地味教師とヤンキーくんのチグハグな2人の逢瀬

もちもちもちお

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ピンチヒッター

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搭乗時間一時間前に無事空港に到着する事が出来たのだった。
荷物も航空会社側に預けており、後はアナウンスを待つだけである。
その前に少し催したので他の先生方に断りトイレに向かう事にした。
案外トイレも空いており、すぐに戻ることができるな。なんなら空港内のお土産屋もちょっと見てみようかな。そんな呑気な気分でお手洗いを出てみたら…。

「昨日ぶりだな、高城。」
「ふ、藤本くん……!」

トイレ近くのお土産店の前に、ニコニコとした藤本くんが立っていたのだった。
え、え…どうして?
思考がパッと止まってしまった。
その隙を狙い、ぐっと腕を掴まれる。しかも右腕。捻り上げるように腕を上げられ、じっ…ととある箇所を瞬きもせず、穴が空くレベルで注視していた。

「……ねぇ、これ何?」
「あ、アクセサリーだよ…。」

そう、薬指である。
昨日は付けていなかったから、目に入ってしまったのだろう。瞬時にそれを見つけられるあたり…やはりちょっとヤバい奴だ。

「なぁんで薬指?別の指でも良くないか?」
「どこに何をつけようと僕の勝手だろう…。」
「それは、そうだけど。薬指は無いでしょ。………やっぱり恋人出来たんだ?だから前よりも格好良くなってんだろ。」
「…………だったら、なに。それこそ関係ないでしょ。」
「………………………ムカつく。」

ギリっと手首をより強く握られた。
思わず顔を顰めてしまう。よくよく見ると爪の先が皮膚にくい込んでおり、その箇所の肌が赤くなっていた。あぁ…もう間違いなく後々他の人達から色々と追及されてしまうかもな。特に絢斗くん。

「ッいたっ…!」
「ねぇ、別れて。俺と一緒にいよーよ。何回も言わせないで。高城は、俺と一緒に……っだ!!!」
「え。」

ドンッ!!!
そんな鈍い音が目の前の藤本くんから聞こえてきたのだった。
彼は音同時に顔を苦悶の表情に変え、その場に崩れ落ちたのである。

「高城せんせぇーーー♡♡やぁっとつかまえた♡」
「か、金田……さん。」

可愛らしい鈴のような声が立ち塞がっていた彼を退けたことにより、陽の光と共に僕の元に降り注いだのである。
百点満点の笑顔で、金田さんが佇んでいた。
…どうやら手持ちの黒のフリル満載の鞄を藤本くんに向けて振り下ろしたらしい。
この子は相変わらず鞄の扱いが凄まじいな。今回に至っては助かったけども。
今ので掴まれていた手は離され、彼女によって彼から距離を取ることができた。
代わりに腕を絡めてきたのはこの際無視である。

「もぉー高城先生モテ過ぎです!他の学校の先生からもちょっかいかけられるとか論外なんですけど!」
「いや、そういう…う、うーーん…どうなんだろうね。」

そこで床に崩れていた藤本くんがヨロヨロとしながらも起き上がったのだった。
拙いな先程は金田さんが視界に入っていなかったから奇襲を仕掛けることが出来たが、次何かされたら対応が難しいかもしれない。だとしても、彼女は関係ないし。何とか…僕がするしかないか。そんな嫌な思考ばかりが巡る。

「まさか女の子にこんな事されるとは思わなかった。…でも高城の反応からしてその指輪の恋人っていうのはその子じゃないな?」
「………そうやって人を品定めするのやめてくれるかな。不快だ。」
「ふふっ、怖いなぁ。」

お互いに視線を探り合い、空気を読み合う。こんな事、今までしたことが無い。喧嘩なんて出来ないぞ僕は。

『ーーー、成田空港行きのお客様…搭乗時間となりましたーーー。』

…アナウンスが流れる。
自分達が搭乗する飛行機が搭乗時間になったらしい。
これはチャンスだ!!

「…………………仕方ないなぁ。まぁ、良いよ。高城の学校もわかったし。向こうに戻ったら会いに行くから。」

色々と言いたいことはあるが…この場は戦略的撤退をすることに決めた。



そのまま彼の気が変わらないうちに金田さんの手を引き、素早くその場から離脱したのである。
他の生徒がいるところに向かってみると、僕と彼女というまさかの組み合わせに驚いている様子であった。
絢斗くんも目を見開いてこちらに近付いてきている。
…だが、それを宥め金田さんに向き合う。

「金田さん。」
「なんですか高城先生♡」
「…凄い、助かった。ありがとね。」
「!!んへへぇ…先生の役に立てて、るみ、嬉しいです!♡」

純粋に、喜んでいるらしい。こうしていると普通に良い子だなって改めて思う。直ぐに何でも鞄をぶつけて解決する癖は何とかするべきだとは思うが。今回は…まぁ、良いでしょう。命の恩人だしね。
そう思い、彼女の頭をポンポンと撫でさせてもらったのだった。擽ったそうにしている。

「あの……こ、これ……受け取って貰えますかぁ?渡すタイミングが無くて…。」
「ん?………可愛いキーホルダーだ。」
「はい!私とお揃い、なんです。頑張って選んでみました…。」

差し出された物…自分が付けるには余りにもメルヘンでフリルたっぷりな大きめなクマのキーホルダーであった。
金田さんの鞄にはもう付けてあり、可愛らしく鎮座している。手のひらサイズで、最早キーホルダーと呼べるのか分からない。
渡してくれている金田さんは…珍しくお顔真っ赤にさせていて。一生懸命選んでくれたのだという気持ちが伝わってきた。
蔑ろにするだなんて…無理だよ。
そのぬいぐるみサイズのキーホルダーを受け取り、包装を開けて自分が背負っているリュックに装着した。

「どうかな、似合ってる?」
「ーーーー!!!!はいっ!!とっても似合ってます!!♡♡」



予定通りに飛行機は那覇空港を飛び立つ事が出来たのだった。あの場所に彼…藤本くんがいたということは、もしかしなくとも同じ機内にいるのかというかなり恐怖心があるのだが…。流石にこの場で騒ぎを起こす様なことはしないはずだ。万が一何かあれば他の先生方を呼んで加勢してもらおう…。そんな事を考えながら隣に座る彼の指をにぎにぎとしていたのだった。

帰りの飛行機でも座席は二人席で、隣にはすっっごくムスッとしている絢斗くんが座っていた。理由は大方察しがつく。

「……金田と、何かあったのかよぉ。」
「……………金田さんだけじゃなかった。藤本くんに捕まっちゃってさ。」
「はぁ?!」
「し、しぃーー!!」

事の顛末を伝える事にした。
隠してもしょうがないし、彼に対して隠す事でもないしね。
話を終えると…僕よりも苦しそうな表情をしながら右腕を擦ってくれたのである。この子がそんなお顔をする必要なんて…無いんだけどなぁ。

「…なるほど。そういうことがあの短時間であったのか。ムカつくけど…今回の金田は功労者じゃん。」
「おぉ、良く難しい言葉知ってるね。」
「ふふん、お勉強はしてるからな。…じゃなくて、結構…赤くなってんな。後で田中先生に診てもらった方がいーぞ。」
「そうするよ。…だからさ、あの子には強く当たらないでね?」
「……わかってる。」
「いーこ。ちょっとだけ…ごめんね。」
「ん?…………むぅっ♡」

なるべく音を立てないように、一つ口づけをしたのだった。
これは、今回頑張った自分へのご褒美である。
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