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第一章 呪いのはじまり
1:少年の愛 2
しおりを挟む「もちろん! フィンが一緒なら護衛も目こぼししてくれるわ! ねえ、ティオとクレアも呼びましょうよ」
「……いや。ふたりきりで」
フィルグラートはゆるりと首を横に振った。
エルミラは首をかしげた。なぜいつも一緒に遊んでいるエルミラの弟妹も一緒じゃだめなのだろう?
「アルセイルも今いないんだ」
いたずらっぽく肩をすくめて、フィルグラートは微笑する。
たしかに彼はひとりでエルミラの部屋に来ていた。常に同行している少年アルセイルを連れていない。彼の乳兄弟で従僕で親友であるアルセイルも、当然ながら『いつもの場所』での遊び仲間なのだが。
ふと思いつく。今日は規模の大きなパーティの前日で、すでに来城してくつろいでいる賓客も多い。
ひょっとしたら社交上手なアルセイルは、これ幸いと人脈を広げるために動き回っているのかもしれない。
もっとも本来それは、王子であるフィルグラートがやるべきことだ。そう思って、エルミラは言ってみた。
「フィンは諸国の方々にご挨拶に行かなくていいの? 貴重な機会だと思うけれど」
「一通りはもうすませた。そんなことより」
出かけよう――フィルグラートはもう一度くり返した。どことなく、有無を言わさぬ口調で。
「エルミラ。いつもの森の湖に、ふたりで」
『そこ』は、城の裏に広がる森を、少し分け入ったところにある――。
ジルヴェールの王城は背後をこの深い森と、その先を囲む山で護られている。
そしてその森にはひとつだけ、樹冠の波が開いている場所があった。そこには山から流れてきた清水が注ぐ湖がある。
エルミラは弟ティオと妹クレアを連れて、朝早くからこの湖を訪れてはよく父王や母に叱られた。それでも、朝日を浴びるこの湖の美しさは子ども心にも何物にも代えがたく、エルミラは懲りることを知らなかった。
彼女は景色が変わりゆき、中には消えてしまうものがあることを、幼くして知っていた。
だからこそその湖の風情を目にやきつけることに、強くこだわった。彼女を突き動かしたそれはどこか、不安に似ていた。
フィルグラートがエルミラを誘ったのは、もちろんその湖である。
わんぱく王子王女集団が決まって遊びに来ていた場所。そこにフィルグラートとふたりだけで行くと宣言したエルミラに、当然ながら護衛たちは大反対した。
「エルミラ様! 明日は大切なパーティなのですよ。今貴女様の身に何かあったら……!」
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