気に入りの教師を見つける事ができて、好きな人の為に自分の素行を良くしよう…みたいな。」
「へ、ヘタレ………。」
「でも昼間の…あの押し倒しながらのちゅーですよ。まさか…まさか高城先生が攻めだっただなんて!?しかも先程浅見くんは脚の間にちょこんって座ってたし…はぁぁぁ?!浅高かと思ったら高浅ってどー言うことなんですか?!ありがとうございます!!!」
「……………姫ちゃん、こわいんだけど…。」
「…か、勝手にカップリング呼びしないでくださぁい…。」
「すみません、熱量が抑えきれなくて。つまり、浅見くんが可愛らしくなったのは高城先生にふにゃふにゃになるまで愛でられていたから…という訳だったんですね。最高です、次はどんなシチュエーションしますか。」
「「……。」」

まさか生きていて誰かからカップリング扱いをされる日が来るとは思わなかった。しかも普段クールな姫路先生が頬を赤らめて最高級の笑顔で話をしてくれる所を拝めるとは…。内容がこれでなければ最高だったなぁと思う。
だとしても、だ。

「…………私は、お二人の行く末を応援しています。」
「え゛っ。」
「行く末?」
「もっと、もーーっと高城先生と仲良くなりたいでしょ?浅見くん。」
「おう!」
「んぎゃわ………!ごほんっ。そう、私はそのお手伝いを全力でします。」
「……僕が言える立場では決して無いんですが…良いんですかこれって。」
「いーんです!!!私が!!みたい!!!!!」

…良いらしいです。
ほんと、どうしてこうなった。
いや良かったけども。浅見くんとこれからも仲良く出来るのであれば。
人生何が起きるか分からないな…ちょっとだけ現実逃避をしてしまった僕であった。
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