宝珠の姫と仏頂面魔法士

瑞原チヒロ

文字の大きさ
3 / 12
本編

3:愛のない行為 ★

しおりを挟む
 とぷとぷと奥からは絶え間なく蜜液が供給されている。彼女の白い内股をぬらし、いやらしく輝かせる。シーツまでぐっしょり濡らしてしまい、今宵も世話係の世話になることが決定してしまった。
 本当に感じやすい女だ。半年前はこんなではなかったのに。
「この半年でずいぶんいやらしい女になったな、姫」
 指の抽送をやめずにそう言ってやると、リラは内股を閉じ気味にしながら美しく眉根を寄せた。
「リュウ様がリラをそうしたのでございます。リュウ様が……」
「お前がいやらしいのは俺のせいではない。お前の素質だ」
「……ひどい方」
 リラが顔をそらしたのをいいことに、リュウはリラの頬に口づける。
 この女の頬の柔らかさは好きだった。ちゅ、と音を鳴らしてキスをすると、リラのすねた顔色が少し直ったように思えた。
 リュウは指を割れ目から引き抜いた。
 指は蜜でしとどに濡れていた。それを舐めて清め、彼はようやく自分も服を脱いだ。
 そしてリラの下腹部に回り、改めてリラの膝を開かせる。
「ああ、リュウ様……」
 何かを期待して、リラが声をもらす。
 このあられもない期待の声こそが、リラを『いやらしく』見せる原因だと、リュウは思う。
 ――まるでリュウから愛情を注がれることを望んでいるかのようだ。
 だからリュウは、冷たい声で宣言する。
「これから、儀式を行う」
 リラの薄橙の目が寂しげに輝くのを、見ないふりして――



 リラの能力にはひとつの欠点があった。宝珠に注ぐ力に限界があるということだ。
 だが、力が空になる――ということは、それをまた補充すればよい。
 歴代の『宝珠の姫』もそうして力を補填ほてんしてきたという。
 ではどうやって力を補填するのか――

 それは、異様な方法だった。ある意味で簡単、ある意味で難しい。
 ――四山の魔法士の魔法力を、姫の体の中に注ぐ。体を――重ねることで。



 毎度毎度、愛してもいない女のためによくぞこうも猛ることができるものだ。
 リュウは己の雄を見下ろし、自嘲する。馬鹿馬鹿しい行為だと心の底から思う。それでも。
 これしか方法がないと言われてしまえば――

 歴代の宝珠の姫も、一人だけ魔法士を選んで日夜抱かれていたらしい。
 中には、魔法士を一人に定めず抱かれていた姫もいたらしい。
 リュウに関していえば――
 彼はまれなるほど大量に魔法力を抱える青年だった。それゆえ、一度の行為だけでリラに相当な量の魔法力を譲ることができた。
 だから週二回だけと、限ることができた。事情を知る者どもは念のためもっと回数を増やせと言うが、肝心のリラは反対しなかった。
 だから――
 こうして週に二度だけ、彼は神殿にやってくる。
 神殿から出られぬ、まさに『宝珠のためだけに生きる』姫を、その腕に抱くために。



 濡れそぼつ秘所に雄々しく反り返る己をこすりつける。
 濡れた音がした。幹に、蜜がまぶしつけられた。
 ――別に、痛みを与えたいわけじゃない。さっきも考えたことをもう一度頭の中に叩き込み。
「リュウ様……」
 リラの呼ぶ声を合図に、リュウは腰を突き入れた。
 ずん……っ
 奥まで難なく貫いて、リュウの雄はどくんどくんとリラの中で拍動をする。
「ああ……リュウ様」
 リラの声に陶酔が混じる。彼女の中は、リュウのもの目一杯に広がっている。
 リュウは律動を始めた。腰を使い、リラの中を抉る。この半年ですっかりとリュウの形となった。出すも抜くもスムーズこの上ない。
 ぬちゃぬちゃと、蜜が音を立てる。
 リラのいやらしさの象徴だ。リュウはそう思いながら、腰の動きを激しくしていく。
 肉壁を、先端の引っかかりで擦り上げる。そうしながら腰を回し、ぐにゅりと彼女の中をかき回す。
 じゅぷ、じゅぷ、と音がいっそうはしたなくなってきた。リラが「ああっ! ああっ!」と腰の動きに合わせてあえぎ声を上げる。
「リュウ様っ、リュウ様っ」
 彼女はリュウの名を呼ぶのが好きだ。感じているときほど名を呼びたがる。

 ――何もわざわざ、リラをイいかせてやる必要などないのだ。
 この行為は性行為だが性行為ではない。ましてや愛し合う行為などではない。
 さっさと魔法力だけ受け渡せばいいのだ。ただそれだけなのに――

 快楽に首をふるふると振るリラ。
 それを見下ろしながら腰を使うリュウは、今すぐにでも魔法力を受け渡すことができるのに、どうしてもできなかった。
 彼女が――満足するのを見届けなくては、どうしてもできなかった。

 先端が熱くなってくる。魔法力が高まってきている証拠だ。
 だがそれをこらえて腰を振る。リラの奥へと、先端を送り込む。がつがつと奥に当たるような気がする。そのたびにきゅうきゅうと、リラの中がリュウに吸い付き締め上げる。
「ああ……リラはおかしくなってしまいます……!」
 激しく突かれて、リラはそんな言葉を放った。
 ――この女はどこまでおかしくなれるのか。
 リュウはそう思うが、言葉にはしない。体位を変えて側位になり、足をからませながら小刻みに彼女の中を突く。リラの呼吸が乱れに乱れて、声にならない声を出す。
 きゅう、きゅうと締め付けながら啼く彼女の中は、リュウのような健康的な若者にはたまらないものだった。魔法力の限界が近づいてきている。このままでは彼女の中に注いでしまう。
 いや、注ぐのが本来の目的だが――
 リュウはどうしても、リラの顔を見ながらそれを行うのが苦手なのだ。

 初めてリラを抱いたとき。正常位のまま、リュウは達した。魔法力は若い力そのままにあふれて、リラの中に直接注がれた。
 リラは初体験だけに、痛み以外感じていなかったはずだ。それなのに――
 彼女は、微笑んだ。リュウに向かって、これ以上なく幸せそうに。
『リュウ様、ありがとうございます――』
 そのとき彼女はそう言ったのだ。
 意味が分からなかった。愛のないまま抱かれてこの女は喜んでいる? 幸せを感じている?
 それは恐れにも似た感情。
 ああ、この女が分からない。この女の何もかもが分からない――

 リュウはリラを四つん這いにさせた。そして、獣の体位で後ろから突いた。
 こんな恥ずかしい体勢をさせられても、リラは文句ひとつ言わない。ただ、甘やかな声を何度もこぼすだけ。
 なまめかしく動くリラの腰を眺めながら、何度も何度も腰を送り込んでいるうちに、リラの嬌声にこらえきれない何かがあふれた。
「リュウ様、リラはもう――」
 ――イくのか。
 終わるのか。
 それはリュウにとって安心するような――一方で惜しいような――不可思議な瞬間。
 魔法力はとっくに蓄え終わっている。あとは彼女の中に注ぐだけだ。
 そうして注がれた魔法力を、リラは体内で己の力に変換する。宝珠へと注げる種類の力に変換する。
 宝珠の姫とはつまり、そうすることのできる能力を持った女のことを言った。
「リュウ様、リュウ様、リュウ様っ」
 彼の腰の動きに合わせて放たれる蜜のような声。リュウの耳を、媚薬のように犯していく。
 ――この女は自分の好きにしていいのだと、悪魔の囁きが聞こえる。
(だめだ、この女は『宝珠の姫』だ――)
 決して好きにしていい女ではない。これは儀式なのだと自分に言い聞かせ。
 激しく彼女の尻に腰を打ち付けた。最後の頂点を極めるために――
「ああっ! リュウ様!」
「――リラッ!」
 奥に押し込んだまま精を放った。どくどくと脈動する自分を感じ、頭の中がゆだったように何も考えられなくなる。
 同時に魔法力が注ぎ込まれた。リュウの魔法力の総量は、他の三山の魔法士三人の魔法力の総量をはるかに凌駕りょうがしていた。それが今、リラの体内へと吸い込まれていく――
 自分のものであった魔法力がリラの中で違う力へ変換される。
 それを思うと、何とも複雑でもあった。自分の力を別の人間に利用されるようで。
 ただ――それがこの大陸を守る結界の力へと変わる。そのことは誇らしい。
 ぬるりと雄を抜き出す。若いせいかそれとも他の理由か、完全に萎え切っていないそれを、リュウは見ないふりをする。
 リラがどさりと寝台に倒れ込んだ。
 放出の余韻がだんだんと冷めていくのを感じながら、リュウはリラの横顔を見つめる。
 ――陶酔しきった顔をしていた。満足そうな顔に、見えた。
(この女はこの神殿に閉じ込められた女)
 リュウは無理やり自分に納得させる。神殿から出られず、数人の女の世話係以外とは口を利くことはおろか会うこともままならない『姫』。
 世話係には、一定の距離を置かれている。彼女はあくまで大陸の大切な『姫』だからだ。
 だからきっと、こうして濃密に他人と関われるのが嬉しいのに違いないと。
 リュウは彼女の想いを、そう解釈していた。そう解釈することで――己の中のわけのわからない不安を解消していた。

 行為の直後はリラは完全に力が入らなくなる。だから寝台のそばにあるタオルでリラの体を拭ってやるのはいつもリュウだ。
 寝台の横には着替えもある。それを着せてやると、リラは嬉しそうに薄橙の瞳を細める。
「リュウ様は、本当にお優しいですね」
 ――優しい? 俺のどこが?
 リュウは無言で立ち上がった。「リュウ様?」と呼ぶ声を無視して。
 ――もうこれ以上、理解できない人間の相手をしている余裕など、彼にはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...