地味教師とヤンキーくんのチグハグな2人の逢瀬

もちもちもちお

文字の大きさ
82 / 116

案外すぐ近くにいるもんで

しおりを挟む
昨日はあの後そのまま二人で布団の中に吸い込まれてしまったのだった。
朝になり僕の目覚まし時計の音で目が覚め、ちょっとだけ焦ってしまったのである。予定なら夜の内に絢斗くんをそっと彼の部屋に戻すつもりだったのだが…。予想以上に長時間の移動が身体に蓄積していたのだろう。今の時間になるまで一度も目が覚めることはなかったのである。

朝食の時間になった時に僕の部屋から絢斗くんが出てくるのは他のクラスの生徒たちに見られたらやばい。よってまだ朝の支度をしているであろう今の時間帯にこっそりと彼を自分の班の部屋に戻るようにさせたのだった。特に廊下から騒ぎの声もしないし、上手く到着したらしい。一安心だ。



朝食は昨日の夕食の時と同じホールである。恐らくは藤本くん達もいる。夕飯は時間をずらせたが、流石に朝食は被ってしまうらしい。よって室内は昨日よりも人口密度が高い。
相変わらず向こうは私語もなく淡々と食事をしている。対して僕達の学校側は何が美味しそうだとか、お裾分けするとか談笑しながら朝食を楽しんでいた。昨日あれだけはしゃいでいたというのに、朝から元気だな。良いことだ。

今日は好きな場所に座り、食事をすることになっている。ホール自体は大きな窓に囲われたデザインとなっていて、朝日が室内を照らしていた。沖縄ということもあり、ここは海に比較的近い立地。少し視線を向けてみればキラキラとした海面を眺める事が出来る。
なるべくあの学校側の生徒達を視界に入れたくない…。そう判断し、窓際のカウンター席に腰を下ろすことにしたのだった。この海を眺めながら精神を安定させようかな。そう思ったのである。

「ゆぅし、へーき?」
「絢斗くん。……まぁ、うん。今日だけだしねここは。」

食事は昨日同様バイキング方式。
自分で食べたいだけの分をトレーに乗せて、隣に彼が腰を下ろしてきたのだった。やはり若さゆえなのか、量が結構多い。デザートまで持ってきたらしい。健康的だ。
椅子を僕の方に寄せて、肩を触れ合わせてきた。それだけなのに、安心してしまう。

「今日明日の旅館って他の学校いたりするのか?」
「………いるけど、うん。」
「ない、よな?」
「……わかんない。」

そんな不安な話をしていた。
確かに、彼の言う事は理解できる。僕としても若干気になっている部分だからだ。ここまでの人数を宿泊させることが出来る旅館だなんて数が限られているし。選択肢は必然的に狭まる。だから、今一緒にいる学校と二泊三日を共に過ごす可能性は大いにあるのだ。
…正直な話、それだけは避けたい。
けど…………どうなんだろうか。僕の都合で変えることなんて無理だしね。そうなったならば、諦めるしか無いけど。

「……っ。」
「ゆぅし?」
「………………いや。」

そんなマイナスなことを考えていたら、視線を感じた。…振り返りたくはなかったが、ゆっくりと首を動かしてしまったのである。

「…………ふじ、もとくん。」
「……。」

彼の、端整な顔が真っ直ぐに此方に向けられていたのである。何時からか分からないが、じっと見られていたらしい。周りに生徒達に囲まれているにも拘わらず、視線を逸らすことは無い。
何処か仄暗い眼差しだ。あの時の生気がなかった。
何か、アクションをした方が良いのか。
声をかけるべきなのか。
…どうしたらいいのだ。そもそも振り返るなよ僕。本当に僕は宜しくない。

「……あいつ見ないで、俺を見てろ。」
「っわ……ふふっ、うん。」

ぐるぐると思考を巡らせていたら、突如強くカーディガンを引っ張られてしまったのである。
引っ張られた先…視線を絢斗くんに戻させられる。ちょっとだけムッとしたお顔。
そうだ。
あの時の記憶をこれ以上思い出す必要はないのだ。藤本くんの事も、同様である。
昨晩絢斗くんとも再度彼についての話をした。因縁の相手とかでは無いが、まだ引っかかりが残っている節があると。素直にそう伝えてみれば…。
『どんなに優志が記憶に飲み込まれても、俺が何度でも引き上げる、任せろ。』と自信満々に言われてしまったのである。
もう何度目だ、彼に惚れ直したのは。これ程までに僕の愛するべき人が彼でよかったと思った事は無い。彼のその一言がある限り、自分は頑張れる。絢斗くんの存在そのものが僕の元気の源になるのだ。

「ありがと、絢斗くん。」
「ふふん、どーいたしまして。」



本日は水族館に行った後自由行動である。宿泊先も今朝方までお世話になっていた海辺のホテルから、沖縄中心街付近の場所へ移動となる。全体的にアットホームな空気感の施設であり、個人的には此方の方が僕は好みだなと思えてしまった。

荷降ろしも済ませ、三クラス全員で有名所である水族館へ。
館内では絢斗くん達のグループと先生方と共に回りながら堪能していた。今までの人生でそこまで水族館はそうそう来る事が出来なかったから、この歳だというのに些か心が躍ってしまう。隣に一緒に眺めていた絢斗くんも瞳を輝かせており、楽しそうだ。写真を撮るスマホの手がまるで止まらない。仄暗い空間ではあるが、水の青色の光が彼に降り注いでおり…なんだか幻想的だ。稲穂色の髪の毛も相まって、ほんと、妖精さんみたい。可愛い。水槽の中じゃなくて彼にばかり視線が向いてしまう。

「……綺麗だね。」
「そうだなぁ。お魚が全部キラキラしてる。」
「そう、じゃなくて。」
「ん?」
「…………絢斗くんが、綺麗だって思ってて。」
「……………ぁぅ………そぉ?」
「うん、綺麗。」
「んへへ……うれし。」

ぎゅっ、と照れながら僕の腕に自身の腕を絡めてそう呟いていた。どうしましょう、沖縄に来てもこんなにも可愛いとか聞いてない。周りの田所くん達と先生方から揶揄うような声を掛けられてるけど、今それどころじゃないんで。このくふくふと微笑んでいる絢斗くんに集中させて欲しい。



……やはり持久力が無い僕だ。
ここの水族館の名物である大水槽のブースにあるベンチに腰掛けて、身体を休めている状況である。平日だというのに人もだいぶ多い。人酔いもあるのだろうな。少しだけ疲れてしまった。
水槽の中には大きなサメ等の大きな魚類から小さなものがゆったりと泳いでおり、少し離れたこの場所から見ていても飽きない。名物と銘打っているだけあって迫力がある。他のブースよりも観覧客が多い。

「…………久しぶり、高城。」
「……………………やっぱり、被ってたんだね。」

案外早い再会をしてしまった。
みんなは水槽周辺で屯しており、周囲には誰もいない。
………そうか、これを待っていたのか。 
着けていたのかと察する。
隣に彼が腰掛けたらしく、ギシッとベンチがしなる音がした。あの時も、よくこうして並んで座っていたものだ。

「新しい学校では、随分と生徒と仲良くやっているんだな。朝食も楽しそうだったし…さっきなんか腕まで組んでたし。」
「……まぁね。藤本くんは?楽しくないの?」

視線は合わせずに、ただただ漂う魚達に瞳は向けたままだ。身体が若干強ばるのがわかった。声色的には怒ったようなものではないし、何か文句を言われるような雰囲気でもなかった。

「…………………楽しいと、そう思うか?」
「藤本くんはほら、人付き合い上手だったでしょ。」
「嫌味か?」
「違うよ。当時藤本くんを見ててそう思ってたから。」
「………………高城が居なくなって………楽しく、なくなったよ。」
「…………ぇ。」

ベンチに置いていた手のひらに、指の間に自分以外の温度が重ねられたのである。
その事に、思わず隣の彼に視線を向けてしまった。

「………は?」
「………………つまんない。つまんないんだよ、高城。」
「つまん……ない?」
「いや、違うか。寂しい。戻ってきてよ…………高城。」
「………………はぁ?」

ぎゅっと、両手で僕の手を包まれ指を絡められてしまった。
思ったよりも距離を詰められていて、もう少して顔同士がぶつかってしまいそうな…そんな近さだった。
こんなにも近くに見た彼の顔は…瞳を潤ませて一筋の涙が零れていたのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのユリシーズが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 ユリシーズの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

処理中です...