水無瀬くんと御子柴くん

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二年生三学期 編

10−2:チョコレート・カプリチオ 2

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 俺は自席に着いて、半ば呆れたように嘆息した。

 目の前の席には——机の上や中、果ては椅子の上にまで、大小形も色も様々な箱が山となって積まれている。

 誰も彼もがどこか浮き足だっている中、チョコの山が今にも崩れそうなこと以外、俺の心を掻き乱すものはなかった。今日一日、こんなフィクションみたいな光景をずっと見続けなければならないのだろうかと思うと、自然と冷静にもなろうというものだ。

 俺と高牧が教室に着いてから数十分経っても、御子柴は一向にやってこなかった。昇降口から二階へ続く階段の短い間、手渡しを狙う女子に捕まっているのかもしれない。

 早く来いよ、と思う。だって教室の廊下にも十人は下らないファン達が待ち構えているのだから。

「嘘みたいだろ。これ、現実なんだぜ……」

 やたらニヒルな口調で高牧が呟く。

 俺は席を立ち上がり、乱雑に置かれたチョコの山を整えてやった。勝手に触るのもどうかと思ったが、ぐらぐらしている天辺の箱を見るとこっちまで不安定になる。

「……この中で、何人ぐらい本気なんだろうな」

 ふと呟いた言葉を、高牧の耳に拾われた。

「さぁ。アイドル扱いとか記念受験とかも多いんじゃねー? どっちにしろ御子柴にはすみやかに禿げて欲しい」

「不用意なこと言うなよ。多分、お前が先にやられるぞ」

 言うが早いか、廊下にさざめくような声が上がった。下駄箱に入っていた倍の量のチョコを抱えた御子柴が、入り待ちの女子達に囲まれているところだった。

 あのチョコの数だけバックがついているのだ。御子柴に牙を剥いたところで敵うはずがない。高牧は明後日の方を向いて、話題の矛先を変えた。

「今年の一番は誰かねえ。我らが御子柴か、三組の溝久保か、五組の長谷あたりも結構いいセン行くと思うぜ。水無瀬、なんか賭ける?」

 虚しくないのか、お前は……。そう返そうとしたが、高牧の笑顔があまりにも寂しそうなので、俺は言葉を呑み込んだ。
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