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第四章
蜜愛(1)
しおりを挟む「ん……っ」
反射的に目を閉じて、真っ暗になった世界で何度も唇をついばまれる。ほんのり甘くてフルーティーなシャンパンの香りと味のする柔らかな唇の感触が気持ちよくて、彩は強請るように口を開けて舌を伸ばした。それに応えるように、仁寿が彩の唇を舐めて口の中に差し入れる。そして、彩の舌をつかまえながら頬に触れていた手で首や肩をなで、チュール生地の上から手の平で胸のふくらみを包んだ。
「ふ、……んっ、……せ、んせ……っ」
キスの合間に大きく息を吸い込んで、彩は仁寿を呼んでワイシャツの胸元を指先でつかむ。キスだけで頭から溶けてしまいそうなくらい気持ちいいのに、他の刺激まで与えられると体がじんと疼いてしまう。眠れない夜ではないのに、先生がほしくてたまらなくなる。
ちゅっと音を立てて、ふいに仁寿が絡んだ舌を離した。途端に、彩は心に穴が開いたような寂しさに襲われる。
「彩さん、先生じゃない。彩さんと一緒にいる僕は、先生じゃないよ」
彩が目を開くと、仁寿がペナルティを与えるように彩の下唇を甘く愛咬して、「名前で呼んで」とささやくような声で優しく命令した。至近距離から見つめてくる仁寿の目には、いつもの愛嬌が鳴りを潜め、獰猛さと物欲しそうな欲情の色がにじんでいる。仁寿の視線が彩の唇に落ちて、視姦するように舐めた。体の奥で、どくどくと低い脈動の音が響く。
「……仁寿さん」
やっぱり恥ずかしさを拭えなくて、声が細くなってしまう。けれど、名前を口にすると、陽だまりができたみたいに心があたたかくなる。彩は、目の奥がじわじわっと熱を帯びるのを感じながらもう一度「仁寿さん」と名前を呼んだ。
「好きだよ、彩さん。本当に、大好き……」
再び、唇が重なる。ふわりと慈しむように押しつけて、仁寿が彩の唇ときれいに並んだ歯列、頬の内側を丁寧に舐めていく。優しい動きが嬉しくて、でももどかしくて。彩は、口からあふれそうになった唾液をごくんと飲み込んで、仁寿の舌を舌先でつついた。
「……ん、……はぁ……っ」
急に噛みつくようなキスに変わり、荒々しく舌を吸われる。腰を強い力で抱き寄せられて、彩がソファーに座る仁寿にまたがるような体勢になった。めくれあがったカクテルドレスのスカートの下で、彩の股間に強張った硬いものが服越しに触れる。
ちゅ、くちゅ、とむさぼるようなキスをしながら、仁寿が体を密着させるように左腕で彩の肩を抱く。そして、お互いの胸に押しつぶされた彩の乳房を右手で揉みしだいた。
「……ん、っ、……ぅ、ふぁ……」
息継ぎもままならないキスに頭がしびれる。服の上から触られているのに、胸をまさぐる手つきが性的衝動を突き動かすようにいやらしくて、胸の肉が形を変えるたびにぞくぞくとした快感が全身を走る。
優しい仁寿さんだと安心する。ほとばしるような情欲をぶつけてくる仁寿さんは愛おしい。
――お願い。
彩は、仁寿のうなじに腕を回してぎゅっと抱きしめた。
過去にあったいろいろは、彼には関係のない出来事だ。なにがあったのか。どうして恋愛に対して消極的になったのか。話せば親身になって聞いてくれるだろうし、傷を癒すように慰めてくれると思う。でも、彼との間にあの忌まわしい思い出を持ち込みたくない。もう二度と、先輩の顔を思い出したくない。なにより、これからは仁寿さんのことを一番に考えたい。
――だから、お願い。
記憶に焼きついて消えない、新宿のラブホテルの赤い室内灯に先輩の残酷な言葉とピエロみたいな笑顔。それを全部、花火のカラフルで美しい光に、仁寿さんの優しい言葉と笑顔に塗り替えて――。
そしたらわたし、きっと怖がらずに甘えられる。きっと、仁寿さんを好きになる。
目の奥の熱感が強くなって、つぅっとあたたかい水滴が彩の頬をつたった。
「彩さん……、どうしたの?」
仁寿が驚いた顔で彩を見る。そして、スラックスのポケットから取り出したハンカチを慌てて彩の顔に当てた。覚えのある、おしゃれな女子が使っていそうな柔軟剤のいい香りに、思わず笑みがこぼれる。
「嫌だった?」
「違うんです。嬉しくて。仁寿さんみたいに素敵な人から好きだって言ってもらえて、わたしは果報者だなぁと思ったら、胸が幸せでいっぱいになっちゃいました」
「そっか、それならよかった」
仁寿のほっとしたような顔が近づいて、唇が触れそうになる。
今日は、朝から仕事をして長距離を移動した。花火を見にいこうと誘われるまで、ただ夜ご飯を食べにいくだけだと思っていたからシャワーも浴びてない。冬とはいえ汗をかいているし、さすがにこのままでその先をするのは気が引ける。
「あの、仁寿さん」
「うん?」
「お風呂、入りませんか?」
「一緒に?」
「えっと……」
うっかり誘うような言い方になってしまっていたと気づいて「別々に」と言おうとしたが、あとの祭り。仁寿が無邪気な目をきらきらさせていたので、彩は顔を真っ赤にして頷くしかなかった。
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