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第三章
パッション(3)
しおりを挟む「彩さんについては、ずっと前から両親に話してるからまったく問題ないよ」
「それ、本当ですか?」
彩が疑ってしまうのは仕方がない。
だってほら、よくあるじゃない。どこの馬の骨とも知れない輩め! みたいなどろどろした展開。裏で手切れ金なんかを渡して、二度と息子に近づかないでちょうだいっていうあれ。ちょっと、最近見た韓国ドラマの影響を受け過ぎかもしれないけど……。
「嘘じゃない。本当だよ」
「じゃあ、お見合いとかは? 先生のご実家は、由緒ある家柄でしたよね?」
「ないない。彩さん、由緒もなにも廃藩からどれだけたったと思ってるの。今や、仕える藩主もいないのに」
「でも……」
「いい機会だから打ち明けるけど、大学二年の時から好きな人がいると言い続けて、一向に彼女を紹介しないからさ。家族みんな、僕がモテなさ過ぎてイマジナリー・ガールフレンドと疑似恋愛してるんじゃないかと疑って心配してるみたいなんだよね。だから、僕としては一刻も早く彩さんを両親に紹介したいところ」
彩の手が、フォークにパスタを巻きつけたまま停止する。
「でも、まずは彩さんの気持ちが大事だし、僕の両親より彩さんのご両親のほうが先だと思うから」
にこやかな表情とは裏腹に、声から真剣な気持ちが伝わってくる。鼻の奥がつんと痛くなって、また涙が出そうになった。
「先生は、いつもそんなふうに考えてくださってたんですね」
「うん」
「ありがとうございます」
ぽたっと涙が落ちて、彩は慌てて仁寿のシャツの袖で目尻をおさえる。その時、シャツの胸元に筆記体でpassionとプリントされているのに気がついて、彩の涙腺と腹筋はあっけなく崩壊してしまった。
その日は、出張に必要なものを買いそろえるために、夕方から二人でショッピングモールへ行った。街はクリスマスに向けて日に日に冬っぽく装飾され、どこもプレゼント商戦が始まっている。
ショッピングモールを歩く途中で、彩が持っている青いハンドバッグの話になって、彩はそれを買った経緯を仁寿に話した。その他にも、ワインのおいしいレストランで夜ご飯を食べながら、仕事の話や世間話など二人の話題は尽きない。
「それじゃ、彩さん。次は土曜日、病院で会おうね」
「はい。土曜日は先生たちの体制が悪いので、午前中は医局が空っぽになると思います。だから、病院に来るのはお昼近くでいいですよ。篠田先生にもそう伝えておきますね」
「うん、分かった」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
アパートの玄関先まで送ってくれた仁寿を見送って、玄関の鍵をかける。左手に残る仁寿のぬくもり。ショッピングモールで買い物をしている時も道を歩いている時も、ずっと握っていてくれたから、まだ手を繋いでいるような感じがする。
――先生は、待ってくれている。わたしが、いろいろ時間がかかってしまうかもしれないと言ったから。院外での研修で、自分だって毎日大変なのに。
仁寿の顔を思い浮かべると、胸がきゅっと締めつけられるように切ない。
――先生の思いを知った。わたしは、どうするべきだろう。
彩は、お風呂と洗濯を済ませると、仁寿にメッセージを送った。律儀にベッドの上で正座をして、言葉を選びながら真剣にスマートフォンの画面をタップする。
『今日はありがとうございました。
もうすぐ誕生日ですね。なにかほしいものはありますか?』
今週の土曜日、彩は仁寿と昼過ぎの新幹線で出張先へ向かう予定だ。日曜日が仁寿の誕生日だから、その時にプレゼントを渡そうと思いついたのだ。すぐに既読がついて、返事がきた。
『考えておくね』
メッセージと一緒に送られてきた真っ赤なハートが、仁寿のパッションを表現するように画面いっぱいにはじける。
仁寿の喜んでくれている顔が見えるようで、胸がとくとくと高鳴る。その夜、彩は幸せな気持ちで眠りについたのだった。
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