年下研修医の極甘蜜愛

虹色すかい

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第四章

誕生日プレゼント(2)

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 どうぞ、と仁寿が部屋の中にいざなう。部屋は、パノラマのように海を眺望できる大きな窓があるリビングルームと、同じようにオーシャンビューを満喫できるベッドルームに分かれていた。仁寿が、煌々としているリビングルームの明かりを消して、淡い間接照明だけをつける。すると、パノラマのような窓が、映画のスクリーンのように次々に打ちあがる花火を映した。


「わぁ! 素晴らしい眺めですね」


 彩は、花火の閃光に誘われるようにアンティーク調のソファーに腰かけて、窓の外に目を向ける。少し上を向いて花火を眺め、その下では花火の光を浴びて揺れる水面がキラキラと輝いていた。ため息がでるほど美しくて優雅だ。


「彩さん、コート」

「あ、すみません。お願いします」


 先にコートを脱いだ仁寿が、彩のコートを預かってクローゼットのハンガーにかける。部屋は適度に暖房が効いていて、ノースリーブのカクテルドレスでちょうどいい室温だ。


「隣、いい?」


 仁寿が左側に来たので、彩は右に寄って座るスペースを空けた。


「なにか飲む?」

「いえ、今はお腹も胸もいっぱいで」

「そっか」


 一度ソファーを離れて、仁寿が備えつけのワインセラーからシャンパンを選び、シャンパングラスを二つテーブルに置く。それまで花火に夢中だった彩の目が、一瞬でシャンパンに釘づけになった。

 間接照明の淡い明かりに照らされて、透明な瓶の中ではちみつ色に輝くそれは、アンリ・ジローのブラン・ド・ブラン。シャルドネのヴィンテージだ。彩の左隣に座った仁寿が、花火のとどろきよりも豪快な音を立てて栓を飛ばす。


「飲みたくなった?」

「はい!」

「いいね、その嬉しそうな顔。ウイスキーもあるけど、まずは誕生日のお祝いらしくシャンパンで乾杯しよう」

「そうですね」

 
 花火そっちのけでシャンパンに目を輝かせる彩は、大好きなおやつをもらって大喜びする猫のよう。シャンパンをそそいだグラスを彩に手渡して、仁寿が「乾杯」とグラスを合わせた。グラスを軽く回して果実の香りをたっぷり味わい、少し口に含む。それだけで、口の中に独特の甘さが広がって涙が出るほどおいしい。


「先生の誕生日なのに、なんだかすみません。プレゼントも用意せずに、かえってわたしのほうがいい思いをしているようで……」

「そんなことないよ。僕は今、人生で一番幸せな誕生日を過ごしているから」


 彩は、左の頬に視線を感じながら、恥ずかしげにシャンパンを飲んだ。映画を鑑賞するように花火を眺め、二人の間にしばらくの沈黙が流れる。日常を、ここが出張先だということすら忘れてしまうような、ゆったりとした時間が過ぎていく。気まずさのない、まるでぬるま湯に浸かったように穏やかな静けさがとても心地いい。


「彩さん」


 仁寿が、空になったシャンパングラスをテーブルに置いて沈黙を破る。ネクタイの結び目を緩める仕草が妙に色っぽくて、彩は目のやり場に困ってしまった。


「唐突な質問をするけど、僕がどうして彩さんを好きなのか知りたい?」


 危うく、高級なシャンパンを喉に引っ掛けそうになる。本当に唐突な質問だ。唐突過ぎる。彩は、とんでもなく恥ずかしい独り言を思い出して赤面した。顔の熱さから、耳まで真っ赤になっているのが想像できる。部屋の明かりが、間接照明の薄い光だけでよかったと心から思う。


「しっかり聞いていたんですね。わたしの独り言」


 彩が声のトーンと肩を落とすと、隣で仁寿が朗らかに笑った。


「それで、どうしてわたしを好きなんですか?」

「最初はね、完全な一目惚れ」

「一目惚れ?」

「うん、きれいなお姉さんだなって。でも本当に好感を持ったのは、僕が彩さんの名前を読み間違えた時。失礼なことをしたのに、よく間違われるってやんわり僕のミスを真っ先にカバーしてくれたでしょ? 人を傷つけないように間違いを指摘できる、思慮深くて優しい人だと思ったんだ。そして、マカロンを渡した時の嬉しそうな顔で完全におちた」

「……は、はぁ」


 今まで言われたことのない言葉をずらりと並べられて、彩はなんて返していいのか分からず目を点にする。首から上が異常に熱くて、頭のてっぺんから湯気が出ているような気がしてきた。左胸が騒がしくて、これ以上なにか言われたら心臓がパーンと弾けて死んでしまうかもしれない。


「先生、もう結構です」

「え、どうして? まだ馴れ初めに触れただけで、彩さんの魅力について話してないよ?これからが本番なんだけどな」

「先生のお気持ちは、よ……よく分かりましたから。わたし、こういうのに慣れていないんです。心臓が爆発しそう」

「そういうところが、かわいい」

「かっ……、からかわないでください」

「からかってないよ」


 仁寿が、楽しそうに笑う。
 彩は、乾いた喉をシャンパンで潤して、鼓動が落ち着くのを待った。しかし、一度暴れ出したリズムは乱れる一方で、少しも落ち着く気配がない。


「ねぇ、彩さん」


 仁寿が、彩の手から飲みかけのシャンパンが入ったグラスを取ってテーブルに置く。彩は、仁寿を見て息をのんだ。その表情があまりにも真剣だったからだ。ただならぬ雰囲気を感じて、背筋がぴんと伸びる。


「誕生日にほしいもの、実は彩さんがメッセージをくれた瞬間に決まってたんだ」

「そうだったんですか?」

「うん。言ってもいい?」

「もちろんです。教えてください、先生がほしいもの」

「なんでもいいって彩さん言ってくれたけど、二言はない?」

「ないですよ。誕生日ですから、お好きなものをプレゼントいたします」

「そっか。じゃあ、言うね」


 仁寿が、ほっとしたように少し表情を緩めて彩の左手を握る。そして、その手をゆっくり口元に近づけて、薬指にキスをした。


「あ、あの……。先生?」

「僕がほしいのは、彩さん」

 
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